「よう。待ってたゾ、ハチ公」
そんな言葉で出迎えてくれたアルゴの紹介で、俺たちはとあるプレイヤーと会うことになっていた。彼もまた、レア武器のアニールブレイドを狙っているという。
古ぼけたバーに案内された。そこの一番奥に、黒い皮装備を纏ったプレイヤーが座っている。
「待たせたナ、キー坊」
「……アルゴか」
「悪かったな、オレっちで」
「別に悪いなんて言ってないだろ。……そっちが昨日言っていたプレイヤーか?」
「ああ」
「俺はキリトだ。よろしく」
「ハチだ」
「マチです。よろしくお願いします!」
「ルルです」
「さて、自己紹介が終わったところで、早速始めようゼ」
アルゴが話をたったかたー、と進めていく。目まぐるしいが嫌いじゃない。変に馴れ合わなくて済むからだ。
「じゃ、さっさと終わらせますか」
「だな」
相手ーーキリトも同意した。……あいつからは同類の匂いがする。
「アルゴからはアニールブレイドを得るクエストの相互補助だと聞いたんだが、合ってるか?」
「ああ。一応レベリングはしてあるが、仲間が多いに越したことはないからな。正直なところ、死にたくない」
「効率を捨ててでも、安全マージンを取るのか……」
「嫌いか?」
「ソロの身としてはあんまり賛成できない。心情は理解できるけど」
歯に衣きせない物言いだ。けれど不快感はない。人間はひとりひとり違う。双子だって、親子だって、いくら血の繋がりが深くたって、人間は違う。これはいくら同調する努力をしたところで覆ることのない、絶対の真理だ。
だから俺は他人を信頼しない。いや、できない。信を置けるのは本音を吐露する人間だけ。小町がその唯一の人間なのだが、キリトもまたそこには入れそうだ。
ーー少なくとも彼が言った言葉は虚飾でも欺瞞でもないような気がするから。
早速だが、俺たち一行は狩りにきていた。村でクエストを受注して、植物型モンスターを駆逐する。
まずは互いの力量を確かめるということで、それぞれにモンスターを狩っていくことになっていた。
「すらっ!」シュパン
「はぁぁっ!」スパン
2匹出てきたモンスターを、俺とキリトが叩き斬る。
俺は単発のソードスキル《スラント》で、キリトは同じく単発の《ホリゾンタル》で敵を仕留めた。
「ハチ、やるじゃないか」
「いやいや。お前の方が凄いから、絶対」
「「そうですよ」」
「そ、そうか……?」
困惑した様子のキリト。だが、実際奴は凄い。俺たちが3人がかりで倒した敵を、キリトはひとりで同じタイミングで倒したのだ。数は多くないが、これまで何人かのプレイヤーの戦いを見てきた。その誰よりも熟達している。動きがキレキレ。妬ましいレベル。
「上手いな」
「そ、そんなことないぞ……」
なぜ詰まる? 歯に衣きせないくせに、意外と慎ましやかなのか。そんなわけないだろ。我ながらバカなことを考えたものだ。
「よし。じゃあ、次は連携の確認にしようか」
「「「おう(うん)」」」
と、次の敵を探して辺りを見る。
「お兄ちゃん。あそこにいるよ」
マチがモンスターを目ざとく見つけて駆けだす。だがーー
「待て。あれは『実つき』だ」
俺はマチを制止する。このクエストで最も気をつけなければならないのが『実つき』だ。あいつを攻撃して実が弾けると、次々と仲間を呼び寄せるらしい。数は20や30。そうなると単独では抗し得ず、複数名でも苦戦を強いられる。だから攻撃はしない。それが暗黙のルールだ。
ところが次の瞬間、その『実つき』にソードスキルのエフェクトが走る。剣線が見えない程の高速剣技だ。実は見事に爆散し、モンスターがバーゲンセールに集う主婦のごとく殺到する。
「ルル……」
「え? 私何もしてないよ」
「え?」
確かにルルは横にいた。だがさっきのは確かに細剣のソードスキル《リニアー》だ。加えて視認困難な速度での剣技は、敏捷をメインに高めたルル以外に考えられないのだが……。
「やぁぁぁッ!」
喚声とともにエフェクト光が閃く。その主は綺麗な栗色の髪を持つ少女。細剣を片手に、モンスターの集団に挑みかかる。
当初は善戦するが、やはり多勢に無勢。モンスターのムチに打たれ、嬲られる。あのモンスターどもが人なら、ただの集団レイプだ。あらやだ卑猥。
御託はとりあえず、あのままではいずれHPが尽きる。
「っ! ハチ、加勢するぞ」
「嫌だ」
「えっ!?」
「ダルいしんどい。さっさと帰るぞ」
「ハチ……」
キリトは明らさまに落胆したという表情になる。そんな顔するなよ。人間、楽したいだろ?
「大丈夫ですよ、キリトさん。お兄ちゃん、いつもああいうことを言いますけどーー」
「……?」
「おや、帰り道にモンスターの大群が。邪魔だなー。回り道もめんどいしぶっ倒すかー」
適当ぶっこきながら腰の片手剣を抜く。ちなみにマチの言葉は全部聞こえていた。解説せんでいいだろ。
「キリト。右から殲滅するぞ。ルルはあの子のところへ飛び込んで救出。マチはその援護だ」
「「「ああ(うん)!」」」
ガラにもなく指示を出すと、嬉しそうで力強い返事を返してきた。それぞれの得物を構える。
何が嬉しいのか分からんが、まあとにかく邪魔者を倒すか。
話はあくまで原作メインですが、私の気まぐれであっちへこっちへ脱線したり、キャラが出てきます。希望なども受け付けます(実現するかは別の話)ので、どうぞよろしくお願いします。