山登りの途中。腹が減ったので木陰に腰を下ろし、ラーメンを創造する。
うん。外で食うラーメンも旨い。
「いい匂いさせてるねぇ」
何処からか声がする。辺りを見回すが、どこにも気配はない。いや逆か、そこら中から気配がする。たった1人の気配がそこかしこから。
「ズズっ。食うか?」
何処ともなく話しかける。
「え?いいの?!」
「これ、なんていうの?」
姿を現した幼女は、俺の隣に座って同じくラーメンを啜っている。
「よくぞ聞いた!これはこの世界を創りたもうた『ラーメン』という神聖な食物なのだ!!」
「おぉ!!そうなのか!!」
幼女は目を輝かせラーメンを啜る。
「……とくに、この肉が旨いね」
「!!……わかってくれるか、同士よ!」
俺は感動に打ち震える。このチャーシューへの思いをわかってくれるヤツがいるとは。
いずれ、この感動を共感してくれる同士達を集め、新たな宗教としても何ら問題はない気がする。
「この肉……チャーシュー?は酒のツマミにもなりそうだね」
「うむ。その場合は、この様なトロトロに煮るのではなく、焼いた状態にすると良いだろう」
もっと熱く語っていたいが、なにぶん先を急がなければ。非常に残念だが。
「……」
「……」
そういえば。
「お前、誰?」
「んぁ?」
チャーシューを咥えた幼女は、今更ながらにも妖力を感じる。それもそんじょそこらの妖怪より遥かに大きな。
「……ごくん。ウチは伊吹萃香。この山を治める四天王の1人だよ」
「四天王?」
なにそれ厨二病?初めて会ったけど、お前は最弱なの?
「四天王ってのは鬼の中でも強いヤツ4人の事さ」
「へ〜」
ん?鬼?鬼って言った?この幼女。
「うん。ほら」
幼女は頭を指差す。チャーシュー教(今名前を決めた)の第二信者としてしか見ていなかったが、確かに幼女の頭の横から2本の角が伸びていた。
あ、第一信者はルーミアね。
「……驚かないのかい?」
「ん〜。特には」
「……へぇ」
幼女は驚いたように目を見開く。驚いてはいるが、何処か嬉しそうだ。
「鬼と向かい合って驚きも、ましてや恐怖すらしないとはね」
「まぁ、初めて見たわけじゃないし」
霧になって山を散歩(?)している途中。いい匂いがしたから、その方向に向かうと、この辺りでは見慣れない人間が座っていた。
よくわからないが、大きな器に茶色い汁が満たされ、糸……よりは太いかな?紐のような物を食べている。初めて見た食い物だ。
余りにも気になったので、不用意にも声を出してしちゃったけど。
男は何処からか出したのかわからないけど、もう一つ、同じ物をウチに差し出した。
見た目はお世辞にも良いとは言えないけど、その匂いに我慢出来ず箸を取った。
「う、うまいっ!!」
なんか背後で『テーレッテレー』って音がした気がするけど、今は無視する。
男を見ると、夢中で食べているウチを嬉しそうに見ている。優しい笑顔。
整った顔に高い身長。艶のある黒髪が風に揺れている。青と白の出で立ちは、見慣れない服装だが、よく似合ってた。
というか、今更だけどこの男からとんでもない大きさの霊力と、微かに神力を感じる。神力の方はなんか隠してるっぽいけど。
「俺は神条霞。ただの旅人さ」
「んで、霞は何しにこの山に来たの?」
幼女は腰に下げていた瓢箪に口をつけて飲んでいる。匂いからして酒だろうが。いいのか?こんな幼女が酒なんか飲んで。
「この山を下りたところに人間の住む都ってのがあるだろ?そこに近付かないでくれ、って言いに来たんだ」
「……なんで?」
そう言う幼女から突如妖力が吹き出る。辺りの木々が妖力にあてられミシミシと悲鳴をあげている。
「不要な争いは避けるべきだろ?」
「不要かどうかはわからないさ。特にアンタみたいな人間がいるんなら、ウチらは是非とも喧嘩してみたいね」
幼女はそう言って立ち上がる。
「ウチら鬼は酒と喧嘩が大好きなのさ」
「俺は好きじゃないんだが?」
「それは知らないさ。この山に不用意に立ち入って、ウチの前に現れちゃったんだから」
いや、それは理不尽だろ。まぁ、妖怪なんて理不尽の塊だが。
「どうしても?」
「どうしても!」
幼女は心底楽しそうに笑う。これが今から喧嘩しようって話じゃなければ可愛いのに……。
「はぁ……わかったよ。ここでやんのか?」
俺は立ち上がり、背伸びをする。
「そうだね。此処で良いだろう?」
まぁ、俺は何処でも構わないけど。
「その前に……」
「んぁ?」
「私のこと、さっきから失礼な呼び方してないかい?」
「……キノセイダ」
辺りの木々を巻き込みながらも、幼j……萃香の攻撃を回避する。後ろに飛び退くと、前髪に萃香の拳が触れたようだ。
「ほー。凄いな」
「余裕で避けてるくせに、嬉しくないねッ」
繰り出された左拳を、右手で払い起動を変える。その瞬間、萃香の姿が霧のように消えた。
「?」
気がつくと、背後に現れた萃香は頭を狙って回し蹴りをしてきた。
咄嗟に左手で防ぎ、そのまま足を取る。流石に地面に叩きつけるわけにもいかないから、そのまま放り投げた。
「霞、アンタ本気じゃないね?」
「……いやいや、鬼を相手に力を隠せるとでも?」
全力も全力だ。『制限をかけた状態で』の全力。
「んー。なんかまだ隠してる気がするんだよね」
お、鋭いね。
「ま、その隠してる物も全部出させてやるけどね!」
幾ら殴っても、幾ら蹴っても、この男--霞には当たらない。間一髪で避けているように見えるが、表情はまだまだ余裕を含んでいる。
ウチも全力じゃないけど、普通の人間ならとっくに肉塊になってる位の力は込めているし。ほんと、底が見えない程強いとは、ゾクゾクするね。
「なぁ、幼j……萃香。アイツらはお前の仲間か?」
また幼女って……。
振り返るとそこには仲間の鬼達が酒を飲みながら見物している。いつの間に集まったんだか。
まぁ、これだけの妖力と霊力がぶつかっていれば、目立つか。
「まぁ、そうだね」
そう言って向き直ると、霞は少し照れた様な表情を見せた。
「……見られるのは慣れてないんだよ」
ちょっと可愛いと思っちゃったね。
霞「お酒は20歳になってから!」
萃香「……20歳なんかとっくに過ぎてるからね?」
霞「なん……だと……?!」
萃香「イラッ」
バキッ!
作「?!なんで俺が殴られんの?!」