夢「お恥ずかしい限りです」
霞「俺は?」
作「…………出番があるといいね」
事切れた人間が鈍い音をたてて血の海へと落とされた。
私は自分の中に蠢いていく黒い影を抑えることもせずに、声にならない声を叫んだ気がする。
あぁ、最初からこうすれば良かったんだ。
コイツらは明確な敵。
何も遠慮することは無い。
目に映る全ての敵を、跡形もなく消してしまえばいい。
相手が何を考えていても関係ない。
だって、私はその予想を超えるのだから。
深く考えなくてもいい。
地を蹴って駆け出すと、明らかに私が出せる以上の動きで相手との間を詰めた。
懐から数枚のお札を取り出すと、霊力を込める。それだけで札は硬化し、刃物と同等の切れ味を持つ。
それを相手の首に投げるだけ。そうすれば勝手に相手は油断をし、油断すればするほど、その予想を超えた結果が生み出される。
1人が断末魔をあげて倒れれば、他の敵も私の方を見る。そうだ、全部私に来い。
これ以上、里の人に手を出すな。
1人が私へと向かって走ってくる。しかしその動きは、私には止まって見えるほど遅い。
「うぉおおおおおっ!!」
私は再び叫ぶ。
この身体がどうなろうと、もはやどうでもいい。
ありったけの霊力を込めて、また私は地を蹴った。
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あの人が神社に居ると風の噂で聞いたのは、数週間前のことだった。
何時ぞやの男のせいで別れてしまったけれど、頭に付けられた札が未だにその効果を発揮していることから、どうやら死んでいないのは確かだ。
ある日を境に、私へと送られる力が少なくなったのは気になるけど。
それも会って確かめれば良い。
私は小さな身体で森の中を飛ぶ。長い事会っていないけど、私のことを忘れてはいないだろうか。あの人のことだから、そればかりは不安だ。
能力を発動しようにも、どうもこの身体では以前のように上手く扱えないし。
少なくとも、この呪いとも言える身体をどうにかしてもらわないと。
何となく軽くなる足取り。心のどこかであの人に会えるのを楽しみにしているのかしら。
だとしたらなんとも、甲斐甲斐しいものね。
式なんかに収まるような私じゃないけど。
「待ってろなのかー」
そう言って私、常闇の妖怪はその速度を上げていった。
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辺りが静寂に包まれた頃には、私の姿は血に染まっていて。元々紅い巫女服は、より黒い赤になっていた。
「へぇ、君は面白い能力を持っているんですね」
ふと、声をかけられる。そちらを向けば1人の男が立っていた。誰だろう、見覚えがないからこの里の人じゃないみたい。
「……貴方も……敵?」
「そうですね。少なくとも貴女の味方では無いですね」
そうか。なら殺さなきゃ。
目に見える敵は全部、根絶やしにしなきゃいけないんだから。
懐から幣を取り出すと、霊力で硬化させ一振りの刀と同じにする。
首を狙って横に薙ぎ払うと、相手は血を吹き出す。呆気なくも終わりのようだ。
「ふむ。驚きましたね。ワタクシに傷を付けるなんて」
「……」
不気味なことに、この男は血を垂れ流しながらも平気な顔をしている。
「あぁ、気にしなくてもいいですよ。どうせ死なないですから」
「なら死ぬまで殺す」
それが何百、何千とかかろうとも。
「……そうですね。『どうやったらワタクシは死ぬと思います?』」
男はそう言い放つ。知れたこと、人間であろうと妖怪であろうと、頭を砕けば死ぬだろう。
私は霊力を右手に込めると男の首をつかむ。この男がどんな能力を持っていようと関係ない。発動する前に殺す。
「残念ですよ。あの男に教えられているってのに。この程度ですか」
なんでだろう。
なんで私の拳は当たらないのだろう。
なんで私は地に伏せっているのだろう。
何故、私は血を流しているのだろう。
「さて、そろそろ貴女の能力をいただきましょうか」
そう言って、男は私へと手を伸ばす。何故だろう、この手に触れてはイケナイ気がする。
しかし身体が動かない。何をされたのかわからないけど、上から押さえつけられているような。指の1本も動かせない。
「あら、妙な気配を感じたから来てみたら。もう終わりなのかしら?」
その声に、やっとの事で顔を向けると1人の女性が立っていました。
その女性は短めの髪を風に靡かせ、見慣れない服装をしていた。赤い格子柄の服。その出で立ちは、強者だという雰囲気が滲み出ている。
「……何方です?」
「恥ずべき無知ね。私を知らないなんて」
それほ私もなのだが、口を開くことが出来ない私は無言でいるしかない。
「その子にはなんの興味も無いけど、貴方は面白そうね」
「……うーん。今、見ての通り忙しいんですが」
「何をするつもりか知らないけど、終わるまで待っててあげるわよ」
そう言うと、崩れた屋台から手頃な木の台を持ってくると、女性は腰をかけた。ホントに私には興味が無いんだろうな。目は男から一切離れていない。
「貴女の相手をしている時間はないのですが」
「知らないわ」
その会話を最後に、男の手は私に触れた。頭の上に置かれた手は、まるで死んだ人間のように冷たく、霞様とは正反対の悪意に満ちた手に思えた。
「いただきます」
何をされたのかわからない。
なにか私の中から抜けていったような。
喪失感はないけれど、明らかに私から『何か』が奪われた。
「……さて、貴女にはもう用はないのですが。『死にたいですか』?」
何を言っているんだろう。どこに自ら死を選ぶ人間が居るのだ。
私はお前を殺して、生きる。
それ以外の選択肢なんてあるわけがない。
「考えましたね?『生き残る自分の姿』を」
霞「……おい、バカ作者!!」
作「はい?」
霞「なんだこの展開は」
作「……しょうがないのです。最終回に向けて、避けては通れぬ道なのです」
夢「……なんか大変です!!」
霞「なんか、もどかしいな……」
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※感想にて指摘がありましたので、途中で出てきた人物のセリフを修正致しました。内容に変更はありません。ご迷惑おかけします。