それではどうぞ。
「どうしてこうなった……」
俺ーー比企谷八幡は、再び自問自答を始める。
きっかけは1週間前のこと……
ーーー1週間前ーーー
「小町ー。買い忘れないよな?」
「うん。大丈夫」
「……なら帰るか」
「あ、待ってお兄ちゃん」
「何だよ」
「じゃじゃーん!」
と、平塚先生みたく効果音をつけて取り出しますは、青い福引券3枚。幸せは運ばない。
「2枚で1回です」
「って、1つ余るじゃねえか」
「そうなんだよお兄ちゃん。だ、か、ら……」
小町がお願いのポーズをとる。『福引き券がもらえる何かを、自腹を切って買ってこい』と、我が天使はおっしゃっている。
「まあ、欲しい本もあったしな……」
「お兄ちゃんありがとう!」
書店に足を向けた俺を、小町が満面の笑みで送り出してくれる。ついてきてはくれないんですね。
すごすごと書店へ向かう。べ、別に悲しくなんかないんだからな!
嘘です。めっちゃ悲しい。
「あれ、八幡」
「へっ? ……なんだ、ルミルミか」
いきなり話しかけられて、思わずキョドってしまう。
「ルミルミ言うな。キモい」
驚かされたバツだ。
前から歩いてきた雪ノ下を幼くしたような少女は鶴見留美。千葉村で出会ってから紆余曲折を経て海浜総合高校との合同クリスマスイベントで関係を結んだ。……いや、別にいかがわしい意味じゃないよ。知り合い以上、友達未満の関係になった、って意味だからね。
「あれ。留美ちゃんだ」
「小町さん。お久しぶりです」
そういえばこいつらも知り合いだったっけ。
しかし留美は完全に雪ノ下(ミニver)だな。このまま普通にまっとうに育って、雪ノ下みたいな万能毒舌女(体力ナシ)にはならないでほしい。
「そういえば留美ちゃんはどうしてここに?」
「お母さんにお遣いを頼まれて来たんです。『福引きをやっているから券を使ってやっておいで』って。……けど」
「どうしたの?」
「券が3枚しかないんです」
「それじゃあ1回しかできないね……」
「はい……」
残念そうな留美。小町もまた残念そうだ。
って、それなら……
「小町。俺たちも券が3枚あったよな」
「あ、そっか! 留美ちゃん、私たちも福引券3枚持ってるんだ。よかったら一緒にやらない?」
「いいんですか?」
「もちろん。だよね、お兄ちゃん」
「ああ」
小町が賛成する時点で俺に選択肢はない。
「八幡も、ありがと」
「気にするな。俺もできるからな。ギブアンドテイクってやつだ」
「それじゃあみんなで、レッツゴー!」
小町は元気に駆けだした。小学生以下の反応だな。そこが可愛いのだけど。
福引きをしているテントの前には長蛇の列ができていた。並んでいる人は男が多い。俺のような専業主夫希望者だろうか。うわーお仲間。
「人が多い鬱陶しい帰りたい」
「八幡なに言ってるの?」
「ぼっちの独り言だ」
「なにそれ。ばっかみたい」
「たぶんアレが目当てなんだよ」
「アレ?」
「ほら、特賞の」
小町に言われて見てみれば、そこには『ナーヴギアとSAOペアセット』と書かれていた。はーん。なるほどね。
「八幡。アレって何?」
「世界初のフルダイブ型VRMMORPGだ。ゲーマーにとって垂涎ものの逸品だな」
「へー。八幡も興味あるの?」
「俺は興味ない。そんなものいらないから、4等の図書券がほしい」
「あ、私も」
「小町は2等の型落ち高性能洗濯機で」
型落ちとか書く必要ないだろ……。主催者が正直すぎる。
「次の方ー」
「あっ、はーい!」
呼ばれて小町が腕をブンブン回してガラポンの前に立つ。ガラポンは3台あるから、小町と留美、俺が同時にできる。
「いっくよー」
小町のかけ声に合わせてガラポンを回す。
それを合図に俺たちもガラガラを回す。ガラガラポン、って具合に。
小町→白
「お嬢ちゃん残念。はい、参加賞のティッシュね」
「うわーん。小町の白物家電が〜」
欲を出すからだ。いわゆる物欲センサーというやつだな。
留美→青
「おめでとう、お嬢ちゃん。ほら、図書券3000円分だ」
「ありがとうございます」
留美は図書券ね。欲しかったみたいだしよかったな。
そして俺はーー
金
ご、ゴールデンボール、だと……?
「お、おめでとうございまーす! 特賞の『ナーヴギアとSAOのペアセット』、大当たりー!」
運営のおじさんがカラン、カランと鐘を高らかに鳴らす。周りにいる人たち(主に男)がどよめく。
「はいよ。ナーヴギアね」
「あ、ありがとうございます」
おばちゃんがナーヴギアの入った箱を2箱渡してくる。
「まじか……」
「「お兄ちゃん(八幡)すごい」」
「そ、そうか……?」
「うん。もう一生分の運を使い果たしたんじゃない?」
「車とか宇宙人とか隕石とかにはくれぐれも気をつけてね」
「隕石に当たるとか、どんだけ運がないんだよ……」
まさかとは思いつつ留美に片方の箱を差し出した。
「ほれ」
「え……?」
「福引きができたのは留美のおかげだ。だから半分やる」
「いいの?」
「もちろん。な、小町」
「うん!」
「……ありがと」
目を若干逸らして箱を受け取る留美。うん、可愛い。
「ゲームで会おうぜ」
「うん! 楽しみにしてる」
「おう。じゃあまたな」
「またね、留美ちゃん!」
「はい。さようなら」
こうして留美と俺たちは別れた。
家に帰ると小町が親父を召喚。俺が福引きでナーヴギアを当てたことを話し、『小町、お兄ちゃんと一緒にSAOがしたいの。だからお父さん、ナーヴギア買ってきて』とおねだり。親父はこれに屈してネットや千葉のゲーム屋を巡った結果、ようやく潰れたようにしか見えないボロいゲーム屋で購入した。
ーーー現在ーーー
そしてサービス開始直後にログインした俺たちは始まりの街で合流。近郊で適当に狩りをしていると、突如として街の広場に転移させられ、茅場から唐突にデスゲームの開始を告げれた、というわけだ。
「ほんと、どうしてこうなった……」
そう呟く以外、俺にできる行動はなかった。