「神力解放。神様モード」
両手を合わせて、制限を外す。身の内から溢れる力を制御し、能力の行使に充てる。
「えーと……元はどんな形だったっけ?」
確か、全体的に紅くて……。そういや中を見て回るなんて事をしてなかったな。内装が全くわからん。
「……適当でいっか」
「し、師匠。出来れば過度な改装はしないで欲しいのですが……」
隣に立つ美鈴は、久しぶりに俺の神力を受けたからか、額に汗をかいていた。
「……善処しよう」
空を覆っていた紅い霧が晴れた頃には、すっかりと日は沈み、太陽の代わりに丸い月が浮かんでいた。
妹が暴れた結果、無残な姿となった館では、一夜を過ごすこともままならない為、全壊の責任の一端がある俺が直すこととなった。
後ろでは吸血鬼姉妹と博麗の巫女、パジャマの様な格好をした少女とメイド姿の女性が心配そうに見ている。
ってか、こんなにいたのか。
「……しょうがない。暴れた責任もあるし、頑張るか」
合わせた両手から、瓦礫の山へと神力を注ぎ込む。瓦礫の一つ一つに行き渡ると、淡く光だし、空中へと浮かんだ。
「……俺、こういうパズルみたいなのって苦手なんだよな」
それぞれの瓦礫を組み合わせ、元の形へと修復する。
まったく別の形にするならば、俺の想像に任せて好き勝手に出来るが、今回は出来る限り元の形に戻すのが目的。
詳しく見ていない中までは、俺の想像が行き届かない。そうすると、壊れた破片を繋ぎ合わせて、元のパーツから全体の形を予想するしかない。
「……面倒臭」
「あの……私も……手伝う……」
ふと後ろから声がかけられた。振り返れば涙で目元赤く腫らしま幼女が立っている。
先程まで、溜まっていた鬱憤を晴らすように泣き濡らした吸血鬼の妹。それが今は、俺に若干の怯えを見せつつも、憑き物が落ちたような、スッキリとした顔をしていた。
「……そうか、なら手伝って貰おうかな」
俺は妹の頭に手を置く。
一瞬表情を硬くしたが、その手が傷つけるものではないと知ると、身を任せた。
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「お姉様と一緒にいたかっただけなのに……」
その一言は、私の胸を抉るように響いた。
彼女は、私の妹はたったそれだけの願いで、自由になろうとしていたのか。
そして私は、そんな小さな願いすら、知らなかったのか。
数百年ぶりに姿を見せた我が妹。その心は狂気に蝕まれ、破壊衝動を抑えられずにいるはずだった。現に、彼女はこれだけの被害をもたらしている。
それを抑えるために、私は地下室へと監禁することを選んだ。それが彼女の為になると信じていた。
「だそうだ、吸血鬼姉」
「……」
言葉が出なかった。こんな見ず知らずの男に、気付かされるなんて。
妹は涙を流し、恐怖で竦んでいる。今、妹を救えるのは私しかいない。震える足を奮い立たせ、私は1歩踏み出す。
妹を疎ましく思う姉が何処にいる。家族を見捨てる者が何処にいる。
「……私の……私の妹に手を出すな!!」
その言葉は心からの叫び。吸血鬼としての威厳とか、プライドとか、そんなものはどうでもいい。妹を、フランを守れなくして、何が
「お……姉様……」
「私の家族に、妹にこれ以上なにかしてみろ!!生まれてきたことを後悔させてやる!!」
気がつけば涙が溢れていた。それは恐怖からなのか、妹への後悔からなのか、今となっては分からないけれど。
「それがお前の答えか?」
男はゆっくりと振り返る。その目は、今まで生きてきた中で、見たことがないくらいに鋭く。吸血鬼である私ですら、身の竦むような殺意に充ちていた。しかしここで退くわけにはいかない。
「……」
男は無言で刀を振り上げる。有り得ないほどの霊力を纏った1振りの刀は、妖しくも美しく光っていた。
「まったく。その一言を何でもっと早く言ってやらないかね」
気が付くと、男は刀を鞘に収め、先程までの殺気はなりを潜めていた。
その表情は穏やかなものとなり、まるで子供を窘める父親のそれに近いと思う。
「吸血鬼妹、お前の望むものは、何かを壊して手に入れられるようなもんじゃない。壊すだけが解決策じゃない。もっと自分の姉を信じてみろ」
しゃがみこみ、フランと目線を同じくした男が優しく語りかける。
「そんで、吸血鬼姉。お前には能力より、力よりも強力な物を持っているじゃないか。言葉とは、相手を傷つけるだけじゃない。こうやって、大切なものを守ることも出来るんだ。大切なものを守るためなら、プライドや矜持なんてなんの役にも立たんぞ」
返す言葉がない。私の一言で、フランは驚きながらもより一層涙を流していた。それは先程までの恐怖ではなく、もっと別の、私には美しいものに見えた。
「さて、そんじゃ最後の仕上げといきますか」
男はフランへと近づく。その姿には、妹を傷つける不安は感じられず、まるで癒す為かのような雰囲気だった。
「出てこいよ、無明。いるんだろ」
何者かの名前を呼ぶと、フランから黒いモヤのような物が立ち込めた。
モヤは次第に人の形へと変わっていき、朧気ながらもまた別の男が現れる。
「気が付いていましたか、流石創造神」
「黙れ。良くもまぁこれだけの事をしてくれたな」
黒いモヤの男は、薄っぺらい笑みを浮かべ、その全てが胡散臭く、また悪意に充ちているようだ。
「……まぁ、今回はこれで退きましょう。いずれまた、お会いすることでしょうし」
そう言い残し、モヤは再び空へと上り消えていった。
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「よし!こんなもんか?」
暫くすると、紅い館は来た時と同じ姿を取り戻していた。
まるでここでの争いなど、初めからなかったかの様に。
「流石師匠。すっかり元通りですね」
「神様舐めんなよー」
軽快に笑い飛ばす男、門番が言うにはこの世界の創造神だと言う。確かに、館を直す際に見せた神力ほ、私の知る限りではとてつもない神々しさを放っていた。
しかしながら、油断するわけにもいかない。こんな奴が幻想郷にいたなんて、私は知らなかったのだから。
「……もういいかしら?アンタ一体何者なの?」
私は男に近づき、問いかける。あれだけの戦闘の中、男の姿には一切の汚れも、ましてや疲労も見られない。
「んぁ?美鈴から聞いてないのか?」
そう言って隣の門番の頭をポンポンと叩く。
「さっきも言ったろ?俺はこの世界の創造神。そんでコイツの師匠。神条霞だ、以後よろしく」
「……それを信じろと?」
「寧ろ信じられないと?」
確かに、目の前で瞬く間に修復されていく館を見れば、疑いようは無い。そして門番から放たれた凄まじいまでの殺気を思い出せば、信じざるを得ない。
「……そんじゃ、そろそろ帰るかな」
「ちょ、まだ話は終わってないわよ!!」
帰ろうとする男を呼び止める。
「あー。詳しいことは後で話してやるからさ、今は帰らせてくれ博麗の巫女」
「……」
後でっていつよ!
そう怒鳴ってやりたかったが、なんとなく私の勘がその機会はすぐに訪れると告げていた。
「んじゃな、吸血鬼姉妹とその他諸々。……今度はケンカすんなよ?」
そう言って、男は飛び上がり、空へと消えていった。
本当に、あの男は何者なのだろう。
私の胸には、疑問だけが留まっていた。
「なんか、私達空気だぜ」
「お嬢様、とりあえずお夕食に致します」
「ゴホッゴホッ……死ぬかと思った」
再び会える、その勘は予想よりも早く実現することとなった。
「おう、おかえり当代の巫女」
「なんでアンタがココにいるのよ!!」
作「最後の方は、ほんと魔理沙とか空気だったなぁ」
魔「扱いの改善をよーきゅーするぜ!」
作「だが断る!!」
小悪魔「……なんか私のいない間に話が終わっちゃったんですけど……」
作・魔「あっ……」
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