東方古神録   作:しおさば

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作「今回は夢乃ちゃん大暴れ!」

夢「お恥ずかしい限りです」

霞「俺は?」

作「…………出番があるといいね」


60話/予想を超えるらしい

事切れた人間が鈍い音をたてて血の海へと落とされた。

私は自分の中に蠢いていく黒い影を抑えることもせずに、声にならない声を叫んだ気がする。

 

あぁ、最初からこうすれば良かったんだ。

 

コイツらは明確な敵。

何も遠慮することは無い。

目に映る全ての敵を、跡形もなく消してしまえばいい。

 

相手が何を考えていても関係ない。

だって、私はその予想を超えるのだから。

深く考えなくてもいい。

 

地を蹴って駆け出すと、明らかに私が出せる以上の動きで相手との間を詰めた。

懐から数枚のお札を取り出すと、霊力を込める。それだけで札は硬化し、刃物と同等の切れ味を持つ。

それを相手の首に投げるだけ。そうすれば勝手に相手は油断をし、油断すればするほど、その予想を超えた結果が生み出される。

1人が断末魔をあげて倒れれば、他の敵も私の方を見る。そうだ、全部私に来い。

これ以上、里の人に手を出すな。

 

1人が私へと向かって走ってくる。しかしその動きは、私には止まって見えるほど遅い。

「うぉおおおおおっ!!」

私は再び叫ぶ。

この身体がどうなろうと、もはやどうでもいい。

ありったけの霊力を込めて、また私は地を蹴った。

 

 

 

----------------------

 

あの人が神社に居ると風の噂で聞いたのは、数週間前のことだった。

何時ぞやの男のせいで別れてしまったけれど、頭に付けられた札が未だにその効果を発揮していることから、どうやら死んでいないのは確かだ。

ある日を境に、私へと送られる力が少なくなったのは気になるけど。

それも会って確かめれば良い。

私は小さな身体で森の中を飛ぶ。長い事会っていないけど、私のことを忘れてはいないだろうか。あの人のことだから、そればかりは不安だ。

 

能力を発動しようにも、どうもこの身体では以前のように上手く扱えないし。

少なくとも、この呪いとも言える身体をどうにかしてもらわないと。

 

何となく軽くなる足取り。心のどこかであの人に会えるのを楽しみにしているのかしら。

だとしたらなんとも、甲斐甲斐しいものね。

式なんかに収まるような私じゃないけど。

 

「待ってろなのかー」

 

そう言って私、常闇の妖怪はその速度を上げていった。

 

 

---------------------

 

辺りが静寂に包まれた頃には、私の姿は血に染まっていて。元々紅い巫女服は、より黒い赤になっていた。

 

「へぇ、君は面白い能力を持っているんですね」

 

ふと、声をかけられる。そちらを向けば1人の男が立っていた。誰だろう、見覚えがないからこの里の人じゃないみたい。

「……貴方も……敵?」

「そうですね。少なくとも貴女の味方では無いですね」

そうか。なら殺さなきゃ。

目に見える敵は全部、根絶やしにしなきゃいけないんだから。

懐から幣を取り出すと、霊力で硬化させ一振りの刀と同じにする。

首を狙って横に薙ぎ払うと、相手は血を吹き出す。呆気なくも終わりのようだ。

「ふむ。驚きましたね。ワタクシに傷を付けるなんて」

「……」

不気味なことに、この男は血を垂れ流しながらも平気な顔をしている。

「あぁ、気にしなくてもいいですよ。どうせ死なないですから」

「なら死ぬまで殺す」

それが何百、何千とかかろうとも。

 

「……そうですね。『どうやったらワタクシは死ぬと思います?』」

男はそう言い放つ。知れたこと、人間であろうと妖怪であろうと、頭を砕けば死ぬだろう。

私は霊力を右手に込めると男の首をつかむ。この男がどんな能力を持っていようと関係ない。発動する前に殺す。

 

 

 

 

「残念ですよ。あの男に教えられているってのに。この程度ですか」

 

 

 

なんでだろう。

なんで私の拳は当たらないのだろう。

なんで私は地に伏せっているのだろう。

 

何故、私は血を流しているのだろう。

 

 

「さて、そろそろ貴女の能力をいただきましょうか」

そう言って、男は私へと手を伸ばす。何故だろう、この手に触れてはイケナイ気がする。

しかし身体が動かない。何をされたのかわからないけど、上から押さえつけられているような。指の1本も動かせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、妙な気配を感じたから来てみたら。もう終わりなのかしら?」

その声に、やっとの事で顔を向けると1人の女性が立っていました。

その女性は短めの髪を風に靡かせ、見慣れない服装をしていた。赤い格子柄の服。その出で立ちは、強者だという雰囲気が滲み出ている。

「……何方です?」

「恥ずべき無知ね。私を知らないなんて」

それほ私もなのだが、口を開くことが出来ない私は無言でいるしかない。

「その子にはなんの興味も無いけど、貴方は面白そうね」

「……うーん。今、見ての通り忙しいんですが」

「何をするつもりか知らないけど、終わるまで待っててあげるわよ」

そう言うと、崩れた屋台から手頃な木の台を持ってくると、女性は腰をかけた。ホントに私には興味が無いんだろうな。目は男から一切離れていない。

「貴女の相手をしている時間はないのですが」

「知らないわ」

 

その会話を最後に、男の手は私に触れた。頭の上に置かれた手は、まるで死んだ人間のように冷たく、霞様とは正反対の悪意に満ちた手に思えた。

 

「いただきます」

 

何をされたのかわからない。

なにか私の中から抜けていったような。

喪失感はないけれど、明らかに私から『何か』が奪われた。

 

「……さて、貴女にはもう用はないのですが。『死にたいですか』?」

何を言っているんだろう。どこに自ら死を選ぶ人間が居るのだ。

私はお前を殺して、生きる。

それ以外の選択肢なんてあるわけがない。

 

 

 

「考えましたね?『生き残る自分の姿』を」




霞「……おい、バカ作者!!」

作「はい?」

霞「なんだこの展開は」

作「……しょうがないのです。最終回に向けて、避けては通れぬ道なのです」

夢「……なんか大変です!!」

霞「なんか、もどかしいな……」


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※感想にて指摘がありましたので、途中で出てきた人物のセリフを修正致しました。内容に変更はありません。ご迷惑おかけします。


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