基本的にはオリキャラは少なくしておきたいのですが、情報量が少ないので登場人物が少なく、友人Aと友人Bで済ましておく訳にもいかないので……。
オリキャラでは基本はこの3人が関わって来ますので、後々にもっと踏み込んだ話も出したいです!
レイブンクローの談話室は物が少ない。決して殺風景という訳ではないのだが、暖かみのある部屋の中には寮の人数には絶対足りないであろうソファが散らばり、幾つかの本棚があるだけである。大きな窓が陽の光を存分に取り入れているせいか、部屋の雰囲気は明るく、月が綺麗な夜なんかはライトを付ける必要もないだろう。この、物の少ない談話室は利便性と機能性を追求したレイブンクロー生らしさと言えるのかもしれない。
授業が全て終わって放課後、私は図書館で借りた本をゆっくり読もうとレイブンクロー寮の自室へと向かう。何せ、本の内容はギリギリ禁書の類いではないとはいえ、あまり人に見せたくはないものだからだ。
寮の入口に立つと鷲のノッカーがお決まりの謎解きを出して来た。
「この世でただ1つ、絶対と言って良いものは何だ?」
絶対と言って良いもの……そんなものは存在しないのでは?? …………あぁ、そういう事か。
「絶対というものは、絶対存在しない。」
すると、正解を褒め称える声と共に扉が寮の入口が開いた。私はするりと中へ入り、部屋の明るさに目を細める。
寮の談話室は放課後に今日の授業の復習を友達としているであろレイブンクロー生で溢れていたが、私の事を知覚すると先程まで喋っていた生徒の中からちらほらと挨拶され、その中の少年2人と少女1人が駆け寄って来た。
「マートル、おかえりなさい。 体調は大丈夫ですか?」
「マートル、遅かったね。部屋に戻る前に良かったら紅茶でも飲んでく? 暖かいものは体に良いんだよ。」
「おかえりマートル、本の後で良いから今日の古代ルーン語の授業教えてくれない? あの先生が何言ってるのかさっぱりなの!」
「ふふっ、そんなに一遍に話さないで。ルイス、体調はもうすっかり良くなったから平気よ、ありがとう。コナーはその変な匂いの紅茶じゃなくて普通のものなら頂くわね。エイミーは分かったわ、後でね。」
「ちぇっ、ほんの少し魔法薬を足しただけなのに……。」
コナーが緩く波打った自分の黒髪を弄って拗ねた声を出すが、自分でも断られる事が分かっていたのか、それ以上は言及しなかった。
「コナー! さっきの紅茶に何を入れたんですか?! 気付かないで飲んでしまったじゃないですか!!」
紅茶を1人飲んでしまったらしいルイスは抗議の声をあげるも、割とこのやり取りはいつもの事なので他のメンバーは落ち着き払っている。
「えっ、ルイス気付いて飲んでたんじゃないの? どう見てもヤバイ色してるのに……それ。」
紅茶は毒々しい紫色をしていた。
「てっきりフルーツティーか何かかと……ちなみに何を入れたんです?」
ルイスが恐る恐るといった感じで聞くと、コナーは少しだけ視線を泳がせながら呟いた。
「……試作脱狼薬。」
「はぁ……それ毒薬じゃない。」
思わず溜息と共に言葉を吐き出すと、毒薬という言葉に反応したルイスが狼狽え始めた。ルイスは普段は紳士らしく振舞っているくせに、こういう所が弱く、よく弄られている。
「ええっ?! どっ、どうしましょう?!」
見てて面白くはあるが、いい加減可哀想になってきたので助け舟を出す。
「大丈夫よ、脱狼薬は狼には毒だけど人間には害はないわ。」
まぁ、ある程度成功していればの話だけど、それは言わない方が良いだろう。
「はぁ……なら良かったです。」
心底安堵した表情のルイスだが、本当にそれで良いのか? 君に毒を盛ったやつが目の前にいるぞ。……まぁ、そういう所がルイスの良い所なのかもしれないが。
「じゃあ私は部屋に戻るわ。また後でね。」
「勉強宜しくねー!!」
手を振りながら談話室を後にすると、後ろからエイミーの声が聞こえてきたので了解の意で手を掲げておいた。
彼等は私と同学年のレイブンクロー生で、先日から私とつるむようになった。それまで私は苛められていた訳だが、何も全員が全員苛めに加担していた訳ではない。まぁ、見て見ぬフリも苛めだというならそうかもしれないが。彼等3人は、その大多数の内の1部である。あ、いやエイミーは苛めていたかもしれない……どうだったかな。
まぁとにかく、私は成り代わった後も嘆きのマートルを模倣するつもりはないので、自分の環境をお話とちょっとした魔法で改善させたのである。私への苛めは、苛めを行っていた者達が自分の矮小さに気付いて謝り、円満に解決したという事になった。(その日、局地的な記憶改変が起きた)
ここで解決方法として、私に色々と世話を焼いてくれた奴らにもっと物理的にお話をする手もあったのだが、ダンブルドア先生に目を付けられるのも嫌だし、私は殆ど体験していないので気にしない事にした。そもそも私はあまり、怒りが持続するタイプではないみたいだし。
そして、レイブンクローの同学年の中でも一緒にいて苦ではない人物が先程の3人であった。
ルイス・アーチャー、常に敬語で紳士的な好青年。よく友人に弄られているが、懐が広いのか怒った所を見たことが無い。イギリスではよく見る金髪碧眼でそこそこ肉付きの良い体は異性にさぞ人気のある事だろう。
コリー・クロス、実験好きの変人。魔法薬学から動物の解体、マグル製品の解析等など、取り敢えず気になった事には手を出してみる姿は勤勉なレイブンクローの中でも浮いている。たまに仕掛けてくる毒や罠さえ避けられれば、何て事ない黒髪黒目の口と性格の悪いチビだ。
エイミー・ブルーム、空気を彼女程読む人を私は知らない。多少の記憶改変しかしていないのにも関わらず、180℃変化した彼女の性格は間違いなく猫を被っているのだろう。多少思う所がない訳でもないが、彼女のその潔さは見習うべき所があるのかもしれない。くすんだ茶髪に深緑色の目は大勢の人が見て可愛いと思う容姿をしている。
「はぁ……エイミーとは後で話さないといけないわね。」
エイミーは恐らくだが、私に何かを感じ取って利益があると考え近付いて来たのだろう。ならこちらとしても願ったり叶ったりなので、これからは更に良い関係を築いて行けるかもしれない。トム・リドルの下僕なんて言う死亡フラグ満載な状態の私には丁度良い女友達?と言えるだろう。
図書館の本を捲りながら取り留めもない事を考えると、ふと1つ気付いた。エイミーはレイブンクロー生の中では普通より少し上の成績だが、それは意図してだろうし頭は良い筈だ。という事は先程の勉強を教えて欲しいというのは演技の一貫か、はたまた別の意図があるのか……。私が彼女の事に気付いていると彼女自身が気付いているのなら後者なのかもしれない。どちらにせよ気が重く、我が君のせいで起きた魔力の使い過ぎによる体調不良のために、今でも付けているマグル製のマスクに重い息を吐いてしまうのは仕方ないだろう。
そうしてうだうだ考えながらも本を読むペースが変わらない私のスペックの高さは良いのか悪いのか……あぁ、どうせならもっと借りてくるんだった。最後の溜息を吐いて、何とか奮い立たせた覚悟と共に読み終わってしまった本と勉強道具を持って部屋の扉を開ける。ちなみに、苛められていた頃の名残で私の部屋だけは1人部屋である。1人部屋は大変都合が良かったので、それがおかしく無いように記憶をまさぐっておいたのだ。
談話室への廊下を歩いていると、何人かのレイブンクロー生から声を掛けられたので愛想よく返しておく。最近の私の立ち位置はレイブンクローの優等生である。
談話室への入口を潜り中を見ると、未だちらほら残っている生徒もいた。エイミーは先程と同じ場所にいて、一緒にルイスもいた。コナーはどうやら自室に帰った様だ。まぁ、どうせ実験でもしているのだろう。
「エイミーお待たせ。」
「全然いいよー! お願いしたのは私だし。」
「マートルが来たのなら僕はもう行きますね。2人だけの方が勉強も捗るでしょうし。」
そう言ってソファから立つルイスはどうやら、私が来るまでの時間エイミーが1人になるのを一緒に待っていてあげたらしい。そこまでさせると、待たせた私が何だか少しだけ申し訳なくなってくる。好きでやっている事なのだろうから、あくまで少しだけだが。
「じゃあ、図書館に行こっか! 談話室よりもそっちの方が集中出来るし。」
「了解。ルイスはまた夕食でね。」
ルイスと挨拶を交わしてエイミーと談話室を出て行く。その間も、やれあの先生がどうの、誰々の秘密はどうのエイミーが話していたが、彼女の情報網は中々広い。たまに私も知らない情報が出て来るので、こちらとしては嬉しいのだが、これは自身を売り込んでいるという事なのだろうか。
図書館に着いてからは今までと打って変わって静かになった私達は奥のテーブルに付いて勉強道具を広げて、インクの蓋を空けた。原作でもそうだったが、図書館は静かにしないとすぐに注意を受けるのだ。
「それで、どこが分からないの?」
「うーんと、ここ……なんだけど。正直先生が何を言ってるのかがさっぱりで……何が分からないのかが分からないって感じ?」
そうして指さされたのは古代ルーン語の教科書の挿絵。鳥の足の様なマークはエオローという古代ルーン語の1つである。……やはり後者だったかと心中でひっそり溜息を1つ。
「うん、それで? 貴方は何が言いたいの?」
するとエイミーの雰囲気がハッキリと変わった。可愛い顔が幾らか怪しく見える表情である。
「少し位、ノってくれても良いのに……。」
さも残念そうに言うが、口の端を上げている状態では説得力がない。
「はいはい、面倒だから話を進めてね。」
私が適当に流すとエイミーは溜息と共に淡々と話し始める。いや、溜息を吐きたいのは私の方だよ。
「2週間前……私達はマートルに苛めの事で謝ったよね。」
「そうね。」
「おかしいんだよね。あの時は何も変に思わなかったけど、前後の記憶にモヤがかかってて分からないの。」
「へぇ、そうなの。怖いわね。」
「私にはマートルを苛めていて申し訳なかったっていう気持ちがある。……でもこの気持ちは何処から来たの? 自分が自分じゃないみたいじゃない。そして、皆は疑問にも思ってないけどあの日から明らかに変わった娘が1人だけいるよね……マートル、貴方だよ。」
「私?」
取り敢えず知らばっくれてみるが、この話し方だとほぼ断定していると見て間違いないだろう。
「私達に何をしたのかは知らないけど、こんな事が公になれば貴方もただじゃ済まないよね。ダンブルドア先生に相談すれば1発でアズカバンだよ。」
ダンブルドア先生は未だ校長職には就いていないものの、華々しい功績と経歴から生徒には校長よりも信頼されている偉大な魔法使いである。だからエイミーもその名前を出したのだろうが、甘い。
「ふふっ、それで?」
「取り敢えず私の魔法を解いて。話はそれからだよ。」
「うーん、それをしちゃったらこっちの手札が減るから無理ね。それにエイミーは1つ勘違いをしてるわよ。」
「……っ、勘違い?」
「そう、ダンブルドア先生に言いつければってさっき言ったけど、そんな証拠残してると思う? この会話だって防音呪文を掛けているし、貴方の記憶だって弄ればバレないわ。それに、面倒だけど今すぐ貴方の記憶をまさぐって、全く違う人格にする事も出来るのよ。」
まぁ、流石にそれは嘘だけど。今の私にはとても無理な話である。
「そ、それは……。」
真っ青になってしまったエイミーは肩を震わせて逃げようと席を立とうとしたが、体が動かない事に気付く。
「なっ、これは……?!」
コツンッ
私はインク瓶を指で弾いて示した。
「狭範囲の飛沫感染型の麻痺毒よ。私にはこれがあるから効かないしね。」
これ位の魔法薬なら禁書でなくとも図書館にいくらでもあったので、以前必要の部屋にて作っておいたのだ。
そして装着しているマスクを指さすと、エイミーの顔が歪んだのが分かった。多少奇異の目で見られもしたが、我慢してマスクを付けたかいがあったものだ。まぁ、体調不良は実際にあって喉のためにもありがたくはあったのだが。
「さて、これでどちらが上の立場かは分かったわよね?」
「くっ……。」
うわぁ、悔しそう、悔しそう。自分にSっ気は無いと思ってたけど、ここまで上手く相手を落とせると何だか良い気分になるのは仕方ない。だが、私はそんな事がしたくてエイミーと話し合いをした訳ではないのだ。ここで彼女を味方に付けておかないと、今は良くても後々厄介になる。
「ならよしっ! じゃあ、これからも宜しくね!」
「……は?」
今まで見た事がないポカン顔のエイミーは、先程までの空気を霧散させ固まってしまった。
「これからも、今まで通り宜しくって事。そしたら貴方に掛けた魔法も元に戻してあげるわよ。勿論、その代わりに私を裏切らない様に約束してもらうけど。」
ちょっと破ると怖い、魔法の約束だけど。
「……はぁーーー…………」
エイミーは大袈裟な溜息を吐くとブツブツと1人で呟き始めた。聞こえてくるのでも「どうしてこんな事に」やら「でもリターンも中々……」、「いや、私しっかり!」、「そもそも断れるのか?」と一生懸命考えているみたいだ。
やがて結論が出たのか、図書館に来た時よりも幾分か疲れた顔で私に向かい合って言った。
「こちらこそ宜しく、マートル・エリザベス・ウォーレン。貴方の良き理解者になら成れると思うわ。」
差し出された手を握り、そこから魔法の契約に移行した私はいけなかったんだろうか……。
魔法の契約というと、破れぬ誓いと言うらしく、呪文はないみたいですが、原作でもヴォルデモートとマルフォイやスネイプ先生がしていたやつですね。
契約を破ると死ぬという鬼畜設計なので、これで裏切りの心配はありません。
そして魔法を解いても、マートル自身が180℃変化しているのもあり、今と基本スタンスは変わらないエイミー。エイミーは利己主義でかつ、とんでもない柔軟さを持っているので、苛めていた相手でも罪悪感無く上手く付き合えます。
ちなみにエオローの意味は友情と防御。エイミー的には暗にこれからの自分達の関係について聞きたかったんですが、分かりにく過ぎましたね。ちょっと反省です。