東方古神録   作:しおさば

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そういえば、この作品の中では一切季節の描写をしてない事に気がつく。


27話/新たな出会いと懐かしい再開らしい

山登りの途中。腹が減ったので木陰に腰を下ろし、ラーメンを創造する。

うん。外で食うラーメンも旨い。

「いい匂いさせてるねぇ」

何処からか声がする。辺りを見回すが、どこにも気配はない。いや逆か、そこら中から気配がする。たった1人の気配がそこかしこから。

「ズズっ。食うか?」

何処ともなく話しかける。

「え?いいの?!」

 

「これ、なんていうの?」

姿を現した幼女は、俺の隣に座って同じくラーメンを啜っている。

「よくぞ聞いた!これはこの世界を創りたもうた『ラーメン』という神聖な食物なのだ!!」

「おぉ!!そうなのか!!」

幼女は目を輝かせラーメンを啜る。

「……とくに、この肉が旨いね」

「!!……わかってくれるか、同士よ!」

俺は感動に打ち震える。このチャーシューへの思いをわかってくれるヤツがいるとは。

いずれ、この感動を共感してくれる同士達を集め、新たな宗教としても何ら問題はない気がする。

「この肉……チャーシュー?は酒のツマミにもなりそうだね」

「うむ。その場合は、この様なトロトロに煮るのではなく、焼いた状態にすると良いだろう」

もっと熱く語っていたいが、なにぶん先を急がなければ。非常に残念だが。

「……」

「……」

そういえば。

「お前、誰?」

「んぁ?」

チャーシューを咥えた幼女は、今更ながらにも妖力を感じる。それもそんじょそこらの妖怪より遥かに大きな。

「……ごくん。ウチは伊吹萃香。この山を治める四天王の1人だよ」

「四天王?」

なにそれ厨二病?初めて会ったけど、お前は最弱なの?

「四天王ってのは鬼の中でも強いヤツ4人の事さ」

「へ〜」

ん?鬼?鬼って言った?この幼女。

「うん。ほら」

幼女は頭を指差す。チャーシュー教(今名前を決めた)の第二信者としてしか見ていなかったが、確かに幼女の頭の横から2本の角が伸びていた。

あ、第一信者はルーミアね。

「……驚かないのかい?」

「ん〜。特には」

「……へぇ」

幼女は驚いたように目を見開く。驚いてはいるが、何処か嬉しそうだ。

「鬼と向かい合って驚きも、ましてや恐怖すらしないとはね」

「まぁ、初めて見たわけじゃないし」

 

 

 

 

霧になって山を散歩(?)している途中。いい匂いがしたから、その方向に向かうと、この辺りでは見慣れない人間が座っていた。

よくわからないが、大きな器に茶色い汁が満たされ、糸……よりは太いかな?紐のような物を食べている。初めて見た食い物だ。

余りにも気になったので、不用意にも声を出してしちゃったけど。

男は何処からか出したのかわからないけど、もう一つ、同じ物をウチに差し出した。

見た目はお世辞にも良いとは言えないけど、その匂いに我慢出来ず箸を取った。

「う、うまいっ!!」

なんか背後で『テーレッテレー』って音がした気がするけど、今は無視する。

男を見ると、夢中で食べているウチを嬉しそうに見ている。優しい笑顔。

整った顔に高い身長。艶のある黒髪が風に揺れている。青と白の出で立ちは、見慣れない服装だが、よく似合ってた。

というか、今更だけどこの男からとんでもない大きさの霊力と、微かに神力を感じる。神力の方はなんか隠してるっぽいけど。

「俺は神条霞。ただの旅人さ」

 

 

 

「んで、霞は何しにこの山に来たの?」

幼女は腰に下げていた瓢箪に口をつけて飲んでいる。匂いからして酒だろうが。いいのか?こんな幼女が酒なんか飲んで。

「この山を下りたところに人間の住む都ってのがあるだろ?そこに近付かないでくれ、って言いに来たんだ」

「……なんで?」

そう言う幼女から突如妖力が吹き出る。辺りの木々が妖力にあてられミシミシと悲鳴をあげている。

「不要な争いは避けるべきだろ?」

「不要かどうかはわからないさ。特にアンタみたいな人間がいるんなら、ウチらは是非とも喧嘩してみたいね」

幼女はそう言って立ち上がる。

「ウチら鬼は酒と喧嘩が大好きなのさ」

「俺は好きじゃないんだが?」

「それは知らないさ。この山に不用意に立ち入って、ウチの前に現れちゃったんだから」

いや、それは理不尽だろ。まぁ、妖怪なんて理不尽の塊だが。

「どうしても?」

「どうしても!」

幼女は心底楽しそうに笑う。これが今から喧嘩しようって話じゃなければ可愛いのに……。

「はぁ……わかったよ。ここでやんのか?」

俺は立ち上がり、背伸びをする。

「そうだね。此処で良いだろう?」

まぁ、俺は何処でも構わないけど。

「その前に……」

「んぁ?」

「私のこと、さっきから失礼な呼び方してないかい?」

「……キノセイダ」

 

 

 

辺りの木々を巻き込みながらも、幼j……萃香の攻撃を回避する。後ろに飛び退くと、前髪に萃香の拳が触れたようだ。

「ほー。凄いな」

「余裕で避けてるくせに、嬉しくないねッ」

繰り出された左拳を、右手で払い起動を変える。その瞬間、萃香の姿が霧のように消えた。

「?」

気がつくと、背後に現れた萃香は頭を狙って回し蹴りをしてきた。

咄嗟に左手で防ぎ、そのまま足を取る。流石に地面に叩きつけるわけにもいかないから、そのまま放り投げた。

「霞、アンタ本気じゃないね?」

「……いやいや、鬼を相手に力を隠せるとでも?」

全力も全力だ。『制限をかけた状態で』の全力。

「んー。なんかまだ隠してる気がするんだよね」

お、鋭いね。

「ま、その隠してる物も全部出させてやるけどね!」

 

 

 

幾ら殴っても、幾ら蹴っても、この男--霞には当たらない。間一髪で避けているように見えるが、表情はまだまだ余裕を含んでいる。

ウチも全力じゃないけど、普通の人間ならとっくに肉塊になってる位の力は込めているし。ほんと、底が見えない程強いとは、ゾクゾクするね。

「なぁ、幼j……萃香。アイツらはお前の仲間か?」

また幼女って……。

振り返るとそこには仲間の鬼達が酒を飲みながら見物している。いつの間に集まったんだか。

まぁ、これだけの妖力と霊力がぶつかっていれば、目立つか。

「まぁ、そうだね」

そう言って向き直ると、霞は少し照れた様な表情を見せた。

「……見られるのは慣れてないんだよ」

ちょっと可愛いと思っちゃったね。




霞「お酒は20歳になってから!」

萃香「……20歳なんかとっくに過ぎてるからね?」

霞「なん……だと……?!」

萃香「イラッ」

バキッ!

作「?!なんで俺が殴られんの?!」

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