Fate of the ABYSS   作:黄昏翠玉

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2話目です。


逆行① ガイ編2

ホド戦争はやはり、俺の誕生日に起こった。あらかじめ決めていたのは、大きい方のギルが部屋に来るまでは姉上と共に隠れている、ということだけだった。

ギル曰く、何やら世界からの強制力が掛かっており、時が来るまで動けないのだそうだ。おそらく、世界を救うため、ではなく、ルークとアッシュを救うために呼ばれたせいらしい。つまり、彼に動いてほしいのに彼が動けないときは、ルークが生まれなくなるかどうかのターニングポイント。

 

ホド戦争は絶対に起きなければならないのだ。

歯痒い。くそっ、ルークに会いたいとはいえ、ホド戦争からかよ、と思うところはある。

 

「姉上、一緒に隠れましょう」

「私はいいのよ、ガイラルディア。あなただけでも隠れて」

 

姉上はやはり俺と一緒に隠れる気はないらしい。

俺は7枚の花弁の桃色のペンダントを姉上に渡している。投擲武器の方が防御力は上がるらしいが、何もないよりはましだ!

時間稼ぎくらいにはなってくれるはずだということで、身に着けてもらっている。

 

――これは、【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】の原典です。飛び道具に対しては無敵といって差し支えありません。ただ、僕は“真名解放”自体はできないので、城壁並み(そこそこ)の防御力しかありません。ないよりましですが、剣術相手だと破られる可能性も、無きにしも非ずです。時間稼ぎのアミュレットくらいの気持ちでお願いします。

 

ギルの台詞を思い出すと、ツッコミどころが多い。

まず、城壁並みと書いてそこそこと読むな。サーヴァントやばすぎるだろ。

ちなみに、ペールと姉上にしかギルのことは話していない。

 

俺は隠れず、姉上の後ろにいた。

メイドたちはお逃げください、と俺たちに言って、壁になるようにドアの前に立つ。

あの日の再来。俺が女性恐怖症になったあの日の再来だ。くそっ、なんで助けられないんだよ!

 

姉上だけでも。

これからここに踏み込んでくるキムラスカの兵は、これから俺の同僚になる人間だ。突っ込んでくる先頭の男は主人の父親で。ああそうさ、やっぱり俺はファブレの人間が嫌いなんだ。

ルークはそんな俺の心すら癒したというのか。

ルークに会いたい。

 

ドン!

 

ドアが開け放たれて、白光騎士団が踏み込んでくる。構えられる剣。メイドたちが切り裂かれていく。と、俺たちに声が掛かった。

 

「ガイ!! マリィベル!!」

 

振り返ると、ギルがいた。その手には黄金の剣。

脱出経路は、そこの暖炉からだ。ギルと俺で作った。途中でペールも参加して、姉上も参加して、作っていた、小さな、脱出口。

 

「姉上、あの通路から逃げよう」

「私は、」

 

と、剣撃が最後のメイドを切り殺した。ファブレ公爵だった。

その剣が姉上に振り下ろされた。が、突然、7枚の花弁みたいなものが展開した。

剣がそれに防がれる。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「……【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】」

 

真名解放できるなんて思ってないけれど、言うだけ言ってやる。

ギルが素早く通路への入り口の石を外した。第七譜石のある部屋の横を通るように組んであるのだ。俺は姉上の手を引いて素早く入り込んだ。あとは、ギルが上を破壊すればいい。

 

途中で緊急時に合流地点にしていたところまで来ていたペールと合流し、俺たちは第七譜石のある所まで一気に駆け下りた。

ギルが一部を蹴り壊して(笑)回収してきて、俺たちはそのままホドを脱出した。

ヴァンデスデルカはここから、復讐劇を始めるのだ。“前回”は俺もそうだった。でも、今回は違う。やっぱり白光騎士団もファブレ家も嫌いにはなったけれど、姉上はまだ生きている。

 

「姉上、ペール、ギル」

 

船で脱出して俺は、3人にこれからの予定を話した。

まず、ガルディオス家を一時貴族院から外してもらい、俺が成長したのち再興すること。

手続きが終わり次第ファブレ家へ乗り込むこと。この時、ペールと姉上にも使用人としての姿になってもらおうと思っていること。

そして、これから先の未来を俺が知っていること。

 

「そん、な……ホドの崩落が、預言通りに起こっただけだというの……?」

「……ええ。ND2002、栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名を、ホドと称す――これが、ホドの崩落に関する秘預言。俺は将来これを覆す旅に随伴するんです……」

 

その時、姉上が死んでいたことと、ギルがいなかったことを告げると、姉上は、俺が必死に姉上を助けようとしていた理由に理解が及んだらしく、俺を抱きしめてきた。

 

「ガイラルディア。ファブレ家へ乗り込む前に、ジョゼットのところへ行きましょう。彼女の家もちょっとまずいことになってるかもしれないけれど」

 

そういえば、ジョゼットはセシル家の再興を夢見ていたな。うん、俺だけ生き残ったのは苦い思い出だ。フリングス将軍も助けたいし――助けたい人が多すぎて困るな。

それだけ俺たちは間違って、いろんな人を見捨てて、それでも生きることを選んだ、その軌跡なのだ。この記憶は。

 

キムラスカに入るにはジョゼットを頼るのが一番手っ取り早いからな。

でもどうするかな。“前回”は不法入国だった気がする。うん。

 

「ペール、任せた」

「ちょっと行ってまいります」

 

早急に終わらせてくれることを願う。なぜかギルが大量の食糧を持ってきていたので、飢えることはなかった。

 

何とか手続きを終えて、逆に正式ルートでキムラスカへ入国する形になった。セシル家は大変なことになっているようだ。やばいジョゼットを止めなきゃ。いろんな意味でアレなことになる前に。って、まだ8歳なのにもう頑張ろうとしてるのかな。やばいな。いろんな意味で間に合いそうにないわ。

 

俺と姉上はガイ・セシル、マリー・セシルとして、平民身分でキムラスカへ入った。こっちへ来ることはすでにピオニー陛下には知らせてある。手紙が直接俺の許へ来ていた上にブウサギの足跡印が押されているのか謎だ。

 

数年後、俺たちは無事にファブレ家へ入り込み、ペールはやっぱり庭師に、俺は使用人に、姉上もメイドになった。

将来アッシュになるルークと、ナタリアと親しい関係を築いていきながら、俺は俺以外に俺のような状態の人間がいないかを探したのだった。

 




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