いっちょやってやれ!!
side 霞
さて。どうするか。
無明の能力の正体は分かった。
壁を崩すだなんて、応用が効くようで、そうでもない能力だとは思わなかったが。
俺は腕を組みながら、考える。
ルーミアを姫咲へと向かわせた以上、向こうは心配要らないだろう。……アイツが不要なまでに暴れていなければ、だが。
「随分と余裕ですね、創造神」
「そりゃそうだ。常に全力を出していれば少なくとも、お前は俺に勝てないんだからな」
まぁ、それだけのスタミナがある事が前提の話だが。
常に全力など、普通の人間ならば不可能だ。体力にしても、必ず減っていく。
俺?俺は神だし。力の源は信仰。しかもその対象は神だからな。神から信仰を得る神。言葉にしてみれば、なんとも意味不明な事だ。
そもそも、神が他の神を信仰すること自体、有り得ない。特に、それぞれの神話の最高神ともなれば、尚更。大体の神話の最高神は、ほぼ俺と同一視されることがある。やら宇宙を創造したやら、やれこの地を作られたやら。
つまり、俺の存在を知っている者以外からは、俺は信仰を得られない。俺の存在を知っているのは、その殆どが神なのだから、しょうがない話ではある。
そして人間からの信仰よりも、神からの信仰の方が力を得やすいのは当たり前だ。
だってそうだろ?
普通の人間ならば、例えばお賽銭に多くても千円が限度なところ、神は当たり前のように全財産を注ぎ込んでくる。それ位の差が出るのは当たり前である。
つまり、何が言いたいかと言うと。
「俺、最大出力って出したことないや」
今の「全力」とは、この星や世界に影響を与えない程度の範囲で出せる
まぁ、俺が何も考えずに全てをさらけ出したら、下にいる紫や霊夢。ましてやこの世界ごと壊してしまうだろう。
無明が常に俺と同等の力を得続けた場合、いずれはその域まで力を使わなければならなくなる。
そこで最初に戻る。
さて、どうするか。
飛んでくる黒い弾幕を、夜月で薙ぎ払う。
いくつか斬り漏らしたモノは、ワームホールを開き飲み込ませた。
まったく、ゆっくりと考え事もさせてくれないのか。
「ふざけているんですか」
「ぶっちゃけ、シリアス展開に飽きてきたんだよ」
もうこの章だけで何話使うつもりだよ。
と、メタい事を思いつつも頭を働かせる。
コイツには封印も意味がない。
殺すことも不可能。人間としての
封印もダメ、殺すのもダメとなると、どうするか。
そもそも、俺には何が出来るんだ?
いや、基本何でも出来るし、そう言っているんだけど。
俺自身の能力を再確認。
先ずはありとあらゆるものを創造し操る能力。
俺は両手を合わせる。
その瞬間に無明の周囲を無数の刃が覆う。その全てが一斉に無明へと飛び掛るが、スキマへと逃げ込んだ無明は無傷で再び姿を現す。
次に空間を操る程度の能力。
空間に裂け目を造り、中へと弾幕を打ち込む。
空間は無明の背後へと繋がり、そこから弾幕が流れ出る。しかしそれらも無明は、黒い球体を作り出し吸い込ませた。
後は概念を付加する程度の能力と、夜月の理を断ち切る程度の能力か。
これはさっきからやっているが、無明に傷を付けられないでいる。理というカベも、崩しているのだろう。
さて、どうしたものか。
時空を遡り、無明が産まれる前にまで戻ることも出来るが。その隙を与えてはくれないだろう。
これから能力を作り出しても良いのだが……。
ふと、一つ思い出す。
もう一つあったじゃないか。
まず使うことのなかった俺の能力。
最後に使ったのはいつの事か、俺自身も覚えていなかったが。
この能力ならば、カベは関係ない。
なんだ。簡単じゃないか。
「さて、お前への対処方が決まったところで、タイミングはバッチリだな」
どうやら紅魔館へと向かわせたルーミアは、万事上手くいったようだ。
何にせよ、一瞬でも無明よりも上にならなければ意味が無い。その為には姫咲の封印が邪魔だった。幾らカベを崩されたとは言え、封印自体は残っていた。イメージ的には壁に穴を開けたって感じかな。その穴からは姫咲自身の力が取り出せたが、俺の力は戻ってこない。俺の力を戻すためには封印を完璧に解く必要があった。
「紫!姫咲の封印、解除だ!!」
「えっ!?あ、はい!!」
余計な説明をしている暇はない。
手短に伝えると、紫は術式を発動する。
紫の足元に広がる陣。それが砕けるように消え去ると、途端に俺の身体に神力が漲る。懐かしい俺の一部が帰ってきたような。欠けていたパズルのピースが埋まっていく感覚。
「……さて、無明。これでお前に勝ち目はなくなった」
「……何を言っているんです。いくら貴方が力を取り戻そうとも、私はそれを超える!!」
どうやらコイツは自分の能力を完璧に把握はしていないようだ。俺を超えると言っている時点で、間違いなのだから。
ならばやってみろ。この世界を作り出した神として、世界を壊そうとする奴を放っておけはしない。
俺は右手を広げ伸ばす。掌には青い球体が作られた。
それを握る。砕け散った球体は、霧となり周囲を囲んでいく。
「掌握」
これも気休め程度。無明の能力ならばこの空間にも意味は無い。それでも、少なくとも俺の全力によって世界が壊れることは防げるだろう。
両手を合わせる。まるで全てに祈りを捧げるように。
「神力全解放。
全てを創造し、全てを司る。全ての根源であり、原初。そんな俺の力が掌握した空間に流れ込み、青く輝いていく。
「……これが……創造神」
見れば初めて無明の表情に焦りが見えた。頬を伝う汗を拭うが、体の震えは抑えられないようだ。
「その力を手に入れれば!!」
「お前に出来るわけがないだろう」
空を蹴る。俺の動きが見えなかったのか、視線を彷徨わせた無明。俺に気が付いたのは、背後に周り左手による力いっぱいの拳を食らわせた瞬間だろう。
吹き飛び、周囲の木々を叩き折りながら森へと転がっていく。
「……くそっ!!」
能力なんて使わせない。そんな暇は与えない。
一瞬で目の前に移動し、掌底を腹に叩き込む。
腹の内容物を吐き出しながら苦しみ藻掻く。
「これが創造神の力だ。分かったかコノヤロウ!!」
見れば俺へと右手を伸ばす無明。なるほど、まだ俺の力を奪おうとしているのか。
「その右手が能力を奪う鍵となるなら……」
その右手を落とさせてもらう。
俺は夜月を右手に引き寄せる。
今の夜月ならば、切れないものは無い。理も概念も、現象も思考も、森羅万象を切り裂く。
夜月を振るう。その軌跡は目で追うことすら出来ず、切られたことにすら気が付かない。
「……?!がぁっ!!」
切り口から血が吹き出す。
「これでお前は能力を奪えない」
「……余裕を見せるな……創造神!!」
無明の口調が変わる。もしかするとこれが無明の素なのかもしれない。
「例え力を奪えなくとも!お前との壁を崩せば良いだけだ!!」
醜く歪んだ顔。剥き出しなされた敵意。漸く人間らしさを垣間見た気がした。
「俺とお前に差などない!!」
そう叫ぶと、無明から感じられる力が段違いに上がる。どうやら能力を発動したらしい。
「くくくっ。これで、これで俺はお前と同等となった!!」
「そう、俺と同じだけの力を得たな……」
それがどういう意味なのか、分かっていない。
「はははは!!これが創造神の力か!!これだけの力がっ……?!」
普通の人間ですら、余る力は身を滅ぼす。幾ら人間を超えたといえ、創造神の力がその身に収まるはずもない。
無明の身体は暴走を始めた。溢れ出る力を抑えられず、膨れ上がり、歪み、捻じれ、壊れていく。
「それがお前の望んだ姿だ」
「そ……んな……馬鹿……な」
俺は夜月を納める。
「…………くそっ!くそぉっ!!こんな……終わり方を認めるか!!全てを破壊してやる!!この力、全てを暴走させてやる!!」
そう言うと無明だったものはより大きく膨らんでいく。
暴走した力は凝縮し、一塊の爆弾となる。もしこれが爆発すれば、幻想郷どころかこの星、宇宙すら存在が危うくなる。
「やれるものならやってみろ」
しかし、俺が何も考えていないわけがないだろう。
「いい夢を見ろよ、無明」
そのセリフを最後に、無明は爆発を起こした。
全ては一瞬にして光に包まれ、その後、闇へと消えていった……。
霊「あれ?これ私たち死んだ?!」
紫「し、師匠?!」
霞「あ、ちょっと用事あるんで、これで」
魔「逃げたぞ!!追え〜!!」
次回、東方古神録最終回!!
感想お待ちしております。
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