東方古神録   作:しおさば

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門番は頑張る!!


82話/幻想大異変-紅魔館①

「さんびゃくっ!!」

 

突如として現れた異形の者達を、手当り次第に片っ端から倒し続けてどれ位経っただろうか。

一向に数の減らない敵の集団は、言葉を発することも無く、ただ機械的にコチラを襲ってきているようにも思えた。

 

ふと、隣を見れば既に息も絶え絶えの咲夜さんが、それでもナイフを投げ続けていた。この人の能力があれば、本来敵など物の数ではない。

こうやって体力を回復させることも出来ない所から、咲夜さんも能力を使うことが出来ないのが解る。

つまり、今現在のマトモな戦力は私だけ。

無論、私だって疲れはするけれど、そこは妖怪。人間のそれとは違う。

まだまだやれる。

 

そう、思っていた。

 

 

------

 

 

「……外の騒ぎはまだ片付かないの?」

余りの騒がしさに目が覚めて、酷く気分が悪い中、私は小悪魔が淹れてくれた紅茶を飲みながら、忌々しく光が降り注ぐ窓を見た。

少なくとも私が起きてから、既に2時間は経っている。あの門番だけならばまだしも、咲夜も対応しているというのに、これだけの時間がかかるのは異常だ。

まぁ、能力が使えない時点で異常なのだが。

「知らないわ。興味が無いもの」

「……」

私の向かいに座るパチェは、本から目線を逸らさずに答えた。

まったく、我が紅魔館を襲撃するなんていい度胸だ。これで日が出ていなければ私が直々に手を下してやるものを。

今は門番と咲夜に任せるしかない。なんとも口惜しい。

「……日が落ちるまで、あと4時間はかかるわよ」

私の思考を読み取ったパチェは、時計を見ることもなく告げる。

「それまでには終わるわ」

「あら、能力が使えないのに分かるのかしら」

そこで初めて、パチェは本から目を離し私を見た。

「当たり前じゃない」

紅茶を口に含む。仄かな茶葉の香りが口に広がり、喉を通っていった。小悪魔もなかなか悪くは無いが、やはり咲夜のそれと比べたら悪いかしら。

「だって、あの子達は紅魔館の一員なのよ」

 

------

 

「よんひゃくじゅうにっ!!」

だんだん数えるのも億劫になってきました。一体何時になったら終わることやら。

そろそろ体力が心許なくなってきて、攻撃を躱し続けるのも難しい。所々に出来たかすり傷程度の物が目立ってきた。

なんせ後ろにいる咲夜さんを庇いながらだから。

 

「め、美鈴。私はまだ戦えるわ……」

「なに強がってるんですか!明らかに無理でしょう!?」

見れば膝をつき、息を切らした咲夜さん。それでも敵を睨み、ナイフを投げ続ける。

「大丈夫!私の後ろには誰一人通しはしません!!」

普段は格好つかない姿ばかり見せてしまっているのだから、こんな時くらい踏ん張らなくては。

敵の血で紅く染まった拳を握りしめ、地を蹴る。手近な所にいた敵の懐に潜り込むと、腹をめがけて拳を突き出す。妖力を込めた拳は、腹に大きな穴を穿ち、吹き飛ばしていく。

右から振り下ろされた長い爪を躱し、勢いをそのまま載せて回し蹴り。反対側にいた敵へとぶつけ、バランスを崩した所へ今度は踵落とし。

しかし、仲間が倒されていくのに、顔色一つ変えない集団は、見ていて気分のいいものじゃない。

私は少し間をとって、再び構える。

「……流石に、師匠と違って妖力には限界があるんですけどねぇ」

小さく呟くが、今はそんな泣き言を言ってる場合じゃないと頭を振る。

前を見ろ、目を逸らすな、息を整えろ。少しずつ疲労が溜まっていく体にムチを打つ。

「きゃぁあっ!!」

突然悲鳴が聞こえた。

振り返ると私の隙を縫って咲夜さんへと近づいた奴がいた。辛うじて避けたのだろうが、咲夜さんの腕からは血が流れていた。

「くっ!……このぉっ!!」

私はすぐさま間合いを詰め、頭へと蹴りを叩き込む。首から上を吹き飛ばし、その場へと崩れた敵を尻目に咲夜さんに駆け寄る。

「大丈夫ですか?!」

「……心配ないわ、ただのかすり傷よ」

そう言いながらも、流れ続ける血は止まる気配がない。

「……」

私は袖口を破き、咲夜さんの腕に巻き付けて取り敢えずの止血を試みる。この腕ではもう戦うことは無理だろう。

「咲夜さん。中へと戻ってください」

「!何を言っているの!これだけの数、貴女だけじゃ無理でしょう!!」

叱られてしまいました。でも、いつもの様な迫力もなく、その言葉には力がありません。

「大丈夫。ここは私に任せてください」

「でも……!」

私はできうる限り笑顔で告げる。上手く笑えているか心配だけれども。

「ここは紅魔館。そして私はその門番。ならば私の仕事はこの門を、館を、住人を守ること」

私は立ち上がる。

その言葉は咲夜さんに向けて発したものだけど、どこか自分自身へと言いつけるようにも思えた。

「だから、私の仕事を奪わないでください」

「……」

ジリジリと間合いを詰めてくる集団を睨みつけ、私は1歩踏み出す。

「……早く終わらせなさい。貴女がこれまでに飲んだことのないような最高の紅茶を淹れてあげるわ」

「おぉ!それは楽しみです!!」

これは尚更負けるわけにはいかなくなりました。

 

門の中へと入っていった咲夜さんを見届けると、私は大きく息を吐く。

「私、約束を破るのは嫌いなんですよね」

肩から力が抜けていった気がした。

余計な力みがなくなり、少し身体が軽くなった気分がします。

「……だから、こんな面倒ごとは早く終わらせます」

先ほどとは違い、今なら負ける気がしません。

 

 

 

「さぁ、遊んであげますからかかって来なさい!!」




あ、あけましておめでとうございます。

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