やはり私が失声症なのは間違っている。   作:kaiza-

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告白という問題

先日までのじめじめとした梅雨をすぎ、夏本番の暑さがじわりじわりと迫っていた。

 

私はあの日以来、部活に足を運ぶ日が減っていた。

 

あの日、途中で帰ってしまったことからして、どんな顔をして会えばいいのか、どんな謝罪をすればいいのか。それがまだ見つからなかった。

 

部活に顔を出しては、何もせずただ本を読んでいる。それの繰り返しだった。

 

(今のままじゃだめだよね……)

 

自分の頭でも、今の状況は変えなければならない。そう理解している。

 

ただ、人間は時として理解できているとした状況でも、いろいろな理由を並べては中々行動に移せないという難しい生き物なんだ。

 

気持ちが前に向かないことには、どう行動してもだめな結果に終わることは今までの経験上で理解できていた。

 

それに今の私は別の問題を抱えていた。

 

 

そんなある日のこと、いつものように私は校舎裏に来ていた。

 

私の片手には手紙のような物が握られており、目の前には男子がいる。

 

「好きです!付き合ってください」

 

これはそう、告白というやつだ。相手は野球部に所属しているという先輩。一年の私とはあったこともなければ、話したこともない。

 

(ごめんなさい。今は誰とも付き合う気はないんです)

 

今月はこれで3件目。相手が全て上級生ということで断り方に気を使わなければならいので、すごく疲れるんだ。

 

私はしゃべることができない。それでも男子から見たらポイントは高いらしく、一部ではロスト・エンジェルと呼ばれているらしい。

 

意味は言葉を失ったかわいい天使らしい。そのネーミングつけた人を見つけ次第、張り倒してやりたいと私は思う。

 

「で、でも!君は話せないんだろ。俺みたいなやつがいるといろいろと助かるんじゃないか?」

 

(ごめんなさい。私は通訳者は求めてませんので…)

 

別に私は通訳者を求めてないし、求めるつもりもない。

 

「くっ……今はということは、後ならいいってことだよな?」

 

(それはわかりません)

 

気持ちの変化が見られたら即アタックするってことかよ……

 

日曜の夕方にやっている某国民的アニメのキートン●●さんのようにこの男性は相手の迷惑を考えないのだろうかというアナウンスをいれてほしい。

 

「今はあきらめる。ただ、君の変化が起こったときは必ず……」

 

先輩は去り際にアニメや漫画でよくある、開始十秒で倒される雑魚キャラのようなせりふを残していった。

 

(ふぅ…)

 

私は男性が去ってから、自販機でお茶を買い、それを飲みながら一息ついた。

 

(気持ちの変化って人間そう簡単に気持ちが変えられたら誰も苦労しないとおもうんだけどなぁ……)

 

ここはドラマやアニメの世界じゃないんだから、そう簡単に気持ちの変化なんて起こらない。

 

(今は奉仕部のほうをどうにかしないといけないのに)

 

告白されてるのに、何を言っているの?このリア充め!

 

友達に相談すると間違いなくこう帰ってくることが予想できるので、私はますます頭を悩ませていた。

 

***

 

二年の教室にて。

 

「ちくしょー!だめだった」

 

「あの一年生に告白してきたのか?大岡」

 

「ああ。結局は断られたけどな」

 

「あの子、まじぱないわー!噂では上級生からも告白されたみたいだわー」

 

「まじかよ……」

 

「誰とも付き合うつもりはありませんって断り続けてるみたいだけどな」

 

「だけど、あの様子だと本当に付き合うつもりはなさそうだな」

 

「隼人君もそうおもうん?」

 

「断り続けるということはそういうことなんだろうな」

 

彼女は奉仕部にいると聞く。いずれはあの3人との関わりを深くしていくことだろうな。

 


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