ビリーズ・ブート・キャンプって、全く聞かなくなりましたね。今のダイエットはもっと楽しく運出来るのが流行り何でしょうか?
「あ、あの…我が君…………?」
先程からこっちをじっと見ている我が君。え、えぇと……どうしたんてすか??
「マートル……。」
「はいっ!」
「……それはどうしたんだ?」
それ? 我が君が何を言いたいのか分からない。首を傾げていると、我が君が私の髪を掬って指を絡めた。
「ひぇっ?!」
び、びびびっくりしたー!! 思わず変な声が出てしまった、恥ずかしい。
「か、髪型の事でしたら自分で切りました。……変でしょうか?」
「……いや、前よりも僕の下僕として相応しい格好になった。」
「でしたら良かったです。」
マートルはお下げ髪と丸眼鏡が特徴の女の子だが、正直私は眼鏡がストレスだし、髪が長いのも落ち着かなかったので図書室で調べた魔法で視力を矯正して髪をショートにしたのだ。初めて使った魔法が視力矯正とは……何だかなぁ。あ、あと化粧も少しした。成り代わったばかりの時は気付かなかったが、ノーメイクで人に会う何て私は無理だ。恥ずかし過ぎる。
そして鏡を見て1番思ったのがニキビの多さ。マートル自身もこれは気にしていた様で化粧品やニキビ落としの薬品が多数あったのだが、付けた途端に感じたピリピリとした感覚からこれらは肌に合ってないし、戸棚にぎっしり詰まったチョコレートは確かに美味しいがニキビの原因だろう。周りの女子に配って無くした。そして改善されたスキンケアのお陰か、肌は3日と立たずにみるみる綺麗になった。やはりニキビにはノンストレス、快眠、ビタミン、抗生物質だろう。わざわざこっそり学校から出て姿くらましして行ったマグルの薬局のニキビ薬は魔法界のものとは比べ物にならない。他にもマスクや風邪薬、シャーペン、ノート、ボールペン等など購入した私はもはや最強である。
我が君の機嫌が何処と無く良い気がするので、気に入って貰えたと思うのは少し傲慢だろうか。
「我が君……それで今日は如何しましたか?」
現在位置は、私がつい最近バジリスクに襲われた3階の女子トイレである。もうないが、私の苛めにも使われていた位なので嘆きのマートルというゴーストが居つかなくとも、人はめったに来ない場所なのだ。更に我が君はまだ私に言うつもりは無い様だが秘密の部屋への入口にもなっている。我が君をこんな場所に居させるのは気が引けるが、他に密会をする良い場所もないので仕方ない。何せあのダンブルドア先生がいるので、何処に耳や目があるか分からないのだ。そこで女子トイレを使うのは思い切りが良過ぎるかもしれないが、流石の先生も女子トイレを覗いたりしたら犯罪だし、我が君に密会場所の案を聞かれてここを推薦したら通ってしまったのだから仕方ない。……訂正させてもらうと、冗談半分だったのだ…まさか採用されるとは……流石我が君と言うべきか。
「何か失礼な事を考えてないかい?」
慌てて首をブンブンと横に振る。我が君が怪しんだ顔をしていたが、やがて諦めたのか溜息を吐いて話しを戻した。
「今日は君がどれだけ呪文が出来るのかを見てみようと思ってね。下僕の基本スキルぐらいは主として把握しなくてはいけないし。」
「な、なるほど……」
ちなみに自分でもどれくらい魔法が出来るのかを教科書片手にやってみたが、簡単な
「まずはこの本を読んでみて。」
そう言って渡されたのはどう見ても闇の魔術師に関するものです、はい。これは禁書庫に入らずに見れてラッキーと思うべきなのか否か……まぁ、ありがたく読ませて頂くが。
1通りペラペラと捲って頭に入れると、1ページ目から順々に呪文を試していった。勿論、闇の魔術に関する呪文なので殺傷性がとても高く、1つの呪文を唱える度に
分厚い闇の魔術に関する本のページ半分まで呪文が進んだ時に、いい加減魔法の連発に対する疲れが見え始めて、どれだけやったら良いのかと我が君を伺う。
すると我が君は、こちらの事はまるっと無視して優雅に本を読んでいた。
「わ、我が君……?」
思わず名前を呼んでしまうと「何?」と怪訝そうな顔をされたが、いやだって……ねぇ。我が君が魔法力を見たいというから先程から呪文を唱えていたのに、欠片も見られてないとは……。始めの内は感心する様に見ていてくれた筈なのにいつの間に……、いや気付かなかった私も私だけど。
一言物申したいのをぐっと堪えて、取り敢えず何処までやったら良いのかを聞く。すると我が君は
「やれる所まで。」
と言って来た。
え……やれる所まで? それは下手するとこの本1冊でも終わらない可能性もあるっていう……。余程、私が信じられないとでもいう様な顔をしていたのか、我が君は軽く吹き出すと、口の端を引き上げて「限界を誤魔化したら即
「……かしこまりました、我が君。」
我が君の暴君ぶりに、頷くしか出来ない己が恨めしい。
あれからどの位の時間が経っただろうか。お昼の時間もとうに過ぎ、我が君が厨房から自分の分だけ取ってきた食事を恨めしい目で見つめながらも呪文を唱え続けた私は、もう時間という概念が無くなっていた。体感時間ではもう半年は経っているのだが……。体はフラフラ、頭の中も真っ白で本に載った呪文をただただ唱えていく機械と化した私は、始めの内は我が君をちらちらと見て「もう充分ですよね?」という視線を送っていたのだが、ことごとく無視をされ今ではそんな気力が露ほどもない状態である。先程から呼吸音も何だかおかしい気がする。あれ? 私、こんな所で死ぬのかなぁ……と、自虐的な思考に飛んだ時、始め軽く読んだ時に読み飛ばしていたのか、本の最後のページに載っていた呪文を見てそれらが吹っ飛んだ。
死の呪文……あの有名なアバダ・ケダブラである。
これまで惰性で唱えて来た呪文とは打って変わり、食い入る様にそのページを見る。心臓が激しく動く。我が君もそんな私の様子に気付いたのか、本から目を離し、すっと目を細めて私を観察し始めたのが分かった。
折角だからと我が君の好意で用意してもらった、ちゃんと生きている動物相手に杖を突きつける。どうやって用意したのかは、あの悪い笑みを見る限り聞かない方が賢明だろう。
「……
そして、私が残った魔力をありったけ注ぎ込んで放った呪文は見事動物に命中し…………それはいとも簡単に息を引き取った。
「……。」
もう指先も動かない体と、私が初めて本当に殺しをしてしまった事実を目の前に立ちすくんでいると、我が君がこらえきれないという様に笑い声を上げた。
「っははっ! 素晴らしい、素晴らしいよマートル!! あの時君を引き込んだのはちょっとした遊びのつもりだったけど、まさかここまでとは……!」
「あ、ありがとうございます……。」
動物を殺してで褒められてもな……と複雑な気持ちになりながらも何とか感謝を伝える。ただ、こんな事でも自分が褒められた事だけは嬉しかった。我が君の事は恐ろしい人だとだけ思っていたが、こうやって褒めて頂けるなら少しだけ尽くしてみるのも悪くないのでは……と。自分の考えに私ってチョロ過ぎだろうと苦笑する。嬉しそうな我が君を見て、何だかこんな関係も悪くないなと思った。
「明日は僕が呪文を放つから、防御がどこまで出来るか調べようか。」
「え……。」
「じゃあ、また今日と同じ時間で。」
そう言ってさっさとトイレから出て行ってしまった我が君を追い掛けたくても足がピクリとも動かない。えぇっ?! 放置ですか? そうなんですか?! 我が君……
大声を出す気力もなく、禄に受身も取れない体では倒れる事も出来ず(そもそもトイレでまた倒れ伏したくはないが)、呆然としていたがふと我に返って先程の自分にツッコミを入れたくなった。何が「こんな関係も悪くない」だ!! お前はMか!!
翌日、目が覚めたら3階の女子トイレの床で寝てたのは自分だけの秘密である。
バジリスクに食べられてなくて良かった……
生き物を殺すのは、出来ればやりたくないけど必要に駆られたら仕方ない。成り代わり主はそこんとこシビアだけど、チョロ甘なせいで不憫です。