東方古神録   作:しおさば

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ってなわけで最終章!!


古い神様の物語らしい
81話/つかの間の平和だったらしい


どうも、霞です。

この挨拶も久しぶりだな。

紅い霧の異変が終わって数週間、幻想郷は今日も平和だ。

空を見上げれば気持ちよさそうに流れる雲。これでもかと照りつける太陽。時折吹く風は、程よく涼しい。

そして、視線を下に移す。

ポッカリと、まるで穴が空いたように黒い球体が空中をさまよう。

 

……うん。平和だ。

「いや、霞さん?!アレ、アナタの式何でしょ?掃除の邪魔なんだけど!!」

箒を片手に怒鳴り散らす霊夢。見れば黒い球体は、霊夢が掃き集めた塵にぶつかり、見事なまでに散らかしている。

「……しょうがないね、自由の神()の式だから」

「その理屈は納得いかないわ!」

言うまでもなく、球体の正体はルーミア。宴会の日に再び出会うことが出来た我が式である。

いつぞやの言霊遣いに身体を小さくされ、数千年もの間俺を探して旅をしていたらしい。

あんな小さな身体でも、元は大妖怪。さらに言えば、俺の札の効果もあり生きながらえていたらしい。

「さっさと身体を戻して欲しいのかー」

ルーミアは開口一番、俺にそう願った。

まぁ、俺ならばルーミアを元に戻すのは簡単だ。頭につけたリボン型の札を外せば、ルーミア自身の妖力で身体は元に戻るだろう。

他にも、俺が言霊の能力を創れば良い。

そう考えれば、元に戻す事など容易いことだ。しかし。

「だが断る」

コイツから札を外すとろくな事にならない気がする。なんせルーミアは人喰い妖怪。俺の制御下に無ければ何をしでかすか。

「人聞きが悪いのかー」

「……お前、真っ先に俺を殺しに掛かるだろ」

「……」

何故黙る、ルーミアよ。

 

霊夢の掃除も何とか終わり、夢乃を加えて4人でお茶を啜る。

このまま、何事もなく今日という1日が終わればいいと思っていた。

 

「た、大変だぜー!!」

 

空から声が降ってくるまでは。

声の主は猛スピードのまま、境内へと突っ込む。アレ、大丈夫なのか?

「心配いらないわ。いつもの事よ」

半ば諦めたように呟く霊夢。

土煙をかき分けながら、出てきた魔理沙には目もくれない。

「た、大変なんだぜ!!」

「どうしました?魔理沙さん」

対応に出たのは夢乃。本来ならば霊夢が出るべきなんじゃないか?

「い、異変だぜ!至るところで妖怪やら魔族やらが暴れてるんだ!!」

はい?魔族?そんな気配は微塵もしないが。

「それが特殊な結界でも張ってるのか、全く気配もなく現れたんだ!!」

 

 

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「藍、アナタは人里へ向かいなさい。これだけの量、自警団だけでは対処出来ないわ」

「かしこまりました」

広げたスキマに藍は飛び込む。突如として現れた大量の妖怪と魔族。その数は未だに増え続け、私でもハッキリと把握は出来ずにいた。

幻想郷の各地で現れた敵は、人だけに限らず、妖怪や妖精までも襲い始める。

ただの妖怪ならばいくら数を増やそうとも、問題は無い。しかし、今回は違った。

私の能力が効かない。

いや、効かないと言うよりは、発動できないのだ。

大量の敵をスキマ送りにし、幻想郷の外へと放り出せれば事は終わるはずなのに。何故か敵が現れた場所にはスキマが開かなかった。

こんな事は初めてだ。

長年生きてきたが、能力が使えない等と、考えたこともない。

「一体、何が起こっているの……」

 

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「姫様、中へ入っていてください」

私は弓を構えながら告げる。突然現れた未知の敵。その集団は妖怪だけに限らず、知らない種族も混じっていた。

私は近づく敵を片っ端から射抜く。先程から続けているため、本来ならばその数は既に減っていてもおかしくないのだが、逆に増えているように思う。

「師匠!援護します!!」

隣に立つブレザー姿の少女。月から逃げてきた優曇華も、果敢に戦っていた。

「な、なんで……なんで能力がつかえないの?!」

さっきから試しているのだろう、優曇華は眼を赤くしていた。

しかし何が原因なのか、その効果を発動出来ないらしい。私の能力は戦闘向きではないから関係ないけれど。

「全く、面倒臭いわね!!」

 

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「五十八!!」

「アナタ、さっきから数えてるの?」

ナイフを投げながら、隣で戦っていた門番の言動を訝しむ。

「えぇ、なんせこれだけの数と戦うのは初めてですから!」

まったく無駄なことを。どうせ数え切れずに途中で諦めるに違いない。さっきから数が減っていないんだもの。

お嬢様に紅茶を淹れていると、外が騒がしくなった。また門番が居眠りでもしているのかと思えば、聞こえてくるのは爆発音。どうも只事ではないと様子を見に外に出れば、地平を埋め尽くすほどの数の敵。異形の者や、外見だけは人間の様なもの。様々な種族で構成された部隊とでも言えばいいのだろうか。それが門前にまで迫っていた。

私は考えるまでもなく排除へと行動する。

時を止めればわけもないが、何故か発動できない。これは敵の妨害にあっていると考えるのが妥当だろう。ならば厄介なことこの上ない。言うまでもなく、私は人間だ。

これだけの数を相手にしていれば、そのうち体力の限界が訪れるだろう。そうなれば、頼りにしなくてはいけないのはこの門番。

先日の創造神様の弟子だと初めて知ったが、それだけの実力があるという事だ。非常に悔しいが、美鈴の援護にまわる他ない。

「美鈴!何があってもこの門は死守するのよ!!」

「勿論です!!」

そう言って、美鈴は敵の中へと突っ込む。

この時ばかりは、美鈴が頼もしく思えた。

 

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光の届かない暗闇の中、男は笑っていた。それはいつも見る貼り付けた笑みで、他人から見れば薄気味悪い、何を考えているかわからない不快なものだった。

 

男は長年待ち続けた。

あの日、浅はかな自らの策略を崩され、その身を一度滅ぼしながらも、再起を誓っていた。

いつぞや、創造神に話した、『目的など何も無い』の台詞。あれは真っ赤な嘘だ。男には明確なまでの目的があり、その為ならば何を犠牲にしても良いとまで思っていた。

 

「さぁ、これで終わりですよ。創造神」

 

いつの間にか声を上げて笑っていた男は、初めて人間らしい笑を零した。

それは邪悪なまでの、狂気に満ちた笑いだった。




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