霞「俺に必要だと思う?」
作「これ以上は本気でチートだよね」
霞「ただでさえ霊力と神力、二つ持ってるし」
作「しかもその二つとも、数ある神々以上だっていうね」
紫「…………」
霞「あ、呆れて何も言えなくなってる」
どうも、霞です。
なんかこの挨拶も久しぶりな気がする。
さて、今の現状だけど。
簡単に言えば真夜中ですね。
紫と美鈴は既に夢の中。で、俺は何をしているかって言うと。
「夜更しは肌に悪いから、もう寝たいんだけどなぁ」
テントの周りを妖怪共に囲まれています。見た所、都の時のように操られている訳ではないみたいだが。
つーか、ツッコミが無いってのは少し寂しいな。
「さて、この中にはお子様達が寝てるんだ。あんまり騒がしくしないでおくれよ?」
「そんなら大人しく俺らに食われるんだなぁ!!」
それは御免こうむる。俺はあいにくドMじゃないんでね。
夜月を抜き、隙を態と作ってやる。あからさまなソレは、紫ならば引っかからないが、どうやらコイツらは単j……素直らしい。
「死ねぇぇえええっ!!」
爪を振り上げ切り裂こうとするのを、身体を捻りながら躱し、回転しながら横に薙ぎ払う。今回は、夜月の能力を使わないバージョンだ。
「切り裂け、夜月」
その様子を見ていた妖怪共は、一瞬たじろいだが、直ぐに纏まって襲いかかってきた。
……今回ばかりは、手加減しないぞ?
丑三つ時。催したので起きた私は、師匠がてんとの中に居ないことに気が付いた。師匠が自由なのは今に始まったことじゃないが、それでも私に一言もなく居なくなる事はなかった。
師匠の異空間な為、外の気配を探ることも出来ない。
「どこに行ったの?」
何か胸騒ぎを覚えた私は、服を着替え外に出てみることにした。
「ぎゃぁああっ!!」
叫びながら血を吹き出し、妖怪は倒れる。後は3匹。
「な、なんだよコイツ!こんな強ぇなんて聞いてねぇよ!!」
そりゃ、誰も言わないだろ。お前らが相手に選んだのは、創造神様だぞ?
「に、にげろぉ!!」
「こらこら、逃げるな」
踵を返し走り出した妖怪。次の瞬間には、俺は隣まで追いつく。
居合抜きの容量で身体を捻り、腹を真一文字に薙ぐ。上半身と下半身が離れ、絶命している妖怪を一瞥すると、残りを見る。
「さて、後悔はしたか?……あぁ、反省はしなくていい。どうせ意味は無い。……次は無いんだからな」
そう言い終わる頃には、2匹は地面に伏していた。切り口から血を垂れ流しながら。
師匠の戦闘は久しぶりに見た。いつも一方的な勝負をする師匠だが、どこか今回は違う気がした。
「し、師匠?」
赤く染まった夜月を払い、納めると私に気付いた師匠。その目は何故かイラついているようにも見えた。
血の海に立っていた師匠は、その状況の異様さと相まって、神秘的な妖艶さを纏っているように見えた。
久しぶりに、師匠を本当に恐ろしいと思ってしまう。
恐れから生まれた妖怪が恐れる。それは相手が神だから、とか力の差が大きいから、とかではない。純粋な畏怖。100年程一緒にいた私ですら、その目に見られると、喉元に抜き身の刃を突きつけられている様な、命の危険を感じてしまう。
「ど、どうしたのですか。師匠」
「んー。お前は気にしなくていいよ」
……基本的に師匠は私の事を『お前』とは言わない。いつも『紫』と呼んでくれるのに、それだけでも師匠がイラついているのがわかる。
しかし、これ以上踏み込んだ事は聞けなかった。そして、聞かなくても理解した。師匠が何に怒っていて、何故この状況になったのか。
「村が……燃えている」
ベッドで寝ていて、異変に気が付いたのは、大量に人間の命が消えていくのを感じたからだ。
昼間に立ち寄った村からそう離れていない為か、外に出るとその様子が見えてしまった。
泣き叫ぶ子供の声と、命乞いをする女性の声。そしてそれが聞こえなくなると、命がすべて消えてしまったのを理解した。命のやり取りは、生命の営みとしてしょうがないと思う。人間だって命を繋ぐため、動物を殺すし、食す。それは妖怪にだって同じ事だ。妖怪と言えども生きているのだ。ならば人間だけが食物連鎖の輪から外れる事は出来ない。
ただ、それは生きるためならばだ。
「おっしゃあ!今回は俺の勝ちだな!!」
「クソッ、たったの5匹しか殺せなかった……」
「へっ、俺は8匹だぜ」
奴らにとって、これは遊びなのだ。
幾つ殺せるか。仲間内でのゲームでしかないのだ。
「あー。火付けちまったから人間食えねぇな。腹減っちまった」
気がつくと、手を握りしめていた。強く、強く。血が滲み、地面を点々と染めるくらいに。
そして俺は妖怪共を、俺の手前まで異空間で運び、殺すことにした。
湧き上がる怒りを、殺意に変えて。
師匠は妖怪の骸を消し去り、村の上空に雨雲を創り出す。
降り出した雨は村の火を消していき。残ったのは人間の焼ける匂いと、昼に見た時とは全く違う姿になった村だけだった。
「紫、お前はコレを見ても『人間と妖怪の共存』なんて言えるのか?」
「……」
私は言葉を無くしてしまう。今回は一部の妖怪の悪意だと、言うことが出来なかった。どこまで行こうと、私は妖怪で、人間とは違う生き物なのだから。
「お前の夢は、この人達の怨みを全て背負い込む事になるんだぞ。自分とは関係ない、自分は違う。そんな言葉をこの亡骸の前で言えるのか。今日のことを忘れて、お前は夢の為に生きていくのか?」
師匠の言葉は小さかったけれど、私にはハッキリと聞こえて。その分、心臓を抉られるように、深く突き刺さった気がした。
……でも。
「無関係だなんて言いません。忘れるなんて言いません。私が望む理想の為に、この胸にこの光景を焼き付けます!!」
「……そうか」
そう言うと、師匠はそれ以降黙って、人間を弔うために穴を掘り出しました。
私もこれ以上、語るべきではないと、口を噤み。服が汚れるのも厭わずに、師匠の隣で亡骸を丁重に弔いました。
布の入口を潜ると、血の海と、争った形成があり。その光景は酷いを通り越して、吐き気を催しました。妖怪にしろ人間にしろ、これだけの血が流れる為には1人2人ではなく、かなりの数がここで死んだことを表しています。
微かに残る霊力の残りは、あの男性--霞さんの物で、彼がこの状況を作ったと想像するのは簡単でした。
「い、一体なにが?!」
震える脚を何とか抑え、辺りの気配を探ると、どうやら近くの村にあの妖怪の女性と霞さんは居るようです。
何が起きて、どうして2人は彼処に居るのかわかりませんが。残っていた霞さんの霊力からは、何故か悲しみに似た気配を感じてしまいます。
それと同時に、あの人にはどう足掻いても勝てないと、本能が理解してしまう。
「……」
日が昇り、数時間の睡眠しか取れなかった頭をコーヒーを飲むことで無理やり起こして、朝食を作る。
昨日(?)は久しぶりにキレてしまった為か、キツい言い方を紫にしてしまった。落ち込んでないと良いが。
完成した朝食をテーブルに並べ、2人を起こしに行く。最近はすっかり成長した(つもりでいる)紫の部屋には入らずに、外から声を掛けることにしている。……部屋に入って起こした瞬間に、『夜這ですか!?嬉しいですが、気持ちの準備と言うものが……!!』とか抜かしやがったからな。
「おーい。紫?起きろー」
本当はもう少し寝かせても良いのだが。アイツは生活リズムを崩すと、そのままグダグダとだらしない生活を送りそうだから。
「起きてますよ」
「……」
出てきた紫の顔は、酷いものだった。目の下隈が出来てるぞ。
「寝なかったのか」
「どちらかと言うと、寝れなかったです」
本当に済まないことをした。
「……朝食の用意は出来ているから、無理じゃなければ用意して来い」
「はい」
「んで、こっちか」
ここも勝手に入るわけにはいかない。身内とも言える紫ですら気を使うのに、泊めた客の部屋に入るなんて、紳士な俺には無理だ。
「美鈴〜?起きてるか〜?」
「はい!」
こっちは元気な声が聞こえ、開かれた扉の向こうには昨日と同じ元気な顔の美鈴がいた。
「おぉ。朝食が出来ているから、用意しておいで」
「はい!ありがとうございます!!」
……相変わらず、声が大きい。朝からその声なのか。
そして、この日。俺と紫と美鈴にとって、特に俺にとって、面倒臭い事が起きるのだが。
この時にはまだ、知らずにいた。
作「アレ?こんな重い話になるはずじゃなかったのに」
霞「いや、知らんがな」
紫「師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い」
霞「おい馬鹿作者!うちの弟子が怯えてんじゃねぇか!!」
作「その原因は君だってわかってる?」
美「いや〜、霞さんは怖い人ですね〜」
霞「美鈴もそんな事言うの?!」