霞「待ってる人なんて居るのか?」
作「……居てくれると良いなぁ」
不死鳥と言うのを知っているだろうか。
俺は勿論、見たことなんかある訳ないが、その名前だけならば知っている。
有名どころで言えば、漫画にもなっているくらいの、想像上の生物だ。
まぁ、この世界では違うのだろうが。なんせ神話の神が普通に存在する世界なのだから、不死鳥ぐらいいるんじゃないだろうか。
なんてでこんな話をするかって?
目の前にいる人物の姿が、それを連想させたからだ。背中から生えた炎の翼は、容易に不死鳥を思わせる。さらに付け加えれば、その特徴も酷似していた。
まったく、不死とはやりにくい。
白く染まった長い髪、赤いモンペに白いシャツ。見た目は夢乃と大差ないように思えるが、実際は幾つなのだろう。
「さすが創造神ってだけはあるね」
何度目かの復活を遂げて、少女は再び翼を広げる。
炎の中から立ち上がる姿は、正しく不死鳥に見えた。
「んぁ?俺を知っているのか」
「当たり前だろ。アンタはこの世界の創造神。だからこそ、私はアンタが嫌いだ」
俺はこの娘に恨まれるような事をしたのだろうか。今まで長く生きてきたが、ここまで恨まれるのは初めてだ。
「……んで、それは姫咲がそこに居るのと関係あるのか?」
少女の隣には、見慣れた姿。赤い着物の姫咲が立っていた。その眼は暗く沈み、大陸であった頃のモノに似ていた。
「別に、深い意味はないわ。ただ、貴方と一緒にいるのに飽きたのよ」
「……え、なにこの空気。なんか俺がフラれたみたい」
おどけて見せるが、なんの反応もない。寧ろその方が堪えるな。
「ふむ。別に、俺と居るのが苦痛なら無理に引き止めはしないよ」
そう言って夜月を抜き放つ。月に照らされた刀身は、何故か悲しそうに見えた。
「ただ、その結果で誰かが不幸になるなら、見過ごせはしない」
「……そう」
「なにカッコつけてるんだよ。アンタの相手は私だろ!」
そう言いつつ、少女は俺に向けて炎の渦をぶつける。周囲を囲まれると、一気に渦の中から酸素がなくなっていく。流石に死にはしないと言え、苦しいのは苦しい。
「水の生成。『水柱』」
俺は両手を合わせる。すると足元から水が湧き出てきて、それは数本の柱となる。炎の渦と相殺された水は蒸発し、霧となって消えた。
「その能力は厄介だね」
「そっくりそのまま返すよ」
そう言えば、不死と戦うのは初めて……か?
まったく。なんでこんな事になったんだか。
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昼を過ぎ、日が落ち始めても姫咲は姿を見せなかった。
こんな事は初めてで、俺と夢乃は暫くの間街中を探し回ったりもした。
夜の帳が降りて、しょうがなく今日の捜索を打ち切ったのは数時間前。俺達は1人欠けてしまった食卓を囲み、静かな夕食を取ることにした。
良く考えれば、俺と一緒にいた期間が1番長いのが姫咲だった。長い事行動を共にしていたからか、1日でもその姿を見ないとなると、何故か無性に不安になった。
「大丈夫ですよ。あの姫咲さんですから、きっと明日には帰ってきます」
と、夢乃の言葉には素直に頷くことが出来ない。何故だろう、あの日と同じ、夢乃を不死にしてしまった日と同じ様な気味の悪さが胸を襲っている。いつまでも飲み下せないこの不安は、ずっと喉元に刃を突き立てられているような、焦燥感を覚える。
夕食を終えた俺は外に出た。もう今日何度目かの、妖力を探してみる。範囲はとりあえずこの日本全域。これだけ探しても見つからないのだから、この周辺には居ないのだろう。
「……神力解放。神様モード」
俺は両手を合わせ、神力を解放する。
俺を中心に広がっていく神力の波。波は光よりも速く広がり、返す波のように戻ってくる。
「……」
その結果、日本の何処にも姫咲の妖力を感じることは出来なかった。
いったい何処に行ったのだ。再び大陸にでも行ったのだろうか。もしくは妖力を封じられ、身動きできないとか?
様々な憶測が頭の中を駆け巡っていった。
しかし、そのどれもが姫咲を知っているのならば、ありえない事だと結論付ける。
アイツを封じることが出来るヤツなど、この世に何人も居ないだろうし、ましてや俺に一言もなく大陸に渡るなど無いと思う。
そして、その全てが正しかったと裏付けされることになる。
突如轟音とも言えるような爆発音とともに、炎が俺を襲った。
咄嗟のことだったからか、避けきれず俺は右足を火傷してしまう。
「あっちぃ!!」
未だに燻っている着物の残り火を手で払うと、炎の出処を探る。
「本当なら『熱い』程度で済まないんだけど。流石だね」
「……誰だ?」
闇の中から出てきたのは、1人の少女だった。
「どうも初めまして。アンタを殺しに来たよ」
どうも最近の人間は常識が無いらしいな。いきなり現れて『殺す』と言われるとは。神様悲しくなるぞ。
そんな呑気なことを考えていられたのは一瞬で。少女の後ろから出てきた人物を見て、一気に頭の中は混乱を極めた。
「……姫咲?」
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「霞様!!」
「……おや、誰かと思えば出来損ないの巫女じゃないか」
アレだけ暴れたら気がつくだろう。夢乃が館から飛び出してきた。
その夢乃を見た少女は、まるで夢乃を知っているかのように毒を吐く。
「……お前、ホントに何者だ」
流石に仲間を悪く言われて気分が良い訳もなく。俺は語気を強めた。
「ふふ。余所見してて良いのかい?」
そう言って少女は指を伸ばす。その先には姫咲が夢乃に襲いかかる姿があった。
「!?夢乃!!」
咄嗟に俺は辺りを『掌握』する。
これによって姫咲の拳は夢乃に当たることなく空を切った。
「姫咲、なんのつもりだ」
「……なんのつもり?忘れたの?私は妖怪よ?人間を襲うのに理由が必要かしら」
「……お前」
言っていることは至極当然の事なのだが、それを姫咲が吐いた台詞だと思いたくはなかった。
俺と共に夢乃とだって短い付き合いじゃない。そんな相手をなんの躊躇もなく襲うとは、思いたくなかったのだ。
「そろそろ時間かな」
突然少女が言った。
振り返ると少女は頭上に巨大な火球を作り出していた。
その大きさは優に館を飲み込むほどの大きさで、落ちれば死なないとは言え、俺も無傷では済まないだろう。
幸いと言えるのは、掌握しているから夢乃やこの周辺への被害は無いと言うことだ。
「どうせ死なないんだろ?」
「死ななくても痛いものは痛いんだよ!!」
俺が少女に向けて飛び上がると同時に、少女は両手を勢いよく下ろし、火球はその高度を落としていった。
徐々に大きくなる炎の塊は、目の前まで迫ると視界を埋め尽くす。
「断ち切れ、夜月!」
夜月を振り抜き、火球を斬りつけるとソレは霧のように消えていく。
「だと思った!!」
火球の後ろから少女が現れ、刀を振り抜き隙の出来た俺の腹に衝撃が走る。
「ぐっ!!」
俺は勢いを殺すことが出来ず、そのまま地面へと落ちた。
「アンタの戦い方は知ってるよ。嫌というほど
「……あの人?」
いったい誰の事だ、と聞こうとした瞬間。そいつは現れた。長年探し続けた男。夢乃の人生を変えた男。
「喋りすぎですよ、妹紅」
「……無明!!」
作「次回でこの章は終わり!」
霞「この章で状況がグルングルン変わっていって、俺でも追いついてないんだが」
作「主人公がそれ言っちゃダメでしょ」
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