東方古神録   作:しおさば

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眠く……ないっ!!


26話/そこはかとない不安……らしい

「それで、貴方はこれから何処に行こうとしてるのですか?」

朝食を済ませた後、昨日妖力を感じた山に行こうと準備をしているところ、神子に話しかけられた。

まぁ、準備と言っても着替えて刀を腰に差すだけなのだが。

「ん〜?とりあえず近くの妖力を虱潰しに」

俺としては早く外に出たいのだが。少なくとも、都の中では煙草が吸えないから。

「そうですか。ですが1人で?」

「……まぁ、昔は連れがいたんだがな。今は1人だししょうがないだろ」

ほんと、ルーミアは今頃何をしてるんだか。少なくとも札がちゃんと機能しているようだから、無事だとは思うが。

「き、気をつけて下さいね」

「え?あ、うん」

 

都を離れて少し歩くと、山の麓に着く。昨日はこの山から妖力を感じた。が、今はそれがない。

咥えていた煙草を踏み消すと、俺は山登りを始めた。ってか、なかなかに大きな山だから、かなりキツそうだ。

緑が生い茂った森を進む。深い森の匂いが鼻をつく。

特に整備されているわけもない山道を、かき分けるように進むと、川にぶつかった。その川沿いを、登っていくと途中で滝を見つけた。

なんとも、マイナスイオンをこれでもかって程浴びてるなぁ。

少し高い滝を駆け登る。するとそこには1人の少女が岩に座って釣りをしていた。

こんな所に女の子?

青いつなぎのような服を着た少女は、かなり大きな麻袋に紐を通して、リュックの様に背負っている。微かにだが妖力も感じるし。妖怪か?

「……え〜と。はろー?」

「ひ、ひゅいっ?!」

声をかけると驚いたのか、釣竿を川に落としてしまった。

「あ〜ぁ」

「あ、アンタ誰?!」

いつの間にか少女は腰掛けていた岩の後ろに隠れて、こちらを覗くようにしている。そこまで怖いか?俺。

「いや、普通に旅をしている人間なんだが、君は妖怪か?」

「そ、そうだよ。私は河童の河城のとり」

おぉ、河童か。初めて見た。

「そうか、河童か。俺は神条霞。よろしくな」

と、自己紹介しても、やはり警戒しているのか姿を見せてくれない。

ふむ。なら河童といえばアレだな。

俺は両手を合わせてある野菜を創造する。少なくともこの時代には見た事がないが、何処かで作られているのだろうか?

「これ、食うか?」

俺はそう言ってキュウリを差し出す。うむ、ついでにキンキンに冷やした状態にしてあるから、普通に美味そうだ。

「な、なに?それ」

「コレはキュウリって言ってな。旨い野菜なんだ」

些か不安なのだろう。俺はもう一本創造して、食べるところを見せてやる。

「な?別に怪しい物じゃないから」

そう言ってザルに何本か出し、地面に置いて少し離れる。

俺が離れたのを確認して、のとりは漸く姿を見せてくれた。恐る恐るキュウリに手を伸ばし、1口齧ってみた。

その瞬間、のとりは驚くほど輝いた目をしてキュウリを一心不乱に齧り出した。そんなに美味かったか?

「これ!美味しい!!」

「そ、そうか。気に入ってもらえて良かった」

 

「んで、ここにはのとりしか居ないのか?」

キュウリですっかり気を許してくれたのとりは、今では俺の隣に腰を下ろしてキュウリを食べている。

「そんなことないよ盟友。ここは妖怪の山って言われている所だからね、他にも色々な妖怪がいるよ?」

盟友?

「そうなのか。他にはどんな妖怪がいるんだ?」

「ん〜。天狗とか、鬼とか」

うわぁ!面倒臭い種族を聞いちゃったよ。

「お!鬼がココにはいるのか?」

「うん。だからこの先には行かない方がいいよ?」

まぁ、そうも言ってられないのだが。

「そうか、ありがとう。でも、俺はこの先にいる妖怪に用があるんだ」

「そうなのかい?」

うん。せめて会話してる時くらい食べるの止めようか?

「この山を下りて少しした所に、人間が沢山いる場所があるだろう?出来ればそこには近付かないで欲しいんだ」

「人間?なんで?」

「妖怪と人間は相容れない存在だろ?不要な争いは避けるべきさ」

「……なるほどね」

 

 

 

のとりと別れて再び登山を開始した。

なんとか河童には都に近付かないと約束をして貰ったが、他の妖怪はこの様に簡単に済むとは思えない。

特に鬼。

今から既に気が滅入ってしまう。

 

 

暫く歩くと、何処からか声をかけられた。

『ここは我ら妖怪が治める地。人間は即刻立ち去れ』

エコーのかかったような声に頭が痛くなりそうになる。

「そうは言っても、俺もこの先に用がある、というか妖怪に用があるんだ。良ければ姿を見せてくれないか?」

『人間如きが、我らに何用だ!!』

なんとも、喧嘩腰な発言だな。聞く耳持たないって感じ。

「この近くにある人間の治める地に、近付かない、ただその約束をして欲しいだけだ」

『舐めるな!人間如き貧弱な存在が、我ら妖怪に命令するつもりか!!』

こいつ、話を聞いているのか?

「命令をしているんじゃない!約束をして欲しいだけだ!!そうすれば、我々もこの山には近付かない事を約束しよう!!」

『巫山戯るな!貴様ら人間の言う事を何故信用できる!!』

……あー。コイツは何を言っても平行線のままだな。

というか、いい加減俺も腹立ってきた。

「……姿を現せ」

夜月を抜き、横薙ぎに振り抜く。

半径10mの木々を断ち切ったため、とても見晴らしの良い空間ができた。

そうしてると空から誰かが落ちてきた。

親方!空から(ry

「痛たたっ」

「やっと出てきたな、このヤロウ」

「ひ、ひぃっ!!」

抜き身の刀を手に、暗い笑みを浮かべながら近付く俺は、嘸かし恐ろしいだろう。

「ど、どうか!命だけは!!」

「……はぁ」

と、脅したは良いが。流石に相手が女の子ならば、これはやり過ぎた。

「とりあえず、俺はアンタらに何かするつもりはないから、安心してくれ」

「ほ、本当ですか?」

アレ?さっきと口調が違うような。

「さっきのは、人間を山から追い出すように怖がらせるためのヤツですから」

「あ〜。なるほど?」

 

 

 

「俺は神条霞。ただの旅人だ」

「私は烏天狗の黒羽アゲハです」

何故か正座しているアゲハは、未だに少し怯えている。

そんなに人間って恐ろしいのか?

「いえ、人間って言うよりも。あ、貴方が……」

「俺?」

「……だって、刀の一振りでコレだけの木を一気に斬ってしまうのですよ?」

……確かに怖いわ。

「す、済まなかった」

これは自業自得ってやつか。

「でだ、さっき言ってた事。考えてくれないか?」

「先程……。あの人間の地に近付かない、というやつですか?」

「そー」

「うーん。我々は別にそれでも良いんですが。何せ我々天狗は鬼には頭が上がらないので」

「鬼?」

「えぇ、鬼に命令されたならば、従わなくては……後が怖いですから」

なんだその上下関係。

「なら、鬼と約束出来ればいいってわけか?」

「ま、まぁ。それが可能ならば」

なんど、ある意味簡単じゃないか。

鬼を説得してしまえば、この山は人間にとって驚異ではなくなる。まぁ、この約束を人間が守れば、だけど。

「ほ、本気で鬼と会うのですか?」

「ん?そのつもりだけど」

「……死にますよ?」

いや、死なない。ってか死ねないし。

「大丈夫。鬼には1度勝ったことあるし」

「はい?!」




妖怪の山って、1度でいいから行ってみたい。

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