タイムターナーって原作ではハーマイオニーが全ての授業を受けるために使ってたんですよね。
あれだけ便利なのにも関わらず「アズカバンの囚人」でしか登場しないので、情報が少なくて四苦八苦しました。
そうして調べると出て来たハリーポッターシリーズの次回作「ハリーポッターと呪いの子」
これは舞台なのですが、ハリーポッターの映画の続きでハリーが闇払いとして働きつつ子供がいる設定みたいです。そしてタイムターナーで過去を変えるお話みたいですが、ネタバレだけでも読むと面白い! 何とあのスネイプ先生も登場するらしく、機会があったら私も観てみたいと思いました。
タイムターナーで移動する時に、周りに人がいると突然人が消えたり現れたりする様に見えるため、私達は人のいない店の裏手へとこっそり忍び込んでいた。
『それで、どうやったら過去にいけるの?』
ナギニが尋ねて来る。確かに、説明されなければ誰も使い方が分からないだろう。タイムターナーはそれ自体を一回転すると1時間程過去へと飛べる。この回数に制限はなく、理論上は何年、何百年、何億年過去へとでも飛べる事になる。過去へと飛んでいられる時間は制限時間があるために限られるが、それも私には対処する手があるために問題にはならない。
『これを一回転させると過去に戻れるのよ。今回は今から約半年前に戻りたいから24×180=4,320回転しないといけないわね。…………これ、結構大変なのよね。』
今回は約半年前なので数は大体でも構わないが、面倒ではあるのだ。
『私、そういうの得意だよ!』
『え、ナギニは回転させられるの?』
自信満々で言って来るナギニに不安を覚えながらも私はぬいぐるみから元の姿に戻してやって、タイムターナーを渡した。ナギニは自分の尻尾の先で器用にタイムターナーを掴むと、そのまま転がす様にクルクルと回転し始めた。そのスピードは段々と早くなって行き、私ではもう数を数えられない程の回転数だ。
ナギニが大体とはいえ、数を数えられるのか今更ながら不安になりつつも周りの景色が次々と変化して行き、あっという間に過去へとやって来た。
『あ、ありがとうナギニ。助かったわ。』
『えっへん!』
少しだけ周りの景色の変化に酔ったせいで、クラクラする頭を抑えながらお礼をすると、どんなもんだい! と誇らしそうなナギニの姿があった。
取り敢えず、今の日付を確認しなければいけないと思い、店の裏手から表通りに出る。新聞があれば良いが、先程見た書店には置いてなかったので人に聞くしかない。
「すみません、今日って何年の何月何日か教えて貰っても良いですか?」
丁度近くを歩いていた青年に声をかけると、奇怪な目を向けながらも1942年の12月20日だと教えてくれた。
『凄いわナギニ! 丁度良い位の日にちよ!!』
『ふははははー! もっと褒めて良いよ!!』
そもそも何故、半年前に飛んだのかと言うと、クリスマスまでもうそろそろだからである。日記帳を手に入れたまでは良かったが、これをどうやって我が君に渡せば良いのか……。この時間軸では未だ私達は主従の関係ではないし、日記帳を手渡しても信用して貰えないだろう。
そこで考えついたのが、クリスマスプレゼントである。「どうぞこの日記帳を使って下さい」とカードを添えて送れば、きっと我が君が使ってくれるのでは? これなら顔合わせの心配もないので気も楽であるし。
そして極めつけが送り主の名前だ。イニシャルMとしておけば、M=メローピーあるいはM=マールヴォロと勘違いしてくれる可能性がある。どちらにしろ、我が君は怪しみながらも日記帳を捨てないでおいてくれるだろう。
クリスマス直前のせいか、活気づいた町並みを歩く。うっかりしていたが私の格好はマグルの夏服だったのでとても寒い。流石に耐えきれなかったのでお店に入ってコートを購入すると、すぐに装着して濡れ鍋へとバスで向かった。
コンコンコン
煉瓦の壁を叩く。これは1度で良いので前々からやってみたかったのだ。こんな機会でも叩けた事が嬉しかった。
「うわぁ……!」
『わぁー!』
ダイアゴン横丁、魔法使いによる魔法使いのための商店街である。前から気にはなっていたが、行きそびれてしまっていたので始めての景色に感動を覚える。
『ナギニは来た事ないの?』
『うぅん! でもここって凄いよね!! 何回来ても感動する!!』
嬉しそうなナギニに頬が緩む。ちなみに過去に来てからナギニはずっと寒いからと私のポケットに入っているのだが、ダイアゴン横丁に来てからは顔だけを出していた。それでも多少寒そうであったので、こっそり防寒の呪文をかけてあげると寒くなくなったのかポケットから出て首に巻き付いて来たので、マフラー代わりに丁度良いと思った。
『じゃあまずは梟小屋に行きましょうね。』
『はーい!』
『良いお返事だけど、しぃ〜。』
『はーい……。』
周りの魔法使いにパーセルタングだとバレると厄介なので、会話は静かに行わければいけないのである。蛇を飼ってるだけなら魔法使いではザラにいるので全く問題はなく、ナギニは首に巻き付いたままなのだが。
梟小屋へと着くと、ナギニの存在に気付いたのか、梟が全員怯えた様に鳴き始めたが、それを無視して店員にプレゼントを頼む。メッセージカードとラッピングもお願いして、ちゃんとカードにはイニシャルMと「スリザリンの末裔よ、自由に使って下さい。」と書いておいた。マートルもMなので嘘はついていない。
梟のあまりにもの怯えように、店員に嫌な顔をされながらもプレゼントをクリスマスに我が君の所に届く様に手配すると、やる事もやったので店を出てブラブラと歩き始めた。
……………………今までずっと気にはしていたが、目を背けて来た事がある。私は
ここから私の知っている未来を辿るために成り代わった直後の私の元へとタイムターナーを届けなければいけないのだが、ここでもう一つの選択がある。成り代わり直後の私が我が君に
だがそれも今なら、傍にナギニが居てくれるのなら、出来るような気がして来るのだ。正直に言うと、上手くいくかどうかは分からない。だが、今を逃したらこの先ずっと機会はない気がした。
『ナギニ、お願いがあるの。』
『いいよ、私は絶対にマートルの味方なんだから!』
私が何かを言う前にそう言い切るナギニは狡い。
……そんなナギニの好意を裏切る私は本当に狡い。
タイムターナーの制限時間が来て未来へと戻ると思いきや、私達は未来へ戻る途中のタイムターナーに凍結呪文をかけて成り代わった1日前の日にやって来た。
ダイアゴン横丁の裏から表へと出ると、そこから
ダージン&バークス、闇の魔術の魔法道具を取り扱う店である。ガラス張りの店の正面から中を覗くとお目当ての物が置いてあったのでホッとすると、店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ……。」
蛇を首に巻いているから闇にはある程度通じていると思われたのか、つまみ出しはしないが明らかに子供1人で店に来店した私を店員は怪しんでいる様だ。声に何処と無く刺が感じられる。
私は商品を見る振りをしてキャビネットの前に立つと、男の死角に入ると同時にキャビネットの中に入った。そして中からキャビネットに向かってありったけの魔法力を使って
『ここは何処……?』
『ここはホグワーツだよ。』
『ええっ?! ホグワーツなの? 凄い!!』
キャビネットに入ったと思ったらホグワーツに移動していたのだから、ナギニが驚くのも無理はないだろう。ここはホグワーツの必要の部屋。先程入ったキャビネットは必要の部屋のキャビネットに
さて、ここからが問題だ。いくらタイムターナーという便利な道具があるとはいえ、私に出来る事は限られる。ベストな選択としては、トイレに入った私を我が君と遭遇させる前に逃がす事である。これは成り代わってからすぐにバジリスクの動く音が聞こえて来た事から、かなり素早く進めないといけない。逆に成り代わる前のマートルの状態で助けるという選択肢もあるが、これは時間の余裕が出来る変わりに信じて貰えなさそうである。更に、もしかしたら成り代わった私という存在そのものが消えてしまう可能性もあるので非常に遠慮したい方法だ。
結局成り代わった直後の私をトイレから事情を話して連れ出すという結論に落ち着き、本番は時間がないために台本を書いたりして作戦を詰めた。その間の時間、ナギニがあまりにも暇そうだったのでたまたま近くにあった呪文学の本を渡してみると嬉しそうにナギニは本を読み始めた。ちょっと前から思っていたが、ナギニの能力が高過ぎやしないだろうか。我が君に教わったのかは知らないが、字が読める蛇は中々いないのでは?
「おっと、そろそろ制限時間ね。」
今回の時間逆行はある程度長い時間を過去で過ごすつもりなので、制限時間だけでは足りない。また未来に戻ってから過去へとやって来ても良いのだが、それは手間がかかるので凍結魔法で砂時計自体の時間を止めるのである。これで凍結魔法を解く事により、いつでも好きな時に未来へと戻る事が可能になるのだ。
準備も終えて、次の日に差し支えるといけないので、早めに必要の部屋にて就寝すると、私にナギニが巻き付いて来たのでぐっすりと眠れる事が出来た。
『ナギニ、ここで待っていてね。』
『本当に大丈夫? やっぱり私も付いていこうか??』
決戦当日の直前、ナギニをあの場へと連れていく訳にはいかないので、少しだけ心細いが必要の部屋でナギニにお留守番をさせて、私は3階の女子トイレへと向かう。最後まで心配してくれていたナギニの姿を見て、罪悪感で申し訳なくなった。もしこの企みが成功すれば、私は我が君の下僕では無くなり、ナギニとも会えなくなってしまうのだ。折角仲良くなれて、こんなに良くしてくれたナギニを裏切る真似をする私は最低の人間である。しかし、それでも私は私自身が大切なのだ。我が君の事は好きだが、死と隣り合わせなのは嫌だ。
決意を元に歩を進める。自分に目くらまし呪文をかけたのですれ違う生徒からは見えていないが、私はバレまいかヒヤヒヤだ。何とかトイレに辿り着くと、未だ誰もいないトイレの個室に入り、息を潜めた。
「マートル、私らよりも成績良いからって調子に載ってるよねー?」
「本当よねー。 ってか、あんたがいると魔法界の空気が汚れちゃうんだけど。」
「なっ、何でそこまで言われなきゃいけないの……!」
マートルと苛めている女子2人の声が聞こえて来た。成り代わった直後はボーっとしてて上手く聞き取れなかったが、結構な事を言われている。これは精神的に病んで心を壊してもおかしくないかもしれない。
半泣きのマートルはヒステリックに突っかかりながらも私が隠れているトイレへと押し込まれた。そして女子2人が水をかけたらまだマートルが綺麗になるかもと言い出し、用意をし始める。
目の前のマートルはまだ水を掛けていないのにも関わらず、酷く震えていた。……ここで彼女を助ければ、彼女という精神は消えない。分かってはいるが、伸ばしかけた手は宙を掴み、私の歯ぎしりへのクッション材の役割しか果たさなかった。
ばっしゃあああああんっ
頭上から水が降ってきた。ここからが本番だ。
私は成り代わったばかりのマートルの腕を掴むと「ひっ!?」と息を呑んだ彼女の口を手で抑えて端的に事情を説明した。もう頭の中で何度も何度も繰り返した言葉だったので、想像していたよりもずっとスラスラ言えて良かった。
「私は未来の貴方よ。このままこの場所にいると、トム・リドルとバジリスクがやって来て貴方に服従の呪文をかけるの。だから急いで逃げましょう!」
すると、私の事を怪しげに見て来る過去の私。
「ふふふっ、馬鹿のマートルにはお似合いだわっ。」
「視界に入るとイラつくから、トイレから出て来ないで欲しいくらいよね。」
そう言い残して苛めっ子の2人はトイレから出て行った。ヤバイ! 時間がない!!
「とにかく行くわよ! 早く!!」
手を引いてトイレから出ると、渋々といった様子で付いてくるが、それでは遅い。苛々と焦る気持ちを抑えられずに「走って!」と叫びそうになった時に後ろから恐ろしい音が聞こえて来た。
ズルり
体が一瞬硬直して、鼓動が跳ねる。バジリスクとトム・リドルに見つかってしまった……! マズイ、マズイが前回同様に鶏の声を真似して先生の所まで逃げ切れば良いのだ。しかも今回は私が2人いるし、多少なりとも魔法の知識もある。必要の部屋にて私の帰りを待っているであろう友達のナギニを思い浮かべて、気持ちをふるい立たせた。
「目を瞑って!……コケコッコー!!」
過去の私も自分が今危ない状態にいるのに気付いたのか、先程よりも走る速度を早めて出口を目指す。
「
「しゃがんで!!」
慌てて後方に声をかけてしゃがむが、この一瞬が命取りだった。呪文が私に命中したのである。私は一瞬で体も心臓も動かなくなり、女子トイレの床へと倒れ込んでしまった。そのまま私の意識はブラックアウトした…………
マートルまさかの死亡!!
皆さん今までありがとうございました。
次回作の「転生したら屋敷下僕妖精って辛過ぎる」をご期待下さい!