遅くなってすみません。2話投稿します。
目が、覚めた。
赤、赤、赤。
熱い。暑い。
ああ、ザレッホ火山かぁ。
って、ふざけんな。
何で僕ここにいるのさ。死んだはずでしょ。
辺りを見回すと、ここはやっぱりザレッホ火山で、僕と一緒に作られたレプリカたちがぼーっとしているのが見えた。
は、何それ?
2年前にこいつら死んだでしょ。突き落とされたでしょ。
辺りをいくら見回しても研究員の姿すら見つけられない。
まさか、置いていかれた?
いや別にどうでもいいけど、いたはずなのに。
現状が夢じゃない証拠に、僕は今ものすごく暑いと感じている。ああ、暑い、熱い。
ふと見た手の甲になんか変な模様みたいなものがあった。赤いそれ。
同じように、違う模様の描かれた手の奴がいた。
そいつは辺りを見回して、顔をしかめている。こいつ確か、3番目。
「ちょっと3番目」
「……3番目じゃなくて、フローリアンだもん。なーに?」
はあ?
何こいつ、“無垢な者”とか。あれ?
もしかしてもしかしなくてもこいつ、まさか??
「導師守護役の名前は?」
「アニスのこと? アニスがどうかしたの?」
やっぱり、こいつ最後まで残ってたレプリカだ!
って、音素帯から見てた記憶があるってことは、ローレライは解放されたのね。
「僕はシンク。お前、モースが飼ってたやつだろ?」
「糸目豚樽?」
「訳すなよ」
それで通じてる僕もどうかと思うけどさ。
「オリジナルが言ってた」
「え?」
僕は混乱した。
オリジナルが?
あの、レプリカを呪うように死んでいった被験者イオンが?
「皆の名前、考えたんだって言ってた。後で来てくれって言ってたよ」
これを見たらそう言い出した、と言って手の甲の模様を指すフローリアン。これに何か関係があるらしい。僕らのそれはちょっと似ているなあと思うところがあった。
モースもヴァンも、まだ来てはいない。
逃げるなら今の内だ。
「フローリアン」
「なあに、シンク」
「オリジナルのところへ行って、とっとと逃げよう。ところで、7番目にこれあったの?」
「ううん。なかったよ」
このマークはなかったのか。まあ、そっちの方が都合もいいけどさ。
まったく、音譜帯で僕を構成していた第七音素はすっかりルーク・フォン・ファブレの考え方が馴染んでしまっていて、フローリアンを置いてはいけないから死ぬのは却下で、しぶしぶオリジナルのところへ行くことになる。
と思っていたけれど、僕は気付いた、気付いてしまった、見ないようにしていたわけじゃなかったから余計に早く気づいてしまったのだ。
「うそ、でしょ」
消えかかっている。
名前を貰おうとしている4体のレプリカンイオンが、死のうとしている。嘘でしょ、待ってよ。なんで消えようとしてるのさ。何で何で何で。
「なんで乖離してるんだよ、そんな」
乖離が始まっていることを理解しているらしく、レプリカたちは震えていた。
どうしてこんなことに?
だって“前回”は消えなかったのに!!
消えなかったからザレッホ火山の火口から落とされたんだよ!?
そこで、答えに行きついた。
そうだ。
消えそうになっているんだ。
消えそうになっているから僕らはここに放置されているんだ。確かに、まだ僕らはうまく動けるほど体力もない。僕だけ強くてニューゲーム状態だけど。他の皆は奥の方に放置するだけで済むのだ。なんてことだ。
放置して、そのあとは見ていないっていうのが、ばからしいところだけれど。
彼らは消える。
だから、せめて。
「皆の名前、ちゃんと教えに行くからね」
消えてしまうまで彼らの傍にいなくちゃいけないと、そう思った。
フローリアンは泣いた。同じ顔で泣かないでよね。
その時、息切れ一つなく人間離れした速度で走り込んできた人影が2つあった。
一言で言うなら、金ぴかと、白くて黒くて赤い奴。
「間に合ったか!?」
「6人、話に聞いておったとおりだな」
金ぴかがそう言って、その姿を子供へと転じた。
なに、こいつら。
そいつらは近付いてくる。
「あんたら何者」
僕が鋭く声を発すると、赤い方が止まった。
「……ルーク・フォン・ファブレからの使いの者だ」
「ルーク……?」
フローリアンが反応した。
「ルークの知り合いなの?」
「ああ、ルークは私のマスターだ。……子ギル、頼む」
「はい」
子ギルと呼ばれた方(元金ぴか)は目を閉じた。
赤い方はゆっくりとフローリアンに近付いた。
「……君がフローリアンだな」
「うん。あっちがシンクだよ」
「そうか……」
そいつは僕の方を見て目を細めた。
と、僕はフローリアンが少し顔を引き攣らせたことに気付いた。
「フローリアン?」
赤い奴も気付いたらしい。
「……あれ?」
きら、きら。
緑色の光が、フローリアンの身体から。
嘘だろ、ふざけないでよね!!
なんなのさ次から次に!!
なんで消えそうになってるんだよ!!
「これ、は……?」
「僕、レプリカだから……」
「それは、知っている。そうではない。これは……乖離、というやつか?」
「……うん」
赤い奴が顔を引き攣らせる。聞いていない、って顔だ、そりゃそうだ、僕だってこのざまなのに!!
「ッ、くそ、アヴァロンを投影できればッ……!!」
何か打開策を過去には持っていたらしい赤い奴は子ギルとやらを見る。投影ってなに、アヴァロンって何。それは今はいい。
「あんたらのことは後だ。僕の兄弟を助けてよ」
僕にできることはない、まだ。
子ギルがまた金ぴかに戻って、何か酒瓶と杯をどこかから取り出した。何それ、どっから出したの。
「これを飲め」
少しずつ酒らしいそれを僕ら全員に飲ませた金ぴかと赤い奴は、それでも顔をしかめた。
「うまく馴染まんな」
「フローリアンとシンクは?」
「そちらは生き延びるだろう。だがあとの4人は諦めろ、
「……ッ」
苦しげな顔をする赤い奴。
「……」
僕は消えかかっている皆の手を握る。フローリアンも真似をする。
赤い奴と金ぴかも傍で見ていた。
どうせ、“前回”居なかった奴らのせいでこうなったに決まっている。つまり、兄弟を殺そうとしているのはこのデカブツ2人なのだろう。
別にいいよ。何も言わないよ。口には出さないよ、口にはね。
それに、恨めない。
憎めない。
赤い奴が、自分の家族が死ぬのかっていうような顔をしたから。
だから、ムカつくけど、いいよ。
あいつらとの思い出なんてないし……。
涙が零れて、これが悲しいってことか、なんて思った。
消えていった兄弟のために祈る赤い奴は、泣いていた。金ぴかの方は何も言わずに光の消えていった空を見上げていた。
「――行こう」
僕はフローリアンの手を取る。もう泣いてはいられない。オリジナルのところへ行かなくては。僕は3人を連れて、通り慣れたダアトの道を辿って、オリジナルの部屋へと向かった。