私たちは3人でいろんなお店を回っていた。
(それにしても、女性が多いですね)
「ああ。俺ってそんな不審者に見えるか?」
私たちがいるエリアには女性客が多く、男性客の割合は少ないため、比企谷先輩は周囲の人から不審者のような視線を向けられていた。
(女性客が多いから、そのせいじゃないですかね。あまり気にしないほうがいいと思いますよ)
「そうだと思いたいが、ところで雪ノ下は何をやっているんだ?」
私は雪ノ下先輩のほうを向くと、先輩はなぜか手に取った洋服を引っ張っていた。
(耐久性を調べるんですかね?)
「何で服に防御力を求めるのかねぇ……」
確かにそんなものもとめる必要はないと思うけど…。
(洋服より、あっちのお店にあるもののほうが喜びそうだと思いますけどね)
「あっちって?」
(あのお店です)
私が指差した方向にはかわいいエプロンが何着もおいてあるお店があった。
「何でエプロンなんだ?」
(ほら。由比ヶ浜先輩、料理を練習してるって言ってたじゃないですか。家で練習するにせよ、エプロンがあれば服が汚れずにすみますし)
前に由比ヶ浜先輩と話したとき、料理を練習していると話していたのを私は思い出した。
一度だけ作ってもらったのだが、見た目も味もすごかった。(悪い意味で)
「なるほどな。じゃあ、あそこで格闘してる雪ノ下を呼ぶか」
(そうですね)
雪ノ下先輩はいまだに服を引っ張っており、そろそろお店の人から注意されそうだったので、別のお店にいきますといって、服を元の場所に戻し、その場から強引に移動させた。
「どうかしら?」
エプロンの置いているお店に移動すると、雪ノ下先輩はその中の一つのエプロンを身に着けた。
「どうっていわれても、すげぇ似合ってるとしか」
(そうですね。違和感なしです)
エプロンの柄は黒い生地を基調とし、デザインは猫のようだ。
「そう。ありがとう。けれど、私のことではなく、由比ヶ浜さんにどうかしらという意味よ」
あれを由比ヶ浜先輩にだと……似合わないと思う。
「由比ヶ浜はなんかもっとふわふわポワポワした頭の悪そうな物のほうが喜ぶんじゃないの」
「ひどい言い草だけど、的確だから反応に困るわね…」
雪ノ下先輩はピンクをメインとした物を選んだ。
それと先ほど試着していたエプロンも買うことにしたらしく、一緒に会計まで持っていった。
私と比企谷先輩は雪ノ下先輩が会計が終わるまで待っていると。
「あれ?雪乃ちゃんだ」
お店の外から、雪ノ下先輩と少し似ている女性がこちらに話しかけてきた。
「姉さん…」
あ。お姉さんなんだ。どおりで似ているわけだ
「美波じゃん、こんなところで何してるの?」
雪ノ下さんのお姉さんの隣には知り合いの女性がいた。
(部活の先輩の誕生日プレゼントの買い物にきたんですよ。田上さん)
目の前の女性にこの場所にいる目的を伝えるとふーんとちいさくいい。
「誰だ?」
(知り合いです)
小声で比企谷先輩が聞いてきたので、私はそう返した。
「悪いんだけど、美波をかりてもいい?」
「別に俺はかまわないですけど…」
「ありがと」
「なるほどね、その子が山中ちゃん。いつも悠ちゃんが話してる子なんだね」
「うん。ごめんね、陽乃。休日に買い物に付き合ってもらったのに」
「別にかまわないよ。それに埋め合わせならいくらでもできそうだからね」
「ありがと。それじゃあ、いこうか。美波」
田上さんはそういうと、私の手を引っ張り、近くのハンバーガーショップへと連れて行った。
(急にどうしたんですか?)
「いやいや。久しぶりに会ったんだから、少し話がしたいなーって思って」
田上さんとは小さいころからの知り合いだった。昔から周りのことなんて、考えずに行動するものだから、付き合わされるほうとしてはすごく大変だった。
(そうですか…大学はどうですか?)
「うん。楽しいよ。いい友達もできたし、自分の好きなことをやれてるから、最高の気分」
さいですか…。こんなところにまで連れ出して自慢かよ…と私は憂鬱な気分になった。
「それにしても、驚いたな。美波が人にプレゼントをあげるなんて」
(部活の先輩の誕生日だからですよ)
「そうじゃなくて、美波はほら、人に気持ちを伝えられないじゃない」
そんなことは……といいかけたが、私はその言葉を伝えずに心の奥にしまった。
私は言葉が話せない。筆談で言葉を伝えても、意思は伝えられない。だから感情も理解されない。
そんなことはもちろんわかってる。それでも、私はこのやり方でしかない。
(私にはこの方法しかありませんから)
「そうだね。私の誕生日の時はカードを添えてくれただけだったもんね」
この時は感謝していたじゃないか。何で今になって、本当は感謝なんかしてないよといわんばかりのことをいうのだろうか。
(何がいいたいんですか?)
「美波は本当にこのままでいいと思ってる?」
(このままって……直るように精一杯やってるつもりですけど)
私が反感を持ちながら、そう返すと、田上さんは違う、違うと首をふった。
「美波はきっとこのままいくと孤独になる。小学校の時や中学校の時よりももっとひどい形になる。私にはそれがわかるんだ」
(何でですか?)
「長い付き合いからくる感ってやつかな。それにさ、最近私の夢によく美波が出てくるんだ」
何で私が、田上さんの夢の中に出てくるんだ。夢の中に他人が出てくるということはよく聞くが、その時の私は今よりもひどいんだろうか。
(その時の私は今よりひどいんですか?)
「うん。その時の美波はね、とても悲しそうな表情でいるんだ。誰かと話していても心はそこにない、ただいるだけっていう、そんな感じなんだよね」
それはまるで他人とのかかわりを遮断しているように感じた。
(昔から田上さんのいうことはよく外れるのであまり気にしないことにします)
「そうだね。今のことは、私の独り言だと思ってくれていいかな。ただ、少し不安だったから、直接美波に話したかっただけだしね」
夢の中の私はどんな思いをしていたのだろう。孤独に陥ったということは今よりももっとひどい状態になるのかとそう思うと、私は先の未来に不安を感じていた。