前回からまたまた間が開いてしまいましたが……。
私は元気です!!
普段でも薄暗い竹林は、日が落ちることでより深い闇に覆われた。
辺りを漂う静けさに、耳が痛くなる。
「それなら取ったらどうだうさ?」
呑気に隣で人参を齧っている素兎を無視し、より一層警戒を強める。
昼間、あれだけの攻勢を見せていた異形の化物たちも、暗くなった途端に、まるで消え失せたかのように動きを見せなくなった。
ただ、動かなくなっただけで、まだ確かに存在する。呑気に見えるてゐだって、こう見えても辺りへの警戒を解いてはいない。
「ねぇ、それ私にも1本頂戴」
「あ、これが最後だったうさ」
そう言って、口の中へ人参を放り込む。1発くらいなら誤射で許されるかな……。
「ウドンゲ、てゐ、状況は?」
後ろから声を掛けられる。振り返れば弓を片手にした師匠がいた。
「日が落ちてから動きが急に無くなりました」
「……不愉快ね。まるで何時でも私達を殺せると言っているみたい」
数メートル先に広がる暗闇を睨みながら、師匠はその苛立ちを隠そうともしなかった。
「師匠、能力が使えない理由は分かりましたか?」
師匠から放たれる空気にいたたまれず、私は話題を変えようとする。これだけ怒った師匠を見るのは久しぶりだ。最後に見たのは……、てゐの落とし穴に引っかかった時だろうか。
「えぇ、どうやらこの永遠亭を中心にドーム状の結界が貼られているわ」
「結界、ですか?」
師匠曰く、並の妖怪では感知することも不可能なほどの、薄く、それでいて神ですら破るのに骨が折れるであろう強固な結界。
そんな物がここだけでなく、この幻想郷の主要な場所に貼られているらしい。
「これは流石に私でも破れないわ」
師匠にこうも言わせる結界に、私は寒気がした。そんなものを誰にも気付かれず、また同時多発的に発生させるなんて。この異変の首謀者はどれだけ恐ろしい相手なのだろうか。
「どうにもならないうさ?」
「……方法はあるけれど、かなり難しいわね」
師匠が表情を曇らせる。
「霞に助けを求めるのよ。この敵が蠢く竹林を抜けて」
-------
どれだけの月日が経っただろうと、雲に覆われた空を見上げ記憶を遡る。
あの日、不老不死になる薬を口にしてから、どれだけこの日を待ち望んだか。
今日、やっと悲願を達成できると思うと、自然とニヤけてしまう。早くアイツをなぶり殺したいと疼く身体を、何とか抑えながら、藤原妹紅は暗闇の中息を潜めていた。
遥か昔。無明と名乗る男と出会い、妹紅の中の復讐の焔は熱く燃えたぎった。
輝夜でもいい、創造神でもいい。この怒りを、この恨みをぶつけられるならば。どうせあの男も、最終的には利用するだけして、捨て駒にするのだろう。一時でもこの心の焔が行き先を見つけてくれるのならば、利用されてやろうと考えていた。
そして今日、焔はやっと箍を外し燃えさかれる。
「待ってろ……蓬莱山輝夜」
思わず口に出た言葉は、暗闇の竹林へと飲まれ、消えていく。
妹紅の背後に控える異形の軍勢は、言語を解さないのか、なんの反応もなくただ命令を待つだけだった。
-------
「……あぁ、あの霞うさ?」
暫く考え込んでいたてゐが、ようやく思い出す。
「……えっと、誰ですか?」
会ったことのないウドンゲは首をかしげていた。
そう言えば、最後にあったのはどれ位昔だっただろう。確かあの博麗の巫女を担ぎこんできた時だろうか。
それ以来となれば、もう数十年は会っていないことになる。
「一言で言えば、一番偉い神様よ」
「神様に見えない神様だうさ」
私とてゐの言葉に、余計に想像するのが難しくなったのか、更に首を傾げるウドンゲ。
彼ならば、これ位の結界など容易く破れるだろう。
「よく分かりませんが、その神様に助けてもらいましょうよ」
考えるのを諦めたウドンゲの提案に、私は首を振るしか無かった。
腐っても創造神である彼が、この異変に気付かない筈がない。結界のことだって既に分かっているだろう。しかし、一向に動きを見せないということは、何かしら問題があるという事だ。
今現在、彼も戦っているか、若しくはこの結界自体に二重の罠が仕掛けられているか。
前者ならば時間の問題だが、もし後者なら。この結界を破ることによって、二次的に私達、若しくは幻想郷自体に被害が及ぶのであれば、彼も安易には動けない。
そして、この予想は遠からず当たっているだろう。
ならば助けを求めても、好転するとは思えない。
この異変の大本をどうにかしなければ。
「まったく。何をサボっているのかしらね」
少なくとも、夏までには終わらせたい……と考えております。はい。