やはり俺の夢の世界は間違っている。   作:コウT

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続きです。

よろしくお願いします。


海老名姫菜の語りは受け止めきれない

「にしても頑丈な扉だな」

と鉄格子をまじまじと見つめる。

というよりそれしかやることがない。

どこぞのサトシみたいに鉄格子を突き破れないよ、俺。

マサラ人と千葉人じゃさすがに

比べるのもあれだしね。

 

そんな考え事してる中牢屋の外側の扉が開き

海老名さんがニコニコしながら入ってきた。

 

「あ、ヒキタニ君起きたのね。おはよ」

「ああ、目覚めが悪くて頭痛いぜ」

 

「ごめんねーあいにく今ここしか開いて無くて..」

 

白々しい態度を取る海老名さんはいつもとはまるで別人のようだ。

まあ由比ヶ浜の夢の中だから別人なんですけどね。

 

「さて..ちょっと私とお話ししようか」

 

「俺は話すことなんて何もない」

 

「ふーん..聞きたくないの?

どうして私がああいうことしたのかとか」

 

「だからどうでも」

 

「結衣の夢が今どうなってるのか」

 

 

海老名さんから発せられたその言葉に俺は唖然とした。

夢?今確かにこの人夢っていったよな?

言い間違えとかじゃなくて..

 

「ずいぶん驚いてるようだね。

その辺もきっちり話すから

聞いてくれないかな?」

 

海老名さんからは以前にも感じた冷たい視線。

それでいて口元は笑っている。

本質的なのかはわからないが少なくとも

俺が知っているもう一つの彼女の姿だ。

 

「ああ、わかったよ」

 

「ありがと」

 

そう言って近くのパイプ椅子を組み立て俺の牢屋に前に置いて

彼女は足を組みながら座った。

いやその位置だとギリ見えそうなんですけ..

 

「期待しても見えないよ」

 

「う!」

 

この人もどうやら例の技を使えるようです..

まあそれは置いとこう。

 

「それじゃあまず私について話そうか」

 

「いや知ってるし..」

 

「改めてだよ。私はこの世界の海老名姫菜。

ヒキタニ君の知ってる私もこんな感じなのかな」

 

「まあおおよそ..てかこの世界ってことはやっぱり」

 

俺の回答を待ってましたと言わんばかりに海老名さんは、

「うん。知ってるよ。ここが結衣の夢の世界ってことも。

私は結衣の夢の中の登場人物の一人ってことにね」

 

「..どうして気付いたんだ?」

 

「気付いたというより教えてもらったんだ」

 

「誰にだ?」

 

「んー葉山君」

 

 

 

 

 

ここではあ!?と言うのが三流でやはりなというのが二流。

黙って見つめるのが一流だと思うのだが

残念なことに俺はその全てに当てはまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…..え?」

 

 

 

 

 

「あれいまいち驚かないんだね」

 

「いや十分驚いてるよ」

 

もっとも俺は驚いても顔に出ないらしく

よく勘違いされる。

多分顔に出るとしたら小町に彼氏ができたとか

それくらいのニュースレベル。

驚く通り越して発狂するな、うん。

 

「もう数週間前の話かな..

葉山君が学校の廊下で倒れているから

慌てて様子を見に行ったら怪我とかは

なかったけど何かいつもと様子が違うから

おかしいなって..

そしたら葉山君のほうから話してくれたよ」

 

「それで夢の事を..」

 

「そう。まあ私が知ってる隼人君がいなくなったから

ちょっと残念だけど事情はわかったからさ..

あ、ちなみに隼人君のことを葉山君と呼んでるのは

私が知ってる隼人君と区別つけるためだよ」

 

「はあ..」

 

あんまりその情報はどうでもいいかな..

それはさておき話を続けよう。

 

「そして葉山君が来てすぐにそっちの世界の結衣がきたんだ。

結衣もまたちょっとおかしい感じだったから葉山君が言ってたことを

少しは信じられるようになったんだ」

 

「..少しはってのは?」

 

「ヒキタニ君せっかちだなーその辺も説明するから。

結衣が来てから葉山君は焦り始めてたよ。

時間が無いって…」

 

「時間が無い?」

 

「そう。何でも夢の世界って

本来ならば時間制限があるらしくて

そのタイムリミットがもうすぐ来てしまうって

言ってたよ」

 

 

知らんかった…

ん?ちょっと待て。

そしたらおかしいはずだ。

タイムリミットあるなら

雪ノ下も由比ヶ浜も陽乃さんもどこかにいる一色も

そして俺も…すでに夢から覚めているはずじゃ

ないのか?

 

 

「どしたの?」

 

「いや..何でもない」

 

さすがにそれを聞いても無駄か..

 

「まあ確かにタイムリミットあるなら

ヒキタニ君達はもう目を覚めなきゃおかしいよね?」

 

あ、バレてたわ。

やっぱ驚かないけど考えてることとか

顔に出るタイプなのかね、俺。

 

「その辺も葉山君説明してくれたよ。

何でも夢の世界って色々イレギュラーらしく

正直未完成だから何が起こっても不思議じゃないって。

ただヒキタニ君達が夢から覚めないのは

ルールを破ったからじゃないかな?」

 

「ルール?」

 

「そう。最初にこの世界に行くときに

端末と…薬かな。私は見たことないけど

ヒキタニ君は覚えてるよね?」

 

あーすっかり忘れてたけどそういえばそんなのあったな。

というか今思うとあれが夢の世界に行く装置って

小さすぎだし単純過ぎだろ..

もっと疑えよ、俺…

 

 

「その時説明書読まなかった?」

 

「説明書?」

 

 

思い返してみるとそういえばそんなのがあった気する。

確か手順通り正しく使えとか薬は分量通りとか

夢から抜け出す際は手順通りやれとか。

てか最後の抜け出すって俺聞いてねえよ。

 

 

ん?いや違う。

もう一つあったぞ。

 

「あ」

 

何かを思いついた俺の顔を見て

海老名さんは察したようにあの注意事項を言った。

 

「他人の夢に干渉することだけは絶対にやめてください。万が一干渉してしまうと

あなた自身が他人の夢の世界から出れなくなってしまいます。

絶対におやめください」

 

 

 

 

 

「どう思い出してくれたかな?」

 

「思い出した..そーいやそんなのあったな」

 

なるほど。

俺が抜けれない理由はそういうことね。

 

「まあでもこれだけだとヒキタニ君と..雪ノ下陽乃さんぐらいしか

目が覚めない理由にしかならない」

 

「まあ..そうだよな」

 

「その辺も葉山君は自分なりの推理を

私に教えてくれたよ。

まず結衣だけど結衣はこの夢の中で一度

この世界を壊している。

それが原因で本来は抜けれるはずなのに

抜けれなくなってしまったと..」

 

「ちょっと待ってくれ。

陽乃さんも言ってたがこの夢が壊れたって

どこも壊れているようには見えないんだけど..」

 

「そりゃ表面上はね。

今のとこ夢を壊す最大のきっかけの一歩手前まで

状態らしくてさっきの言い方を訂正すると

夢が壊れかけていると言った方がいいか」

 

「壊れかけている..?何でそんな..?

 

「….それは君が一番知ってるはずだよ、ヒキタニ君」

 

ふと冷たい眼差しを向け小さい微笑を浮かべた海老名さんは

小さく呟いた。

彼女の言葉を考えれば正直何で?なんて言葉はいらない。

この世界で俺がしてきたこと..それが本当ならば

由比ヶ浜の精神は崩壊しかけてもおかしくない。

 

「どうやらわかってるようだね。

それじゃ話を続けようか。

結衣が自分の夢を壊すきっかけ、それは間違いなくヒキタニ君と

雪ノ下さんが付き合ったことだよね?

それにより彼女の精神が安定しなくなって

夢の世界にも崩壊の兆しが見えてきた」

 

「でも..ここあいつの夢の世界だろ?

何でそんなことになるんだ?

自分の夢なら思い通りに出来るじゃないか」

 

「そう、それだよ」

 

「え?」

 

「ヒキタニ君も雪ノ下陽乃さんも間違っているはそこだよ。

自分の夢なら何でも思い通りになるって」

 

「どういうことだ?」

 

「ヒキタニ君って夢ってよく見る?」

 

「うーんまあそこそこ..」

 

俺の答えに足を組み替えて頬杖をつきながら

海老名さんは問い返す。

 

「それじゃまた聞くけど

夢って本当にいつも自分が望むような夢なのかな?」

 

「それってどういう…」

 

待て。

これはそのままの意味じゃないのか。

確かに夢なんて自分が見たいと思った夢を

見れることなんてない。

自分が考えたことも無いことを見れるから

夢なんじゃないのか。

俺はそもそも夢の定義から勘違いしていた。

それは陽乃さんも同じだ。

自分の思い通りに行くって部分ではあの人も

勘違いしていた。

 

「つまり..この夢の世界はあいつが

望んだ世界ではなく本当に見ている

夢の世界ってことか?」

 

「そう、ヒキタニ君みたいに

自分が望んでいるものを作っている世界

じゃないんだ、ここは」

 

なるほどと頷く。

しかしこうなると陽乃さんが言ってたことに

疑問が出てくる。

あの人が間違えていたというのは

あまり考えにくい。

 

 

 

 

「話を続けようか。

恐らく君は雪ノ下陽乃さんから

端末で脳波や感情を読み取って

夢の世界が出来るって聞いたよね?

そこは間違ってないよ」

 

「つまり..望んだことの通りに

いかないってことか?」

 

「うん。そこだね、少なくとも葉山君は

この夢の世界はあくまで脳波や感情で出来る世界

だから結局自分がどう望んでいても

そうはならないって」

 

「なるほど..」

 

でも俺の場合は..いやあれを心の底から

本当に望んでいたのか?

あんな関係で俺は満足していたのか..

 

 

「まあまだまだ聞きたいことあると思うけど

夢の世界の構造部分については私が聞いてるのは

ここまでかな。あとはそっちに戻って葉山君から

聞いてよ」

 

「いや教えてくんねえだろ..

てかそっちってこの世界にもう葉山いねえの?」

 

「うん。いないよ。タイムリミットが来て帰っちゃった。

恐らくそっちの結衣がこの夢から覚めれば私の知ってる隼人君や結衣は

戻ってくると思うけど夢から覚めない限り隼人君は

返ってこない..らしいよ」

 

最後にちょっとだけ空いた間は一瞬だが彼女が寂しい表情に

なっていることを俺は見逃さなかった。

それにしても色々驚きだ。

いくら解明されてない部分が多いとはいえ根本的な部分で

間違ってたなら色々と考えることが増えていく。

 

「それじゃあ最後にどうして君を監禁したかについて

お話ししようか」

 

「あ、ああ..」

 

もはやそっちについては結構どうでもいい感じなんだけどね..

まあでも俺自由に動けないし理由くらいは聞いとこうか。

 

「さっきも言ったけど結衣の夢はもう崩壊寸前なの。

そしておそらくそれはヒキタニ君と雪ノ下が一緒に

いること、もしくはその二人に結衣が会ってしまうということ」

 

「..つまり俺を雪ノ下と由比ヶ浜に会わせないように

するために俺を監禁させたのか」

 

「そうだよ、雪ノ下さんも今は納得しておとなしく別の場所で

監禁させて頂いてるし」

 

さすがに聞いていていいものではないな。

監禁なんて物騒な話は漫画や小説だけの話だと思ったが

自分がされると何もできなくなる。

てかこんなとこいたら自我が崩壊する。

 

「雪ノ下陽乃さんも納得してくれたようで

今は大人しく雪ノ下..あ、また間違えた。

雪乃さんと一緒にいるよ」

 

「そうか…それで?いつまで俺はここにいればいいんだ?」

 

「…少なくとも結衣の夢が覚めれば

雪ノ下陽乃さんとヒキタニ君は強制的に夢の世界から

抜け出されるらしいから夢が覚めるまではこうしてもらうよ」

 

それではいそうですかと納得いけばいい話だが

残念ながらそうはいかない。

とはいえ今、この場で俺が出来ることは何もない。

 

「ごめんね、こんなことして。

ただ結衣の夢が崩壊すれば

みんないなくなっちゃうんだ..だからお願い」

 

 

海老名さんのお願いはどうにも否定することができない。

夢なんだから俺が知ってる海老名姫菜とは関係が無い。

それでも目の前の彼女を見捨てることはできない。

 

 

 

「さてもう行こうかな。

雪ノ下さんの様子見てこなきゃ」

 

立ち上がった海老名さんは扉に向かい、

「じゃあね、またあとでくるからね」

と扉の向こうへ消えていった。

 

 

さてここからどうするか。

海老名さんの言うとおり俺と雪ノ下のせいで

由比ヶ浜の夢が崩壊すればすべてが終わりだ。

海老名さん達元の住人も含め

俺達もどうなるかわからない。

かといってこのまま黙って見過ごしていいのだろうか。

そもそもこの夢の世界が自然に崩壊することも

ありえるんじゃないのか?

陽乃さんが知らないこともあるわけだ。

何が起こってもおかしくない状況まで来ている。

俺はようやく夢の怖さを知った気がしたが

結局何を考えても打開策は思いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…イ!」

 

何だろう、いつの間にか寝ていたようだ。

何か声がする..

 

「..パイ!!」

 

 

うるさいな..

少し寝かせ

「起きろー!!!」

 

「うわ!」

 

ええ、もう飛び上がりました。

それはもう牢屋の鉄格子に頭をぶつけるぐらいに。

 

「もう!どうして起きないんですか!?

てか寝ている場合ですか!?」

 

「いてて…ん?」

 

どこから聞いた声。

そしてどこかで見た顔。

その見知った顔の持ち主と

この聞き覚えのある声と口調。

間違いない、我が生徒会長様だ。

まあつまり…一色いろはだ。

 

「…え?」

 

目を擦ってもう一度見る。

いや確かに一色だ。うん、一色だ。

「寝ぼけてるんですか?とにかくここではあれなんで

今すぐきてください」

と鍵を取り出し牢屋を開けた。

一色は扉を開けて俺の手をとるとすぐさま牢屋から連れ出し

外の扉を開けてそのまま俺はなすがままに連れ出されていった。

 

「とりあえずここはまずいので一度外に出ましょう」

 

「えーと..状況が読めない」

 

「その辺も説明しますからいいから早く!見つかったら終わりですよ!」

 

そんな大きい声出してるお前のほうが見つかりそうな気もするんですけど..

しかし今は感謝しなければ。

まさかの打開策により俺はあの牢屋から抜け出すことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと..」

 

一色に連れられ外に出されたが

まずいろいろおかしい。

なぜなら誰もいない。

人がいる気配もなく猫や犬、虫など

まるで俺達以外の生物が全て消えたかのようだ。

 

「あー遅かったですか。もう時間ないですよ..」

 

「どういうことだ?これ」

 

「んーと多分ですけど結衣先輩がキレかけてるんじゃないですか?

キレてこうなるのあいつ..

まあつまりは由比ヶ浜に限界が来てるということか。

 

「とにかく!先輩は結衣先輩に会いにいってください!」

 

「え?いや俺があいつと会ったら..」

 

「気持ちに気付いてるなら答えを出してあげないと結衣先輩が可哀想ですよ!

てかこうなったのも先輩のせいですからね!」

 

そういって俺の背中を思いっきり叩いた。

いや痛いよ、君。なかなか力あるよいろはす。

 

 

「それでその..ちゃんと結衣先輩も雪ノ下先輩とも全部終わったら

今度は私ですからね..」

 

「へ?」

 

赤らめながら言う一色は間違いなく俺がこの夢の中に来る直前に

見た表情の一色だ。

 

「言いましたよね..抜け駆けはしないって..だからまずは結衣先輩を

救ってきてください!」

 

「…なんかよくわかんねえけどわかった!」

 

一色の言うとおりだ。

とりあえずここでやることは一つ。

由比ヶ浜を救うことだけだ。

 

「…で?あいつ今どこいんの?」

 

「えぇ…」

 

 

がっかりした顔でこちら見る一色。

いやだってわかんないよ、あいつの場所。

しかもそこに海老名さんいるだろうし。

 

 

「恐らくですけどはるさん先輩が知っているはずなんで

連絡してみます」

 

「連絡?」

 

そう言ってスマホを取り出した一色は電話をかけ始めた。

すぐにもしもし?という声が聞こえ会話が始まってるところを

見るとどうやらつながったようだ。

一色は場所を聞いたようで電話を切ってこちらを見つめ直した。

 

「さていきますか」

 

「てかお前何でケータイ持ってんの?」

 

「あー私の初期装備みたいなもんです。

先輩達とは違って私のは少し最新型のなんで」

 

「最新型?」

 

「後で話しますよー」

と一色は俺の手を引いて

そのままどこかへ走り出してしまう。

さてと..とりあえずやれるだけ

やってみますか..

 

 

 




遅れました。

Pixivでは次話の話がUPされているので
よろしくければご覧ください。

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