マートルの生存戦略   作:ジュースのストロー

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長らくお待たせしました!
新章突入につき、原作には存在しない回でしたのでプロットを考えるのに時間がかかりまして……

全部でwordが32ページにもなったのでお察しの長さですね。結構ややこしい話なので最悪読み飛ばしても、最後に投稿する予定の説明回読めば大丈夫です。




自分から死亡フラグ建設する

 

 

我が君が父親とその両親を惨殺してから次の日。梟に届けられた新聞にはその罪を着せられたモーフィン・ゴーントがアズカバンに収容された旨がデカデカと載っていた。モーフィン・ゴーントは己の犯した罪を自慢げに語っていて、以前もマグルである我が君の父親に呪文を放った事から罪は確定で、アズカバンに終身刑だそうだ。

 

そして肝心の我が君はというと、ナギニを私に預けてからずっと部屋で寝ている。恐らくだが、初めて分霊箱を作ったので魂が引き裂かれたのに体が付いて行けてないのだろう。それに昨日の精神的疲れも加わり、お昼を過ぎた今でも起きて来る気配がない。

昨日は何事も無かった様に振舞っていたが、やはり堪えていたのだろう。そこで弱っている所をナギニにも見せないのは我が君らしいと言えばらしいが、何だか複雑でもある。

 

『ぶー、これじゃあほっぺた舐めてあげられないよー。』

 

私の部屋なので隠れる必要がないナギニは私の首に巻き付きながら拗ねた声を出した。

 

『じゃあ私達で何か我が君が喜ぶ事を考えるのはどう?』

 

『喜ぶ事?』

 

『うん。何が良いかしら?』

 

ナギニはしばらくの間、首? を捻っていると、やがて思い付いたのか舌をチロチロ出して楽しそうに言った。

 

『ほっぺた舐める!』

 

『……ナギニ、それじゃあいつもと変わらないわよ。』

 

『うーん、そっかー……。』

 

ナギニは私が想像していたのよりもずっと幼い。今はこんなに無垢な彼女が、あと何十年かしたら闇の帝王の腹心で人を騙したりもしてしまうのだから、時の流れとは恐ろしいものである。

 

『ちなみに、ナギニって何歳なのかしら?』

 

『うーんとね、分からないや。』

 

『そうなの?』

 

『主様に時間っていうのを教えて貰って初めて知ったから、それまでどれ位生きて来たのかは分からないの。』

 

それもそうか。こうして喋っているとうっかり忘れるが、彼女は蛇だ。生活から考え方まで人と違うのは当たり前なのだろう。

 

『うーん、主様が喜ぶ事って難しいよー。』

 

『ふふっ、我が君って素ではめったに笑わないものね。』

 

大体ナギニを撫でている時は嬉しそうな顔をしているが、仮面をしている時と比べると殆ど感情が表情に表れないのである。我が君の満面の笑みなど見た事がない。不機嫌な顔や黒い笑みなら数え切れない程見て来たのだが……。

 

『この際、2人で外に出てみるのはどうかしら? もしかしたら何か見つかるかもしれないわ。』

 

『賛成! お外見たい!!』

 

『うーん、流石にその姿で外を歩く訳にはいかないわよね…………なら、こうしましょう。』

 

私は懐から杖を出してナギニに向けると魔法を放った。

 

『わわっ、何これ?! 体が上手く動かないよー!』

 

『ちょっと窮屈だろうけど、我慢してね。後でちゃんと戻してあげるから。』

 

魔法を掛けられたナギニは、蛇型のぬいぐるみになっていた。ちなみに生地は黄緑色のフェルトである。鏡で自身の姿を見るととても驚いていたが、これはこれで気に入ったのか、ぬいぐるみの姿のままであっちこっち移動して遊び始めた。

 

『さて、そしたら外に行きましょうか。ナギニはぬいぐるみなんだから、あまり動いちゃ駄目よ。分かった?』

 

『はーーい!』

 

本当に分かっているのだろうか。ブローチやボタンじゃ、ナギニがあまりにも窮屈だろうからぬいぐるみにしたが、失敗したかもしれない。

ぬいぐるみのナギニと財布を片手に孤児院を出る。勿論、心配をかけさせる訳にはいかないので、しっかり出掛けてくる旨は職員に伝えて来た。

 

『さて、まずは何処から行こうかしら。』

 

『私、お店に行きたい! 欲しい物があるの!!』

 

始めの議題だった「我が君が喜ぶ事を探す」は何処に行ったのか……。どちらにせよ私はナギニの気を紛らわすために言っただけなので、ナギニが嬉しそうであるならそれでも良いが。

 

『ふふっ、それじゃあ行きましょうか。』

 

ナギニに笑いかけると、彼女が今はぬいぐるみだという事にハッとした。私が先程から蛇のぬいぐるみを持って1人シューシュー言ってる女の子に見られていたのであろう事は、周りの痛い者を見る目でよく分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これ可愛い!』

 

『ナギニ、しぃ〜。小さな声で話して。』

 

私達がやって来たのは孤児院から少し離れたマグルの雑貨店。テンションが上がるとついつい大きな声を上げてしまうナギニを注意しつつ、私もそれなりに楽しんでいた。

 

『というかナギニの視力って、眼鏡をしてどうにかなる物なのかしら?』

 

ナギニが可愛いと言っていたのは緑色の眼鏡。そもそも蛇が眼鏡をするのかという所はおいておいて、これだけはツッコんでおきたかった。

 

『んーー、それは分からないけど。……オシャレでしょ?』

 

『まぁ、そう、なのかも? しれない、けど……』

 

正直に言って、全く想像が出来ないのでサッパリ分からない。そもそもナギニはどうやって眼鏡をかけるつもりなんだろうか。蛇は人間みたいに耳はないので、それこそ紐を付けないとずり落ちてしまうのではないだろうか。

 

『うーん、でもこの眼鏡はちょっとサイズ大きいかなぁ。 』

 

『……それはちょっと所じゃないんじゃない?』

 

ナギニが指した眼鏡は一般的な人間がかけるサイズだが、ナギニの大きさはギリギリポケットに入る程度だ。とてもちょっとではないと思うのは、私の気の所為ではないだろう。

 

『そんな事無いよ! 今は小さくなってるだけだもん!! 主様が魔法で小さくしたから、本当はもっと大きいんだよ!!』

 

『えっ、そうなの……? じゃあ本当はどれ位の大きさなのかしら??』

 

『うーんとね、長さは主様よりも長いよ!!』

 

『えっ…………。』

 

そ、そこまでナギニが大きかったとは……。私はすっかりナギニの見た目と話し方に勘違いをしていた様だ。

ナギニにはそんなつもりは無くとも、私は何処と無く騙された様な気持ちになってしまい、気まずくなって辺りに視線を漂わせる。すると、視界の端にキラリと光るものが見えた。

 

「もしかして、これは……」

 

ガラスのショーケースの中でも一際異彩を放っているのは金色のネックレス。二重三重の輪っかの中に嵌め込まれた砂時計の砂は、星屑を集めた様に控えめな輝きを発していた。

 

「おやお客さん。こちらの商品に目を付けるとは中々お目が高いですね。」

 

ショーケースから顔を上げると、そこには夜の闇(ノクターン)横丁から出て来たのかと思う様な風貌の中年の男性店員がいた。

 

「こちらは大変価値の高い物なのですが、お客さんの審美眼に免じてお安くしておきますよ!」

 

何かに駆り立てられる様に勢い良く店員が渡してきた価格は確かに破格の値段だった。何故この店員はここまでこの魔法道具を私に売りたいのか? 疑問でしかないが、それは店員がそれをショーケースから取り出して私に渡すとハッキリした。

凍結呪文と追尾呪文がかかっていたのだ。要するにこれらのせいで砂時計は全く動く事がなく、目の前の店員が一定の距離を離れるとこの魔法道具もくっついて来るのだ。何ていうホラーだそれは。男性店員も可哀想に……。

理由もハッキリした所で、私もこの魔法道具がないと()()()()()()ので購入の意を伝えると、ただ同然の値段で押し付ける様に渡して来た。だが、このまま購入してもすぐに店員の手に戻ってしまうのは目に見えてるので後でしっかりと

フィニート・インカーターテム(呪文よ終われ)」を唱えておかなければならないだろう。それまでは追尾しても大丈夫な様に首に掛けて逃げない様にしておかなければならない。ともあれ、これで彼も今日から安眠出来る事だろう。年端もいかぬ女の子に悪魔の品を擦り付けてしまった罪悪感は残るだろうが。

ナギニへと不信感を抱いてしまった罪悪感から緑色の眼鏡も一緒に購入した私は、買ったばかりのネックレスを首にかけて服に入れると店を出た。ナギニの緑色の眼鏡は後で大きさを魔法で縮め、紐を付けてあげようかと思う。

 

『そのネックレス、とっても素敵だね! しまっちゃうのが勿体ない位だよ。』

 

『ありがとう、そう言って貰えると嬉し…い………?』

 

『マートル?』

 

『いや、何でもないわ。何でも…………』

 

おかしい。今日は魔法道具に関わる日か何かなのか…………目の前の書店に並ぶあの本はまさか……

 

「日記帳が何故ここに…………」

 

書店の棚に品良く並んだそれは、本当は私の命を元に分霊箱になる筈の〝トム・リドルの日記帳〟であった。それも恐らく記憶が封じ込められる前のただの日記帳である。黒革で金の張装が施された一点物の筈のそれは未だ我が君の名前は刺繍されていなかったが、私が間違える筈もない。原作知識でハッキリとその姿形を覚えているのだ。

これはどういう事なのだろうか? まさか私の存在で原作改変がなされた?? ……いや、成り代わった時は既に我が君は日記帳を手に入れていた筈だ。それならここにこの日記帳があるのは何故だ??

分からない、分からないがこれがここにある事によって起きてしまう弊害なら分かる。確かダンブルドア先生は原作において、トム・リドルの日記から分霊箱の存在に気付いたのでは無かっただろうか。その分霊箱が日記から別の物へと変わってしまえば我が君が天下を取る未来が有り得てしまうかもしれない。私は我が君の事は何だかんだ言って好きだが、我が君の納める世界は嫌いなのだ。

 

「はぁ、成程…………ここで見つけたのは偶然じゃないって訳ね。」

 

首に下げられた魔法道具のネックレス、()()()()()()()を服の隙間から覗いて私は呟いた。

 

『ねぇ、やっぱり何かおかしいよ。マートル、どうしたの?』

 

『あぁ、ナギニ…………。』

 

これから過去に飛ぶとして、彼女をどうしようか。何せ過去に飛ぶのはそれ相応に危険である。色々な制限がある中で未来を大幅に改変してしまわぬ様に気を付けて、過去の人物からは非常に怪しいであろう自分達の身も守らなければならない。

 

『マートルが何を考えてるのか分からないけど、私はマートルの味方だよ! マートルが困ってるなら私が助けてあげる!!』

 

『ナギニ……ありがとう。』

 

ナギニが頼りになり過ぎて、我が君に続いて私までメロメロになってしまいそうだ。

私は日記帳を手に取って迷いを振り切る様に書店へと入って行った。

 

「あの、すみません。誰かいらっしゃいますか?」

 

書店の中は背の高い本棚が並んでいて奥がよく見えない程だった。本独特の匂いが鼻を掠めて、多少の埃っぽに眉をしかめる。

 

「あ、お客さん! こっちです、こっち!」

 

声のした方を見ると、高く積まれた本が載せられた机の向こうに店員らしき手が見えた。本を崩さない様に隙間から机の向こうを覗くと、そこには長い金髪で真っ赤な眼鏡をかけた女性店員がいた。

 

「すいません、ちょっと本の整理をしてまして。」

 

本の柱越しに朗らかに笑う女性店員は私が持っている日記帳に気付いたのか、お会計ですか? と聞いてきたので頷く。

 

「あ、T・M・リドルって金色で名前を入れられませんか?」

 

なるべく原作通りにした方が良いだろうから、取り敢えず聞いてみた。すると女性は何がおかしいのかクスクス笑いながら「料金がかかりますが、宜しいですか?」と聞いて来たので了承する。

 

「すぐにお入れしますので少々お待ち下さいね。」

 

そう言って店の奥へと消えた女性を見送り、暇な私は書店の中を見回す。ホグワーツには負けるが中々の蔵書量に掘り出し物がないかと色々と見て回る。

 

『マートル! この本、マートルのネックレスと同じだよ!!』

 

『ナギニ、しぃ〜。』

 

『ごめん、ごめん』と碌に反省の色が見られないナギニを呆れて見ると、彼女が言う本を見て驚いてしまった。

 

「〝タイムターナーと時間の旅〟まさしく私のためにある様な本じゃない……。」

 

ここまで準備が良いと、何かしらの作為的な物が働いてあるのではないかと勘ぐってしまう私は、考え過ぎではないだろう。表紙にまさしく私の首に掛かったタイムターナーが描かれた本は、どうぞ見て下さいと言わんばかりに堂々と棚に飾られていた。

中身をパラパラと捲って速読する。要約すると大事な事は3つ。1つ目は決して過去の自分に顔を見られない事。これは未来の自分に出会った過去の自分が未来の自分を怪しんで殺してしまう事例が多発した事かららしい。2つ目は目的以外の改変を最小に留める事。少しの変化でも過去に干渉するという事は大きな未来の改変を引き起こしてしまうので、必要最低限に留めなければいけないのだ。3つ目はタイムターナーを壊してはいけない事。タイムターナーが壊れると、もう過去から未来へと戻れなくなってしまう。壊れたタイムターナーは魔法でも元には戻せないので注意が必要だ。

 

「お客さーん、名前入れ終わりましたよー!」

 

店員の声に思わず肩が揺れるとバランスを崩したぬいぐるみのナギニが『痛い!』と抗議の声を出して来た。

 

『ご、ごめんね……。』

 

「お客さーん?」

 

「は、はーい、今行きまーす!!」

 

慌てて本を棚に戻し、急いで机に戻ると店員にとっても良い笑顔で日記帳を渡された。

 

「何だか随分と楽しそうにしてらっしゃいましたね。何か良い本でもありましたか?」

 

まさかこちらを覗いていないだろうな。もし覗いてていたらシューシュー言いながらぬいぐるみと話す姿を見られた事になるのだが。

 

「えっええ……。ちょっとだけ気になったものがありまして。」

 

何とか笑顔で誤魔化して、私は日記帳の代金を女性店員に渡した。

 

「ちなみに、男性の名前を頼まれてましたが彼氏さんだったり?」

 

「違います。」

 

これ以上ない位に私はキッパリ否定した。

 

「ふふっ……そうですか。それじゃあ頑張ってその日記帳を届けてあげて下さいね。」

 

「え? ……はい。」

 

何だか不思議な印象の女性だったが、それよりもやらないといけない事があると思い直し、彼女のお決まりの店員のセリフを後に私は店を出た。

 

 

 

 

 

『さて、ずっと黙ってて悪かったけど、ナギニにもちゃんとお話しするわね。』

 

『無理しなくても良いんだよ。』

 

どうやら色々と言動がおかしかった私にナギニは心配しているだけらしい。彼女は本当に優しい蛇だ。

私もその優しさに応えようと、原作知識の事は伏せて、過去に戻って我が君に日記帳を届けないといけない事を話した。原作知識は今回の件について深く関わって来る部分なので説明はボヤっとしたものになってしまったが、ナギニは「マートルが言う事なら信じるよ」と言ってくれた。

 

『ナギニはどうして私の事を信じてくれるの?』

 

自分でナギニに説明をしていても、非常に怪しいなと思ってしまったのだが……

 

『ふふんっ、私の事を舐めないでよねっ! マートルが嘘をついてない事くらい分かるんだから!!』

 

これが動物の勘というやつなのだろうか……。いや、素直に信じよう。ナギニは私の事をちゃんと見てくれているのだ。単純だが、心がポカポカして、今なら何でも出来そうな気がした。

 

『ナギニ、ありがとう。』

 

『べ、別に感謝しなくても良い……。』

 

何だかぬいぐるみの状態で表情の分からないナギニが、酷くもったいないと、その時思った。

 

 

 

 

 





マートルがトム・リドルの日記帳を彼氏へのプレゼントかと問われて即答したのは嫌だからではなく、そんな間違いが広まってしまうと自分自身が我が君に何をされるか分からないからです。
マートル的には「この女、とんでもなく恐ろしい事を言ってるな」と思っています。



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