やはり私が失声症なのは間違っている。   作:kaiza-

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友の励まし

結局、その後、私は先輩たちに具合が悪くなったので先に帰りますというメールを送り、家に帰った。

 

(せっかくの休日が無駄になっちゃったな…)

 

何であそこで田上さんに会うかな……私。今日の占いの相性が最悪だったことと何か関係があるのかと……自分にとって都合のいい言い訳ばかりを並べる。

 

(はぁ……私って本当に何のためにここにいるんだろ)

 

何で私はこんな目にあっているのだろう。人生の中で悪いことをした記憶はないし、されたこともない。

 

なのに、どうしてこんなにも辛い気持ちになるのだろう。

 

(途中で帰っちゃったし……これで部活にも顔が出さないな)

 

田上さんの話が終わった後、すぐに先輩たちと合流するということもできた。

 

でも、私はそれをしなかった。あのことを聞いてからは、私の心は恐怖で支配され、先輩たちの輪に加わるのを避けてしまった。

 

(これからどんな顔をして会えばいいのだろうか…)

 

気持ちの伝え方も不器用であれば、考え方もうまくできない。ほんと、私って不器用すぎる。

 

そう思うと、誰もいない家の自室のベットにて、泣き始めた。

 

しばらく泣いた後、私は泣き疲れてしまったのか、そのまま布団の中で寝てしまっていた。

 

家に帰った来た時刻が午後の4時で起きた時間が夜6時なので、およそ2時間くらい寝ていたことになる。

 

(もう夜か……)

 

私は布団から起き上がると、あたりが暗く、部屋の電気をつけるのが面倒だったので、手元にあった携帯の光で普段からかけているメガネを探そうと思い、携帯を手に取ると。

 

(メールがきてる……)

 

携帯には1通のメールが受信されていた。発信者は中学校の時の友人からだった。

 

友人「今、時間ある?」

 

送られてきた時刻を確認すると、夕方の5時半ということは30分前にこのメールが送られてきたということになる。

 

(時間はあるけど…)

 

この後にやることといえば、晩御飯の支度と明日の用意だけだ。

 

その後はフリーとなっているため、特に時間の縛りなどもない。

 

私(あいてるよ)

 

そう短く打ってメールを返すと、すぐに返信が帰ってきた。

 

友人(今からいくから)

 

え!?今から来るの!ど、どうしよう……まだ何もしたくできてない。

 

まずは、お米を精米機に入れて、それからお風呂のスイッチを入れて、二十分くらいしたら、精米が終わるから、そのお米を今度を炊飯器にいれてって……これは普段やっていることじゃん!

 

寝起きで寝ぼけている私の頭は状況を整理することができず、普段やっている行動の支度のことを連想させていた。

 

そうこうしている間に家のチャイムがなった。

 

メールの返信からまだそれほど時間はたってない。別の人が来たのだろうと私はチャイムに出ると。

 

「私よ。いますぐあけなさい」

 

友人だったー!それにしても、来るのはやすぎませんかね!?

 

しかも相変わらずの上から目線の態度なので、私は若干いらっとしながらも、家のドアを空けた。

 

「遅いわよ。私があけろといったら、五分以内にあけなさい」

 

突然押しかけてきて、この偉そうな態度である。

 

(いや、来るならくるって早めにいってよ。ハル)

 

目の前の友人の名前は大城 ハル。私とは小、中と同じ学校で過ごし、中学校を卒業するまで同じクラスという関係だった。

 

「いいじゃない。どうせ暇だったんでしょ?」

 

(暇だったけどさ…来るなら、それなりの支度もしたのに)

 

「だから連絡したじゃない。30分前に」

 

その時間は寝てました。だから来るならもっと早くに連絡くださいとこの友人に言いたかったが、あんたが寝てるのが悪いのよと返されるのが落ちなので、心の隅にしまっておいた。

 

(それでどうしたの?)

 

「あんたが死んだ目でいるって聞いたから、様子を見に来たのよ」

 

私が死んだ目?そんな目をしていたという自覚はないのだが。

 

(誰から聞いたの?)

 

「咲からよ。あの子があんたを町で見かけた時、死んだような目で歩いていたから、何かあったんじゃないかって私に相談してきたのよ」

 

そうだったんだ。

 

「今でも泣いた跡あるじゃない」

 

(わかるの?)

 

「そりゃ、わかるわよ」

 

これも長年の付き合いの長さからわかるものなのだろう。

 

(今日、私って、ほんと何もできないんだなっていうのが改めてわかった)

 

さっきまで泣いてた理由をハルに向けていうと、私はまた涙があふれてきそうになった。

 

「なら、これからできることを見つけていけばいいじゃない」

 

(え?)

 

「確かにあんたは言葉はしゃべれないし、人の気持ちはうまく読み取れないかもしれないし、うまく伝えられないかもしれない。でも、何もできないわけじゃないでしょ」

 

(ハル……)

 

「全く、あんたは前から思ってたけど、何でも一人で抱えこみすぎ。もう少し周りを頼ってもいい立場なんだからね」

 

今の私にできることがあるのだろうか。

 

「ほら。また暗くなってる。いまから晩御飯を作るんでしょ?」

 

(うん。用意はしようと思ってるけど)

 

「なら、手伝うわよ。久しぶりに美波の作ったご飯を食べたいからね」

 

(もしかして、それが本当の目的かな?)

 

「ち、ちがうわよ!私はほんとにあんたのことを心配して!」

 

(その割にはおなかの虫は正直だね)

 

ハルのお腹は小さくなっていた。恐らくはお腹がすいたよーという合図なのだろう。

 

「ほら。早く支度するわよ!時間は限られているんだからね!」

 

(何で上から目線かのかなぁ…。それにここは私の家なんだけどね)

 

友人の家でもお構いなしに上から目線の友人に私は頬が緩む。

 

今の私は何もできない無力な人かもしれない。でも、そんな私を気にかけてくれる友達がいる。それだけで今の私にはとても幸せなことだった。


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