それからまずは(的場には会いたくないが)名取に会うため、夏目はにゃんこ先生の案内で走っていた。
「昔あの川の神として穏やかに水を治めていた水神が、時の流れと共に力を失い、妖となった。もともと神として存在していたそ奴は、妖に堕ちたことを認められず、しばらく川を荒らしたのだ」
そうしても信仰を、人々の祈りの力を取り戻せなかったその元神は空気に流されるような存在になってしまった。
存在が消えるのを待つだけとなってしまったのだという。
「ここから先は私の想像でしかないが、どのような存在も母となるものを求める。それは死が、消滅が近づくほど顕著になる。まして自然に発生するような神は自らの内に湧き出る漠然とした侘しさに焦りも覚えるだろう」
そこで偶然にも自分と力の波長の合う娘とあってしまった。抗いきれぬほど惹かれてしまい、存在ごと娘の胎に入った。
「あまり神や妖と人との間に子は生まれないものだ。生まれてもだいたいは生き物としての姿を、命を保っていられない。例外として、存在そのものが人の胎に宿り、“うまれなおす”のならば正常な姿を保ち生きていけるだろうがな」
息を切らしながらにゃんこ先生の話を聞く夏目の目に四方に飛んでいく黒いナニカ……的場の式が映った。
「的場さんの式……」
「私の想像があっているかはわからん。だが夏目、お前が空乃と名乗る狐の妖から聞いた話を考えるに、そういう事情で半妖の子は生まれたのではないかと私は思う」
(だが、不思議なのは一つ。普通生まれなおした神は以前の記憶、感情、力をすべて持ち直して出で来る。ならばやはりまた信仰心を集めようと川を、水を荒らすだろう。しかし実際この地で水害が起こったのはそれから10年も後のことだった。力を失うことの恐怖、焦りを覚えているはずの神にしては行動を起こすのが遅すぎるのだが……)
「そして的場が探しているであろうものはおそらく二つ。封印の要であったナニカ。そして今でもわずかながらに信仰を失っていない狐殿の主」
それはまさしく、空乃のことだった。
走る二人の前に、人影が二つ。
土砂降りの雨の中傘もささずにいる名取と、普段浮かべている不敵な笑みを消し去り、真顔で呪符を付けた弓を構えている的場。
「名取さん! ……と的場さんも!」
夏目の声に振り返る二人。彼らの前にいたのは、薄汚れた襤褸切れをまとった濃い青緑の髪をした小さな子どもだった。
「夏目……!? なんでここに!?」
「……にゃんこ先生から話は聞きました。的場一門の人が何かして、この大雨になってるって……」
『……ナツメ……?』
ふ、と耳元で響くようなくぐもった含み声が聞こえた。
見れば子どもがジッと夏目を見ている。
「……君は……?」
視線が合う、のを阻むように名取が夏目の前に出た。
「名取さん?」
「下がりなさい、夏目。この妖は大雨の原因。川の社に封じられていた悪い妖だ」
―――川の社
空乃が向かったはずの、そこにいた妖。半妖。
夏目の視界の隅で的場が再び弓に矢をつがえるのが見える。
キリキリと引き絞られる音と、雨音だけが響く。
的場が、半妖を、射ようとしている。
「的場さん、待っ!」
シュッ
夏目が声を上げた瞬間、矢が放たれる音がした。
ドシュッと鈍い音を立てて半妖に突き刺さった矢から仄明るい緑色の炎が湧き、その体を嘗める。
『アツイ……アツイ……』
身体を抱えて苦しむ彼へそそぐように雨が激しく降った。
その時だった。
「何をしているっ!?」
大きな声に三人が振り返ればそこにいたのは、髪から水を滴らせ、7本の白い尾をぐっしょりと濡らした狐の妖……空乃だった。
だーいぶ終わりへ向かって頭の中で形にはなってきたと思いつつ後半書いている間にだんだん文章が浮かばなくなっていく(´・ω・`)
ある日見た夢を書き起こすのはだいぶ辛いときがありますね。もうほとんど覚えてないや