邪眼の御子 ~光の御子の親友~   作:プロテインチーズ

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ルーとの決闘はこれで終わりです。
次回から牛捕り編ですね。

それにしてもUA数やお気に入り数が凄い増えていたのでびっくりしました。
これからもよろしくお願いします。


太陽墜とす呪いの邪剣

 クーフーリンは万全の態勢で挑むために己の息を整え、自身の身体の中央を意識する。ルーと一対一で戦うのだ。時間稼ぎとはいえ真正面から馬鹿正直に突っ込むのは無謀だ。ルーが振り回すブリューナクに耐えきれる身体と技量が必要だろう。そしてその為の策はある。背後の親友が全力の一撃を放つまでくらいは耐えてやる、と誓った。

 

――我が子よ。我に一人で挑むか。勇敢だが無謀である――

 

「うっせ。俺はまだまだ本気をアンタに見せてねぇよ。クニァスタ、さっきの発言は撤回だ。時間を稼ぐのは良いけどな――――別にアレを倒してしまっても構わねぇよな」

 

「セタンタ……あぁ、もちろんだ!」

 

 その瞬間、クーフーリンが持つ呪槍ゲイ・ボルクが黒く変色しそれがクーフーリンの身体を侵食していった。そしてそれはやがてクーフーリンの軽装な見た目を禍々しく毒気のある鎧へと姿を変えた。

 それはクニァスタも初めて見る親友の姿だった。その姿はゲイ・ボルクの素材の元となった紅の海獣クリードの姿である。

 

「この鎧を使うのは初めてだ。が、アンタが相手にはちょうど良いシロモンだぜ」

 

――なるほど。かの海獣の骨を使用した鎧か。それならば我と打ち合う事は出来よう。だが我が子よ。その苦痛に耐える事ができるか?――

 

 かつてアイルランドから遥か遠き中東の紅海で住んでいた二大海獣クリードとその宿敵のコインヘンの姿を模したその鎧は膨張してクーフーリンの身体を内部から骨という形で蝕む。身体の内側から狂いそうになるほどの激痛を受けながらルーン魔術で無理矢理身体を回復していくその姿は異様であり、『光の御子』の異名には程遠いものであったが親友の為ならば毛ほどの辛さもなかった。

 

「全種解放……加減はなしだ! 絶望に挑みやがれッ! ――噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘル)ッ!」

 

 その身体から無数の生えた棘、その一本一本がゲイ・ボルクといえる。その針が突き出た腕を振るいルーに迫る。かの太陽神といえど単純ながらその凶悪な攻撃を何度も受ければ致命傷なりうる。しかしルーもブリューナクでその全てを捌き切り、圧倒的技量で逆にクーフーリンを追い詰める。

 身体の性能を陵駕した運動に内部から崩壊が始まる。その度にルーン魔術で回復する。ここまでいって初めて太陽神と戦える土俵に立っていた。しかしここで追い込めなければ確実に負ける。クーフーリンはとどめと言わんばかりに短剣を取り出した。それは『堅き堅頭(クルージーン)』と言われるクーフーリンが戦場にてもっとも多く愛用した短剣。それを口に加えて、何と間合いの外で振り回したのだ。

 

「まだまだぁ! これならどうだ! 水を写すは堅き堅頭(クルージーン・カサド・ヒャン)ッ!」

 

 刀身から水が噴き出し刃が鞭のようにしなった。その短剣は所有者の意思に応じて刀身の長さを自由自在に変える魔剣である。氷のように透き通った刃はルーの首にあらゆる方向から襲い掛かる。

 

 全身のあらゆる部位を使ってルーを殺そうとしている。例え地べたを這いずり回っても全力で戦うその意思をルーは評価した。それでこそ我が息子だと。

 とはいえさしものクーフーリンもこのままではジリ貧だという事は分かっている。ルーがもう一度『天地焼却するは我が太陽(ブリューナク)』を使用すれば背後のクニァスタもろとも焼かれて敗北する。時間を稼ぎすぎて相手にブリューナクの魔力を貯める時間を与えてしまった挙句に真名解放されてしまう事こそが最悪の展開と言えた。

 つまりこの戦いは2人にとっては、クニァスタがどれだけ邪剣に魔力を貯める時間を短くして、敵より先に宝具を解放出来るかに掛かっているのだ。クーフーリンはその間の時間稼ぎと、ルーに真名解放の隙を与えないように攻撃をし続ける事こそが、今勝利に貢献出来る最大の役割だった。

 そして、ついにその時が来た。ルーは片手から光り輝く太陽のごとき球体を具現化させたのだ。そしてそれは短剣の形へと姿を変えた。

 

――そろそろ終わらせるとしよう、わが子よ。これは我が頼みにするもう一つの武具――

 

――――斬り放つ太陽の剣(フラガラッハ)――――

 

 その瞬間、クーフーリンの禍々しくもどんな剣でも破る事は出来ないはずであろう鎧に切れ目が入ったのだ。そして鮮血が付着したクルージンを口から落とした。すぐにルーン魔術で回復しようもそれを上回る呪いがクーフーリンの傷に付与されていたのだ。

 

 ルーが使用したのは後の時代にフラガラックとも呼ばれる魔剣。保有している能力は5つあるが、これはそのうちの1つで『因果抹消』の呪いである。その内容は「対象を斬る」という結果以外の未来を抹消し残った「斬る」という結果だけを残すという凶悪な呪いである。

 海神マナーン・マクリルより与えられた神造兵器であるこの魔剣はかのゲイ・ボルクの呪いよりも強力で、素材となった『噛み砕く死牙の獣の鎧(クリード・コインヘル)』をも突破したのだ。そしてその致命的な隙は既に魔力を貯め込んだルーにとって、もう一度全力のブリューナクを放つのには充分すぎた。

 

――最愛の親友とともに散れ。死んで生まれ変われば、我らダーナの民として迎え入れてやろう。安心するが良い、我が子よ――

 

「んなもん嬉しくもなんともねぇよ。生まれ変わったらもう一度クニァスタと会ってお前を殺すだけだァ!」

 

 気丈に振る舞う息子に微笑むルー。その生き様は讃えよう。自分は忘れはしない。神である自分に果敢に挑んだ2人の戦士を。そしてこの一撃は自分が放つ事の出来る正真正銘の最大威力である。

 

――降り注げ。天地焼却するは我が太陽(ブリューナク)――――

 

 再び大地が炎の地獄か、それ以上に破壊されるとクーフーリンは思った。そしてその直後だった。

 

「セタンタ! そこをどけ!」

 

 クーフーリンは親友のその叫びで全身を襲う呪いと傷を無視して全力でクニァスタの背後に回った。

 クニァスタは見た目だけは何の変哲もない黒い長剣を上空にかざしていた。まだ一度しか使用した事がない邪剣。それも半分程度の威力だ。これは正真正銘、全力の一撃である。

 

――――これこそは我が魔神なる父の憎悪の象徴! 太陽墜とす呪いの邪剣(フォモール・マラハック)!――――

 

 天より落ちる流星に向かうは、怨念ともいうべき黒く染まった魔力の斬撃。その全ては邪眼バロールが死ぬ間際に自身を殺したルーへの憎悪。奴を殺せと言われ祝福されて生まれたクニァスタが持つ最凶の邪剣。ブリューナクのような周囲を殲滅する圧倒的な破壊がある訳ではない。刀身より波動されるのはバロールが念じた死の呪いである。神であろうと人であろうと、獣や植物であろうと生きとし生ける者すべてに死の呪いを付与した膨大な魔力を広範囲に放出し、撒き散らすのだ。付与された生物は痛みもなくただ緩やかに死を迎えるまさしく最上位の呪いである。

 クーフーリンがかつて目にしたソレとは全く比べ物にならないその威力は神をも殺し得る。ましてや相手がバロールを殺し、その呪いの対象のルーならばその威力はもはや規格外ともいうべきものだ。5つの流星もろとも飲み干し、ルーに向かって押し寄せる魔力の波はルーの意識を一瞬で刈り取った。

 

――これは、バロールの……! まだ我は死ねん。こんなフォモールの生き残りに我は……!

 

 ルーは全身に死の呪いを与えられながらも踏みとどまり、まだ大地に立っていた。その呪いは神であろうと抗う事すら難しいというのに、だ。後、もう一撃何かいる。しかし、全ての魔力を使い果たしたクニァスタはもう限界だ。

 

「終わりだ! セタンタ、後は頼む!」

 

 親友のその言葉だけで意図を理解した。クーフーリンは『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘル)』を半ば強制的に解除した。そして取り出したのは自らの相棒というべき朱い長槍。

 

「やっぱお前は最高だぜ、クニァスタァ! ――穿て――『刺し穿つ死棘の槍』!」

 

 その槍先にルーの心臓が突き刺さった。一度、放てば敵の心臓に必中する『因果逆転』の呪いを持つ朱槍。これでケルト神話の最高神にして太陽神は倒れる事なく生命活動を止めた。それは2人の勝利を意味していた。

 

「あ~あ、まさかバロールの邪眼なしで俺達が勝ってしまうとはな」

 

「この眼は最終手段だった。一度、父を殺した奴はその弱点も知っているはずだからな」

 

「弱点のソレを見せるとルーの野郎間違いなくタスラムを撃ってきやがるからなぁ」

 

 クニァスタはこの眼を使わなかった安心していた。死を強制的に視認するこの魔眼はクニァスタにとって吐き気を催すものだからだ。もちろんいざとなれば使用を躊躇わないつもりで『太陽墜とす呪いの邪剣』が効かなかった場合は、解放するつもりだったのだ。しかし、バロールの身体とタスラムで作りだしたこの剣にルーへのあまりの怨念が強すぎる呪いとして纏わりついていた為に、結果として邪眼を使わずにすんだという訳だ。

 誓約を結んでまで使用を制限したというのに結局使わなかったという事実におかしくなかったが、勝利したのだから問題はない。

その事実に2人はしばらく焼け野原となったその場所でしばらく笑いあっていた。 

 こうしてアルスター伝説史上未来永劫語り継がれる事となる『神殺し』の偉業を2人の御子は成し遂げた。しかしこの話には続きがある。

 

 

 ルーとの決闘の後、クニァスタは邪剣を手放す事になる。それはケルト神話に登場する神々がクニァスタに対し危機感を募らせたからだ。ケルトの神々はそのほとんどがダーナ神族で、かつてその王であったルーが滅ぼしたフォモール族のクニァスタはいずれ自分達にもその剣先を向けるのではないかと考えたのだ。ルーを殺す事しか考えていなかったクニァスタは否定したが、神々は信じなかった。 何とかクニァスタの手から邪剣を奪えないかと考えた神々は、クニァスタがかつて影の国の女王をしていたスカサハをその運命から解き放った事を利用してその責任を取るように告げた。神々はクニァスタに生きている間は邪剣を神々に預けて、死後その魂を影の国に縛り付けて、邪剣を返し王として君臨するように告げた。

 クニァスタはその要求を呑んだ。スカサハの人生を変えた自分がその責任を取らねばならないと言って邪剣を神々に預けた。代わりにダーナ神族の母神であるダヌからルーが使用していたブリューナクを授かった。使い手がルーでないのでその威力は下がるが、クニァスタは喜んで受け取った。

 

 これがクニァスタにとって親友と過ごした輝かしい栄光の日々の終わりの始まりであり、これ以後2人の人生は暗い影が付きまとうようになる。




活動報告でアンケートやっているので良ければ覗いてやってください。

やはり今の所FGOが一番です。
ガウェインが強くて第6章詰んでいる作者ですが頑張ります。

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