邪眼の御子 ~光の御子の親友~   作:プロテインチーズ

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帰省しており遅れてしまいました。すいません!
反響が良かった?ので続き投稿します。

後書きにお知らせがあります。


2つの朱い呪槍

 死を予感させる光の爆風が敵味方関係なく襲った。その衝撃で力がない戦士は吹き飛び実力がある者も大地に立つのがやっとである。ただとある戦士達を除いては。

 

「おいおい。随分と気の利いたご挨拶じゃねぇか。でもよぉ。不意打ちとはどういう了見だ。しかも他所の戦いを邪魔するとは。アイフェん所の戦士はそんなみみっちい真似してやがんのか、おい?」

 

 そこには傷一つなく、自身が愉しんでいる決闘を邪魔されて激怒する猛犬がいた。大空のような蒼き髪に、太陽の如き燃えるような紅眼は番犬の名に相応しい爛々とした獰猛さがあった。青い薄着の服に身を包んだ猛犬は今、その怒りの矛先で歪み邪魔をした私に視線だけで殺さんと睨み付けている。

 

「落ち着け、馬鹿弟子が。こやつはアイフェの秘蔵っ子よ。その戦いの才は我らに匹敵すると聞いている」

 

 怒り狂った猛犬を宥めるのはスカサハだ。間近で見ればますます師匠と瓜二つである。口では冷静を装いながらも吹雪のように冷たい視線は確かに私に対して敵意を向けていた。

 

「この程度の攻撃で怒るのか、クランの番犬は。こんなものただの余興だろう。これで死んだとあれば所詮は噂だけが一人歩きした輩であったという事だ。太陽神の血を引きし戦士よ」

 

 見え見えの挑発だがそれでも勘に触るような言い方の私にますます青筋を立てるクランの番犬。まだ若いな。いずれは太陽神そのものを殺すのだから、ここでこの血を引くまだまだ若い半神風情に負けるなどあってはならない。

 

「ほう。言うじゃねぇか。ならその番犬の一撃受けてみるか?」

 

 手に持つ師匠と俺が持つ槍の原型であろう朱槍の矛先を私へと向ける。なるほど。その立ち振る舞いは他の戦士とは格の違いを感じさせた。これがクランの番犬。邪眼抜きにすると私に勝てるかは分からない。

 

「待て。クニァスタ。これは私の獲物だ。お前は周りの敵を蹴散らしていろ。今はお前の出る幕ではない」

 

「そうはいきたいが、あのままでは師匠の敗北が目に見えて分かった。別に師匠の一騎打ちを邪魔したかった訳ではないがな。師匠が負ける姿を弟子の私が黙って見ている訳にもいかない」

 

 弟子に助けられるなど師匠にとって屈辱かもしれないがここは耐えてもらう。一度戦士として戦場に立った以上女子供もない。このクランの番犬ならば敗北した師匠を殺すか、女の身ならば自分の物にするかもしれない。

 

「へぇ、見上げた忠義じゃねぇか。嫌いじゃないぜ。だが俺とそいつの一騎打ちを邪魔立ていた以上貴様は生きて帰さん。師匠もろともな……スカサハ、こいつは俺の獲物だ。手出すんじゃねぇぞ」

 

「はぁ、この馬鹿弟子が……ならば絶対に負けるな。ここで必勝を誓え」

 

「そんなのあったりめーだっつーの。俺を誰の弟子だと思ってやがる。負けしらずの影の国の女王の弟子だぜ」

 

「ふ、分かっているではないか。ならば――」

 

 そこで2人の会話は途切れた。私と師匠の会話に余計な言葉がないのと同じで彼らもまたそれ以上の言葉はいらないだろう。深い師弟関係だ。

 

「ここは私達にとって狭すぎる。場所を移すぞ」

 

「へ。分かってるじゃねぇか。そうこなっくちゃなぁ」

 

 場所は戦場から大分離れた荒地だ。ここに影の国といえど生きとし生ける者は何もいない。ただそうであるからこそ武器を振るうだけで大地が抉れる私達との一騎打ちでは重宝される。

 

「へえ、良い場所じゃねぇか。ここなら誰にも邪魔されねぇな」

 

「あぁ、元の場所で戦ってそれを負けの言い訳にされても困るからな」

 

 

「は、抜かせ。でもまぁ、これで思う存分やれる。だからよぉ。加減なしで――」

 

 言い終える前に猛犬が駆け抜けた。それは風よりも速く、音をも超えた神速。ただその行動だけで蒼き疾風が衝撃破となって周囲の大地を破壊した。

 

「――殺してやるよ」

 

 目前に迫ったのは朱き死突。しかしお前に相対するのは、かの邪眼の血を受け継ぐモノ。すぐに反応し上半身を捻り難なく躱した

 

「殺されるのはお前の方だ、太陽神の半神よ。ここで斃れろ」

 

 その態勢のまま形状こそ似た朱槍を横なぎに払った。神殺しの属性を持つこの呪いの朱槍は半神半人のクーフーリンにとって天敵である。その類まれなる戦士の慧眼でそれを悟ったのか後方へ飛び、手に持つ朱槍でその払いを受け止めた。

 力比べなら私の方が上。フォモール族の身体能力はこの猛犬より高い。ここで押し切る! 敵もそれをすぐに読んでか私の槍を蹴り上げ鋭い突きを連続で雨嵐のように要所要所に放ってくる。それを寸でのところで受け止め、躱していく。これがクランの番犬。

 認めよう。スカサハより直伝されたその武技、私より上だという事を。しかしそれは私の敗北を意味するものではない。

 両脚に力を込めて敵の間合いから一気に遠のく。私の槍も敵に届かなくなるが問題はない。

 

「墜ちろ――■■■■■■――」

 

 それは高速でありながら、無音の詠唱。人間では決して理解出来ない魔術詠唱。地下にひっそりと暮らす妖精やほんの僅かなフォモール族の生き残りにしか聞き取れない音だ。

 クーフーリンはそれの意味は理解出来ていないだろうが、魔術の発動だとは理解出来たらしく慌てて距離を取り身構えた。見るが良い。これが厄災を呼ばれた自然干渉を得意とするフォモール族の魔術だ。

 嵐が来たと錯覚せんばかりの暴風が荒地の中を走り回る。ここがもし木々が生い茂る森ならば一瞬にして刈り取られていただろう。晴れ渡っていた大空が灰色に染め上がりやがて雨を降らした。そしてその雲から一筋の光が大地に向かってほとばしった。天の怒りともいえる強大な雷がクーフリンに向かって落下した。視認するより遅れて耳を劈く。並みの戦士、いや一流の戦士でもこの一撃を受ければ肉は黒く炭になっているはずだが……相手はかのクランの番犬。この程度で死にはしない。とはいえ傷ぐらいは与えただろう。

 落雷の衝撃で黒く染まった大地に描かれた衝撃跡の中心から上がる煙に人影が写った。そして、

 

 煙からこれまでとは段違いの速度で私に迫る蒼い影。何とか躱すが、それを見越してか鋭い蹴りを上半身に放った。とっさの事で反応が出遅れ無理な態勢となってしまいその一撃を受けてしまった。

 身体に響く激痛と衝撃。それに浸る間もなく次なる攻撃に備えすぐに槍を構え直した。が敵は何故か反撃にこなかった。ただその軽薄な笑みをしながらもその目つきは真剣に私を捉えどこか試そうとするものに変わっていた。

 

「どうした。何故来ない。まさかこの程度の魔術で動けなくなった訳じゃないだろう」

 

「は、抜かせ。別に。まさかそこいらのドルイドを歯牙にもかけねぇ程の魔術師に出合って少しばかり面食らっちまったでだけさね。もっとも今の規模の魔術をあの速度で放つような真似を普通の人間が出来るとは思えねぇがな」

 

「……」

 

「だんまりか。別にてめぇが人間であろうがなかろうか、んなもん別にどうだって良い。だが一つだけ聞かせろ」

 

「私が話せる事だけならばな」

 

「単純な事よ。俺とした事がこんな大事な事をまだ聞いていなかったと思ってな……お前の名前はなんだ? お前ほどの使い手が無名のはずがあるまい。アイフェんとこで修行していたとしてもその前にどこかで力をつけていたはずだ」

 

「そういえばまだ名乗っていなかったか。少しばかり遅い気はするが」

 

「別に構わねぇだろ。もっとも今から自分を殺す相手に名乗る気はないって言うんなら話は別だがなぁ?」

 

「ふん。なら名乗ってやろう。クニァスタだ。かの邪眼の半身にして太陽神を墜とす者。お前のその身体に流れる太陽神の血、今ここで散らしてみせよう」

 

「邪眼だぁ? じゃあてめぇ、あれか。バロールの縁者か? ルーの野郎を殺して仇討ちを狙ってるのか。おもしれぇ。俺の名前は……言わずとも知っているな?」

 

 不敵に笑うクーフーリンだが、凄みが今までと変わった。こちらを食らおうとする気迫。ここからが本当の戦いと言う訳だ。

 

「クランの番犬、その槍を放て。私もこの槍を持ってしてお前を殺してみせよう」

 

「よくぞ言った。だがその紛い物の槍で本物に勝てるとでも?」

 

「フン。偽物が本物に勝てない道理はない……来い、クーフーリン!」

 

「よくぞ言った。ならばお前が先に逝け!」

 

 目の前に写るは必殺の構え。それは私も全く同じものである。ならば私も受けて立つ! ミチミチと全身の筋肉が力を入れるあまり張り裂けそうな程に音が鳴る。全力でこの槍を投げるのは初めてだ。これで死んでくれるなよ、クーフーリン!

 

「この一撃、手向けとして受け取るが良い――――突き穿つ死翔の槍ゥ(ゲイ・ボルク)!」

 

「迎え討て!――――劈き穿つ神殺の槍ッ(ゲイ・ボルク・タスラム)!」

 

 2つの朱い流星が激突し、太陽のような灼熱と閃光、そして爆発音が荒地を覆った。

 視界が戻った時、まだ目の前にはまだ人影がいた。傷をつけながらも、かのクランの番犬は私の攻撃を耐えたのだ。ふらつく視界には苦笑しながらもどこか楽しげな猛犬。

 

「へ、驚いたぜ。スカサハ直伝のコレで死なねぇ奴がいるとはな。誇って良いぜ。はぁ、帰ったらどやされちまう。あー、やだやだ」

「お前こそ師匠より譲り受けたこの槍の投擲で死ななかったのだ。それで帳消しだろう」

 

 互いに軽口を交わしながらも先程までの剣呑な雰囲気はどこかに消えていた。

 

「あのアイフェよりお前は強い。認めてやるよ。バロールの半身の名に相応しい大した玉だよ、てめぇは」

 

「かのクランの番犬にそう言ってもらえるのはありがたいがな。私はまだ師匠より強くはないつもりだが?」

 

「は、抜かせ。あーあ、お前がスカサハん所にいたらなぁ。毎日戦えるってのにつまんねぇもんだぜ。どうだ今からでも来ないか。てめぇ程の戦士ならスカサハも大歓迎だ」

 

「ふん。ルーの半神のお前と仲良しこよしで修行する気はない。」

 

「お堅いねぇ。気が変わったら言ってくれよ。ま、それはそれとして、だ」

 

 クーフーリンの軽口はそこまでだった。そこからすぐに敵として殺し合った時のすさまじい気迫が全身より放出されていた。これは怒気だ。ただの怒りではない。はらわたが煮え返ったような途轍もない憤怒の感情。激情に駆られたそれをただ私に対し、師匠との一騎打ちを邪魔された時よりも激しく向ける猛犬がいた。

 何を怒っている、クランの番犬。私はお前に対し何か侮辱するような言動をしたか? まさかこの期に及んで槍が通じなかった事に対する悔しさか? いやこの男はそんな小さな事で怒るなどしない筈だ。一体何故?

 その疑問は目の前のクーフーリンがまさしく猛犬の雄叫びと間違えるかのように声を震わせて答えた。

 

「てめぇ、何故本気を出さない――――ッ!」

 

 私が本気を出していない、だと? そんな筈はない。私はフォモール族の身体能力を全力で駆使し、母より教えられた魔術を放ち、師匠より伝授された武芸をこの与えられた朱槍で奴に披露した。奴を殺せるのは私以外ありえない。それら全てが全力ではない、だと? 

 

「俺を嘗めてやがるのか!? その剣と魔眼を放てば勝てただろうがッ!」

 

「……」

 

 

「笑わせんなよ。俺程度は本気を出さなくても勝てるとでもほざくのかッ!?」

 

「私は……」

 

「答えろよ! ルーの血を引く半神の俺を殺すんじゃなかったのかァ!?」

 

 そうだ。私は父の仇を取ろうとした。それは間違いない。私はお前を殺そうとしたのだ。では何故この邪剣と邪眼を使わなかったのか……

 

「あぁ!? ずっとだんまりか? いや、違うなァ。てめぇ自身も分かってねぇのか? ッチ、クソ。なんでこんな奴に俺が勝てないとはな!」

 

 そうだ。何故ここで奴を殺さないのか。このバイザーを外せば、光よりも速く殺せる。この猛犬を殺せるのは私だけだ。あぁ、なのに! 何故私は!

 

「ここでお前を殺す! あぁ、そうだ。それで良い!」

 

 右手でバイザーを取ろうとする。このバロールの邪眼を解き放つ。これで終わりだ。しかし、私はバイザーに手を掛けたまま動きを止めた。何故か力が入らない。私の中で無意識にこの力を使う事を拒否していた。ここで殺す事は私にとって容易くしなければならない事だというのに。自分で自分の行動が理解出来ない。

 

「てめぇ、この期に及んでまだ出し渋るか。いや、使いたくないって感じだな。てめぇがバロールの血を引くものだっていうんならその眼の能力は検討がつく。自分の力ではないその眼は使いたくないってか?」

 

「違う、私はッ!」

 

「いやそうだね。てめぇは自分では意識をしてないかもしれねぇが、間違いなくそうなんだよ。てめぇは俺との戦いにその力を使わなかった。てめぇ自身だけの力で俺に勝とうとした。手加減された事は気に食わねぇがその気概は買ってやるよ」

 

「何故私がそんな事をする必要がある! お前に私の事なんて分かってたまるかッ!」

 

「ハッ! そんな事、俺が知る訳ねぇだろうが。でもな。こうやって戦ってみて分かる事もあるもんだ。てめぇがただ親父のバロールの仇を討とうとしていた。しかしそれはお前の心の内から湧いたものではない。ただバロールに言われたから義務的に、その生き方しか生き方を知らなかっただけだ」

 

「……」

 

「そもそも俺を殺すのが手段ってならわざわざ一騎打ちに持ち込む必要もなかった。背後から不意打ちでもご自慢の魔術で後方から俺とスカサハを撃ち抜いてもよかった。そもそも最初のあの槍の一撃も手加減していたのが見え見えだ。てめぇの実力なら威力を損なわず、俺達だけを狙い撃ちに出来ただろう。誇りやら一騎打ちに拘る性質でもあるまい?」

 

 頭の中で反論が次々と思い浮かぶ。しかしそれを口にする気はなかった。私は奴の言葉を聞いてそれをあぁ、そうかと感情的な面で受け入れていたのだ。理解はしたくないが納得していたのだ。奴の言う通りなのだと。

 

「それなら私はお前を殺したくないとも取れる。しかしそれはない。今でも私はこの手でお前を殺す意思はある」

 

「だから言っただろうが。てめぇが自分の力で殺そうとしてるんだってな。俺からも一つ聞くぞ。お前は俺との戦いで何を思った? ただ義務感だけで俺を殺そうとしたか?」

 

 そんな事はない。私は奴との戦いのさなか間違いなく、その義務感は頭の中から消えていた。邪眼と邪剣があるという事を奴に指摘され初めて気づいたぐらいなのだから。

 ――――そうか。今ようやく気づいた。私は奴との戦いの中で、歓喜していたのだ。フォモール族の私の全力で戦える事の出来る戦士との戦いに。そして愉しんでいたのだ。

 

「はぁ、やれやれようやく気づいたようだな。見た目も中身も女々しい奴だ。実力だけが合ってねぇな、てめぇは」

 

「あぁそうだな。私は知らず知らずのうちに師匠や仲間達の影響を受けていたようだ。お前のお陰で私というあり方に気づけた。感謝する」

 

 頭をごしごしと掻きながら皮肉めいた奴の言葉にそう返す。本当に皮肉だ。敵で殺さなければならない奴に気づかされたとは。私は自分が思っていた以上にケルトの戦士だったという事か。

 

「あぁ、クソ。こんなの俺の柄じゃねぇつーの。こういうのはスカサハの役目だろうに、はぁ」

 

「感謝しているのは本当だ。そうは言ってもコレは別だかな」

 

 そう言って槍を再び構える。眼と剣はなしだ。そんなものなくても私は奴を殺す、この師匠から譲られた朱槍を持ってして!

 

「へ、よくぞ言った。まだその眼と剣は使うつもりはないみてぇだな。ならばそれを使わせざるを得ない状況持っていくだけだ」

 

 奴もそこで朱槍を構えた。気分が高揚しているのが分かる。早く奴と戦いたい。奴がいう状況になった時私は間違いなく勝利する。しかし、それは私にとって敗北同然の勝利に過ぎない。私はただ師匠の、アイフェの弟子としてここに立っている。ならば負けられない。負ける訳にはいかない。

 

「良いツラ構えだ。てめぇが女なら今のほうが好みだぜ。ま、見た目は女だがな」

 

「ふん。言ってろ……お喋りはここまでだ。そろそろ再開しよう。いい加減待ちくたびれた」

 

「そいつぁ悪かった。さっさと始めよう。なら、いざ尋常に――――」

 

「――――勝負!」

 

 そうして再び、朱い流星が激突した。

 

 




活動報告にてアンケートをします。

完結した後の展開についてです。話自体は既にそこまで出来ています。元々短い話なので。

具体的な内容は完結後この作品の主人公で聖杯戦争編をするかどうかです。締め切りはないのでお答えていただければ幸いです。

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