東方古神録   作:しおさば

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作「はい、酒を飲みながら書いてます」

霞「大丈夫なのか?」

作「とりあえず、友人は1発殴りましたよ?」

霞「そんな心配してねぇよ」


62話/Kill or Die

鋭い金属音が辺りに響き渡る。

神力を纏った夜月を振るって、何度も斬りつけているはずなのに、男はその度に何事も無かったかのように起き上がり、右手をコチラに伸ばす。

どうやら何か能力と関係あるのか、執拗に右手で俺に触れようとする。

そんな見え透いた策に態々乗ってやる必要は無い。

要は右手に触れなければいい。常に相手の左側へと移動し、触れそうになれば穴を開いて躱す。そんな事を続けて早くも10分程が経っただろうか。この状態にまでなっているのに、コレだけ時間がかかったのは初めてだ。

「うーん。そろそろ時間もありませんし、終わらせましょうか」

「ならさっさと死ね」

俺は夜月を両手で構える。なりふり構ってられるか。

この辺り一体ごとコイツを断ち切ってやる。

「断ち切れ!夜づ……」

「遅いですよ」

突然、男は俺の視界から消えた。

今の俺が視認出来ないなんて、本来ならば有り得ない。

しかしその有り得ない事が、現実として目の前で起こっているのだ。

そして俺の肩に手が置かれた。

「マズはその有り得ない程の神力をいただきます」

そう言うと、俺の身体から神力が抜けていく。何だ?何をした?!

俺は無理矢理身体を捻り、男の手を振りほどく。辛うじて飛び退き間を取るが、全身を襲う倦怠感に似た疲れから、思うように動けない。

「……流石ですね。まさか1度では全てを奪えないとは」

「……それが、お前の能力か……」

夜月を杖のように突き刺し、身体を支えると、男を睨む。コイツの能力は『相手の力を奪う』能力の様だ。

 

そう、奪われたのだ。俺の神力を。

なら奪われた力はどうなる?

 

「これが神の力ですか。なるほど、これなら妖怪や人間が太刀打ち出来るはずもありませんね」

男から溢れる青く光る神力。

「……テメェ。何が目的だ」

「ふむ。目的……ですか」

そう言うと男--無明と言ったか--は顎に手を当て考える。

「特にありませんよ」

「……ない、だと?」

なんの目的も無く、こんな事を起こせるのか。無残にも人を殺せるというのか。

「目的も目標も野望も、夢も希望もありません。しかし何も無いからこそ、挫折も絶望も味わうことが無い。それでいいじゃないですか」

「テメェが良かろうが、それを他人に押し付けるな」

神力を奪われ、神様モードを維持出来なくなった俺は、遂には人間へと戻ってしまう。

「私は押し付けてなどいませんよ。周りが勝手に挫折し、勝手に絶望しているのです」

それを押し付けと言うんだよ。

残った霊力は、この男と対峙するには余りにも心許ない。恐らく、数分と持たずに、残りの力も奪われてしまうだろう。

長く生きて、神力と霊力が無くなってしまう状況などなったことは無いが、多分無事では済まないだろう。

それに、力を失った俺を生かしておく必要が、コイツにあるとは思えない。

少なくとも、死にはしないが。

 

出来れば夢乃だけでも場所を移動させたいんだが。そんな隙を見逃してはくれないだろう。

なら、多少傷を受けたとしても穴を開くべきか。

 

そんな事を考えている時だった。

 

 

 

「霞!!」

 

俺を呼ぶ声がした。

振り返らなくてもわかる声の主。その声は、俺にとって僅かながらに安心感を与えてくれた。

「姫咲!!夢乃を頼む!!」

俺は辛うじて両手を合わせる。隙なんかいくらでも突けばいい。いくらでも俺から力を奪えばいい。

「行けぇっ!!」

「わ、わかった!!」

 

 

 

「まったく。油断してしまいましたよ」

心にもないようなセリフを吐く。いけ好かない野郎だ。

でもこれで、心なしか気分は軽くなる。

依然余裕なんか微塵もない状況だが、それでも覚悟を決める隙間は心に出来た。

「さて、残りも頂きましょ……?!」

多分、俺は笑っていたんだろう。男の目には不可解なモノを見るような色が映った。

「何が……可笑しいのですか?」

「……可笑しい?いや、全く。今にもぶっ倒れそうで、死ぬ程疲れてるよ。でも……」

残りカスの様な霊力を全身へと巡らせる。やっとの事で背筋を伸ばすと、空を見上げた。今になって気が付いたが、今日は雨が降りそうな、厚い雲に覆われた空だったんだな。

「覚悟は……決まった」

夜月を構える。神力を失った夜月は、その能力すら発動できない。恐らく強力な一撃を加えられれば、簡単に折れてしまうだろう。

「遊んでやるから……かかってこい」

「減らず口を」

そう言って迫る右手。どうせこの体力では躱すことなど出来ないのだから、くらう覚悟を決める。

「欲しけりゃくれてやる!!」

顔に触れた右手を意に介さず、俺は夜月を横に薙ぐ。

腹に触れた刃は、微かな抵抗もなく光の軌跡を残して、振り抜かれた。

 

 

 

 

 

「と、最後の一撃も虚しく終わりましたね」

全ての力を奪われた俺は、動く事も出来ない身体を横たえ、俺は無明を見上げる。

確かに胴を両断した筈なのに。何故、コイツは生きているんだ。

何故、傷一つ無いんだ。

「さて、これでやっと貴方の能力をいただけますね」

「……な、に?!」

力だけでなく、能力まで奪えるのか?!

……なるほど、夢乃の能力を奪ったわけだ。だから、俺の『予想を上回る』結果に辿り着くはずだ。どんなに無心で戦おうとも、少なからず予測をたててしまう。そして夢乃の能力はその予想や予想を確実に超えてくる。ならばコイツが無傷なのも納得がいく。

「……いただきます」

無明の手が俺へと伸びる。

俺の能力。『あらゆるモノを創造し操る能力』を奪うつもりだったのか。

だが、こんな奴に奪われてしまえば、この世界は一体どうなってしまうのだろうか。考えられる最悪の結末が、一瞬にして頭の中を駆け巡った。

 

 

 

眩い光が辺りを照らす。

まるで太陽そのものが目の前に降り立ったような、目を開いていられないほどの光は、俺と無明の間を遮るように降り注ぐ。

「これ以上、父上様に手出しはさせません」

……最初は天照かと思った。コレだけの暖かい光と神々しさは、俺の知っている中でも多くはいない。

「……これはこれは。まさか貴女様がお出でになるとは予想外です」

しかし俺の予想は大きく外れた。

何億年ぶりだろう、コイツに会うのは。

あの頃からちっとも成長していないその姿は、懐かしく思う。

「……龍……神?」

「大丈夫ですか?父上様」

真っ白な着物を身にまとった姿を見ると、俺なんかよりもよっぽど神様らしい。

「遅くなってしまい、申し訳ございません。何分、準備に手間取ってしまいまして」

「お次は貴女がお相手をしていただけるので?」

龍神からは感情が読みにくい。元々表情豊かとは言えない龍神は、よりその感情に蓋をしているようだった。

「……いくら私といえ、父上様をここまで追い込んだ相手に勝てると自惚れるつもりは、毛頭ありませんよ」

「……そうですか。ならば貴女も…「そう、『一人で勝てる』とは思っていませんよ」……?!」

突如里を覆う大量の神力。無数に点在する星が全てココに落ちてきたのかと思うほどの、眩い光と共に舞い降りる者達。

「ですから、『この世界の神々』全てが、お相手を致します」

「な……!?」

そこに現れたのは日本だけに限らず、まだ見ぬ神々の姿。

西洋やアジア、邪教と言われる神まで降り立っていた。

「なるほど。全ての神ですか」

「当然です。この世界の創造神が命の危機に瀕しているのに、立ち上がらぬ神などおりません」

コレだけの神が俺のために集うとは、創造神をやっていて良かったと初めて思った。

「父上様!!」「霞!!」「霞様!!」

聞き慣れた声に、持ち上がらない頭を恨みながら目線だけ向けると、俺に駆け寄る天照と諏訪子、神奈子の姿が見えた。

「い、今神力を注ぎます!!」

天照は俺に両手を翳し、ありったけの神力を注ぎ込む。

暖かい光が全身に行き渡るようだ。

「龍神よ、この者が創造神たる霞様をここまで追い込んだと?」

「えぇ、そうですよゼウス」

おいおい。ギリシャ神話の最高神まで居るのか。

「どうやら創造神様の力を奪ったようだな」

下半身が蛇の女性までいる。何処の神だろう。

「あの方は大陸の女神、女媧様ですよ」

うわぁ。中国の神様なの?なんで蛇なの?

「……流石にコレだけの数の神を相手にするのは、骨が折れますね」

「お主に逃げ場はないぞ。この世に生きる限り、全ての神からその身は見張られ、逃れることなど叶わぬ」

流石ゼウス。その口調は威厳が感じられる。

「そうですね。ならば『この世』から逃げさせて貰います」

そう言うと無明は何も無い空中で手を払う。すると空間は裂け、何処かで見たことのあるような異空間が見えた。

「な……なんで……」

漸く身体を起こせるまでに回復した俺は、諏訪子と神奈子に支えられ、無明の開いたスキマに驚く。

「なんでお前がその能力を使える!!」

「……おや、本当にお忘れなのですね。過去に貴方とお会いした時のことを」

「過去に……会っただと?!」

いつだ。いつ、コイツに会った。

「ふふ。思い出せると良いですね。……それでは皆様、またお会い出来る時を楽しみにしていますよ」

そう言って無明はスキマへと足を踏み入れた。

徐々に閉じられていくスキマ。俺は必死に手を伸ばすが、届くはずもなく。無情にも俺の手は空を切るしか無かった。

「ふざけんな……ふざけんな!!」

 

 

 

 

そこで俺は、緊張の糸が切れてしまったのか。辛うじて繋いでいた意識を手放してしまった。

薄れていく意識の中で、最後に見たものは、『安心してください』と口の形で理解出来た龍神の優しい笑顔だった。




作「はい、次回でこの章は終わりです!」

霞「なんかこの章の始まりと比べると、一気にシリアスになったな」

作「狙い通りです」

霞「酒の入った頭で良く書けたな」

作「いや、流石にガッツリは飲んでませんから」

夢「あのー。誰か私の心配してくれませんか?」




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