邪眼の御子 ~光の御子の親友~   作:プロテインチーズ

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 最近投稿頻度があがった理由の1つに、更新していない作品が、ふとした日に更新をしている時ほど、読者にとって嬉しいものはないと自分自身が感じたからです。
 読者の皆様のお陰で執筆のモチベが下がる事なく、投稿が続けられています。いつも、閲覧、感想、誤字報告など本当にありがとうございます。


開戦

 マスターの天敵と称される一応、アサシンのサーヴァントが脱落した事により、闇討ちを警戒していた陣営が、夜になって一斉に動き出した。セイバーは気配感知にスキルを持っている事からかなり遠方の範囲まで敵の居場所を把握できる。マスターならばともかく尋常ならぬ気配を醸し出すサーヴァントならばすぐに気づける。

 その為、切嗣は戦場を見渡せるポイントの一つに陣取っており、出方を伺っていた。

 

「マスター、どうやらアサシンが生きているようだ。しかも複数体、その気配が感じられる。幸い、アイリスフィールの居場所は補足されていないようだが、マスターの後ろに一体、付いているようだ」

 

「やはり昨日の戦いは八百長だったか。という事は監督役もグルか……」

 

 セイバーは、明らかに敵を誘っているサーヴァントの気配を霊体化状態で追っていると、他のサーヴァントより格が一段落ちた気配を複数感じて居ていた。挑発しているサーヴァントの気配に誘われて集まって来た他の陣営の後ろにもぴったりと張り付いている。

 

「私の他に五体のサーヴァントがこの場所に近付いてきている、マスターらしき気配は四人だな……こそこそと嗅ぎ回られるのは叶わん。マスターに付いているアサシンは排除した方が良い」

 

「良いだろう。もし、アサシンが本気でマスターを狙いにいっていたならこれほど恐ろしい事はなかったが……なるべく、素手で瞬殺してくれ。他のサーヴァントが近くにいる状況で余り手の内を晒したくないからね」

 

「了解した。隠れる事しか出来ないアサシンなど敵ではない」

 

 そういうや否や、霊体化を解いて、姿を現すと、ルーン文字を発動させた。身体強化の効果がある。

 そして切嗣の背後に潜んでいたアサシンに向って、弾丸の如き速度で突っ込んでいった。

 

「なっ!?」

 

アサシンは、既に死んだと思われている自らの気配が悟られていたとは思わず、セイバーの突進していく姿に驚愕する。しかしそれはサーヴァント相手には致命的すぎる隙であった。

セイバーはアサシンの頭部を鷲掴みにして、コンクリートの地面に全力で叩きつけたのだ。地面が陥没する程の衝撃でアサシンの姿が見るも無残な形となっていき、やがて魔力の粒子となって霧散していった。

 

「アサシンのマスターに言っておく。アサシンをまた我々に放っても無駄だ。我々にはそれが分かる。イタチごっこが続くだけで、そちらが消耗するだけで無意味なだけだ」

 

 セイバーは虚空に向かって、今もこの状況を監視しているアサシンとそのマスターに告げる。セイバーとしても何度もアサシンを倒すのは面倒だったが故の警告。こちらの感知能力は知られてしまうが、それがどのような手段なのかは悟られていない。セイバーの感知網で、切嗣からアサシンの気配が遠くなっているのが分かる。 

 すぐに霊体化状態に戻り、セイバーの人外の能力に今だ少し放心している切嗣の方へ戻っていた。

今回の件で他の陣営にもアサシンの生存が知られてしまうが、それならそれで、他陣営がアサシン陣営、ひいては、同盟相手のアーチャー陣営を一緒になって叩ける構図にも繋がる可能性がある。

 

「とりあえず厄介な追跡者は追い払えたな……戦局がまた硬直するかもしれないが、あの挑発しているサーヴァントはどうする、マスター?」

 

「あ、あぁ、そうだね。セイバーが戦っている間は、そっちに掛かりきりになる以上、アサシンの監視はつくだろうから、今は様子見に徹する。他のサーヴァントがあまりにも出て来なければ、こちらから仕掛けるぞ」

 

「了解した。む、どうやら先程の私のアレを見て触発されたのか、また別のサーヴァントの気配が近づいてくる。もしかしたら先程から気配を振りまいているアレとぶつかるかもしれん」

 

 聖杯戦争の初の本格的な戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた

 

 

 

 そのサーヴァントは魔術師のクラスで此度の聖杯戦争で限界した。元々、ルーン魔術に長けた魔女としても名を知られていた、その英霊はキャスターと呼ばれていた。

 赤枝の末裔でフラガ家の当主、アリイルは、かの「戦士王」の師でもあるキャスターにも多大な尊敬の念を抱いており、本来の実力に一番近いランサーのクラスではなくとも、魔術師として規格外の能力を持っている事に、何ら疑問を抱いていない。そもそも現代の魔術師であるアリイルは勿論の事、戦闘用の魔術に長けているバゼットですら、正面からの戦闘で、キャスターに全くかなわないのだから。

 バゼットは幼い事からの憧れであったケルトの英雄が目の前に存在している事に感無量であった。いつもキャスターの後ろをついており、魔術や戦闘の指南をせがんでいた。そして過去の英霊であるキャスターから見てもバゼットの、魔術と戦いの才は優れているらしく、付きっ切りで指導を受けていた。(もっともフラガ家の人間も当初は受けていたが余りの過酷さに脱落する者が続出し、今ではアリイルとバゼットしか受けておらず

アリイルすら本格的には教わっていない)

 

「うむ。やはり、バゼットは良い才を持っている。私や馬鹿弟子のような武具ではなく、素手が一番得手とするのは意外だったが、あの年齢ならば充分及第点だ。過去に戻って勇士として本格的に私の弟子にしたいくらいだ」

 

 バゼットとの指導を切り上げ、工房で聖杯戦争の準備をしていたアリイルの元へキャスターがやって来ていた。キャスターは霊体化でいる事を好まない。生身の身体で動いているのが性に合っているらしく必要のない時でも実体化していた。バセットとの指導でも汗一つかいていないその姿を見てアリイルは、やはり英霊とは自分達とは違う存在なのだなと改めて思い知らされていた。ちなみにバゼットはキャスターの鬼指導で疲れ果て倒れていた。

 

「神代に生きていた貴女がそういわれるとはバゼットもさぞかし鼻が高いだろうな。願わくば貴女にはこのままフラガ家にいてもらいたいものだ」

 

「それが出来れば良いだろうが、生憎私にも叶えたい願いがあって此度の聖杯戦争に参加している。この戦いに生き残れば、それも考えないではないが……」

 

「叶えたい願い……貴方ほどの英雄で、規格外の魔術師が叶えたい願いなど私には想像もできん。もっとも詮索するつもりはないがね」

 

「そう対したものではない。少し生前の心残りを果そうというだけだ。それにまだ聖杯戦争は始まってもいない。まだ勝者が決まった訳でもあるまいて」

 

 キャスターほどの英霊が生前に残した未練。それが全く気にならないと言えば嘘になるが、良くも悪くも魔術師らしいアリイルにとって、個人的な事情に踏み込んでまでは知りたいものではなかった。少し話題を変えた方がよさそうだとアリイルは感じた。

 

「それにしても惜しいものだ。原初のルーンを操る貴女が私のサーヴァントとなるのは心強いが、かの魔槍がお目にかかれないというのは少し残念だ」

 

キャスターは、もっとも全力を発揮できるクラスは、自らが作りあげたと言われる魔槍の宝具を持つランサーであるからだ。

 

「なんだ、私がキャスターとして召喚された事が不服か?」

 

「まさか、しかし私とてフラガ家の人間だ。アルスター伝説に伝わるかの魔槍について期待していなかったと言えば嘘になる。スカサハといえばかの『ゲイ・ボルク』を持っているのだとばかり思っていたからな」

 

「ふむ。私とてクラスのこだわりなど全くなかったが、確かにそこまで言われるとそなたに、槍兵としての私を見せたくなるもの。少し待っていろ」

 

 言われた意味が分からず、「は?」と呆けるアリイル。キャスターが意味深な微笑を向けると自らの身体にルーン魔術をかけ始めたのだ。すると輝かんばかりの光がキャスターに纏わりついたのだ。やがてアリイルが目を開けていられない程の輝きが工房の中に満ち始めた。

 

「改めて名乗ろう。サーヴァントキャスター改め、ランサー、我が真名はスカサハ。何、少しばかり身体が動きやすくなったのと、この槍があるかないかの違いだ」

 

 そうしてかつて影の国最強の戦士と呼ばれた美しき槍使いが、自らの魔槍を携えて再び、顕現した。

 

 

 

 冬木に降り立ったアリイルは、かつて第三次聖杯戦争の際にとある魔術師の一族が使用していた双子館と呼ばれる館を拠点としていた。そして昼間から実体化したキャスターとともに冬木の町を堂々と昼間から散策していた。アサシンが脱落する前から、アサシンの奇襲など全く怖くなかったキャスターは拠点に籠る事を嫌がったのだ。

 

「アリイルよ。闘志を剥き出しにしたあの英霊、なかなかの強者の気配がする。私好みだ」

 

現代の街並みを楽しむキャスターだったが、アーチャーによってアサシンが脱落した事により、敵の気配がムンムンと強くなっていた事には当然気づいている。それにアリイルの使い魔から、何と死んだ筈のアサシンが生きており、どこぞのサーヴァントが討ち倒したという情報を得ていた。このせいでアーチャー対アサシンの戦いは茶番である事が露呈していた。もっともアリイルとキャスターは奇襲を得手とするアサシンなど眼中にはなかったが。

 

「いいだろう。かの『戦士王』の師の実力を私に見せてくれ」

 

「フン。実力を見せるだけでいいのか? なんだったらここで勝ち星を上げていいのだぞ」

 

 不敵な笑みを浮かべると敵が待ち構えている海辺の広場へと向かっていった。

 

 

 

「よもや、ここまで練り歩いて、現れたのは一人だけとは……此度の戦い、俺の誘いに乗らぬ腰抜けばかりかと思っていたが、私の期待通り、勇敢な猛者もいたようだ」

 

「何、流石の私もここまで強く誘われては断るのは野暮というもの。戦士たるもの、戦場こそが己が居場所よ」

 

新都のとある海辺の公園。この場所は、普段は休日のデートスポットなどで人気があるが、深夜のましてやこれから戦場となる場所に人の気配など全くない。

この場所に現われたのは一組の男女。一人は右目の下に泣き黒子が特徴的な、清廉な気配を纏う軽装の美男子だ。もう一人は、美しい肢体がはっきりと分かるほど薄い布地を纏っただけの格好をしている美女、キャスターである。

 どちらとも並々ならぬ気配を宿して、闘志をぶつけ合っている。並の人間が向かえばそれだけ失心するほど、濃密な闘志が周囲に満ちていく。

 

「よくぞ言った。俺は此度の聖杯戦争でランサーのクラスで招かれた。名乗りは出来ない無礼は許されよ。そなたのその闘志並みのサーヴァントではないであろう。三騎士の……セイバーとお見受けするかいかに?」

 

「ふ、我が名はキャスターよ。見た目で判断するのはいいがな。曇り切ったその眼で私を殺せると思うてくれるな。でないと……」

 

 告げられたクラス名に驚きを隠せていないランサー。しかし次の言葉を告げる前に、キャスターは二本の朱槍を出現させた。そして、

 

「死ぬぞ、槍兵」

 

 目にもとまらぬ速さでランサーに向って朱の殺気が襲い掛かっていた。

 

 

 

 キャスターの神速の一撃を紙一重で躱すランサー。なるほど、先ほどの言葉通りキャスターというクラスで一瞬実力を見誤った事は自分の失敗だ。しかしそんな隙で首を取れると思ってくれるな、この身はランサー、こと速さに関しては分があるのだ。

 

「甘く見るな、キャスター!」

 

 すぐに体制を整え反撃に出る。奇しくも相手は自分と同じく双槍使い。まさか自分以外にも二本の槍をこれほどまでに、達者に扱える者が存在するとは思っていなかったのだ。技の切れとパワーならば自身よりも上か。しかし速さならば上回っている。手数の多さで、技術とパワーをフォローしてキャスターに決定的な一撃をも貰わないように立ちまわっている。

 

「ほう。中々どうして。どうやら目が曇っていたのは私の方らしい。まさかここまでやるとは。その堂々な気配からしてお主、ケルトの者だろう?

ここまで出来るのは、私の周りでもそうそうおらなんだ」

 

「お前ほどの実力者から賛辞、素直に受けとろう。どうやら、お前は同郷らしい。これほどの実力者と打ち合えるなど生前でもめったになかった」

 

「どうやら私が生きた時代の戦士ではないようだ。私が生きたケルトの戦士はお前ほど紳士的ではなかった。本質は変わってないようだが……馬鹿弟子にも見習わせたいものだ。おっと口が滑ったか」

 

 生前の情報を少しとはいえ口に出すキャスター。断片的な情報で本来なら大した情報でもないが……。

 

「馬鹿弟子、そして朱槍、何よりこれほどの使い手の女戦士。まさか御身の正体は……」

 

 少ない情報でキャスターの真名にたどり着いたランサー。どうやらかの影の国の女王の名は後のケルトの人々にも伝承されていたらしい。薄々勘付いて事がキャスターの漏らしに確信がいったという事だろう。

 

「私とした事が喋り過ぎたようだ。有名すぎるというのも考え物だ。馬鹿弟子、それと私の想い人しか知れ渡っていないものとばかり思っていた」

 

「貴女達の伝承は俺達戦士にとって憧れだった。まさか死後になってその憧れと対峙できるとは。これほどの喜びは他にない。手向けとして俺の全力を受け取って欲しい、影の国の女王よ」

 

「無論だ。お主の真名は知らぬが、お主ほどの実力者と巡り合うなどそうそうない。受けて立とうぞ」

 

 戦いはいよいよ佳境に入ろうとしていた。

 




 霊基変更は実際にFGOで、スカサハがランサーからアサシン(水着)になる時にやっていたので取り入れました。スカサハはやっぱりランサーだろうという事で。

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