気付いたらこんなに……嬉しくて涙が出ます。
俺は真っ白な空間にいた。辺りを見渡すと、風景が加わっていった。
赤い空、そこに浮く巨大な歯車、剣の付き立った丘、そこに1人の男が立っている。エミヤだ、と思った瞬間、横から声を掛けられた。
「お前がアイツのマスター?」
「えっ?」
声の方を見たら、赤銅色の髪の、俺よりちょっと背が高い奴が立っていた。
「ああ、ごめん。俺、衛宮士郎。アイツの過去の姿なんだけど」
「……え?」
「うん、俺が悪かった。忘れてくれ」
いや、忘れないけどさ。エミヤと混ざっちゃうからシロウと呼ぼう。
「シロウ、って呼ぶぞ。俺はルーク」
「ルーク、か。いい名前だな」
「ありがとう」
シロウはエミヤの方を見る。
「ここはあいつの心象風景だ。俺の心象風景も似たようなもんだけどな」
「……つまり、心の中がこんなに殺風景、と」
「そうそう。俺はまだましだぞ? なんかよくわかんないうちに結婚までしちゃったもんで」
何やら幸せそうだな。
「俺がここに来たのは、アイツと俺の道が完全に分かれてしまったからだよ。詳しくはこの夢から覚めて、アイツ自身に聞いてみるといい」
「おう」
「ああそれと、ルーク」
シロウが小さく笑った。
「これ、持っていけ」
♢
「……ク、ルー……」
うん……?
「ルーク!」
あ、目が覚めました。目の前にティアの顔がある。ほっとしたような表情のティアだ。
身体をゆっくりと起こした。辺りを見渡す。タタル渓谷だな。
無事に飛んでこれたみたいだ。
かつて言った言葉の大体の流れを思い出しつつ俺は問いかける。
「……お前、誰だよ?」
「私はティア。巻き込んでしまってごめんなさい」
「おー。ああ、そうだ! なんで師匠を狙ったんだよ!?」
「……それは、身内事よ。あなたには関係ないわ」
あ、この言い方ムカつく!
俺はまあいいか、と改めてあたりを見回した。おっと、魔物がいる。
前衛やるなって言われたんだよなあ。
「……私が責任を持ってバチカルへ送り届けるわ」
「ああ、頼むぜ? 母上たち、誘拐沙汰にはうるさいからさ、早く帰りたいんだ」
まあ、母上たちはアッシュがダアトにいるの知ってるんだけどさ。
川沿いに下っていくと、魔物に遭遇した。俺の装備品は木刀だ。
「魔物よ!」
「これが、魔物?」
知ってるけどまあそう返しておく。するとティアは、後ろに下がってナイトメアを歌い始めた。前衛を俺にやれって言外に言ってないか?
俺はとりあえず木刀を構える。やることは受け流しのみだ。アルバート流は結構飛んだり跳ねたりが多いから、その分攻撃をよけやすい節はある。でも、この体でどこまでできるか、俺は知らない。
正面から受けたらやられる。
俺はティアから離れつつ何とかヘイト管理を行う。
動きなれていないというのはわかっていた。
でも、やらかしてしまった。
足首を、ひねったのだ。
倒れる俺、突っ込んでくる魔物。
「ナイトメア!!」
間一髪でティアのナイトメアが魔物を倒した。俺はふうと息を吐いた。
マジかよ。ひりひりする。
「大丈夫?」
「ああ、ちょっとひねっちまったみたいだけど」
「ちょっと待ってちょうだい」
ティアが俺の捻挫を治癒してくれる。でもこれ、傍目から見ると優しさ、実際は盾役に引き続き俺を使うってことの現れなんだけど。まあいいや。
――よくないぞ。
シロウ居たんかい。
――俺眠ってる間こっちに意識来るみたいだ。
ぼっち感覚なくなっていいかもしれない。よろしくー。
――ああ。アーチャー来たらたぶん引っ込んじゃうけどな。
エミヤに会えるまでここにいてください……。割と本気で。
――なるべくいることにするよ。
シロウがいてくれることになった。姿は見えないけど、なんか安心感あるな、この人。
――いや、それアヴァロンのせい。
何それ。まあいいか。
気がついたら御者のところまで来ていた。俺たちは持ち合わせがないのだけれど、父上から貰ったブレスレットを御者に渡して、一番手前の町まで送ってもらうことになった。
♢
ダイジェストでお伝えしよう。
タルタロスに遭いました。ローテルロー橋が落ちました。エンゲーブに着きました。
以上。
エンゲーブでリンゴを買って食べた。美味かった。
ローズ夫人宅に向かうことになって、向かおうとしたら俺また食料泥棒に間違われそうになっちゃった。リンゴ買った店のおっちゃんが弁明してくれたから助かったけど。
ローズ夫人宅に行ったら、ジェイドとローズ婦人に加えて、夢で見た青い人がいた。
なんか問われるままにまた名前言っちゃったけど、イオンが入ってきて食料泥棒見っけたって話になって、チーグルっぽいよって話になった。
――ランサー、マルクトにいたんだな。
あ、この人がランサーなんだ。
ランサーさんが俺に小さく手を振ってきた。
「クー、知り合いなのですか?」
「ちょろっと顔見ただけだし、こんなちっちぇ頃の話だけどな」
え? もしかしてエミヤに止められたあの時のことかな?
――サーヴァント何でもありになってきたな。
俺たちはとりあえず宿屋へと向かい、その日は“前回”通りに進んだのだった。
翌日俺はティアを放置して(置き手紙はしてきた)チーグルの森へ向かった。イオンにはなんと、ランサーさんがくっついてきていた!
ランサーさんはクー・フーリンというらしく、エルキドゥもランサーなのだと言った。だから、クーと呼ぶことにした。イオンもイオンって呼ぶことになった。
イオンの方はマジで名前イオンになったんだな。俺といっしょ。
「お。お前がアーチャー……エミヤのマスターかい」
「ああ。エミヤには本当にお世話になってます」
「ん。お? 坊主がいたな?」
「へ?」
どうやらシロウのことらしい。
アヴァロンって何、とついでに聞いてみたら回復と盾を同時にこなすとんでもない代物なのだという簡潔な答えが返ってきた。
「まあ、本体はもうセイバーのところに戻ってるはずだから、投影品だろうけどな」
「エミヤさん、僕も会ってみたいです」
「俺のこと迎えに来てくれてるはず。イオンはシンクから俺のこと聞いてたんじゃないか?」
「はい。外見の特徴しか知りませんでしたが、本当に赤くて綺麗な髪ですね」
イオンになぜか髪を褒められつつ、俺たちは先へ進んだ。
そこでティアが追い付いてきたんだけれどな。かんかんでした。
俺たちはチーグルのところへ向かい、ミュウとソーサラーリングを借り受けてライガクイーンとの交渉へ向かった。ミュウの奴、また森を燃やしたのかね。アリエッタ、今どこだろう。
「そのライガってのは、敵ってことでいいのか?」
「ダメ。ライガクイーンは俺の友達を育てたとても知能の高い魔物なんだ。ティアも、妖獣のアリエッタって聞いたことあるかな」
「ええ」
「彼女の育ての親なんだ、ライガクイーンは。アリエッタの名前出したら何とかなるはず」
クーはなるほどここのことだったか、とつぶやいていた。
ティアを先に牽制しておいて、俺たちはライガクイーンの許へたどり着いた。
そこに淡い緑色の髪の人がいて驚いたけど。
「「エルキドゥ!?」」
「やっほー、久しぶり、ルーク」
そしてはっとなった。エミヤが言ってたのはこれか、って。ギルを納得させた理由は、これだったのだ。そしてクーが言っていたのも。クーはなんだか満足そうだし。
エルキドゥとライガクイーンが何か話している。ミュウが通訳をくれた。
どうやら、もうすでに移住の話を先にエルキドゥがしてくれているらしい。後ろの方にジェイドがいるのが分かるけど、何もしてこなさそうなのはこれのせいだったようだ。
俺、へたり込んじゃった。
緊張してたんだ。
アリエッタの母親であるライガクイーンと戦うのは嫌だな、って、そう思っていたんだ。
クーとイオンが俺を撫でてくれた。
「移住するって言ってるですの……」
「ミュウ。ライガクイーンに謝って来い」
「ハイですの!」
ミュウはててて、とライガクイーンとエルキドゥの許へ向かい、謝罪を必死にやって、ライガクイーンに猫パンチならぬライガパンチを受けて俺のところへ戻ってきた。
ライガクイーンが一声吠えた。
もういい、許す。
ライガクイーンがそう言った気がした。
ティアが騒いだけれど、俺はスルーしてその後ジェイドと再会した。チーグルたちへ報告をして、森を抜けるために移動していくと、ジェイドがこちらを振り返った。タルタロス、アニス、マルクト兵。あ、この流れは。
「クー、ルークを任せます。丁重に扱うように」
「おう」
「この者を連行せよ!」
「ちょっ、何するの!?」
ティアだけ捕まった。うん。なんでだろうな。あとアニス、今回最初からいなかったよね。職務怠慢はんたーい。
「クー、これ、どういう……」
「俺のマスターが、ちょっとな」
ブウサギに名前でも付けたんだろうか。これマジでピオニー陛下じゃね?
「さ、行こうか、ルーク様?」
「……うん」
やっぱ、もうバレてるよなぁ。家名はとりあえず出してなかったんだけどさあ。イオンと俺はクーに守られながらタルタロスへと乗り込んだ。
そこで俺、一つ思い至ったんだよね。
これ、伯父上たちが、ダアトの制服着た女が襲撃してきて王族が拉致られちゃった、探してください、って言ったらこうなるくね?
ガイたちが先に手を打ってそうだよね。うん。もう3日目だしね?
ガイとエミヤとギルに今度何か作ろう、俺はエミヤより断然下手だけど。
オリジナルの物語を書いていて、こちらを読んで思ってしまったこと。
ダイジェスト過ぎね?
――精進します。