邪眼の御子 ~光の御子の親友~   作:プロテインチーズ

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お久しぶりです。前の投稿から気づいたら数年……
元号も変わっているし、自分の今の現状も色々変わっています……


魔神の復活

 眼を閉じたまま横たわるアイフェの身体。それを眺めながらクーフーリンとスカサハは、その光景を見て一瞬呆然とする。

 

「感謝するぞ。忌々しい太陽神の息子。そして影の国の女戦士達よ。もっともそこに倒れている女戦士は、我が瞳、『死』に魅入られて死んだようだがな」

 

 青く輝く瞳を撫でながらクニァスタの美貌で、薄く笑う魔神。怪物でもなく、現象でもない魔神バロールの意思が時を超えて、今ここに蘇ったのだ。魔神の声にすぐにハッとする二人。油断すればアイフェの後を追う事になる。二人は魔神からすぐに距離を取り再び戦闘態勢に入った。

 

「おいおい。曾祖父殿は親父に殺されたんじゃなかったのかよ」

 

 ぼやきつつもクーフーリンは、己が持つ最大限の速力でバロールの背後へ回っていった。バロールの視界に入ればたった今、アイフェに向けられた死の邪眼の視線から逃れた。

 

「元々クニァスタの身体はこの我から創造されたのだ。大方、その時、妖精どもがクニァスタの身体に何かしらの細工をし、我の意識を封印していたのであろう」

 

 クーフーリンは己が相対している敵の姿を見る。見た目こそはクニァスタそのものだが、その本質は魔神バロールだ。元々、その身体はバロールの身体から生まれた人形であるのだ。もはやバロールそのものといっていいだろう。

 この自身を呑み込もうとする禍々しい神気。禍々しさはなくとも、それはかつて自らの父、ルーと殺しあった時と同質のものであった。しかもその時とは違い、今は肩を並べて闘った親友はいない。

 

「いかにも。本来ならばもっと早くに目覚めるつもりであった。アレはな。我によって創られた分際で、我が意思に抗い、刃向かったのだ。フォモール族ではなく人間としての自我が芽生えてしまったのだ。ただ忌々しいダーナの太陽神を殺した事だけは評価してやろう。我が残した遺言通りに従ったのだからな。それもその血を引く『光の御子』とともにというのは少々気に食わんが。まぁいい。

コノ―トの女王には感謝せねば。奴が《誓約》を無理矢理破らせたお陰で人としてのアレの意思が弱くなったのだからな。その後、まさかアレの怪物としての意思が目覚めるとは思わなんだが」

 

「敵を目の前にしてペラペラお喋りとは余裕じゃねぇか。俺の親父に殺された分際でよぉ」

 

「余裕? 当たり前であろう。貴様らが我に勝てるとでも? 貴様らは勘違いしている。あの太陽神めは、我がヌァダを殺している間、卑劣な不意打ちで偶然、死角から、我が瞳を打ち抜いて勝てただけに過ぎん。しかしそんな真似はもうさせんぞ。そして何より太陽神にも劣る貴様ら、有象無象の戦士の力量では我には勝てん」

 

「ほうよくぞ言ったな、魔神よ。神殺しなど私にとっては慣れたもの。貴様こそ縛りから解かれたとはいえ影の国を治める女王の実力を嘗めてもらっては困る」

 

 邪眼の視界に入らないギリギリの場所でスカサハは自分の周りに無数の槍群を召喚する。

 

「いや待て、師匠。ここは俺に任しちゃあくれねぇか?」

 

「……何を言い出すかと思えば馬鹿弟子め。いくらお前でもそれは無謀だ。アイフェの最期を見なかったのか? あの眼がいつでも構えているのだぞ。大人しく二人でアレを倒すぞ」

 

 スカサハはもう目をもう開ける事のないアイフェに目をやる。一応は血の繋がった姉妹として情はあったのだろう。やりきれない表情をしていた。

 

「そこの女戦士の言う通りよ。気でも違ったか、『光の御子』よ。それとも太陽神に一度殺された我など相手にもならんと申すか?」

 

「は、ちげぇよ。単にクニァスタの身体を勝手に弄ぶてめぇが気に食わねぇってだけだ。師匠にはアイフェをここから連れ出してやってほしい。こんな辛気臭い場所で放置されているのは嫌だろうからな。それにだ。早く誰かが戻らねぇとウアタハとコンラが待ちくたびれて先走ってしまうからな」

 

「あの馬鹿どもならならしかねんな」

 

 厄災と呼ばれた敵を相手にしてもクーフーリンは軽口を叩く。そんな弟子に触発されてかスカサハもフッと苦笑をもらした。

 

「あいつらも情が深いケルトの戦士だ。心配してもうこっちに向かってるかもしれねぇ。だからあいつらに言って欲しいんだ。お前達の愛する男と、師匠はすぐ戻るってな」

 

 クーフーリンは笑った。そこにはただ朋友が再び戻ってくる事への確信があった。スカサハも、自らの弟子がこうなったらもう止まらない事を知っている。溜め息をついて、説得は不可能だと悟った。

 

「馬鹿弟子が……一つ言っておく。絶対に生きて戻ってこい」

 

「ハン。んなの端っからそのつもりだよ」

 

 そう言い残し、影の国の女王は妹の亡骸を抱えて去っていった。残ったのは『光の御子』と『邪眼の御子』の姿をした魔神。

 

「おいおい。別に馬鹿正直に待たなくて良かったんだぜ。その眼でこっちを向けばそれで終わってたってのによぉ」

 

「ふん。邪眼を放てば貴様らのどちらかが槍を投げたであろう? へらず口を動かしながら全く隙がなかったぞ。貴様こそ本当に良かったのか? 二人ならばほんの僅かとはいえ我を殺せた可能性はあったというのに、自らその僅かな可能性を潰すとはな」

 

「どっちみち誰かが、この現状を城に伝える必要があるしな。残るなら、てめぇを一度ぶっ殺した親父、太陽神ルーの血が流れている俺だろうよ」

 

「無謀極まりない選択だな。ダーナの血を引く戦士は貴様のように蛮勇を勇気とはき違えて、我に戦いを挑んでは、倒れていったものだ……まぁ、いい。この邪眼の前には、あらゆる武具、万物に死をもたらす事を教えてやる」

 

 こうしてクーフーリンが成した偉業の中でも最大の『魔神殺し』の幕が開けた。

 

 

 

 

 クーフーリンと魔神は互いに朱槍を振り回して、魔術で牽制している。なるほど、確かにその技量はクニァスタに勝る。しかしクーフーリンは考えていたよりも状況は拮抗していたのだ。中身が魔神になったとはいえその身体能力はクニァスタと同じ性能だ。もしかしたら、いずれは魔神のものへ作り変えられるのかもしれない。しかし、少なくとも今はクニァスタとほぼ同じ性能である。そして一方の魔神は本来の自分より劣った身体に慣れず、苛立ちを感じていた。そしてクーフーリンは長年戦ってきた朋友の身体能力を完全に把握している。つまるところ彼にとって今の魔神は戦いやすい相手と言えたのだ。

 

「やるな。流石は『光の御子』。この我と互角に渡り合うとは。しかしこうチマチマと戦うのは我の性に合わぬな」

 

 すると、魔神は一旦距離を取るとクーフーリンの耳では全く聞き取れない高速詠唱を始めたのだ。元々『厄災』と呼ばれるほどの自然干渉の魔術を得意としているフォモール族である。魔術の腕ならばクニァスタとは比べ物にならないのだ。彼らは神代の奇跡さえ行使が出来る。

 天変地異でも起きたとかとクーフーリンは錯覚した。汚染された大地が震動し地割れを起こす。曇っていた空が夜かと思う程、暗くなて、やがて大雨を降らした。

 

「おいおい。これは洒落になんねぇぞ!」

 

 地割れを除けた先には、クーフーリンよりも速い稲妻が凄まじい音を立てて目の前に落ちるのだ。持ち前の人外離れした反射神経で避けるもののその先もまた稲妻が落ち、大地が割れていったのだ。

 

「これがフォモールの王の力よ! 息子のとは比べ物にならんぞ! 踊れ踊れ! 虫けらが!」

 

 逃げる先がフォモールの視界に入ってはならない。クーフーリンは走りながらもルーン魔術を放つが、魔神の魔術の前では塵屑当然であった。

 

「は。派手なこった。でもその強大な魔術がお前の命取りだ」

 

 クーフーリンは魔神の強大な魔術に絶望などしない。ただ頭にあるのはどうすればこの槍を魔神の眼に放てるかという事。そして、魔神の大魔術を紙一重で躱していると、ある物がクーフーリンの目に入った。

 

「……あいつがこれで、邪眼を使ってくれれば勝機はあるか……」

 


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