突発!乱の書き逃げ劇場   作:乱A

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自分を排除しようと暗躍する過激派神魔族。
横島は世界を"最悪の結末"から救う為に世界から自分という存在の因果を消し去る事を決意する。

そして、世界から消える筈だった彼は誰かの呼び声によってとある世界へと呼び寄せられた。

枯れる事の無い桜が咲き乱れる島、初音島へと。

(`・ω・)Gradation Serenade、縮めてGS。そんなHANASI。



D.C.Ⅱ~Gradation Serenade~

『…そうですか、決めましたか』

『すまんな、ワイらがだらしないばかりに』

「いや、いいんだ。アンタらのせいじゃない」

 

魔神大戦が終結してから数カ月、神魔間のデタントは順調に進んでいた。

 

否、進んでいた様に思われた。

 

魔族を見下す神族。

神族を敵視する魔族。

 

彼等、デタントを良しとしない神魔の過激派はデタントの象徴である横島を排除する事で均衡を崩し、神魔の戦いを再開させようと所構わず攻撃を仕掛けて来た。

小竜姫やワルキューレなど彼を守ろうとする仲間達のおかげで何とか切り抜けては居るがこのままではいずれ最悪の結果(ハルマゲドン)が訪れるのは時間の問題だった。

 

だからこそ、横島は最後の手段を取る事に決めた。

すなわち……争いの起点となってる自分自身を世界から消滅させる事を。

 

横島は文珠を四つ取り出し文字を刻み込む。

刻む文字は……

 

【因】【果】【断】【絶】

 

そして横島の存在の軌跡はこの世界から消えて行く。

 

「美神さん達を……たの…む…」

 

最後の想いを残し、”彼”の因果はこの世界から完全に消え、“彼”を知っていた者達の記憶から“彼”に関する事柄は消去された。

 

 

美神除霊事務所では……。

 

「おキヌちゃん、どうしたの?」

「え、何がです?」

「おキヌ殿、泣いてるでござる」

「え…あ、あれ?…何で?」

 

おキヌの瞳からは止まる事無く涙が零れていた。

 

「お、おかしいな?…でも美神さん達だって…泣いてますよ?」

 

おキヌの言う通り、美神やシロ、そしてタマモの瞳からも涙が零れていく。

 

「え……な、何で?…」

「解らぬでござる…でも、何故か涙が止まらないでござる…」

「何で?何でよ?……何でこんなに哀しいの?」

 

泣いているのは彼女達だけではなかった。

 

冥子も、12体の式神達も。

雪之丞も、タイガーも、ピートも、ジークも。

エミも、魔鈴も、唐巣も。

小竜姫も、ヒャクメも、パピリオも、ベスパも。

カオス、マリア、愛子、小鳩、貧、美智恵、ひのめ、西條。

 

そして“彼”の両親。

 

“彼”を知っていた者達は突如襲って来た喩え様もない喪失感に哀しみ、涙した。

“彼”が世界から消えた事により、勃発しようとしていたハルマゲドンは回避された。

“彼”という代償を支払う事で……。

 

 

 

 

『…思ってたよりもきっついな~、これは…』

『ええ、しかし私達だけは彼の事を忘れる訳にはいきません。たとえ、どれ程苦しかろうとも、どれ程の罪の意識に苛まれたとしても。それにしてもまさか私が天罰を受ける事になるとは思いませんでしたよ』

『仕方あるまい。全てはワシらの力不足から来た事、どれ程苦しいとしても横島の事だけは忘れる訳にはいかん。…未来永劫にな…』

 

神魔の最高指導者、そして猿神の三柱はそれぞれ胸を押さえ、自分達の罪を受け止めながらただ、涙した。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

……闇も無い、光も無い、何処までも白一色の空間の中で“彼”の…いや、“彼”だった意識はゆっくりと消えようとしていた。

 

其処に何処からともなく声が聞こえて来た。

 

 

 

《……が……しい…》

 

……ナンダ…ナンノコエダ?……

 

《か……く…ほ…い》

 

……ナニガ…ナニガ?……

 

《かぞ…が、家族が欲しい。一人は…一人ぼっちは寂しい、ボクにも家族が欲しい》

 

……カゾク?……

 

《お願い、ボクに家族を頂戴!大切な、大切な家族を》

 

……サミシイ、ヒトリハイヤ、…カゾク、…オレモ……

 

《桜の木よ、お願いを叶えて。ボクは、ボクは…》

 

……オレモ、オレモ……

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ――お願い……、

   叶えて……、

   私の願いを………。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

夜の闇に閉ざされた桜の木の前。

其処に一人の少年が立っていたが、その瞳には未だ光は宿っていない。

 

 

――桜が舞う月明かりの中で僕は立っていた、ここは何処だろう?そして…

 

「僕は…誰?」

「君は桜内…桜内忠夫くんだよ」

 

――誰だろう?女の人の…優しそうな声が聞こえる。

 

「さくらい…ただお?」

「そう、それが君の名前だよ。そしてボクの名前は芳乃さくら。よろしくね」

 

さくらは満面の笑みを浮かべながら少年にそう告げる。するとだんだんと少年の瞳に光が宿って来る。

 

「僕の名前、僕……、ワイの名前は桜内忠夫…」

「うん!初めまして…、ううん、違う。ようこそ、忠夫くん!」

 

この世界で彼の新しい物語は始まった。

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

 

 

忠夫はさくらに連れられてある家にやって来た。

 

「ここは?」

「この家はね今日からキミが住む家だよ」

 

忠夫は不安そうな顔をしてその手をきゅっと握りしめながらさくらを見上げらがら聞く。

 

「さくらさんは一緒じゃないんか?」

 

不安げにそう言う忠夫の瞳は零れそうな涙でうるうるとしていた。

 

ドキーーンッ!

 

そんな忠夫の表情の直撃を受けたさくらは顔を真っ赤に染め、頭からは湯気を立てていた。

 

「あ、ああ、あああ、あああああああああああああああああああ」

 

どきどきどきどきどきどきどきどき

 

(な、何なの?この可愛い生き物は。ああ、頭に血が上ってくらくらするよ~~)

 

「さくらさんと一緒がいい。ぐすっ」

 

さくらを見上げる上目づかいのその瞳から一筋の涙が零れる。

 

"ぷちん"

 

頭の中の何かが切れたさくらは、膝を付いて忠夫を思いっきり抱きしめる。

 

「わぷ」

「ああ~~、ゴメンね忠夫君。ボクも忠夫君と一緒に居たいけど仕事が忙しいから忠夫君が一人ぼっちになっちゃうんだよ~~。でも、この家の人達はいい人ばかりだから忠夫君も優しくしてもらえるよ。ボクも時々会いに来るからね」

「ホンマか?」

「本当だよ。その時は一緒にお風呂に入ったり一緒に寝ようね」

「うんっ!約束や」

 

そこでようやく忠夫の顔に笑顔が戻る。ニッコリ

平行世界への転移転生とはいえ彼もまた『横島忠夫』ニコポは標準装備されていた。

 

「うにゃ~~ぁ♪忠夫君、可愛いよぉ~~♪ハグハグ、スリスリ♪」

「のわっ!さくらさん、くすぐったいよ」

 

忠夫にじゃれつく(甘える?)さくらだがそんな彼女を見つめる六つの目があった。

 

「こほん。で、さくら。そろそろ話をしたいんだがな」

「うにゃ?……お、お兄ちゃん」

 

家の玄関にはいつの間にかこの家の主である朝倉純一と彼の孫である姉妹、朝倉音姫と朝倉由夢が立っていた。

 

「その子がさっき連絡して来た、家で預かってほしいという子かい?」

「そうだよ。さあ、自己紹介して」

「う、うん。桜内忠夫や…じゃない、です。よ、よろしく」

 

忠夫はたどたどしく名前を告げる。

 

「はい、よろしくね。私は朝倉純一だよ、そしてこの娘達は…さあ、お前達も自己紹介しなさい」

「うん。はじめまして、私は朝倉由夢だよ。よろしくねお兄ちゃん」

 

髪の短い女の子がそう言う。

 

「お兄ちゃん?」

「そうだよ、これからこの家にすむんだよね、だからお兄ちゃんって呼ぶの。…ダメ?」

「うんにゃ、かまわんで。よろしくな由夢ちゃん」

 

忠夫はそう言って由夢の頭を撫でてやる。

 

「あ…えへへ」

 

由夢は照れて赤くなりながら大人しく撫でられている。

 

「…私は朝倉音姫。よろしく……」

 

長い髪の女の子はぶっきら棒にそう言うと家の中に入っていく。

 

「何か怒ってるんかな?」

「ううん、そんな事無いよ。大丈夫、すぐに仲良くなれるよ」

「だとええな」

「さあお兄ちゃん、家に入ろう。ご飯食べて一緒にお風呂に入ろ♪」

「せやな、ワイ腹ペコペコや!」

 

忠夫は由夢に手を引かれて家の中へと入って行き、そんな忠夫達を見ながら純一はさくらに話しかける。

 

「さくら、お前は……」

「お兄ちゃんが言いたい事は分かってるよ…。でもね、ガマンが出来なかったんだ、馬鹿な事だって言う事も分かってる。でも、でも……」

 

まるで、懺悔をするように話すさくらの頭を純一は優しく撫でる。

 

「それを責める事は儂には…いや、儂等には出来ん。この50年、お前はどうあれ一人ぼっちだったのじゃからな。儂も出来る限りの協力はするつもりじゃ、だからあまり自分を責めるな」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん…」

 

二人がそんな会話をしていると、由夢と忠夫の自分達を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「お爺ちゃーん、早くー。おなか減ったーー!」

「さくらさんも早くーー!」

「さて、行くか」

「そうだね、ボクもお腹へっちゃったよ」

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

そうして忠夫が朝倉家で暮らすようになって数日が経ったが、未だ音姫は忠夫相手によそよそしいままだった。

そんなある日、忠夫と純一は芳乃家の縁側に座り二人で話をしていた。

 

「なあじいちゃん、音姫姉ちゃんは何でワイと仲良くしてくれんへんのかな?」

「音姫はね、病気で入院しているお母さんが心配なだけで別に忠夫君が嫌いな訳じゃないんだよ」

「そっかー。でも音姫姉ちゃんの笑った顔が見たいな」

 

落ち込んでいる忠夫を見て純一はかつての自分を…、さくらの祖母に『魔法』を教えてもらった時の自分を思い出していた。

そしてあの時の祖母の様に忠夫に微笑みながら話しかける。

 

「じゃあ、お爺ちゃんがいい事を教えてあげよう。笑えないでいる女の子を笑顔に出来る『魔法』をね」

「魔法?」

「見ててごらん」

 

純一は右手を握り少し力を込めて再び開く。

するとそこには一つの饅頭があった。

 

「凄いな、何か手品みたいや!」

「手品じゃなくて魔法だよ。お爺ちゃんもね、お爺ちゃんのお婆ちゃんにこの魔法を教わったんだよ。頑張ればきっと忠夫君にも出来る様になれるよ」

「そっかー、頑張ってみるわ。そして音姫姉ちゃんと仲良しになるんや!!」

 

忠夫はすぐに手を開いたり閉じたりと魔法の練習を始めた。

そんな忠夫を見ながら純一は確信する、この子なら音姫を必ず笑顔に出来ると。

 

 

 

―◇◆◇―

 

さらにその数日後、忠夫は音姫と由夢の母親、由姫が入院する病院にお見舞いに行く事になった。

 

「音姫姉ちゃんと由夢ちゃんの母ちゃんか。初めて会うからドキドキするな」

「お母さんは優しいからお兄ちゃんともすぐに仲良くなれるよ」

 

由夢は忠夫と手を繋ぎ、笑いながらそう言う。

音姫も今日ばかりは何時もより表情が明るい。

純一は先に病室に入り、何か由姫と話をしている様だ。

すると部屋の扉が開き純一が音姫達を呼び寄せる。

 

「さあみんな、部屋の中に入りなさい。騒いだりしちゃダメだぞ」

 

忠夫が部屋に入るとベッドの上で優しげな笑顔で微笑む一人の女性がいた。

 

「お母さーーん」

 

由夢は母親の元に駆け寄っていった。

 

「あらあら、由夢は相変わらず甘えん坊さんね」

「だって、お母さんに会えなくてさみしかったんだもん」

 

差し伸べて来た手にすがりつき由夢は拗ねた様にそう言う。

 

「音姫も元気そうね」

「うん、お母さん…会いたかった…」

 

音姫も由姫に近づき、頭を撫でられながらも少し照れた様子だった。

そして部屋の入口に立っている忠夫に気付くと手招きして呼び寄せる。

 

「あなたが忠夫君ね。初めまして、私が音姫と由夢の母親の朝倉由姫よ」

「…ワ、ワイは……いや、僕は桜内忠夫や…です…」

 

照れて、しどろもどろになりながらも忠夫は自己紹介をした。

 

「うふふ、そんなに硬くならないで。私の事はお母さんと思ってくれてもいいのよ、私も忠夫君の事は息子と思う事にするから」

「う、うん」

 

それから暫くは色々な話をした。音姫達がもっと小さかった時の話や父親の話、純一の妻である音夢の話などを。

 

「私ちょっと、おといれにいって来る」

 

由夢が部屋から出て行ってからも、いや、病院に来てからも音姫はかすかな笑顔を浮かべただけで笑ったりはしていなかった。

忠夫はそれが少し不満で何とか音姫に笑ってもらいたかった。

だから、未だに成功していなかったが魔法を使ってみようと思った。

音姫の笑顔が見たかったから。

 

「う~~ん」

 

忠夫は右手を握りしめると力を一杯に込めた。

 

「忠夫君……うん、やってみなさい」

 

純一は忠夫が何をしようとしているのかを悟ると黙って見守る事にした。

 

「え……これってまさか……魔法?」

 

音姫は忠夫が魔法を使おうとしているのを呆然として見ている。

由姫もまた笑顔でそれを見つめている。

 

「出ろ、出ろ、出ろ……出ろーー!!」

 

そう叫んで手を広げてみると其処には、

 

ほこほこほこ

 

一つのたこ焼きが湯気を立てていた。

 

「あちーーぃ!あち、あち、あち」

 

忠夫は手の中でほこほこと湯気を出すたこ焼きの熱さに驚くが、せっかく出て来たたこ焼きを放り投げる訳にも行かずお手玉をしながら右往左往していた。

 

「あらあら。ほら、このお皿に載せなさい」

 

由姫は部屋に備え付けてあった皿を取り出すと忠夫の前に差し出した。

 

「あ、あんがと。ふう、熱かった~~」

 

皿の上にたこ焼きを乗せると右手に息をふーふーと吹きかける。

 

「いい匂い。美味しそうなたこ焼きね」

 

由姫は笑みを浮かべながらはふはふとたこ焼きを食べる。

 

「うん、ありがとう忠夫君。とっても美味しいわ」

「そっか~、よかったな。でもおかしいな?ホントは饅頭が出てくる筈なんやけど。うぅ~~、まだあちぃ~~」

 

そう言っていると音姫が近付いてきて忠夫の手を取るとふーふーと息を吹きかける。

 

「大丈夫?もう熱くない、弟くん」

「ああ、もう平気や……弟くん?」

「うん、だって私の事はお姉ちゃんって呼ぶじゃない。だから私は弟くんって呼ぶの。…いや?」

「嫌な訳あるかい!むっちゃ嬉しいわ!」

「えへっ、よかった」

 

その時の音姫の表情は忠夫がずっと見たいと思っていた眩しい限りの笑顔だった。

そんな二人を純一と由姫も笑顔で見つめていた。

 

「ねえ、弟くん。私もたこ焼きが食べたいな」

「おう、任しとけ!!」

 

そう叫んで再び手を握りしめ魔法を使う。

 

「ちょっと、忠夫君。お皿を使わないと…」

 

ちょっと遅かった。手を開いたそこには……

 

ほこほこほこ

 

「あちーーーーいっ!!」

 

再びたこ焼きをお手玉しながら右往左往する忠夫だった。

 

「ぷっ、あははははははは♪」

 

音姫はそんな忠夫を見て声をあげて笑う。

 

「ただいま…あれ?お姉ちゃん何をわらってるの?」

「ふふふ、ひみつ」

「え~~、ずる~い。お兄ちゃん、教えて!」

 

忠夫は忠夫でこんな恥ずかしい事は喋れなかった。

 

「ひ、ひみつや…」

「何でよーー!仲間はずれなんてずるいーー!」

 

由姫は泣きそうになるのを必死で押さえてその光景を見ていた。

もう見れないと思っていた音姫の本当の笑顔を。

 

「忠夫君、こっちにおいで」

 

だからこそ、その笑顔を甦らせてくれた忠夫を優しく抱きしめて言葉を紡ぐ。

 

「ようこそ朝倉家へ。私の新しい家族、新しい息子」

 




(`・ω・)ルパンはとんでもない物を盗んで行きました、次回以降のネタです。おのれ、ルパンめ!
それはともかくとして、GS世界との因果を断絶した横島。
そして消えて行く意識を桜の木の力がD.C世界へと呼び寄せて「桜内忠夫」として転生した。
そう言う設定です。
意識がはっきりしない内は自分を僕と呼んでますが意識が覚醒すると共にワイと関西弁になりました。
やはり横島の子供時代は関西弁だろうという事でこうなりました。

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