東方古神録   作:しおさば

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つけ麺よりもラーメン


28話/宴と書いて『喧嘩』と読むらしい

何個目かのクレーターを作った萃香は、不満気に俺を睨む。そろそろ我慢の限界らしい。

「そろそろ本気、出してくれないかなぁ」

大分苛立っているようだ。

周りからははやし立てる様な野次が飛び交う。

「そうは言ってもなぁ」

俺が本気を出したら、せっかく作ったこの世界があっけなく消え去ってしまうし。

「なら、少し……ほんの少しだけ本気になるかね」

「全力できなっ!!」

そう言って、力の限り殴ってくる。

純粋な妖力ならば、ルーミアと並ぶ。そういやアイツも一応大妖怪の部類だったな。

妖力の込められた拳を難なく受け止める。

「1万分の1だ」

そう言って、制限をほんの少し解く。地面が揺れ、地割れが起きた。あれ?以前より霊力が増えてない?

「……くっ!!」

霊力にあてられて、萃香は少しぐらつく。

「どうする?続ける?」

この状態で殺さないように加減するのは結構難しいのだが。

「……いいねぇ」

萃香の呟きはハッキリとは聞こえなかったが、表情は喜んでいるようだった。

「どう考えても、私以上。ってか殆どの鬼以上の力じゃないか」

「それ、褒めてる?」

「流石に勝てそうにはないね。でも、そんなヤツと喧嘩出来るなんて、嬉しくてしょうがないよ!!」

……これだからバトルジャンキーは。

負けるって解ってる相手と喧嘩して、嬉しいとは如何なものか。

「妖怪の山、四天王が1人!酒呑童子、全力で相手をさせてもらうよ!!」

萃香はありったけの妖力を吹き出させ、その身に纏う。

小さな身体とは思えないほど、膨大な量の妖力は、遠目に見ている他の鬼も恐怖で顔が引きつっている。

「それは光栄だね」

俺は右手を萃香に向けて差し出し、手のひらに霊力を溜め、球体状に集められた霊力を握る。

「掌握」

その瞬間、砕けるように辺りに散りばめられた俺の霊力は、世界を青く染めていく。

「な、なんだい?これは」

俺と萃香、2人はいつの間にか見慣れない空間に立っていた。

「俺の能力さ。この場を俺の空間と入れ替えて掌握した」

いつも使っている異空間を創り出す能力の応用。

アレは俺が認めたモノだけが『入れる(はいれる)』空間で、今回使ったのは強制的に俺の空間に『入れる(いれる)』。この場、この時間、全てを俺が掌握し支配する。

「ここなら山にはこれ以上被害が及ばないだろ」

「なるほど、化物じみた能力だって事は理解した」

まぁ、この力を使えば、どんなヤツでも殺せるし、消すことすらも出来る。この空間で、俺に出来ない事は無い。

「さ、来いよ萃香」

「……遠慮なく!!」

駆け出した萃香を、正面で迎え撃つ。

「三歩壊廃!!」

あれ?どっかで聞いたことある様な。

-1歩目。

纏っていた妖力が、俺の霊力と接触し、火花が散る。

-2歩目。

拡散した妖力を1点に集中し始めた。俺の空間である筈なのに、今の状態ではその妖力を抑え込むことが出来ない。

-3歩目。

集中された妖力の塊は、まるで小さな太陽のように輝き、萃香の頭上に存在した。そして萃香が両手を振り下ろすと同時に、太陽は俺を目掛けて落ちてくる。

「諸共吹っ飛べ!!」

 

 

「なるほど、いい攻撃だ」

普通ならばこんなモノ避けきる事も出来ず、その身に受ければ跡形もなく消滅してしまうだろう。下級の神なら抗えない程の妖力だ。

「でも、まだまだだな」

俺は腰に差した夜月に手をかける。

「断ち切れ、『夜月』」

鞘走りをしながら抜き放たれた夜月は妖力の塊を目掛けて、斬撃を飛ばす。

「なっ!?」

斬撃に触れた太陽は、霧のようにその形を崩れさせて消えてしまう。

「こいつで断ち切れないもんはないよ。それが妖力でもね」

そう言うと刀を振り、鞘に納めた。

見ると萃香は力を使い果たしたのか、仰向けに大の字に倒れている。

「いやぁ〜!負けた負けた!!」

その言葉とは裏腹に、顔は清々しいほどの笑顔だった。

「アンタ、ホントに何者なんだい?」

近付いた俺に目だけを向けて問いかける。

「言ったろ?神条霞、ただの旅人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

誰か今の状況を説明して欲しい。

いつの間にか辺りは鬼だらけ。隣には萃香が座り、俺が持つ杯に酒を注いでくる。

ってかこんだけの鬼、何処から湧いて出た。

「お前、強ぇんだな!あの萃香姐さんに勝っちまうなんて!!」

誰かからそう言われた。萃香、お前姐さんなんて呼ばれてるのか。

鬼達は先ほどの、俺と萃香の喧嘩を肴に酒を飲み、好き勝手に騒いでいる。

「ウチらは鬼だからね!楽しい喧嘩をしたならば、楽しい宴を開くものなのさ!」

「お、おう……」

俺は注がれた酒を飲み干し、見回す。確か、この山を登る時には感じなかったコレだけの妖力。どうやって隠していたのだろうか。

「なんかこの山はウチらには都合が良くてね。勝手にウチらの妖力を隠してくれるみたいなんだよ」

「山が隠している?」

意味がわからん。特にこの山からは霊力も神力も感じないが。

「なんか、昔に人間の男がココを訪ねて以来、そんな事が起こるようになってね」

ん?

「不思議な男だったね。最初は喧嘩を売ろうと思ったのに、結果としてはそんな気が失せちゃったんだよ」

萃香は酒を飲み、懐かしそうに話す。

「……そう、アイツがなんか言ったら喧嘩したくなくなったんだよ」

……あぁ、律のことか。アイツ、こんなところまで来てたのか。

アイツの能力ならばこの山の事も納得がいく。

そんな話をしていると、1人の鬼が近づいてきた。萃香と同じく、女の鬼だった。まぁ、萃香より色っぽい大人の女だが。

「なんか失礼な事考えてた気がする」

「キノセイダ」

「……あんた、萃香に、勝ったんだってね」

あ、これなんか面倒臭い気がする。




萃香「ウチは幼女じゃない!」

霞「……飴舐める?」

萃香「舐めるー!!」

霞、作「……」

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