俺は前回と同じ部屋に通されました。
「すみませんねえ、こんな粗末な部屋で」
「いえ、椅子があるだけでもありがたいです」
ジェイドが慇懃無礼じゃない方向に丁寧だああああ気持ち悪い。
俺はそんなことを思いながら椅子に座った。ここぐらいしか椅子のある部屋がなかったんだろうなあ、ジェイド。俺が髪の色を変える方法でも持っていればよかったのになあ。
まあ今は、ジェイドには気を遣ってもらう、ということで。
ティアは牢に放り込まれているのでここにはいないけれど、ジェイドからは俺だけに事情聴取という形になった。
「さて……改めて自己紹介をさせていただきます。私はジェイド・カーティスと申します。大佐の位を頂いております。あなたは、キムラスカの王族に連なる御方とお見受けしますが」
「ああ。ルーク・フォン・ファブレだ」
俺が答えるとジェイドはやはり、と小さくつぶやいた。
「キムラスカ王国が、神託の盾の制服を着た女によって王族が拉致されたと声明を出してきたのが昨日のことでして。御無事で何よりです」
「ああ」
ジェイドは俺の体調等を聞き、怪我とかそういうこともいろいろ聞いて来て、無傷であることを告げるとほっとしたようだった。
そして、ジェイドは俺に対して頭を下げて、俺に伯父上への取次ぎを丁寧に依頼してきた。俺は状況を詳しく尋ねて考える仕草をして、了承を伝えた。
アニスはまさかの俺への突撃が無かったので何かあったんかなと思ったのだが、金にがめつい感じは健在だったので、やっぱりモースの所からアニスの御両親を助けなくちゃいけないなと思った。だってこれたぶん同じ状況だろ。
そのうちマルクト兵がやってきて、ティアがうるさくて敵わないとジェイドに告げてきた。はっはっは。俺も同じこと思ってたよ。
なんか、アレだ。
“前回”の俺がいかに世間知らずであることに助けられていたかを知ることになってしまった。
よく考えたらティアだってユリアシティを出てきたばっかりで箱入りはお互い様だったのだ。彼女が常識を持っているわけがなかったのだ。うん、エミヤが一般人、平民の常識ってものを俺に教えてくれたおかげでティアのことを好きになれなくなってしまいそうだ。どうしよう、パッセージリング操作では彼女の協力が必要なのに。
そのうちやってきたらしい六神将が襲撃をかけてきた。ブリッジがやられちゃったみたいで、死人がいないといいなあ、シンク上手くやってくれ、と祈った。
「くっ……いたしかたありません。ルーク様、一度ティアを解放します。クー、ルーク様を。アニスはイオン様を」
「分かった」
「おうよ」
「はい!」
「ルーク、クー、気を付けて」
ジェイドは嫌そうにティアを解放しに向かおうとして、部屋を出て、ラルゴの大鎌を避けた。“前回”は俺があの位置だったんだよなー。
「ほう」
「おや……“黒獅子”ラルゴとお見受けしますが」
「そちらは“死霊使い”殿とお見受けする」
ラルゴがやっぱり来ていた。だが、これでできることがある。
「なんでラルゴさんがここにいるんだ!?」
「むっ!? 何故君がここに!?」
よっしゃあああ!
ラルゴの攻撃が止まったことで、ジェイドの方は槍をいつでも出せるように構えてはいるが、ひとまず手は止まっている。
あ、でもこのままだと六神将がいろいろ面倒なことするんだっけか。戦力増やしちゃうだけじゃね?
「ラルゴさん、俺、エンゲーブで彼らに保護されて」
「……そうだったのか……」
ラルゴの鎌が下ろされた。というか、この状況で、一番有利なクーさんはまだ油断なく構えてくれている。
「私は、導師イオンの保護を命じられてな。マルクトが拉致したという情報が入った」
「えー。それ絶対ヴァン師匠の命令じゃないでしょ」
「むぅ……まあ、そうなのだが」
後ろにいるイオンがそっと前に出てきた。
「ラルゴ。僕は自分の意思で彼らについてきたんです。和平の使者として。なので、邪魔をしないでください」
「……自分の意思で……ですか。しかし、こちらもやっていただきたいことがあるのです」
ダアト式封咒の解除のことだ。頼む、そこはマリオン連れていってほしい。これ言っちゃダメなのは分かっているんだけれども。
「ラルゴさん、そこを通して。お願いします」
「……君だと、自分を盾にしてでも通ろうとしそうで恐ろしいよ、そんな目をするな」
ラルゴがすっと道を開ける。よかった。
「まあ、確かに俺が盾になるんですけれどね。ジェイド、先に行ってくれ」
「……ええ、頼みます」
ジェイドは先にティアを解放しに向かった。俺はラルゴが鎌を振らないように体を皆の盾にしながら、殿として残った。
ラルゴさんが悲しげな眼をする。
ナタリアとの文通の中で、たまに会う俺の目がやたら据わっている、諦念の目だ、なんてのをナタリアに送っちゃってるらしくて、ナタリアにやたら心配されるのは慣れてきたところだ。
うん、この人、すごくいい父親だと思う。父性溢れるって感じで。
「ナタリア殿下が悲しむから怪我なんてしないでくれ」
「ガイと同じようなこと言いますね」
エミヤも同じようなこと言うけどさ。
クーだけが残ってくれて、と、クーが何か、宙に字を描いた。その瞬間、ラルゴの身体に茨が絡みついた。
「むっ!?」
「えっ!?」
「悪いな、お前さんがルークに危害を加えねえってのはわかってる。でも、ジェイドに鎌を振った分だ、それは。しばらく大人しくしててくれや」
「くっ……」
殺気なんてなかった。クーは俺の手を引いて皆の後を追った。その手になぜか小さな箱が……アンチフォンスロット、盗ってきたのね。
ジェイドがティアを解放して待っていた。
ティアの譜歌で神託の盾騎士団の兵たちは眠ってしまった。この辺は変わってないんだな。
クーはひたすら俺を守ってくれて、俺は実際エンゲーブで装備を整えはしたけれど、せいぜい刃物になりました程度のものだったから、ほんとに助かった。そして俺は、アッシュに遭う(誤字にあらず)甲板の所でクーには霊体化してもらった。クーは待ってろ、とか言ってブリッジに向かってすぐに霊体化して戻ってきたようだった。
ミュウはずっと俺たちの剣幕に押されて何も言わずにいたけれど、その時になって急にこう言ったのだ。
「ご主人様~」
「どうした、ミュウ」
「みゅう~。ご主人様、ご主人様ですの?」
「え?」
助けるとかいうイベント無かったのになんでかくっついてきたこいつである。クーがそういやちらっとこいつを見ていた気がするな。
俺はミュウを抱えてはっとした。
うっすらとだけど、毛の色が変色しているようなところがある。
しかもそれが、なんか模様みたいで。
「クー」
『なんだ?』
「これ、令呪か?」
『ああ。さて、誰かねえ? セイバー? キャスター? ライダー? バーサーカー?』
まさか、と思って、俺はミュウに、俺の嫌いな食べ物を聞いてみた。
ニンジン。はい、正解です。ミルク。当たってます。
やたら自信満々に答えてきたってことは、やっぱそういうことだよな。うん、こいつも逆行メンバーかよ!?
「ご主人様、ライガクイーンさんと戦わなくってよかったですの!」
「うん……ってかお前、なんで北の森焼いてんだ馬鹿!」
「みゅぅ~ごめんなさいですの~。ボクの友達が火を吹いたんですの~……」
本当に耳を垂れて悲しそうにしていたので、俺はそれ以上責めなかった。どうしようもないことだってある。友達のせいか、そりゃ辛いわな。逆行も、俺は生まれた時からだったけど、ガイは3歳の時からだったって話だし。
というか、こいつが剣幕に押されるなんてありえなかったのだ。おそらく、俺の様子からミュウの知っている俺なのかそうじゃないのかを見極めようとしていたのだろう。
近くの兵士を見ていたらやっぱり切りかかってこられて、でも俺はそれを避けた。さて、アッシュはどう来るか――なんて、悠長なこと考えていられなかった。
「人を殺すのが怖いなら、剣なんて捨てちまいな!!」
あの時と同じ台詞で、あの時以上の威力を持って、俺はアッシュに切りかかってこられたのだ。あ、やっべ、敵が2人になっただけだわこれ。
俺はアッシュを見て絶句した。
ぎらついた眼光。本気で構えているのが分かる。
なんで?
俺は一瞬フリーズした。
どうして、なんで?
なんでアッシュ、俺を憎んでいるっていう目をしているんだろう?
俺にルークって名前をくれたのは、アッシュなのに。
このペンダントをくれたのは、アッシュなのに。
俺は服の下にしまっているガーネットのペンダントを服の上から触る。
と、アッシュが斬りつけてくる。重たい。次の瞬間、クーが姿を現そうとして、――リグレットの声がした。
「何をしている、アッシュ! 閣下の命令を忘れたか!」
「チッ」
アッシュは舌打ちをして、俺の腹を蹴り飛ばした。いや、クーがクッション状に何かを張ってくれたおかげで気絶こそしなかったけれど、俺は悲しくて、そのままアッシュに背を向けて、気絶の振りをした。どうせ、牢に入れられるのはわかっている。
「ルーク!!」
ブリッジから戻ってきたジェイドが顔面蒼白で俺に駆け寄ってきた。
ティアが叫ぶ。
「リグレット教官!? なぜここにッ!」
もう、いい。うん。ジェイドに、大丈夫、と小さく言った。ジェイドは小さく安堵の息を吐いた。そして、アッシュと一言二言交わして、ティアだけエナジーブラスト喰らって気絶して、俺たちは牢屋へと連れていかれた。
タルタロスってよく考えたら来賓用の部屋ありそうだ。
でもこういうことにしておきます。
だってイオン様も同じ部屋じゃん!
というのが個人的な感想です。
身体弱い、国のトップと同等の地位であるて言うてるやん。
周りの描写が少なくてすみません。改善は試みます。