霞「あと何話くらいなんだ?」
作「一応、次回で終わりですね」
霞「長いようで短かったな」
「……」
どうも、異世界を旅行中の創造神。霞です。
迷い込んだ世界の神であるユウに案内されて、現在『太陽の畑』と呼ばれる場所に来ています。
んでもって、そこを管理している妖怪とちょっとじゃれあったのだけど……。
「……ここまで綺麗な土下座は久しぶりに見たな」
「師匠、流石にやりすぎちゃいましたものね」
「力加減が下手なのよ」
もったくもって反論できない。
最後の最後、幽香が全力の一撃を繰り出してそれを迎え撃つのに、ちょっとだけ力が入ってしまったようで。
幽香の一撃をいとも簡単に打ち破った俺は、その勢いのまま普通に殴ってしまった。まぁ、簡単に結果だけ言えば幽香は気を失い、寝込んでいる。
「言い訳できねぇ……」
「ま、まぁ幽香自体が勝負を仕掛けたんだし、その結果がどうであれ、文句は無いはずさ」
そうであれば良いんだが。
目が覚めた幽香は、俺に負けた事が悔しいのか、最初は苦虫を潰したような顔をしていた。が、俺の十八番でもある土下座を目にして、目を丸くしていた。
「気にしてないわよ。私が貴方より弱かった、ただそれだけの事でしょう」
「そうか?」
ならば肩の荷が降りるってもんだ。
「それにしても、流石に強すぎない?」
「……そりゃそうだろ。幽香が相手にしていたのは別世界とはいえ、創造神なんだから」
「……はい?」
なんだよその反応。らしくないってか?
「そりゃそうでしょ。……まぁそれに関してはユウもあんまり人の事は言えないけど。神様ってもっと恭しいものだと思ってたわ」
んな堅苦しくなんてしても、なんも良い事なんてないだろ。
それに、俺は自由を司る神だしな。
「いや、霞はもうちょい威厳とか出した方がいいと思うぞ?」
「そうか?」
なるほど。威厳ね。
……んなもんどうやりゃいいんだろ。
太陽の畑を後にした俺達は、いきなりスキマから顔を出した紫の勧めで、夕食をご馳走になる為紫の家に向かっていた。
「良いのか?お邪魔しちゃって」
「構わないわ。そちらの世界の話も聞きたいし」
まぁ、そんなことで良ければ幾らでも。
……しかしながら、改めて思う。
コチラの紫と俺の知っている紫が同じとは言わないが、こんなふうに成長するのかと思うと感慨深いものがある。
暫く会っていないが元気でやっているのだろうか。頼りがないのは……ってやつか?
「さ、早く帰りましょ。今日はユウの好きなマグロの赤身も用意してあるわよ」
「なんだと?!……霞、急ぐぞ」
好物なのだろう赤身という単語を聞いたユウは、あからさまにそのスピードを上げる。いや、そんなに急がれても俺は着いていけるが、紫は無理じゃないか?
「……お子様だな」
「そこが可愛いのよ!!」
あぁ、これはこの反応を見たくて言ったな。
「タダでさえ可愛くて抱き心地抜群で、その上強いってのにあんな子供心も持ち合わせているなんて!最高じゃない!!」
「……あぁ、はいはい」
まったく、やっぱりどんな世界でも紫は紫のようだ。
八雲家に着くと紫の式の藍が迎えてくれた。
昼間にあった時とは違い、今は割烹着に身を包んでいて。何処か高級料亭の女将のような容姿に、落ち着ける田舎の宿の雰囲気を纏った、なんとも不釣り合いな出で立ちな筈なのに凄く似合っていた。
「お食事の用意は出来ております。どうぞ居間の方へ」
「……ほぉ、流石九尾の狐。こういった持て成しも様になっているな」
褒められて嬉しいのか、金色に輝く尻尾が少し揺れている。
「で、どうなんだ?帰れそうなのか?」
「んぁ?」
用意された夕食に舌鼓を打ち、もてなされるだけでは心苦しいのでコチラも御神酒を振舞っていると、ユウが切り出した。
「そうだな。そろそろ計算も終わりそうだし、明日には帰れるだろう」
「おぉ、そうか」
昼間からずっと、薄く神力を張り巡らせこの世界の情報を集めていた。他の生物に影響を与えないように、探知できなほどの薄さでの操作は、他の作業が疎かになるから嫌なのだが。
大凡の計算は終えたので、後は誤差の出ないようにするだけ。また異世界に飛ばされるなんてまっぴらゴメンだからな。
食事も終え、一夜の宿を提供してもらい、姫咲と美鈴は既に床についていた。
俺は屋根の上に上り、月を眺めつつ酒を飲んでいた。
「……なんだ。こんなところに居たのか」
「ん?ユウか」
「何してるんだ?」
空を飛んで屋根まで上ったユウは、俺の隣に腰を下ろす。俺はもう一つ杯を創り差し出すと、酒を注いでやった。
「ただの月見酒だよ」
「ふーん。なんとも風流だな」
雲一つない空に浮かんだ月は、遮るものがないからか綺麗に酒に映る。
「……少しばかりだったが、楽しかったよ」
「……そりゃ良かった」
多分、俺の世界の紫が夢見るのは、こういった人間も妖怪もそれ以外も、同じ空気を吸って、いがみ合いながらも許し合い、相反しながらもその境界を有耶無耶にする様な、そんな世界なんだと思う。
もし同じような世界を作れたとしたら、これほど素晴らしい事は無いだろう。
「……できるさ。なんせ霞の弟子なんだろう?俺の弟子でも出来たんだ」
「……そうだな」
それはなんの根拠もない言葉ではあったが、お互いに確信に近い物を胸に感じていた。
その後は二人とも多くを語らず、ただ酒を酌み交わし続けた。
美「お土産は何しましょうか?」
姫「この何も入ってない賽銭箱でいいんじゃない?」
霞「やめてさしあげて!!」