例によって一話目だけ。
”ウワアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!”
この世界、《ガイアース》において最大の国《チュエンブルク》。
そのチュエンブルク城へと続く街道には空と大地を劈かんばかりの歓声が鳴り響いていた。
まあ、無理も無いであろう。
全世界を暗黒の世界へと堕とそうとしていた《大魔王グルナス》が倒され、世界に平和が舞い戻ったのだから。
それを成したのが今、まさに行なわれている凱旋パレードの中、城に向けて街道を歩いている集団の先頭に居る男、《勇者アークス》。
大魔王グルナスによる世界制覇が始まった際にこの世界、ガイアースを創造した《大地神ファルナ》によって勇者の啓示を受けた青年である。
その光景を俺はパーティー斡旋所でもある宿屋兼酒場、《暁の鱗雲亭》の二階の窓から眺めている。
ああ、俺の名は《アル》。
勇者の初期パーティーの一員だった男だ。
『だった』…そう、俺は魔王討伐の旅の中頃辺りのクエスト攻略最中にある強敵との戦いで重傷を負い、一時勇者パーティーから外れていたのだ。
その際アークスは新しい仲間をパーティーに入れて冒険を続けた。
まあ、もっともその時のパーティー構成がかなりしっくりと来たらしく、傷が完治した後も俺はパーティーに戻る事は無くアークス達は新しいパーティーで冒険を続けたと言う訳だ。
その後の俺は、何時パーティー変更の為にアークスが迎えに来るか解らない為、この国を離れる事も出来ずに街の周りを闊歩するモンスター共を退治をしながら待ち続けていたのだ。
まあ、結局アークスが迎えに来る事は無かったのだが。
もっとも、今更その事をとやかく言うつもりは無い。
アークスはアークスで世界を救う為に懸命に戦い続けていただけだからな。
そしてアークスは見事魔王を倒し、勇者としての役目を全うし、俺の役目も終わったと言う事だ。
「さてと」
俺は用意しておいた荷物を背中に担ぎ、部屋を出て行く。
―◇◆◇―
暁の鱗雲亭から出て来た俺を宿屋の店主兼斡旋所の管理人でもある《ダルフ》は困惑した顔で軽く笑う。
「やっぱり行くのか、アル?」
「ああ、長い事世話になったな」
「せめてアークスに挨拶ぐらいして行けよ」
「…解ってるだろ。今更会った所でお互いに気まずいだけだ。だったらこのまま会わない方が良い」
「やはりアークスの事を…」
「何度も言うが、怒っても無ければ恨んでもいない。無事に世界は救われたんだ、それで良いじゃないか」
俺はそう言い、手を振りながらダルフに背を向け歩き出す。
「俺はこのまま平和になった世界で気ままに旅をさせて貰うさ。その位の褒美はあっても良いだろ」
「それもそうか。元気でな、アル。偶には顔を見せろよ」
「偶にはな」
そして俺は町の外門を抜けてチュエンブルクを後にする。
何処に行くか、何をするか、まったくの無計画だが、行き当たりばったりの旅も悪くないだろう。
そんな事を考えながら空を見上げると、突如太陽がまるで爆発した様な閃光を放った。
「な、何だこれはっ?眩しい!」
その閃光が体を包み込んだかと思うと、俺は軽い浮遊感を感じた。
「何だ!?何が起こってるんだ?うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今だ冷め遣らぬ歓声を背中で聞きながら、俺の意識は其処の見えない穴に落ちて行くかの様に消えてった。
―◇◆◇―
…い、…ル。お…ろよア…」
「う、うぅん」
「いい加減に起きやがれ、アル!掃除の邪魔だ!」
「うおわぁっ!」
俺の意識はダルフの濁声で一気に覚醒した。
……ダルフの?
気が付けば何故か俺は暁の鱗雲亭の一階、酒場のテーブルに寄りかかる様に寝ていた。
「あれ、俺は何故此処に?俺は旅に出た筈だが」
「何時まで寝とぼけてるんだ。魔物が彼方此方にウロウロしてるってのに旅なんざ出来る訳ねえだろうが」
「魔物がウロウロ?何言ってるんだ、魔王は倒されたはずじゃ」
「おいおいおい、何処まで都合の良い夢を見てたんだ。ついこの間《バルグム国》が魔王軍に滅ぼされたばかりじゃないか」
「何?おいダルフ、今は…今日は何日だ?」
「寝とぼけてるんじゃ無くてボケが始まった様だなこの若老人。今日は王国暦1932年、天馬の月の23日じゃねえか」
「王国暦1932年、天馬の月の23日だと?」
どう言う事だ?
なら今日は…いや、今日から一週間後の一角獣の月の1日は。
アークスが勇者として旅立つ日じゃないか。
(`・ω・)ちなみにアークスくんの冒険はコレで終わりです。真の大魔王が出て来たり、地下世界に行ったりはしません。例の三作目とは何の関係もありません。
( ;ω;)ホントダヨ。