霞「計画性無いな」
姫「今まで計画性があったの?」
霞「あれば姫咲は幼女になってないよ」
作「実際にそうだから何も言い返せない!!」
博麗神社を目指して山道を歩く。
すっかり空は黒く染められて、綺麗な月が登ってしまった。八咫烏が言うには、もうすぐ博麗神社に着くと言っていたが。
「ま、無理して山道を急がなくてもいいか」
「そうでっか?ほんならここいらで休みましょか」
少し開けた木々の間にテントを出して設置する。最近は美鈴も手伝ってくれる。姫咲は全くだが。
夕食を終えてリビングで寛いでいると、風呂上りの姫咲と美鈴が牛乳を片手に、腰に手を当て一気飲みしている。
美鈴はただ単に好きで飲んでいる様だけど、姫咲は……いや、何も言うまい。姫咲、頑張れ。
「霞様、近くに妖怪の気配がしますけど、どないします?」
確かに、さっきから小さな妖力を感じる。特にコチラに敵意を向けている訳では無いし、そもそもこのテントには結界が張ってあるから下級妖怪程度では気付かれない。
「どうも人間の子供を襲ってるみたいですわ」
「あー。みたいだな。なら八咫烏、ちょっと行ってきてよ」
俺は既にリラックスモードだ、今日は外に出たくない。
「いや、行きたいんはやまやまなんですわ。でも、ワイって太陽神様の使いやないですか。太陽がないと上手く力を使えんのですわ」
つまり夜は無能になると。
「そこまでは言ってませんがな」
「……なら美鈴」
そう言うと美鈴からは返事がなかった。なんだ?珍しく俺を無視するのか?
「……この子、立ったまま寝てるわよ」
ついさっきまで起きて牛乳飲んでたのに?!
姫咲は美鈴の顔の前で何度か手を振るが、全く反応しない。この時間に寝てしまった美鈴は、何をしようとも起きないからな。
「……姫さ「嫌よ」……まだ何も言ってないだろ!!」
「この状況で私に話を振って、全く違う内容だと?」
「…………はぁ」
どうやら俺が行くしかないみたいだ。気分としては夜中に母親に頼まれてコンビニに行く子供のそれ。まったくもって面倒臭い。
ま、そうも言ってられないか。子供の命には替えられないしな。
「ほんじゃ、行ってきますよ」
そう言って、俺は思い腰を上げざるを得なかった。
ワームホールを抜けるとちょうど妖怪の横に出た。妖怪は腕を振り上げ、へたりこんでいる子供を今にも殴ろうとしている。大人だってそんな太い腕で殴られたら無事じゃ済まないのに、子供だったら原型を留めないぞ。
考えるよりも早く、身体を動かす。妖力から下級妖怪だとわかっていたので、今回は夜月をテントに置いてきた。つまり肉弾戦しか選択肢がない。
「でりゃぁあああっ!!!」
「ぎゃぁあああ!!」
とりあえず、挨拶替わりの蹴りを、横顔に叩き込む。
呆気ないほど簡単に吹っ飛んで行った妖怪は、大木にぶつかって気絶したようだ。
なんだよ、これなら八咫烏でも良かったんじゃないか?
俺は少しの後悔を覚えつつ、振り返って座り込んでいる子供と目線を合わせる。
「大丈夫か?」
声をかけるが、死を覚悟していたからか、声がうまく出せないようで口をパクパクしている。鯉みたいだな。
「あ……ありがとう……ございます」
なんとか絞り出した言葉は俺への礼だった。
よく見ると服はボロボロで、それは妖怪に襲われたからじゃなく、元々粗末な服を着ていたようだ。
「こんな夜になんでこの山に入ったんだ?」
「……あ……その」
その時、子供から可愛らしい音が聞こえてきた。少しは安心したらしく、忘れていた空腹が今になって主張しだしたようだ。
俺は吹き出しそうになるのを抑えて立ち上がると、子供に手を差し伸べる。
「腹減ってるんだろ?とりあえず飯食わせてやるよ」
私を助けてくれた男の人は私に手を伸ばしてくれた。お腹がなって恥ずかしい思いをしたけれど、そのおかげでご飯が食べれるなら我慢しよ。
私が手を取って立ち上がると、男の人は私を抱き抱えた。いくらご飯の為でも、流石にこれは恥ずかしいなぁ。
「少し急ぐから、しっかり捕まってろよ?」
「……え?」
多分、私の声は聞こえてなかったんだと思う。だって風よりも早く森を駆けて行ったんだもん。
そんな中、ここのところちゃんとご飯を食べてない私が平気でいられるわけもなくて。直ぐに私の意識は真っ暗になっていった。
気がつくと凄く明るい光が見えた。朝になったのかな。
でもその光は太陽なんかじゃなくて、天井につけられた良くわからない物が光っているだけだった。あんなに明るいのは太陽以外見たことない。
「あ、気がついたわよ」
「……あの」
ふと、私の顔をのぞき込んできたのは、私より少し年下くらいの女の子。金色の綺麗な髪が、太陽モドキに照らされてキラキラ光ってる。
「おぅ、気分はどうだ?」
「……悪いです」
私は身体を起こすと薄めの布が落ちた。……私は何に寝てたんだろ、ふかふかと柔らかいけど、しっかりとした骨組みがあるような、布団とも言えない物に横になっていたみたい。
「だろうな。ほら、お粥を作ったから食べな」
その手には小さな鍋があり、凄く良い匂いがする。暫くご飯を食べてないからなんでも、いい匂いに感じることがあるけど。
「ありがとう……ございます」
「なに、気にするな」
蓋を開けると暖かい湯気が顔を撫でていき、次いで綺麗な白米が見えた。白米なんて、初めて食べるわ。
「誰も取らないから、ゆっくり食べなさい」
男の人は、まるで『お父さん』と言われる人のように優しい顔をしてた。
目を覚ました少女--体型から男の子だと思ってたけど、どうやら女の子の様で。あ、ちゃんと姫咲が気が付いて確認してくれましたよ?--はがっつく様にお粥をかき込む。火傷するなよ?
「んで、少し話をしよう」
食事を終えて落ち着いたのを見計らって話をする。
「どうしてこんな時間に山にいたんだ?」
凡そ予想は出来るけど。
「……お腹が空いて。何も食べるものが無かったから。山でキノコとか採ろうって思って」
だと思ったよ。
「……親は何してるんだ?」
「……」
お、なんか地雷を踏んだっぽい。言葉を無くした少女はとうとう俯いてしまった。
「……私、お父さんもお母さんも、いないんです」
「……それは……死んだってことか?」
「いえ、違くて。知らないんです」
おっと。かなり重い内容になりそうだ。
「私、何も覚えてないんです。両親の事も、自分の事も。……長老さんが言うには、私は何年か前に神社に1人で居たんです。でも、どうしてそこにはいたのか、どうやってそこに来たのか、何も覚えてなくて」
なるほど、記憶喪失ってやつか。
「長老さんも良くはしてくれるんですけど、それでも1人では生きていけなくて」
流石に、安易に相槌を打てない。話している途中で、少女はいつの間にか涙を流していた。俺が想像するよりも、はるかに辛い事を、この幼い少女は数年で経験したのだろう。
「私にあるのは『夢乃』という名前だけです」
「……そうか」
夢乃と名乗った少女は手の甲で涙を拭うと、頑張って作った笑顔を見せる。それは誰が見てもわかるくらいの悲しい笑顔だった。
「よし、わかった。暫く面倒を見てやろう」
「……はい?」
俺の一言があまりに予想外だったのか、気の抜けた返事が返ってきた。
「俺の名は神条霞。んでそこに居るのは居候の鬼ヶ原姫咲。もう一人、俺の弟子がいるんだが、今はもう寝ちゃってるからまた明日挨拶させるよ。んで、面倒を見るってのは、君……夢乃が1人で生きていけるようになるまで」
「な、なんで……そこまで」
んなもん簡単な答えだろ。
「困ってる人を助けたい……神様の様な男なんだよ、俺は」
霞「そろそろ神社に着きたいんだが」
八「次で着きますやろ」
夢「……!!シャァベッタァァァァァァァ!!!」
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