右手で握る刀に、神力を注ぎ込む。青白く光りだした刀は、神秘的に見えた。
「……なんなんですか。その刀は」
「この世の理から『断ち切られて』いるからな」
そう。俺は先日、この刀にある能力を付加させた。
『森羅万象を断ち切る程度の能力』
この刀で斬られたモノは、この世の理から『断ち切られる』。
それは物体を形作る原子の結合であり、絆であり、能力であり。
この刀に断ち切れないものはない。
「そろそろコイツにも名前を付けてもいいかな」
俺は刀を夜空に掲げた。月明かりに照らされた刀を振り払う。
「そうだな。『夜月』にしようか」
「この世の理から断ち切られている?何を言ってるんですか!!」
見るからに苛立っている律は、敵意を剥き出しにして俺を睨む。
「……そんな刀……『折れろ』『折れろ』『折れろぉおおおっ!!』」
「無駄だよ」
律がいくら能力を、使って叫ぼうが、刃こぼれ一つしない夜月。
「……その刀で僕を斬るんですか?」
「いや、俺はお前を斬らないよ」
俺は夜月を一度鞘に収める。そして腰を低く落とす。
「俺が斬るのは、お前の繋がりだよ」
居合斬りの構えを取った俺は、律を見据える。勝負は一瞬。律が言葉を発するのが先か、俺が斬るのが先か。
「……僕は……ただ、復讐したかっただけなんだ……」
「んなこと知るか。お前の狭い了見で、お前と同じ人間を作ろうとしてんじゃねぇよ」
「!?」
「お前の過去に何があったかなんて知らねぇし、知ろうとも思わねぇ。たが、お前の望みは次のお前を作るだけだ」
「……なら!どうすれば良かったんですか!!」
夜風が俺達の間を吹き抜ける。それは律の心に吹き続ける、冷たい風のように思えた。
「言ったろ?知るかよ。甘えてんじゃねぇ。……ただ、その苦しみを誰かに打ち明けてれば、まだ違ったかもな」
「……」
「そろそろ、終わりだ」
俺は一息に地面を蹴る。霊力を込めた脚力は、容易に地面を割り、風を置き去りにして駆け抜ける。
「『星よ……!!』」
「断ち切れ!夜月!!」
斜め下から逆袈裟に切り上げる。その刃は律の肉体を傷つけることはなく、振り抜いた。
俺が断ち切ったのは律の心の迷い。過去の記憶の闇の部分。
「…………」
「お前が欲しいものはあげられない。だから、その心は……ココに置いていけ」
「……か、霞……さん」
ふと、律の頬が濡れた。気がつくと空は雨雲で覆われ、雨が降り出した。
「…………ごめんなさい。霞さん『僕に』……」
「?律?!」
律の頬を濡らしたのは雨なのか、それとも……。
「『落ちろっ』」
「?!」
溢れ出した神力は、律の言葉に乗り、天へと登っていく。
空へと消えた言霊は、雲を割り、星空へと届いてしまった。
そして、律の望みどおり、星が一つ、落ちてきた。
律をめがけて。
「律っ!!」
「ごめんなさい。霞さん。そして、ありがとう」
大気圏で赤く燃えた星は、その大きさをだいぶ小さくしていた。しかし、その形を失うことなく真っ直ぐ律へと向かう。
「クソが!断ち切れ!夜月!!」
俺は落ちてくる星、小さな隕石目掛けて夜月を振り抜く。
しかし、一度神の力で引き寄せられた隕石は、もはや繋がりではなく、まるで意志があるかのように律へと落ちてきた。
「やめっ……!!」
そして無残に無情に、無慈悲に
律を貫いた。
まるで、星が降ったことすら無かったかのように、辺りは静寂に包まれた。
「……律」
既に息絶え、俺の言葉に反応しなくなった律は、何処か満足そうに、安心したように、眠るように横たわっていた。
「別に、死ぬ必要なんか……なかったのにな」
俺は夜月を振り、納刀する。
収めらた夜月の音は、暗い夜の闇の中に響いて消えていった。
静かな丘の大きな桜の樹の下に、小さいが墓を作ってやった。石には小さく『律』と一文字だけ彫り込んだ。
墓の前で屈み、手を合わせる。
「お前は自分で言う程、人間を嫌いじゃなかったんだよ」
誰に聞かせるでもなく、呟くように語る。
「お前が本当に、心の底から人間が憎いなら、あの村に言霊の結界なんて貼らなかっただろ」
律の能力は言葉に神力を乗せて、事象を引き起こす。その為、引き起こされた事象、結果には神力や霊力が感じられなかったのだ。
「……お前ともう少し早く会えていれば。違ったかもな」
そんな今更なことを、心にもなく思い、口にしてしまう。
「……また、時間が出来たら来てやるよ」
そして俺は、立ち上がり振り返ることなくその場を後にした。
「ココはどこなのかー?!」
はい、と言うことでオリジナルストーリーでした。
そんでルーミアと離れ離れになっちゃいましたねー。
計画通りっ……!!( ̄▽ ̄)ニヤリッ