邪眼の御子 ~光の御子の親友~   作:プロテインチーズ

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今回は短いです。続きはすぐに投稿します。


『死』という現象

 『邪眼の御子』に人間らしい知性は残っていない。かつてクーフーリンと肩を並べ、女性と見間違えるかのような容貌の面影は全く残っていない。

しかし魔神である父より譲り受けたその身体は唯一、弱点といえるその邪眼を狙われる事は敗北を意味する。

もはや怪物といえど『邪眼の御子』に勝ち目はない。特にこの『光の御子』に為す術はない。太陽神に父バロールが破れ、子である自分が敗北する。その運命は受け入れよう。しかし太陽神の血族だけは殺す。それこそ我が父より生まれ出でた意味。

 『死』が瞳から広がり、巨大な身体が崩壊していく。

 

「いかん! 馬鹿弟子、下がれ!」

 

その『死』は巨大な渦となり徐々に身体から外側へと広がっていった。それは怪物ではなく、『死』という現象とかしたソレがクーフーリンの元へと迫っていったのだ。

 

「何だ!? 身体が壊れてんのか?」

 

「馬鹿者! これは『死』そのものとなったのだ。怪物という括りを超えた。アレに飲み込まれたら神だろうと宝具だろうとたちまち消えて行くぞ」

 

 その指示に慌ててクーフーリンは下がる。

 

「姉上、アレはなんなのだ?」

 

「もはや怪物、魔神という器すら収まらぬ。魂すら無へと帰す『死』よ」

 

 影の国の女王であったスカサハは他の二人よりも死に近かかった。それ故に理性ではなく本能が理解したのだ。

 

「生まれ変わりすら許さねぇ『死』か。ケルトの全ての戦士を敵に回しやがる」

 

 嫌悪感を露わにするクーフーリン。死後の生まれ変わりを強く信仰するケルトの死生観を否定する『死』。それはいずれ広がり世界すらも飲み込んでいくだろう。強力なルーン魔術で攻撃するも全て消滅していった。

 

「自然破壊の後は世界の『死』かよ。もう許さねぇぞ、クニァスタの奴、帰ってきたらどうしてやるかね」

 

 絶望的な状況の中、クーフーリンはそれでも諦めない。その原動力は、朋友を助け出す事。それだけである。

 

「しかしな。現象などどうしたら良い? 怪物や神は私も殺してきたが、流石の私も現象などは相手にした事がないぞ」

 

 アイフェが厳しい目でソレを見る。あらゆる魔獣や幻獣の枠外にあるソレは影の国を治めていた姉妹2人にとっても想像の埒外にあった。

 

「悲観するのは早いぞ、愚妹。アレを見よ」

 

スカサハが槍で示した先はまだ現象と化していない怪物の部分である。

 

「まだアレに怪物としての残滓が残っているならば時間はある。そしていくら現象となっていても弱点が変わった訳ではない」

 

「また瞳を狙うのか? 隙も何も、少しでも近づいたらあっという間に攻撃ごと飲み込まれてしまうぞ」

 

「それはアレの外側の渦の部分のみの話だ。それを除きさえすれば、残るは瞳と怪物だけになる。この方法はあまり使いたくはなかったが四の五の言ってられん。私が渦を消し飛ばしたらすぐに攻撃をしろ」

 

 スカサハは二人の返事を聞く前に既に行動を開始していた。莫大な魔力を消費するその魔術はもはや魔法の域にあった。

 

「影の国へ連れて行こう。死溢るる魔境への門!」

 

 巨大な魔法陣が展開され、そしてその上には「門」が召喚される。

 それは影の国の女王であったスカサハが使用出来る大魔術。世界から拒絶された影の国。そこはスカサハ認めた者しか入れない幽世。現象としての部分を『門』により強制的に引きずり込ませるという力技であった。もちろん、現象であるソレを送還する事は出来ない。その為にそこにあった地形ごと飛ばしたのだった。

 その渦を全て影の国へ飛ばした瞬間、クーフーリンとアイフェが動いた。渦が消えて、まだ怪物となっていた部分の中心。つまり瞳を槍で射抜いた。

 

「さっさとくたばれ!」

 

「これで終わりだ!」

 

2度も瞳を射抜かれて、唯一、残っていた怪物の部分が崩れていく。異形の身体から現れたのは人の形をした何か。

 

「クニァスタ……」

 

瞳は閉じられているが、バイザーが外れたその容姿はこの中の誰よりも勝る美貌。人外じみた作られた美しさを持つ青年であった。間違いなくそれはかつて人間であった頃の姿だった。

 

「……まだ息はある。ここで殺さねばならないのだ」

 

槍を手をかけるアイフェ。それをクーフーリンが必死に止めた。

 

「アイフェ! ここでクニァスタを殺すってのか!? これをやったのはメイヴの奴じゃねぇか!」

 

「たしかにな。しかしこいつがそれを望むか? 誓約を破り、同胞を手にかけケルトの地を荒らし怪物となった自分自身を」

 

アイフェの言葉にクーフーリンは黙る。理解はしている。フォモール族と同等の『厄災』となったクニァスタはここで殺さなければならないという事を。

スカサハもそれは分かっているのか、反論はなかった。クーフーリンを見て首を横に振って、クニァスタを見つめているだけだった。

 

「姉上とお前がやらないのならば私がやるのみだ。弟子の不始末は師の仕事よ」

 

クーフーリンもそれで覚悟を決めた。弟子を殺さなければならないアイフェの気持ちを汲み取ったのだ。

アイフェはその槍でクニァスタに近づいた。

そこで気づく。閉じられていた筈のクニァスタの瞳が開き、その口が邪悪に歪んでいたのだ。

 

「ようやく表に出る事が出来た。感謝するぞ。影の国の戦士達よ」

 

 その瞳は間違いなくアイフェの死を射抜いていた。身体が横に倒れる。自分に何が起きたのか分からないまま息を引き取った。

 

「我の名は魔神バロール。厄災を齎すモノ。貴様らに死を与えるもの。フォモール族の王なり」

 

 時を超えて再び厄災が顕現する。クニァスタという殻を被った真の『魔神』である。バロールはその美貌を醜悪なものへと変えていた。

 




 




 次々回で終わりです

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