赤黒い炎に包まれながら崩れゆく城。
崩れ落ちた残骸から一人の兵士が傷付いた身体を引きずりながら這い出てくる。
その男は懐からキメラの翼を取り出し、祈りを込めるように握り締めると彼の身体は淡い光に包まれて空へと飛び立った。
遠く離れた城、ローレシア城へと。
第一話『悲報』
《ローレシア城》
此処は嘗て世界を絶望の底に沈めていた竜王を倒し、世界に光を取り戻した勇者アレフがローラ姫と共に旅路の果てに辿り着いた「ローレシア大陸」にて建国した国、ローレシア。
そのローレシア城の城門にて、門番の兵士がふと空を見上げると一つの光がこの場所に近づいて来るのに気付いた。
「あれは…キメラの翼かルーラの光。正気か!? 到着場ではなく直接城門前に降りて来るなど無礼にも程があるぞ!」
本来キメラの翼やルーラで城を訪れる時には決められた到着場があり、その場に降り立つ事が決められていた。
だが今降りてくる光は明らかにこの城門前を目指していて、その常識を疑うのは当たり前に思えた。
しかし、降りて来た人物を見ると門番達のそんな懸念は一瞬で吹き飛んだ。
何故ならば其処に居たのは簡素な手当てをしただけの血塗れの兵士だったのだから。
「ぐっ…。こ、こく…お…。がはっ!国王…さ、まに……」
「おいっ!しっかりしろ!!」
「その鎧はムーンブルクの兵か。一体何があった!?」
「ローレシア国王…ラルス陛下に…御注進(ごちゅうしん)を…。がはっ!」
息も絶え絶えに吐血をするムーンブルクの兵士は体中傷だらけだが、それでも兵士は国王であるラルスへと謁見を求める。
「しかしその傷では。まずは手当てを…」
「時間が、時間が無いのだ!一刻も、はや…く、陛下に…伝えねば、ならない…事が…」
「…解った。おい、そっちを支えてくれ」
「あ、ああ。しっかりしろよ、すぐに陛下の下へ連れて行ってやる。それまで頑張れ!」
「す、すまない…」
ムーンブルクの兵士は門番の二人に肩を貸してもらいながら玉座の間へと辿り着き、ローレシア国王であるラルス六世に事の真相を語った。
ムーンブルク、落城の報を。
―◇◆◇―
《ローレシア国王、ラルス六世》
ローラ姫と結ばれた勇者アレフは本来ラダトーム王家を継がなければならなかったのだが、ローラ姫と共に新天地へと旅立った為にそれは叶わず、ラダトーム王家の血は絶えてしまった。
その事を気に病んでいたアレフはローレシアを建国した後、産まれて来た子供にラダトーム王と同じラルスと名付け、その名を受け継いで行くことにしたのであった。
そして、今代(こんだい)のローレシア王がラルス六世である。
―◇◆◇―
「な、何と…。ムーンブルク城が邪神官ハーゴンが放った魔物の軍勢に攻め落とされただと?」
「は、はい…へ、陛下率いる戦士団は…、果敢に迎え…撃ったのですが…あ、圧倒的な軍勢に…ち、力、およ…ばず……」
ローレシア国王、ラルス六世はムーンブルク兵士から聞かされた悲報に愕然としていた。
それは彼だけではなく、この玉座の間に居る兵士、大臣、そして本来王妃用の玉座に座っていたその者も。
「くううっ!おのれ、ハーゴンめ!悪霊の神々と契約しただけでは飽き足らずに平和な世を脅かし、ムーンブルクまで……。堕ちる所まで堕ちたか!」
《邪神官ハーゴン》
本来、精霊神ルビスを崇める神官の彼であったが、何時の頃からかその崇拝の対象は破壊神シドーへと移り変わっていた。
悪霊の神々と契約した彼はその肉体を魔族の物に変貌させ、強大な魔力で魔物達を統率し、数多くの人々を魔の道へと導いていた。
更にはムーンブルク南方に聳え立つロンダルキア山脈の頂に神殿を構え、悪魔神教を世に広めているのだ。
「アリア姫は?王女のアリア姫はどうしたのだ!?」
「ア、アリア姫様は…奴らの目から…か、隠す…た、めに…がはっ!」
王女の事を報告しようとした兵士だが、遂に力尽き激しく吐血する。
「お、おいっ!しっかりするのじゃ!」
「ア…リア姫を…お助けして…、どうか陛下の…我等の、むね…んを……」
息も絶え絶えにそう言うと、兵士は遂に息絶えた。
無念そうな顔で、光を失った瞳から涙を流しつつ。
「この勇敢な兵士を手厚く葬ってやるのじゃ」
ラルス六世は事切れた兵士の目をそっと閉じさせると、そう命じた。
―◇◆◇―
「お待ちください!何処へ行かれるおつもりですか!?」
大臣の慌てふためいた声が玉座の間に響いた。
年老いた大臣。
彼は先王であるアレフ三世から王家へと仕えていて、その名をメルナスという。
ラルス六世は何事かと振り向いて見ると隣に座っていた者はメルナスの呼び掛けにも応じず玉座の間から出て行こうとしていた。
「待てぃっ!何処へ、何をするつもりなのじゃ!?」
「…もちろん、ハーゴン討伐へ向かいます」
「「「なっ、何と!?」」」
ザワザワザワ・・・
ラルス六世の言葉にそう答えると辺りは騒然となり、歩みを止めようとしないその者にメルナスはしがみ付いて止めようとする。
「離して、爺」
しがみ付くその手をそっと離させようとするが、メルナスは泣き叫びながらその手を離そうとはしなかった。
「離しませぬ!このメルナス、何があろうともこの手を離しませぬぞ!お考え直しを、どうか老い先短いこの爺に免じてお考え直しを!」
その姿を見てラルス六世も、兵士達も言葉を失っていて、玉座の間にはメルナスの嗚咽の声だけが響いていた。
その者が歩みを止めていた足で再び一歩を踏み出そうとするとメルナスは必死な叫び声でその者の名を呼び、懇願する。
「お願いでございます、無茶はお止めください!お、考え直しを……ひ、姫様…ローラ姫様!」
=冒険の書に記録します=
( ゚д゚)ポカーン …
そんな表情がモニター越しに見えてきそうな乱でございます。
何事かと申しますと、もしドラクエⅡの主人公がⅢやⅣの様に性別設定が出来たとしたら?
この作品はそんなコンセプトが出発点です。
名前がローラなのも父親であるラルス同様にラダトーム王家から引き継いだという設定です。(ちなみに三世)
強さは剣を持ったアリーナ姫と言ったところで性格は「勇猛果敢」。
言葉使いはごく普通の女の子ですね。
物語はゲーム本編の流れを汲みつつもオリジナルな展開を組み込んでいきます。
サマルトリアは王子、ムーンブルクは王女、そこは変りません。
では、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
えっ?サマル王子のハーレム?
『 そ ん な も の は な い 』