東方古神録   作:しおさば

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紫「師匠は他に能力を作らないのですか?」

霞「俺に必要だと思う?」

作「これ以上は本気でチートだよね」

霞「ただでさえ霊力と神力、二つ持ってるし」

作「しかもその二つとも、数ある神々以上だっていうね」

紫「…………」

霞「あ、呆れて何も言えなくなってる」


38話/成長期はあっけなく過ぎるらしい

どうも、霞です。

なんかこの挨拶も久しぶりな気がする。

 

さて、今の現状だけど。

 

簡単に言えば真夜中ですね。

紫と美鈴は既に夢の中。で、俺は何をしているかって言うと。

「夜更しは肌に悪いから、もう寝たいんだけどなぁ」

テントの周りを妖怪共に囲まれています。見た所、都の時のように操られている訳ではないみたいだが。

つーか、ツッコミが無いってのは少し寂しいな。

「さて、この中にはお子様達が寝てるんだ。あんまり騒がしくしないでおくれよ?」

「そんなら大人しく俺らに食われるんだなぁ!!」

それは御免こうむる。俺はあいにくドMじゃないんでね。

夜月を抜き、隙を態と作ってやる。あからさまなソレは、紫ならば引っかからないが、どうやらコイツらは単j……素直らしい。

「死ねぇぇえええっ!!」

爪を振り上げ切り裂こうとするのを、身体を捻りながら躱し、回転しながら横に薙ぎ払う。今回は、夜月の能力を使わないバージョンだ。

「切り裂け、夜月」

その様子を見ていた妖怪共は、一瞬たじろいだが、直ぐに纏まって襲いかかってきた。

……今回ばかりは、手加減しないぞ?

 

 

 

丑三つ時。催したので起きた私は、師匠がてんとの中に居ないことに気が付いた。師匠が自由なのは今に始まったことじゃないが、それでも私に一言もなく居なくなる事はなかった。

師匠の異空間な為、外の気配を探ることも出来ない。

「どこに行ったの?」

何か胸騒ぎを覚えた私は、服を着替え外に出てみることにした。

 

 

 

「ぎゃぁああっ!!」

叫びながら血を吹き出し、妖怪は倒れる。後は3匹。

「な、なんだよコイツ!こんな強ぇなんて聞いてねぇよ!!」

そりゃ、誰も言わないだろ。お前らが相手に選んだのは、創造神様だぞ?

「に、にげろぉ!!」

「こらこら、逃げるな」

踵を返し走り出した妖怪。次の瞬間には、俺は隣まで追いつく。

居合抜きの容量で身体を捻り、腹を真一文字に薙ぐ。上半身と下半身が離れ、絶命している妖怪を一瞥すると、残りを見る。

「さて、後悔はしたか?……あぁ、反省はしなくていい。どうせ意味は無い。……次は無いんだからな」

そう言い終わる頃には、2匹は地面に伏していた。切り口から血を垂れ流しながら。

 

 

 

師匠の戦闘は久しぶりに見た。いつも一方的な勝負をする師匠だが、どこか今回は違う気がした。

「し、師匠?」

赤く染まった夜月を払い、納めると私に気付いた師匠。その目は何故かイラついているようにも見えた。

血の海に立っていた師匠は、その状況の異様さと相まって、神秘的な妖艶さを纏っているように見えた。

久しぶりに、師匠を本当に恐ろしいと思ってしまう。

恐れから生まれた妖怪が恐れる。それは相手が神だから、とか力の差が大きいから、とかではない。純粋な畏怖。100年程一緒にいた私ですら、その目に見られると、喉元に抜き身の刃を突きつけられている様な、命の危険を感じてしまう。

「ど、どうしたのですか。師匠」

「んー。お前は気にしなくていいよ」

……基本的に師匠は私の事を『お前』とは言わない。いつも『紫』と呼んでくれるのに、それだけでも師匠がイラついているのがわかる。

しかし、これ以上踏み込んだ事は聞けなかった。そして、聞かなくても理解した。師匠が何に怒っていて、何故この状況になったのか。

「村が……燃えている」

 

 

 

ベッドで寝ていて、異変に気が付いたのは、大量に人間の命が消えていくのを感じたからだ。

昼間に立ち寄った村からそう離れていない為か、外に出るとその様子が見えてしまった。

泣き叫ぶ子供の声と、命乞いをする女性の声。そしてそれが聞こえなくなると、命がすべて消えてしまったのを理解した。命のやり取りは、生命の営みとしてしょうがないと思う。人間だって命を繋ぐため、動物を殺すし、食す。それは妖怪にだって同じ事だ。妖怪と言えども生きているのだ。ならば人間だけが食物連鎖の輪から外れる事は出来ない。

ただ、それは生きるためならばだ。

「おっしゃあ!今回は俺の勝ちだな!!」

「クソッ、たったの5匹しか殺せなかった……」

「へっ、俺は8匹だぜ」

奴らにとって、これは遊びなのだ。

幾つ殺せるか。仲間内でのゲームでしかないのだ。

「あー。火付けちまったから人間食えねぇな。腹減っちまった」

気がつくと、手を握りしめていた。強く、強く。血が滲み、地面を点々と染めるくらいに。

そして俺は妖怪共を、俺の手前まで異空間で運び、殺すことにした。

湧き上がる怒りを、殺意に変えて。

 

 

 

師匠は妖怪の骸を消し去り、村の上空に雨雲を創り出す。

降り出した雨は村の火を消していき。残ったのは人間の焼ける匂いと、昼に見た時とは全く違う姿になった村だけだった。

「紫、お前はコレを見ても『人間と妖怪の共存』なんて言えるのか?」

「……」

私は言葉を無くしてしまう。今回は一部の妖怪の悪意だと、言うことが出来なかった。どこまで行こうと、私は妖怪で、人間とは違う生き物なのだから。

「お前の夢は、この人達の怨みを全て背負い込む事になるんだぞ。自分とは関係ない、自分は違う。そんな言葉をこの亡骸の前で言えるのか。今日のことを忘れて、お前は夢の為に生きていくのか?」

師匠の言葉は小さかったけれど、私にはハッキリと聞こえて。その分、心臓を抉られるように、深く突き刺さった気がした。

……でも。

「無関係だなんて言いません。忘れるなんて言いません。私が望む理想の為に、この胸にこの光景を焼き付けます!!」

「……そうか」

そう言うと、師匠はそれ以降黙って、人間を弔うために穴を掘り出しました。

私もこれ以上、語るべきではないと、口を噤み。服が汚れるのも厭わずに、師匠の隣で亡骸を丁重に弔いました。

 

 

 

 

布の入口を潜ると、血の海と、争った形成があり。その光景は酷いを通り越して、吐き気を催しました。妖怪にしろ人間にしろ、これだけの血が流れる為には1人2人ではなく、かなりの数がここで死んだことを表しています。

微かに残る霊力の残りは、あの男性--霞さんの物で、彼がこの状況を作ったと想像するのは簡単でした。

「い、一体なにが?!」

震える脚を何とか抑え、辺りの気配を探ると、どうやら近くの村にあの妖怪の女性と霞さんは居るようです。

何が起きて、どうして2人は彼処に居るのかわかりませんが。残っていた霞さんの霊力からは、何故か悲しみに似た気配を感じてしまいます。

それと同時に、あの人にはどう足掻いても勝てないと、本能が理解してしまう。

「……」

 

 

 

日が昇り、数時間の睡眠しか取れなかった頭をコーヒーを飲むことで無理やり起こして、朝食を作る。

昨日(?)は久しぶりにキレてしまった為か、キツい言い方を紫にしてしまった。落ち込んでないと良いが。

完成した朝食をテーブルに並べ、2人を起こしに行く。最近はすっかり成長した(つもりでいる)紫の部屋には入らずに、外から声を掛けることにしている。……部屋に入って起こした瞬間に、『夜這ですか!?嬉しいですが、気持ちの準備と言うものが……!!』とか抜かしやがったからな。

「おーい。紫?起きろー」

本当はもう少し寝かせても良いのだが。アイツは生活リズムを崩すと、そのままグダグダとだらしない生活を送りそうだから。

「起きてますよ」

「……」

出てきた紫の顔は、酷いものだった。目の下隈が出来てるぞ。

「寝なかったのか」

「どちらかと言うと、寝れなかったです」

本当に済まないことをした。

「……朝食の用意は出来ているから、無理じゃなければ用意して来い」

「はい」

 

「んで、こっちか」

ここも勝手に入るわけにはいかない。身内とも言える紫ですら気を使うのに、泊めた客の部屋に入るなんて、紳士な俺には無理だ。

「美鈴〜?起きてるか〜?」

「はい!」

こっちは元気な声が聞こえ、開かれた扉の向こうには昨日と同じ元気な顔の美鈴がいた。

「おぉ。朝食が出来ているから、用意しておいで」

「はい!ありがとうございます!!」

……相変わらず、声が大きい。朝からその声なのか。

 

そして、この日。俺と紫と美鈴にとって、特に俺にとって、面倒臭い事が起きるのだが。

この時にはまだ、知らずにいた。




作「アレ?こんな重い話になるはずじゃなかったのに」

霞「いや、知らんがな」

紫「師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い」

霞「おい馬鹿作者!うちの弟子が怯えてんじゃねぇか!!」

作「その原因は君だってわかってる?」

美「いや〜、霞さんは怖い人ですね〜」

霞「美鈴もそんな事言うの?!」

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