なんとかここまで漕ぎ着けた!!
side 霞
澄み渡る空を、何羽かの鳥が気持ちよさそうに飛んでいく。
夏が過ぎ、風が涼しく感じられてきた今日。
俺はいつもの如く縁側に腰掛け、湯呑みに注がれた茶を飲んでいた。
あれから早くも三ヶ月が過ぎようとしていた。
ボロボロだった人里も復興(能力による修復)が進み、最近ではもう商売を再開している所もあるくらいだ。
「いや、お父上様?呑気にお茶なんか飲んでないで、説明をして欲しいのですが」
俺の後ろ、茶の間には月夜見が姿勢正しく座っている。
そう言う月夜見だって、茶を飲んでるじゃないか。
「……あれから結構時間は経ちましたよ?いい加減事の顛末を教えて欲しいのですが」
月夜見が知りたがっているのは無明との戦いの後のことだ。
正直、思い出したくもないんだけど。
しかし、そろそろはぐらかすのも無理が出てくる。最悪の場合、月夜見のお説教(2時間コース)になりかねない。
はぁ、面倒臭い。
あの日、俺は姫咲の妖力と共に封じられていた、俺自身の神力を取り戻すことで、創造神モードとなる事が出来た。
さて、どうやって倒したかと聞かれていたな。
「俺、『倒した』なんて言ってないぞ?」
「……はい?」
珍しく月夜見から間抜けな声が聞こえた。
見れば目を見開き驚きを隠せない表情。なかなかに面白い。
「倒してないって、どういう事ですか?!」
詰め寄る月夜見。
しょうがないだろう。相手は『死』の概念を崩していたんだから。殺すことが出来ない、封印も出来ないなんて、反則にも程がある。
「で、では一体……」
俺は思い出す。あの日のことを。
「創造神様の特別大サービスってとこだな」
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自分自身の事ってのは、意外とわからないものだ。
幾ら数億年程生きているとは言え。むしろ長く生きるほどに分からなくなることがある。
例えば記憶なんかがそうだ。長く生きることで、その記憶は曖昧になるし、不確実で、自分に都合のいいものに変換される。
何が言いたいかって言うと、
自分の能力を忘れていてもしょうがないよね。って事だ。
ましてやその能力を今までに数回しか使用していないならば尚更。
自分で自分を納得させる。しょうがないしょうがない。
「……し、師匠?何をしているのですか?」
1人頷く俺を訝しみながらも、動きの止まった俺に近づく紫。やだ、少し恥ずかしい。
殴った瞬間に
「いや、記憶ってのは不確かなものだと思ってたところだ」
「……この緊急事態に、ですか」
俺は夜月を納める。コイツの能力が通用しない相手ってのも、初めての経験だった。
コイツの能力単体でも、世界が崩壊しかねない程。無明相手にはタダの切れ味抜群な刀でしかなかったが。
無明は今、
俺が左手で触れた相手には、夢を見せることが出来る。細かく指定しなければ見る夢はランダムで、良い夢を見ることもあれば悪夢を見せられることもある。
今回、俺は無明にとって悪夢を見せている。
内容は分からないが、恐らく俺にコテンパンに伸されているんじゃないか?
「夢、ですか」
「そ。自分でもこの能力を忘れてたからな」
最後に使ったのは、確か洩矢の国へと旅した時じゃないか?それ以来使っていないとすれば、忘れていてもおかしくはないだろう。
「さて、紫は少し離れてろ」
最後の仕上げとかかろうか。
夢はいつか覚める。ここからは時間をあまりかけられない。
俺は両手を合わせる。
創造神としての力を目一杯使い、あるものを創造する。
今までの人生……神生か?において、2番目にデカイ創造。
俺は
無明だけの、無明の為の世界。創造神様、大盤振る舞いだ。
その世界へとワームホールを開き、無明を放り込むと自分も潜る。
世界は何も存在しない、闇よりも深い黒に染められていた。
何も存在しない、完全な無。上下左右も無く、その中に俺と無明は漂っていた。
さて、そろそろ起きてもらおうか。俺は指を鳴らす。
能力から解放された無明は、ゆっくりと目を開いた。
「おう、起きたか無明」
空気なんかも存在しないのだから、音が伝わるわけもなく。頭の中に直接語りかける。……ファ〇チキ食べたくなってきた。
「ここはお前の為に創造した世界。何も存在せず、何も起こらない。完璧な無の世界だ」
恨めしそうな表情を作ろうとした無明は気が付く。身体が動かないどころか、表情一つ変えられない事に。
「気が付いたようだな。言ったろ、ここは完璧な『無』の世界だと」
何も存在しない。何も存在出来ない。
そこには生命だけでなく、
それは能力は勿論、『力』と名のつくもの全て。つまり、筋力もだ。
表情筋も含めて、無明は指一本動かすことは出来ない。
「ま、何か言いたいだろうが、この世界じゃ言葉すら存在しないからな。諦めろ」
あぁ、やっと終われる。
長く続いた無明との因縁。その終止符が今打たれる。
「お前はこの世界から出ることも出来ず、死ぬことも出来ない。永遠の時間の中で、苦しみ続けろ」
言葉を幾ら紡ごうが、コイツの心には届かない。
神は赦す存在だとか、都合のいいことは言わせない。
コイツのせいで流れた涙がある。失われた命がある。それを赦す事など、俺には出来ない。
力に溺れ、力を欲した無明への俺からの天罰だ。
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「これが、無明との顛末だ」
「つまり、異世界へと封印したのですか」
まぁ、簡単に言えば。
「力」が存在しないあの世界では、そこから出てくることも不可能。他の者が入ることも、俺しか知らない世界なので無理だ。
幻想郷へと戻った俺は、すぐさま各地の復興を始めた。
先ずは各地に蔓延っていた魔界人。まぁ、簡単にワームホールを開いて魔界へとお帰りいただいた。後は向こうが何とかするだろう。必要となれば俺も話をしに行くし。
次に失われた命。これが意外と大変だった。そこらじゅうに漂い続ける魂たちのもと運命を読み取り、今失われるべきではない命だけは、俺の力を持ってして救い続けた。
まぁ、これについては後々冥界やら地獄やらから月夜見を通して抗議を受けたが。
それらが一段落着いたのは、つい先日の事だった。何がそんなに長くかかったかって?月夜見の説教だよ。
「それではそろそろ帰りますね」
月夜見は立ち上がる。あまり長い事月を不在にするのは不味いのだろう。また月の連中がよからぬ事を企んでも面白くないし。
「…………帰りますよ。天照」
「そうですか。ではお見送りに」
……俺の腰に抱きついていた天照は、笑顔である。
コイツ、異変が終わるとすぐ様駆けつけ、ずっと腰に抱きついていた。いい加減帰れ。
「お父様は私に死ねと?!」
「お前の生命活動はどうなっているんだ」
ここ数年で悪化してないか?
そんなの事を思っていると、気配が変わる。あぁ、俺は知らんぞ。
「……天照?三度は言いません。
そこには見事なまでに笑顔な月夜見がいた。
俺ですら身震いしてしまいそうな笑顔の背後には、鬼子母神以上の鬼が見える。
首根っこを捕まれ、引き摺られる様に帰っていった神二柱を見送ると、今度は神社の境内が騒がしい。
「あ、霞さん!ちょっとこれどうにかしてよ!!」
様子を見に出れば、怒り狂う霊夢がいた。
その手には竹箒を握りしめ、掃除の途中だとわかる。
「どうしたんだよ」
視線を送れば、黒い球体を追いかけ回す角の生えた幼女。周りが見えていないのだろう、せっかく掃いていた落ち葉も、再び舞い上がる。
「あんた!私の団子食べたでしょ!!」
「そーなのかー」
俺の式が
目出度く俺の式となり、幼女の姿へと戻った鬼ヶ原姫咲。地上最強の鬼。
目出度く幼女の身体に
2人は常人から見れば子供がじゃれ合うように駆け回る。しかしながら、その力は人間どころか並の妖怪でも太刀打ちできない。そんな2人がじゃれ合えば……。
「境内が穴だらけになるのは当然だよな」
「達観してないで止めなさいよ!!」
霊夢に怒鳴られる。
年端もいかない少女に怒られる創造神。字面にすると異様さ半端ないな。
「世は並べて事も無し。この日常を謳歌しなさい霊夢」
「こんな日常、受け入れられるか!!」
遥か昔、一柱の神様がおりました。
自由奔放を極めた神様は、何者にも縛られず、妖怪も人も神も、全てを包み込み、この世界を見守り続けています。
これまでも、そしてこれからも。
これは一番古い神様の長い長いお話……。
物語はまだまだ続く……。
ご愛読ありがとうございました!!
霞「終わりか?」
作「続けたい?」
霞「それ、俺に聞くんだな……」
感想お待ちしております。
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