Fate of the ABYSS   作:黄昏翠玉

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短めです。なので2話いきます。
捏造満載ですよ(笑)
ガイ視点のお話です。


逆行① ガイ編

時折ふと、思い出すことがある。

俺が直接仕えた、唯一の、主君。朱金の髪を持つ、人から生まれた、人ならざるものと言われた存在。

聖なる焔の光。

キムラスカの王族に連なる者の複写人間。

 

彼は帰ってこなかった。

帰ってきたのは、オリジナルだった。

俺たちは手放しでは喜べなかった。ナタリアは喜んださ。でもティアは泣き崩れた。ジェイドが苦い顔をして、アニスは奥歯を噛み締めて。

 

最後の約束を、彼は破った。

あれは彼の最期の約束になってしまった。

俺はその後、結婚して、ガルディオス家の後継ぎをもうけて、ピオニー陛下に早々に家を出ることを伝え、子供たちに家を任せて、彼が救った世界を見て回った。

 

この青空が濁ることなんて許さない。

俺の親友を奪っていったこの世界が美しいのもイライラするが、それよりも、彼が守ろうとしたこの空が濁ることを俺は許さない。

 

もしやり直せるなら、もっともっといっぱいやってやりたいことがあるんだ。

もっといろんなことをやってやりたいんだ。

たった7年で、何ができる?

生まれて7年じゃ、人間だって何もできやしないのに、あいつは世界を救って死んでしまったんだ。

 

アッシュも時折錯乱したように叫ぶことがあるようだ。それは、自分のレプリカが馬鹿にされたときだったり、生き残っているレプリカたちが殺されたという知らせを聞いたときだったり。ナタリアからの手紙で俺たちはアッシュの近況を知る。でも、徐々にそれもなくなってきている。アッシュに話を聞いたら、“レプリカの記憶が消えて行っている”のだそうだ。

 

アニスとフローリアンが俺に合流して、フローリアンの兄弟も一緒に通った旅路を回っていく。エンゲーブで、ライガクイーンとアリエッタの話をアニスがつぶやいた。

ジェイドも時折姿を見せて、フリングス将軍と、俺のいとこでもある、セシル将軍の話になって。

 

イオンの話になって。

やり直しなんて利かないってわかっている。

大事なものを失ったときにしかそれを実感しないなんて、人間は愚かなものだ。

俺たちは物ではなく人を喪ったのだ。

帰ってくることはない。

 

音譜帯を見上げて、あそこにルークもイオンも、姉上のレプリカも、ヘンケンさんやキャシーさん、イエモンさん、タマラさんのレプリカがいるのかな、なんて、思って。

きっとフローリアンの他の兄弟、シンクもあそこにいるんじゃないかな、なんて。

 

ティアと合流して、ミュウをアッシュのとこから借りてきて、皆で旅路を回る。ナタリアとアッシュの子供が成長して、全員が集まったのは、アニスもすっかり大人になって、フローリアンの血中音素濃度が下がってきた時だった。

もうすぐフローリアンも消えちまう。そう思ったら、またイオンみたいに跡形もなく目の前で消えるのかもしれないと、思ってしまった。ルークもアニスも泣いたじゃないか。

 

アッシュはその記憶はまだ残っていたらしくて、どうして何も残さずに消えてしまうんだろうな、と呟いた。だから俺は、写真機を購入した。

 

「これなら残るぜ」

 

身につけたものまで音素の乖離に巻き込まれて一緒に消えてしまうレプリカは、本当に何も残さず光になって消える。無垢な彼らにふさわしい、美しい最期。

ルークの思い出は残っている。でももう俺は、ルークの顔を直視できそうにないんだ。

フローリアンとの思い出だけでも、残していこう。

皆で世界中を回っているうち、フローリアンは消えた。俺たちの目の前で。

 

「皆、ありがとう。僕は先に逝くね。ゆっくりおいでよ」

 

死んだ人間は星になるのだと、アニスが言っていたのを引っ張ってきたのだろう。彼はそんなことを言って消えていった。

世界は残酷だ。

レプリカたちはローレライが空に還ったことによって安定している。フローリアンは丈夫だったから、大人にさえなった。

 

俺たちは残されたレプリカたちを、ちょっとずつ助けていこう。

一度間違えた選択肢は二度と目の前には現れない。

もしやり直せるなら、何度人生の中で考えただろうか。

 

そして何より。

 

どうしてみんな俺より先に逝ってしまったんだよ。ジェイドとピオニー陛下はまだわかるよ。アッシュとナタリアも。そりゃあ、俺は長生きだよ。

でも。

アニス。

お前が先に逝っちまうなんて。

 

魔物との戦闘において人々を庇って致命傷を受けて、そのまま息を引き取った。

そしてそんな俺は、ティアを置いていく。

 

ガルディオス家に戻ってきて、ベッドの上で死ぬなんてなぁ。ペールは空にいるだろうか。皆、そこにいるだろうか。

俺は静かに目を閉じた。

 

もう、俺の、目は、覚めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

なぜ今俺が語っているかって?

そりゃ、生きているからさ。

俺も、目が覚めた時はびっくりしたものだ。意識が戻ったのはどうやら俺の3歳の誕生日のことらしく。日記帳を慌てて買って、拙い字でいろいろ書いてみて、頭の中を整理して。

 

まだ、ホドはあった。ヴァンデスデルカもまだ、健在。

それと、俺の手の甲に赤い入れ墨みたいなものがあった。これは何かと尋ねると、ペール曰く、生まれつきだそうである。

“前回”はなかった。これは確実だ。

とすれば、これはこのいわゆる逆行状態の引き金か何かではなかろうか。

 

この日、俺は就寝時に金髪の超の付く尊大野郎に出会った。ルークより酷い。そいつは俺が子供であることを見て何を思ったのか、背後から何か取り出して、それを使用。子供の姿になって、名乗った。

 

「僕はギルガメッシュといいます。さっきのでかい方も僕なので、ギルガメッシュでいいですよ」

「ガイラルディア・ガランです」

 

丁寧になっちゃったのは仕方ないだろう。金髪、赤目。見たことのない色彩だが、ジェイドよりもこの赤は、どぎつい感じがする。

彼から受けた説明によると、ギルガメッシュは“サーヴァント”と呼ばれるものだそうで、異世界の過去の住人なのだそうである。英雄、らしい。

 

「僕よりも大きい方の僕の方が強いので、戦闘時は彼と入れ替わりますが、どちらが表に出ているかは、マスター権限でガイラルディアが決めていいんですよ」

「そうなのか。あと、お前のことギルって呼ぶから俺もガイでいいぞ」

 

俺も、過去の記憶があることを伝えると、ギルは逆に驚いたようだった。

その日から、俺とギルは秘密の会議を重ねた。もし本当に過去にいるとすれば、まだルークを助けられるかもしれないからだ。

 

「預言なんて、くだらない、って大きい方が言ってる」

「俺だってあんな預言願い下げだ。この領土で起こる戦争も、詠まれているんだぞ」

「ムカつきますね。“前回”はよくルーク側につきましたね?」

「あの純真無垢さには毒気を抜かれてなー」

「光源氏にならないでくださいね?」

「なんだそれ?」

 

ともかく、このままいくとやっぱりホド戦争が起きるようだ。俺はギルにホドのどこかにあるという第七譜石の捜索を頼んで、ホド戦争を待ち受けた。

 




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