東方古神録   作:しおさば

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佳境に差し掛かって来ましたよー


86話/幻想大異変-博麗神社②

side 霞

 

青い神力と黒い霊力がぶつかる。

力と力が接する部分からは火花が散り、互いに押し合い、拮抗する。

いくら封印されているとはいえ、俺の神力と同等の力を放つ自体、異様な光景と言える。

 

「さぁ、足掻いてみせて下さい、創造神」

 

俺は夜月を抜く。無造作に放たれていた神力が、その瞬間に夜月へと吸い込まれた。

青く耀く夜月を構えると、俺は飛び上がり、無明へと斬りかかった。

袈裟に軌道を描く鋒は、無明の手によって止められる。

「こんなものですか?」

「……もう、喋るな!」

 

身体を反転させ、腹を蹴った。バックステップで避けられるが、同時に夜月から手を離され自由になる。

「創造!」

手を翳し、無明の足元から黒い棒が無数に生える。それらは互いに絡み合い、瞬く間に鳥籠の形へと変わった。

「……それは、『予想通り』ですよ」

そう言った瞬間、籠は脆く崩れ去る。

それならそれで、使い道はある。

崩れた籠の破片を再び操り、形を変えそれぞれを針状にする。それらは無明へ狙いを定め、同時に飛んでいく。

無数の針は集まり黒い塊となるが、そこからは血の一滴も流れてはいない。

ふと、背後から殺気を感じ、咄嗟に屈む。頭の上を右手が空振る。

見れば何処かで見たことのあるような、空間の裂け目から腕だけが伸びていた。

「……私の能力?!」

下で見守る紫が、驚きのあまり声を漏らす。

「あぁ、そう言えば貴女から貰ったものでしたね」

悪びれもせず、身体全体を現した無明。左手には黒く押し固められた霊力が禍々しく球体を作っていた。

「全ては闇の中へと消え去る」

空へと放たれた球体。それは一気に数100倍は大きくなる。

よく見れば、球体の中で霊力自体が高速で回転し、渦をまいている。

「『球暗曳(きゅうあんえい)』」

風が吹く。木の葉が舞う。

木の葉は抵抗することなく黒い球体へと飲まれていった。

風はどんどん強くなり、やがて大の大人が立っていられないほどの強さとなる。

「ちっ……断ち切れ、夜月!!」

横に薙ぎ、空間ごと切り裂くと、球体は黒い霧へと変わった。

「なるほど、一つだと対処出来ますか」

そう言う無明は、自分の周囲に無数の球体を作り出す。

「幾つまで対処出来ますか?」

その全てが再び大きさを変え、辺りを吸い込み出す。

全くもって面倒臭いことを。

 

 

 

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side 美鈴

 

夜になっているのも気付かずに戦い続け、私の足元には自分のか敵のか分からないほどの血が流れていました。

比喩でも何でもなく、倒した敵が山となっているにも関わらず、その数は減る気配を見せません。

流石に、そろそろ終わってほしいのですがね。

それでも、一向に攻撃の手は休まることはなく、捌ききれずに被弾する事も多くなり、私はあえなく膝をつきかけそうになる。

 

「あら美鈴。珍しく起きてるじゃない」

 

そんな声が聞こえました。

たった数時間の事ですが、その声は君主足り得る堂々としたもので、振り返ることなくその声の主が優雅に立っているのが想像できます。その小さな身体をふんぞり返しているのも含めて。あ、これはオフレコですよ?

「……何か悪意のあることを考えてなかった?」

「き、気のせいですお嬢様」

「……来月の給料なしね」

死刑宣告にも似た決定事項に、今度こそ膝をついてしまいます。

「さて、我が安眠を妨げた有象無象ども、歓迎しよう」

尊大な態度のお嬢様は、バルコニーからコチラを見下ろす。

「我ら、紅魔館のやり方でな!!」

 

 

 

そこからは本当に一方的でした。

いつの間にかいたパチュリー様や、小悪魔さん。回復した咲夜さんまで外に出ての戦闘。圧倒的とも言える戦力に、敵の数は明らかに減っていきます。

私は後方へと退げられ、妹様に治療の手伝いをしてもらいました。

私が応急処置を終えた頃には、地平を埋め尽くすほどいた軍勢は、1握りにまで減っていました。

 

「ふん。他愛ないわね。こんなのに苦戦するなんて、腕が鈍ったんじゃない?」

「いや、流石に多勢に無勢ですよ……」

そんな軽口を叩けるまでには、私も回復していた時、私は気が付きました。

もう何年も感じたことのない、圧倒的な力。

お嬢様ですら、珍しく頬に汗を流すほどの威圧感。

遥か昔、目の当たりにした肺をも圧迫する力の塊を。

「……久しぶりね、美鈴」

 

この時ばかりは、私も死を覚悟しました。

最後に見た姿ではなく、初めて見た時のあの姿。

「赤」ではなく、どす黒い「赫」と表現したくなる着物。

どんな生き物だろうと、絶対に対峙してはイケナイ。

勝負することすらなく、蹂躙されることを想像してしまう妖力の大きさ。

「……その姿はでは会いたくなかったですね」

 

「姫咲さん……」

 

 

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side 永琳

 

動きを止めていた敵は、突如として再び動き出した。

私とウドンゲは片っ端から敵を排除し、てゐは無数に仕掛けたトラップを発動させていく。

それでも時間稼ぎにしかならず、圧されているのは目に見えて明らかだった。

最悪の場合、永遠亭を捨て、霞のところに姫様だけでも逃がさなくては。

そんなことを考えている時だった。

 

「し、師匠!永遠亭が燃えています!!」

 

ウドンゲからの報告に、耳を疑いたくなった。

永遠亭が燃えている?

この防衛線を抜け、アソコまで辿り着いたと?

周囲への警戒は密にしていたし、竹林の中にはてゐのトラップもある。私ですら竹林の中を抜けるのは至難の技だというのに。

そんな事を考えている場合ではないと、自分を叱咤し冷静に考える。

今、何をするべきで、何が出来るか。

 

「ウドンゲ、てゐ、此処は任せるわ」

「は、はい!!」

私は道を引き返し、永遠亭へと走った。

永遠亭の上空には黒い煙が立ち上っている。

「姫様……!!」

 

私は走る速度を上げた。

 




久しぶりに姫咲さん登場。


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