東方古神録   作:しおさば

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霞「いや、らしいを付けるのか付けないのか、ハッキリしろよ」

作「出来うる限り付けたい!!」

霞「知らんがな!!」



51話/酔っ払いどもの長い夜……らしい

数日経ち、とうとう神無月。ここでは神在月か、に至った。

集まった神々は広間に集められ、凡そ全員入るとは思えなかった広さの空間が天照によって無理矢理広げられていた。

「やるな天照」

「むふー。もっと褒めてください」

……ちょっと褒めるとすぐコレだ。

広間に顔を出した神は、天照を見つけると真っ先に挨拶に来るが、その横に座る俺の姿を見れば訝しむ。まぁ、今まで顔を見せていなかったのだから、俺の事を知らなくても当然だろう。

「そう言えば、ココに集まって何をするんだ?」

至極当然な疑問。こんだけの神を集めて、いったい何をしようというのか。

「あれ?ご存知ないのですか?ただお酒を飲んだり、日頃の苦労を語り合ったり。まぁ懇親会のようなものです」

「……なんだ。騒ぎたいだけかよ」

「有り体に言えば」

まぁ、神と言えども苦労はするし、愚痴も言いたくなるだろうから、そこはとやかく言わないが。

「天照様、そちらの方は?」

そんな会話をしていると、1柱の神が近づいてきた。見た目ひょろっちぃ男、いじめられっ子っぽいな。

「コチラは創造神様。神条霞さまですよ」

「おぉ、これはご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。ワタクシ、大穴牟遅神。またの名を大国主命と申します」

ん?大国主命?どっかで聞いたな。どこだっけ?

「ん。大国主命ね。よろしく」

……あぁ、そうだ。あのうさ子が言っていた名前だ。

「因幡てゐという兎が宜しくと言っていたよ」

「あの素兎にお会いになられたのですか?」

そうだ、大国主命ってそんな話だったな。

って事は、コイツはリア充か!!

「爆発すればいいのに……」

「へっ?!」

「いや、何でもない」

 

 

 

「そう言えば、素戔嗚尊はどうした?」

姿の見えない、俺が唯一知っている神を探す。あの時は影が薄くて、印象に残らなかったが。

「……」

「え、なに?」

急に天照の表情が暗くなる。

「素戔嗚は高天原を追放されました」

「……はい?なんで?」

「根の国に行ってしまわれた伊邪那美様に会いたいと、駄々をこねまして」

なんだその理由。

「その結果、天照も天岩戸に引きこもったのですよ」

「……うん。意味がわからない」

なんで素戔嗚が追放されると天照が引きこもるの?普通、素戔嗚が引きこもらない?

「……私はあの子を甘やかしてしまうので」

「そういう所は月夜見と正反対なんだな」

「何故私を引き合いに出すのです」

んなもん、俺の知っている中で1番頭が硬いからだ。とは言わない。

いつの間にか用意された御神酒に口を着けると、その飲みやすさに驚く。なんだこれ!今まで飲んでたのがすげぇ安もんに思えるわ。安もんだけどさ。

「それよりも父上様。高天原にお住みになるつもりは……」

「無い」

キッパリと答える。そんなところに居たら、自由の神の名折れだ。自由の神が何するのか知らんけど。

「そうだ、俺って『自由を司る神』なんだよな?」

「何を今更なことを」

だから、そんな冷たい目をするなよ月夜見。その趣向の人には堪らない位に冷たいぞ。

「……なにすりゃいいの?」

「……はい?」

この呆れた様な返事は意外にも天照からだった。ってか、父上様エネルギーはまだ溜まらないのか?

「自由を司るのですから、その意味から考えて虐げられている民や、しがらみに縛られている民を救えば良いのでは?」

「そんなもんなの?」

なんとも、神様の仕事は曖昧なようだ。

「神と言っても、全能では…………お父上様以外は全能ではないので。全ての民を救えるわけではありませんし」

そりゃそうだが、なんで態々俺以外って言い直したの?

「ふにゃー」

そんな話をしていると、俺の腰あたりで猫のような鳴き声が聞こえた。なんだ、猫でもいるのか?

俺は無類の猫好きだぞ?可愛がってやるぞ?悶え死ぬ位撫でまわすぞ?

「猫ではなく、天照ですよ?」

「わかってるよ。現実逃避くらいさせろや」

たった1杯の酒で出来上がってしまっている天照。お前、前回も悪酔いしてたよな?

天照が酔うと、ただでさえまとわりついてくるのに、一層艶かしくなる。絶妙に肌ける着物に、不必要なまでに押し付けられる二つのお山。口から漏れるのはどれも扇情的なセリフとなる。どうしてこんな子に育ったの?お父さん悲しい。

「お父上さまぁ〜ん。もっと飲みましょ〜?」

「うるせぇ。いい加減離れて大人しくしてろ」

「あぁ〜ん、そんなぁ〜。お父上様のい・け・ず♡」

お前、どうやって♡なんて発音したんだ?!

「毎年、父上様がいらっしゃらないので、その役目は私が引き受けていましたが、今回はゆっくりできますね」

「俺を生贄にする気か」

「むしろご褒美なのでは?」

どこの世界に娘に言い寄られて喜ぶ父親がいるか。……いないよね?

後ろを振り返ると、我先にと酒樽に突っ込む神々の姿がある。人間が信仰し敬う対象の神が、こんな痴態を晒すとは、なんとも嘆かわしいと思っていたが。1番近い所に1番厄介なのがいた事に気付く。むしろ、コイツが元凶なんじゃないか?

「は〜い、飲んで〜」

「おい、零すな」

覚束無い手元で酒を注ぐ天照。その大半は俺の着物の染みとなった。

「父上様〜!!」

「えぇい!抱きつくなぁ!!」

 

 

 

時間は流れて、夜。月が顔を出し庭を明るく照らし出す。

広間では未だに宴が続き、早々に逃げ出した俺は屋根の上に登って1人、月見酒と洒落込んでいた。

思えば今まで、長い事この世界を旅していたように思う。最初は突然言い渡された前世での死。そこから拒否権のない転生をして、永琳と出会った。

長い年月を重ね、様々な出会いと別れ。死のないこの体を不幸とは思わないが、先逝く人を見届けたことも何度もあり、その度に胸が締め付けられた。

それでも、俺は生きていくしかないし、今ある繋がりを疎かにするつもりもない。

盃に満たされた酒に映る月を一気に飲み干すと、喉が焼けた。その度に、俺は生きていることを実感する。

せめて、生かされたこの第2の人生を、誰に恥じることのないよう、面白おかしく生き抜いてやろうじゃないか。

「父上様〜?!天照が、天照が〜!!」

下から聞こえる俺を呼ぶ声に苦笑しながらも、俺はまだ長い人生の終端を夢見て生きていくことを改めて決意した。




天「お父上様ぁ〜!!」←ダイビングボディプレス

霞「だが甘いっ!!」

天「ぐふぅっ!?」

月「別に避けなくても」

霞「精神衛生上よろしくない」

天「そ、そんなお父上様も……ステキ……」

霞「コイツ、無敵か!?」

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