ではどうぞ。
俺たちは何もしゃべらず広場から移動し、とりあえず宿に入った。部屋は薄暗く、ただ泊まることが目的といった宿だ。
「さて、これからどうするかだが……」
「お兄ちゃん。あの茅場っていう人が言ってたことって本当かな?」
「嘘をついたところで意味がないだろ。それにログアウトボタンがない以上は確かめる術もない」
俺は湧き上がる恐怖心をねじ伏せて、あくまでも平静を装う。年長者が激しく動揺したのでは、小町や留美が余計に動揺する。
小町は看破してしまうかもしれないが、我が賢妹ならその辺は察してくれるはずだ。
「死ぬのかな、私たち?」
「分からん」
留美が不安そうな声音で問いかけてくるが、俺は明確な答えを返せなかった。ここで『君は死なないよ』とでも言うのが物語の主人公なのだろうが、俺は生憎とそんな気の利いた言葉は言えない。彼女の命に俺は責任を持てない上、それは俺の最も嫌う欺瞞にほかならないからだ。
「ただ、ひとつだけ言えることがある。このまま何もしなければ、待っているのはホームレス生活だということだ」
ゲーム内通貨(コル)は限られている。どれだけ節約しても何もしなければ減っていき、やがてゼロになる。それを防ぐには冒険して金を稼がなければならない。それがネトゲ。
冒険の問題点は死ぬ可能性があることだ。HP0=死というこの世界で、冒険はかなりリスキーといえる。
「とにかく、今は情報収集だな。手持ちの情報が少なすぎる」
「うん。そうだね。このまま何もしないでいるのはいけないよ」
「私も、このままはイヤ」
「……決まりだな」
当面の方針が決まり、宿を出る。
「情報収集だが、手当たり次第に訊きまくるぞ。小町、よろしく」
「そこで妹を頼るのは、小町的にポイント低いよ」
「オレっちを雇わないカ?」
「「「わっ!?」」」
背後から声をかけられ、3人揃って飛び退る。
「そこまで驚かなくてもいいじゃないカ。オレっちの名前はアルゴ。忠告しておくと、この世界でリアルネームを呼ぶのはよくないナ」
「そういえばゲームの中だったな……」
「オレっちへの自己紹介のついでにいえばいいんじゃないカ?」
「だな。俺はハチだ。よろしく」
「よし、ハチ公だナ」
「な……」
初対面の相手にあだ名つけるとか、こいつコミュ力高すぎだろ。
そんな俺の心の叫びを無視して、自己紹介は進む。
「マチだよ」
「マチ子だナ」
「ルルです」
「よろしくナ、ルル」
「「最後だけ普通だ!」」
「情報を開示する前に契約ダ。『以後はオレっち以外の情報屋を雇わない』それだけを守ってもらウ。もちろん金も出してもらうけどナ」
「分かった」
「なら契約成立ダ」
合意を確認したアルゴは右手を差し出してくる。
「は?」
「契約成立の握手サ」
「お、おう……」
俺は手をぎこちなく差し出して、握手を交わす。めでたく契約成立というわけだ。
「なら、早速レクチャーを始めようカ」
そして、アルゴによるレクチャーが始まった。
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