東方古神録   作:しおさば

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紅魔館編、これにて終了!!


91話/幻想大異変-紅魔館④

side ルーミア

 

荒れ狂う二つの力の奔流は、ぶつかり、受け流し、溶け合いながら周囲を包み込んでいく。

もう、お互い語ることはなく。

いいわね。こういう雰囲気、嫌いじゃないわ。

霞みたく、余計な事をグダグダと喋って、相手のペースを乱すなんて、私の性にあわない。

肩に担いだ大剣を、高く持ち上げ、そのまま振り下ろす。

私の妖力を吸った斬撃は、真っ直ぐに鬼へとその矛先を向けた。

それを片手で受け止めると、握り、砕ける。

視界から消えた鬼は、一瞬にして背後へ回り、渾身の力を込めた拳が振り返った私の目の前に迫った。

屈んで避けつつ、体を捻り胴を薙ぐ。切り裂かれた腹部から、赤い血が勢いよく流れた。なんだ、鬼と言っても流れるのは赤い血なのね。

しかし傷口に妖力が込められたかと思えば、見る見るうちに塞がっていく。なるほど、不死ではないけど、「死ににくい」という訳か。

バックステップで間合いを開ける鬼。その表情は、傷を付けられたにも関わらず、何処か楽しそうだ。多分、私も似たような顔をしていると思う。

 

きっと、私とコイツは似たもの同士。

今まで自分を傷付ける存在など、皆無だったはず。そこに来て、やっとマトモに戦える相手が見つかったのだから。嬉しいに決まってる。

私は駆ける。一気に間合いを詰め、下から斜めに切り上げた。

妖力を込めた右手に止められるが、そのまま握る手を離し、空いた拳を叩き込んだ。

咄嗟の事に反応出来なかった鬼は、数十メートル吹き飛んだが、どうせ無傷みたいなものだろう。

なら、畳み掛ける。

大剣を右手に引き戻し、切っ先を土煙に隠れた鬼へと向けたまま、真っ直ぐに突っ込む。

煙を割って出てきた鬼は、切っ先を避けながら、私の顔面を掴む。そのまま地面へと叩きつけられ、私は数千年ぶりの血を吐き出した。

地面は窪み、ひび割れる。

ったく。痛いじゃない。

 

剣を杖がわりに起き上がる。

拳で口元を拭い、不快な鉄の味を吐き出した。

単純な力は鬼の方が上。速さで言えば私の方が上。

能力が使えない以上、短期で決めるべきなのだろうけれど、それには余りにも不利な状況。

まったく。これが地上最強の鬼なのね。

厄介なことこの上ない。

元々、鬼に殴り合いを挑むこと自体、間違ってるとしか言えないけれど。

アイツに頼まれた事もあるし。しょうがない、全力で行くしかないわね。

私はポケットから霞に渡された札を取り出す。それは見たことのある札。私としては二度と見たくもないし、触りたくもなかったけど。

「そろそろ終わりにしましょ、鬼の頂点」

そう言って私は大剣をしまう。次の一撃は、大剣での大振りなものではダメだ。確実に当てるためには、拳に限る。

腕をダラリと下げ、余計な力を抜く。必要なのは一瞬の最大出力。

「えぇ、私が勝って、それで終わりよ」

鬼は重心を低く構える。割って入った時の必殺技っぽいのを、また繰り出すつもりらしい。

 

一瞬の静寂。

 

何を合図にお互い動き出したのかは、今となっては分からないけど。2人は同時に動いた。

後ろに爆音を響かせながら、互いの距離は詰まり。

鬼の拳は正確に私の顔面を捉えようとしていた。世界が間延びした様に、ゆっくりと見える。

私はもっと低く、地面スレスレまで潜り込む。

頭上を過ぎる拳。私は今出せる、全ての妖力を右手に集中させた。

妖力を固くするだけじゃない。

鋭く、研ぎ澄ます。

 

私の抜き手は鬼の胸を貫いた。

 

時間は再び流れ出し、私の右手を血で濡らす。

右手を抜くと、鬼の傷口からは血が溢れ出した。

これだけの傷ならば、もはや妖力だけでは治癒出来ないだろう。

膝から崩れ落ちた鬼は、そのままゆっくりと倒れ、仰向けに寝転んだ。

「……私の……負け?」

見上げる鬼と、見下ろす私。この勝負の結果を物語る。

「そうね。私の……私たち(・・・)の勝ちよ」

会話をしている間も流れ続ける血は、その勢いを止めようとはしない。

「今度ばかりは助かりそうにないわね」

「さぁ、どうかしらね。鬼って意外としぶといから、その傷でも生きていられるんじゃない?」

嘘だ。自分で負わせた傷くらい、分かっている。

急所を外した(・・・・・・)とは言え、このままでは息絶えるのも時間の問題。

「……出来れば、もう一度アイツに会いたかったんだけどね」

あんなヤツの何処がいいんだか。

流石にこの状況下でそんな事は言えないけれど。

「……死にたくない……」

 

 

 

 

まったく。こんな回りくどいやり方をしなきゃいけないなんて。ホント、あの創造神は性格悪いわ。

私は鬼の目の前に札をチラつかせる。

「……アンタには二つの選択肢があるわ」

 

遥か昔。私があの神に出された選択肢。

「このまま死ぬ」か「どうなってでも生きる」か。

どっちにしろ、ろくな目に合わないのは分かってるけどね。

私の頭に付けられた、リボンの様に結んだ札と同じものを、見せながら私は言う。

「アイツの式は、少なくとも退屈しないわよ」

 




来週中には最終話まで書き切る予定です、はい。

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