東方古神録   作:しおさば

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どうも、最近仕事で夜勤が続き、昼間に眠気マックスを迎えるしおさばです。

今回から新章、そしてあの子達が登場です。

……漸くココまで来たよ……


赤い館の少女らしい
71話/巫女と魔法使い


 

空の天辺に昇った太陽は、容赦なく大地を照りつけて、比較的涼しいはずの服装なのにジンワリと汗が吹き出る。

時折吹き抜ける風が唯一の救いと言わんばかりに、私の体の熱をほんの少しだけ奪ってくれた。

そんな、普通ならば一刻も早く日陰の中に入り込みたい状況だけど、日課の掃除が終わらない以上それも出来ない。まぁ、誰も来ないのだから掃除なんてしなくてもいいと思うのだけど。逆に言えば、『掃除くらいしかすることが無い』と言うことでもある。

蒸し暑い中、何もすることなくダラダラと過ごすのは、ある意味苦行だと私は思う。ならば少しでも体を動かして、その後にお風呂でも入るのが一番だ。

そんな事を考えながら、一向に弱まることのない直射日光を浴びつつ、私は掃除を続ける。

せめて参拝者の1人でも来れば、やる気も出るってものなんだけど。

 

一通りの掃除を終えると、私は以前友人から貰った茶菓子とお茶を用意する。

それらを縁側へと持っていき、腰を下ろすと心地よい風が頬を撫ぜた。これで今日の予定は終了。残りの時間は何もすることは無い。まぁ、こんな暑い中では何もする気は起きないけど。

茶菓子の饅頭を口に放り込む。人里では有名な菓子店の、薄皮饅頭らしい。なるほど、これはそんじょそこらの饅頭よりも格別に美味しい。

私が良い友人を持ったと考えていると、空から大きな声で誰かに呼ばれた。いや、読んでいる相手はわかっている。この饅頭をくれたのとは別の……友人とはとても言いにくいような、そんな相手だった。

そいつは庭に降り立つと、いつも通りの賑やかな話し方で勝手に縁側へと座る。その流れで遠慮なく饅頭にまで手を伸ばすものだから質が悪い。せめて私に許可を貰ってから食べなさいよ。聞かれても答えは決まっているけど。

ま、少なくとも暇つぶしの話し相手にはなるかしらね。その駄賃と考えれば、お茶くらいは用意してやらなくもないか。

そんな事、口が裂けても言えないけれど。

 

相変わらず、男性のような話し方の友人は、話のネタに事欠かないのか、何時でも何かしらの話を持ってくる。

先日は確か、家の近くの森で珍しいキノコを食べたら三日間笑いが止まらなかったとか。普通に考えれば、そんなキノコを食べる方がおかしいのだけれども。

そして今日は、ここから少し離れた所にある湖の近くに、見慣れない大きな館が出来たそうだ。どうやらその館は全体を赤く染めており、昼間は全くと言っていいほど人の気配が無いそうだ。なんとも、人里の子供たちが好みそうな噂話だ。そう考えれば、この友人も何処か子供っぽいところがある。

そんな他愛もない話を続けていた、そんな時事件は起こった。最初に気がついたのは友人だった。辺りから感じる空気が異様なものになったと告げる。言われて見れば、どうも薄らとだが紅い霧のようなものが辺りを埋めている。

それは次第に濃くなり、少しすれば日光をも遮るほどに濃い霧が空を覆っていた。

これはどう考えても自然現象なんかじゃ無い。明らかに人為的に起こされた、つまりは『異変』だろう。

……まったく。いくら暇だからと言っても、異変までは起こされたくわなかったわ。

私は最後の饅頭を口に入れると立ち上がる。友人も同時に腰を上げた。どうやら一緒に付いてくるつもりらしい。これは私の仕事で、彼女は本来関係ないはずなのだが。多分いくら言っても無駄だろうし、ここは口を噤んでおこう。

 

さて、夕飯までには終わらせたいんだけどな。

「行こうぜ!霊夢」

「はいはい、わかったわよ魔理沙」

 

こうして、夏のある日に起こった、後に『紅霧異変』と呼ばれる異変の解決に私たちは乗り出した。

まさか、幻想郷全体を危機に陥れる事件へと繋がっているとは、露とも知らずに。

 

 

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「……そろそろ、帰っても宜しいでしょうか」

「ダメに決まっているでしょう」

書類で埋め尽くされた机を挟んで対面に座る女性は、一切視線を外すことなく俺を睨み続けている。

まぁ、月夜見なのだが。

「お父上様が長年ふらついていたお陰で、溜まりに溜まった書類たちです。いい加減処理していただかなければ」

俺は今、高天原に居る。居ると言うか、強制的に連れてこられたのだが。

あれは数十年前に遡る。

いつも通り博麗神社でノンビリと過ごしていた時の事だ。

いくら無明がいつ攻めて来るかわからないとは言え、常時気を張り詰めているわけにもいかない。

そんなある日、俺の目の前に突然天照と月夜見が降り立った。天照は申し訳なさそうに、月夜見は無表情で。俺は咄嗟に察した、月夜見が無表情な場合、かなり怒っている証拠だ。そしてその原因の大半は天照か俺ということになる。

「な、何か用かな?」

「えぇ、お父上様には高天原に来ていただきます」

「えーと……拒否権は?」

そう言うと、その日初めて月夜見は笑ったと天照は後に教えてくれた。

あの笑顔はヤバイ。どれ位ヤバイかって言うと、その笑顔だけで少なくとも下級妖怪はあまりの恐怖に爆発四散するだろう。それぐらいの威圧感と恐怖があった。

「もし宜しければお試しになってみてわ?」

「遠慮しときます」

その後、強制連行される際に、どうしても付いていくと駄々をこねた夢乃を連れて、俺達は高天原へと赴いた。

その理由は先程も月夜見が言ったように、俺が今まで神として処理しなければいけなかった事案等。溜まりまくった書類の山だった。

「お父上様が行方不明になられた時からたの分です。これ位ならば数十年で終わるでしょう」

俺は耳を疑ったわ。書類仕事で数十年って。普通ならば過労死してしまうわ。

「お父上様は普通じゃないので大丈夫です」

そう言うと、机の向かいに座る月夜見。どうやら監視をするつもりらしい。

 

「でも、今まではこれだけの仕事を誰がやってくれていたんだ?」

「なんですか急に。天照ですよ」

あぁ、あのファザコン娘か。何となく納得してしまった。

「しかし、お父上様が行方不明になられると、自分の仕事も放っておいて、捜索に精を出しましてね」

どうも月夜見の怒りの原因はココらしい。

「つまりお父上様と天照と自分の分の仕事を、私は行っていたのですよ」

「大変申し訳ございませんでした」

コレばっかりは素直に謝らざるを得ない。なんせ仕事を放棄したのは俺なのだから。

 

そんな書類仕事も、のこり僅かと言ったところまで減ってきた頃。突然別室に滞在していた夢乃が執務室に駆け込んできた。

「霞様!幻想郷で異変が起きています!!」

「あー。うん。博麗の巫女に任せておきな〜」

それが巫女の仕事なのだから。異変と呼ばれる事件の解決、及び人間に不必要に危害を加える妖怪の排除、それらが博麗の巫女の仕事だ。どうも『自由を司る神』の巫女とは思えない内容だが、こればかりは俺が決めたことじゃない。

「異変の方は多分それで大丈夫だと思いますが、なにやら不穏な気配が」

「不穏?」

「えぇ……まるであの男(・・・)とあった時のような……」

あの男。その単語を聞いた瞬間に、俺の身体は動いていた。

遂に攻めてきた。そう思った。

 

今度こそ、逃がさない。

俺は部屋を飛び出し、ワームホールを開く。誰も傷付けないように、誰も悲しむことのないように。俺は再び、幻想郷へと向かう。

こうして、俺と無明の戦争が静かに始まっていくのだった。




ってなわけで幻想郷です。
ココから原作基準で進みますよー!!


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