霞「こんな奴がナマモノ代表とか、世も末だな」
作「なにを?!」
霞「いっそのこと焼いちまおうか?」
作「やめて!ただの美味しい焼き魚になっちゃう!!」
霞「定食のおかずめ」
作「定食?!ご飯と味噌汁つきなの?!ご飯おかわり自由なの?!」
「おら、次!」
向かってくる妖怪を蹴り飛ばし、次を迎える。光の届かない、暗い路地裏で俺と姫咲は戦っていた。
文明開化以来、少しずつ弱体化しつつある妖怪は、その数を減らしていた。
だが、その代わりに妖怪達は生き残るため、より凶暴に人間を襲うようになった。
俺たちは、各地を巡り、あの男の情報を集めると同時に、こうやって妖怪共を討伐していた。
「……ねぇ。霞」
「んぁ?なんだ?」
俺の背後で戦っていた姫咲と背中合わせになる。
「なんか今日、多くない?」
「……あ、やっぱり?」
どうも今日は様子がおかしい。
いつもならば多くて10匹程だと言うのに、今日に限ってその数を増やし、ざっと見た限りは100をゆうに超えているのではないだろうか。
「なんだ?今日は出血大サービスってやつか?」
「なに余裕ぶってんのよ。アンタのおかげでコッチは満足に戦えないってのに」
俺達は今、霊力も妖力も、その一切の能力を使っていない。
俺達が力を使えば、必ずと言っていいほど天照や紫達に探知される。それではアイツらから離れた意味がない。
だから、能力無しの純粋な体力のみで戦わざるを得ない。
姫咲はそれでも十分に強いから、下級妖怪程度ならば問題は無いだろう。
問題は俺だった。霊力も、ましてや神力も使わないとなると、至って普通の人間と変わらない。
なんとかやってこれたのは、これまでの経験と不死の身体故だろう。
「今更文句言うなよ」
「まったく」
その時、俺達は油断していたんだと思う。
いつもならば躱すことすらなんの問題もない、ただの妖力弾。
気付けばそれは目の前まで迫っていた。力の弱くなった妖怪とは言え、今の俺は普通の人間なのだから、まともに喰らえば死ぬ事は無いが、大怪我をするのは目に見えていた。だからこそ、油断も慢心もすること無くここまで来ていたのだが、
「くそっ!」
俺は夜月を振り抜き、その刀身で受けるが、体制を崩してしまう。
妖怪がその隙を見逃すわけもなく、一斉に飛び掛る。
世界がスローモーションに見えていた。
それぞれの牙や爪を鋭く光らせ、俺を喰いちぎらんと目を血走らせている。
『間に合わない?!』
刀を弾かれ、大きく崩した体制は容易に戻せなかった。しょうがない、腕の1本位はくれてやるか。
そう覚悟した。
その覚悟は、思いもよらず無駄に終わった。
「狐火!!」
無数の火の玉が、襲い来る妖怪達に確実に着弾し、燃え上がる。
「霞!?」
「お、おぅ?」
一瞬。何が起きたのかわからなかった。何処からか放たれた攻撃によって、俺は助かったようだ。
辺りを見回すが、黒く焦げた妖怪の死体の他、暗くて良く見えない。
「……まさか、私が助ける側になるとは思いもよりませんでした」
……そして気付いた。なんでこれだけ近づくまで気が付かなかったのか。明らかに周りの下級妖怪とは異質な雰囲気を纏った人物の接近に。
「……ゆ、かり」
「お久しぶりです。師匠」
ゆっくりとその姿を見せたのは、遥か昔に別れた弟子だった。
傍らには妖獣だろうか、金色に輝く尻尾を優雅に揺らす女性が立っている。
「なんで……」
「今はそれよりも、この場を収めましょう」
見ればまた数を増やした妖怪に、周りを囲まれている。
さっきから討っても討っても一向に数が減っている気がしない。
「へぇ、あの子供だった紫がねぇ」
「姫咲さんは未だにツルペタなんですね」
「殺すわよ!?」
なんとも懐かしいような、そんなやり取りが聞こえてきた。何故か、それだけで俺の気持ちは少し余裕を取り戻した気がした。
「それに、そろそろあの子も来ると思いますし」
「あの子?」
紫は優雅に手に持った扇子を振ると、無数の隙間を展開し、それぞれから妖力弾を放つ。
随分と見ない間に成長したようだ。
「師匠のよく知る子です」
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親しげに紫様と話す男を、私は備に観察していた。
どこからどう見ても普通の人間にしか見えない。多少は戦闘の心得があるようだが、それでも霊力すら使えないのはどういう事だ。
紫様が語る『師匠』と呼ぶ人物と、その容姿は一致するが。なんとも納得のいかない、疑惑の念が浮かび上がる。
この人間は、本当に紫様の恩人たる人物なのだろうか。
こうやって見ていても、何度か危うい場面があるくらいだ。
「どこを見ている!!」
珍しく言語を解する下級妖怪が、余所見をしていた私にその爪を立てようと迫っていた。なんとも舐められたものだ。この妖力の差がわからないのか。
「ひれ伏せ。我は九尾の妖狐。八雲紫様の式、八雲藍だ!」
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「ふむ。紫と狐さんが来たってのに、なんでこうも数が減らない?」
「どうやら暗闇から次々に生み出されているようですね」
元々いた妖怪の妖気に釣られて、集まってきたのかと思っていたが、どうも違うようだ。『何か』の影響なのか、それとも……。
「なんにしろ、その発生源を叩くしかないか」
俺は夜月を再び構える。まったく、予感的中で面倒臭い事になったもんだ。
俺は妖怪の群れに向かって駆けようとした。
……そう、駆けようとしたんだ。
あの声を聞くまでは。
『封印!!』
作「次回、ようやく落ち着くかな?」
霞「俺としては不穏なんだが?」
作「あ、落ち着くってのは作者的になんで、気にしないでください」
霞「……やっぱりコイツ焼いちまうか」
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