マートルの生存戦略   作:ジュースのストロー

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トム・リドルが学生の頃のお話なので、原作から50年前の頃です。
何せ、情報が少い上にあやふやな部分が多いので多少の改変があってもご了承ください。




マートルは3年生 編
初っ端から命の危機は辛過ぎる


 

 

 

ばっしゃああああんっ

 

頭から水が勢いよく降ってきた。えっ、何? 何で??

というか、ここ何処だ???

 

「ふふふっ、馬鹿のマートルにはお似合いだわっ。」

「視界に入るとイラつくから、トイレから出て来ないで欲しいくらいよね。」

 

誰とも分からない罵り声が聞こえてきたので、今さっき頭に掛けられた水はその声の主のせいと察する。そして私が現在いる場所はトイレの個室だ。いや、どうして?! 何故にトイレ??

絶賛混乱中の私に、彼女達は満足したのかさっさとトイレから去ってしまい私は1人トイレの個室に取り残された。

静まり返ったトイレに水が滴る音だけが聞こえる。

 

「まさか……」

 

うっすら緑色のトイレの便器、自分が今着ている紋章が描かれた黒のローブ、先ほどの女子達が言ったマートルという名前、水をぶっかけられた……

 

「嘆きのマートル?」

 

1人残された個室に虚しく響いた声へ、返事はなかった……何かが動く音にかき消されて

ずるっ、ずるっと水が撒かれた女子トイレに何かを引きずる音が聞こえる。水に波紋が生じて自分の方へその存在を伝えた。遅れて、ゆったりとした足取りで人間の足音がパチャパチャと聞こえて来た。

この人間の足音は、普通なら安心する所だろうがそうはいかない。もしかして、もしかしなくてもこの足音は…………トム・リドルとバジリスクでは?

 

「……ッ」

 

どうにか声を出すのは堪えられたが、見つかるのではと気が気でない。確か原作にて、嘆きのマートルはトイレから出て蛇口の近くのバジリスクの目を見て死んでしまったのだ。という事は、この扉を開けたらバジリスクに殺されてしまう。

更に、トム・リドルは分霊箱の作成のためにマートルを殺したのではなかっただろうか? 明確な殺す理由がある以上、私を見逃しはしないだろうし、ダンブルドア先生に目をつけられている身としては私は格好の的であろう。何せ、苛められているから一人でいる事が多いし、魔法もあまり得意ではない筈だ。

これ、詰んでないか? 何で、どうして私がこんな目に……私はただ........が欲しかったかっただけなのに。

悔しくて、強く拳を握ったら水が跳ねてしまった。ピチョンという可愛らしい音でしかないが、そこから波紋が広がって行く。トム・リドルの足音が不自然に止まって、見えないがこちらに視線を向けた気がした。

さぁっと悪寒が走る。ヤバイヤバイ! 早く逃げないと……死にたくない!! それだけはもう、絶対に嫌だ!!

頭の中で多くの考えが浮かぶが、どれも実現出来るか分からないし博打みたいなものしか出て来ない。そもそも何故にハリーポッターの世界でマートルに成り代わってしまったのか。魔法何て使った事ないんだよ! 私の世界はそんなファンタジーじゃなくてもっと現実的なんだよ!!

愚痴ばっかりが出てくるが、女は度胸だと開き直って思いっきり扉を開ける。勿論目は瞑ったままで私は息を大きく吸い込んで声を発した。

 

 

 

「コケコッコー!!」

 

 

 

そのままニワトリの鳴き声を連呼しながら走り出す。勿論目は開けられないので道はよく分からないが、それはトイレの構造を想像して一直線に駆けていく。

後ろからバジリスクが激しく動いている音が聞こえる。怖い、怖い、怖い。成功したのだろうか? バジリスクはニワトリの朝を告げる声で逃げ出す筈なので「朝ですよ!」っという気持ちを込めて鳴き真似をしてみたのだが……

下手な鳴き真似では効果がなくて、私に向かって牙を剥いている可能性もある。すぐ近くにはいないのが感覚として分かるが、私は素早いバジリスクに飛びかかられたら一溜りもないだろう。確か蛇科の動物は視覚と嗅覚が衰えている代わりに聴覚と触覚が優れていた筈だ。なので、持っていたびしょ濡れの教科書を後ろに投げてなるべく音を立てずに走る。床がビショビショに濡れているので限度があるが、思いっきり大股で、入水の時に滑る様にして足を入れて走れば殆ど無音になるのだ。

ある程度走ったら、入口を探すために目を開けなければならない。流石に記憶しているトイレと出口を目を瞑ったまま見つける事は不可能なので、リスクはあるが仕方ない。床の水越しにバジリスクの目を見ない様に視線を上に向けて、目を開くと少しだけ方向がズレていたが出口が先に見えた。

あと少し! トイレから出たら廊下で大声を出して助けを呼べば私の命は助かるだろう。早く、早く、早く。

 

ステューピファイ(麻痺せよ)!」

 

後方から聞こえて来た声に反応して、慌ててしゃがみ込む。走りながらだったのでバランスを崩して転んでしまったが、それでも体制を直して走らなければ殺られてしまう。

 

ディフィンド(裂けよ)!」

 

「ぐっ!」

 

右足が熱い。見る暇もないが、どうやらアキレス腱を傷つけられたみたいであまりもの激痛に足を上手く動かせず、立て直した体が思いっきり崩れてしまって地面とぶつかった。

 

シレンシオ(黙れ)

 

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。これは相手を黙らせる呪文。助けを呼ぶ事も出来なくなってしまった。

 

インカーセラス(縛れ)

 

ロープが体に巻き付いて来る。これで完全に身動きが取れなくなった。

心臓が爆発しそうだ。今迄の比ではなく鼓動が動き、それに反する様に全身の血が引いていく。トム・リドルがゆっくり近付いてくる音が聴こえて来て、それがより一層恐怖を煽る。床に溢れた水か、自分の汗か分からない位に全身から汗が吹き出て今にも気絶してしまいそうだ。いや、そうなったらどれだけ良かった事だろう。気絶した方がマシと感じるなんて、死ぬかもしれないのに私は小心者だ。

トム・リドルの足音が私のすぐ傍まで来て、止まった。インカーセラスで縛られた状態の私は視線を床から上げる事も出来ない。今度こそ本当に終わった。

 

「お前は…………」

 

「…ッ!」

 

髪を掴まれて無理やり立たされる。ここでようやく周りを目で把握する事が出来たが、バジリスクはどうやら逃げ出したみたいだ。そして目の前にいるのはやはり、トム・リドル本人。

 

フィニート・インカーターテム(呪文よ終われ)……言え、お前は何者だ。」

 

拘束は解除せず、シレンシオだけを解除されたみたいだ。相変わらず掴まれた髪の毛根がちぎれる様に痛いし、顔が整っているが恐ろしい形相のトム・リドルに杖を突きつけられていて悲鳴も出やしない。先程までごちゃごちゃ考えていたのが何だったのかというほど頭の中が真っ白になってしまい、何も言えなくなってしまった。

するとトム・リドルは眉を歪め、短く舌打ちをすると

 

インぺリオ(服従せよ)

 

服従の呪文をかけて来た。頭の中が幸せな気持ちに溢れて自分の全てを相手に預けたくなってくる。駄目だ、駄目だ……駄目何だけど……抗いがたい。何かが私に囁いて来る。ここで身を任せればきっと……が手に入る。あれだけ焦がれて、焦がれて、それでも手に入らなかった……が。

しばらくすると、体の緊張が解ける。あぁ、私はこの人の物だ。私はこの人の言う通りに何でもしなければいけないんだ。嫌な筈なのに、細胞レベルで従ってしまうだろう事が理解出来た。

 

「もう1度言う。お前は何者だ。」

 

「私はマートル・エリザベス・ウォーレンです。」

 

口が勝手に開いて自分、いやこの体の名前を述べる。

 

「何処かの団体に所属しているか?」

 

「いいえ。」

 

トム・リドルが苛立っているのが伝わって来る。

 

「お前はこれまで何かを隠していたか。」

 

「いいえ。」

 

「では、お前は何者だ?」

 

「私はマートル・エリザ「それは分かっている。」

 

トム・リドルが冷たい目でこちらを睨み首を締めあげてくる。苦しい、苦しいが服従の呪文をかけられている以上禄な抵抗も出来やしない。

 

「愚図でノロマで馬鹿で癇癪持ちで被害妄想が激しくて苛められているのが皆が知るお前だ。だがお前は違う ………一体どういう事だ? お前は何者だ?」

 

「私は……」

 

私は……誰だ? この世界がハリーポッターという創作物の中の世界なのは分かる。だが、嘆きのマートルになる前は一体どうやって生きてきたんだ? 家族は? 好きな食べ物は? 出身は? …………何も分からない。

 

「私は…………。」

 

「?……呪文にはかかっている筈なのに、一体……」

 

トム・リドルは私の前で顎に手を当てて何かを考えて込んでいる。私といえば、前の世界の記憶がない事に戦々恐々としていたが、長い間の放置に加え、きつく縛られた縄に立つ事が苦しくなって来た。

いい加減倒れて気絶しても良いだろうかと、現実逃避をしているとトム・リドルがようやく思考から帰ってきた様で私に目線を合わせて来た。どうでも良いが、普通にイケメンだ。

 

「まぁいい……お前は中々使えそうだ。服従の呪文にも掛かっている事だし、これからは僕の手足として動いて貰おうか。」

 

「?!」

 

えっ、それは…………うわぁ、死亡フラグと使い捨ての道具フラグが……。

トム・リドルは杖を1振りして自分の名前を炎で空中に出すとそれを並べ替えた。これは原作の

 

「ヴォルデモート卿……それが僕の本当の名前だ。トム・リドルなど平凡なものではない、本来のね。」

 

I am Lord Voldemort. 私はヴォルデモート卿だ……か。ハリーポッターの映画で見たまんまだったので軽く感動を覚えた。これを私に教えたという事は、本当に私を利用し尽くすつもりらしい。しかも服従の呪文のせいか、ある程度の信用もあると見た。

 

「僕の本当の名前を知るのは彼女を除き、未だ君だけだ。光栄な事と思うがいい、かのスリザリンの創設者の血を引く僕の下僕となるのだから。」

 

「……はい、我が君。」

 

思わず口に出てしまったセリフだが、言ってから後悔した。何だこれ、恥ずかし過ぎる。目の前のトム・リドル…いや我が君?を伺うと、珍しくもキョトンとした顔をしていたが、その後すぐにニヤリと悪どい笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、その呼び方は良いね。僕がいかに特別かが良く分かる。……良いよ、2人の時はその呼び方で呼ぶ事を許そう。」

 

「……ありがとうございます。」

 

そう言って深くお辞儀をする私だが、何かがおかしい。あれ? 何がどうなったんだ一体?? 何でこんな事に??

 

「君が僕の下僕である以上、僕に害する事は許されない。もしも、そんな事をしたら……分かってるよね? じゃあこれからは僕のためにせいぜい頑張ってね、マートル。」

 

「はい……我が君。」

 

呼び方がマートルになったのは気に入って貰えたからなのか知らないが、そんな事よりも思う。どうしてこうなった?!

 

 

 

 

 

どうやら死亡フラグは未だ健在の様です。

 

 

 

 

 






マートルは基本不憫。
死喰い人のいないトム・リドルの下僕という時点で終わってます。


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