あとあの子も登場。
side 美鈴
「お久しぶりですね、姫咲さん」
目の前に立つ最強の鬼に、私は逃げ出したくなる身体を必死に押さえつける。
本来ならば再会を喜ぶべきなのだろうけれども、今は状況が違う。
先日の博麗神社での宴会の際に師匠から聞かされた、姫咲さんの裏切り。その情報がなければ、私はここまで警戒をしなかった。
まぁ、それがなくともここまで白地な殺気を放っていれば、警戒はするかな。
現に周りを見れば、あのお嬢様ですら、冷や汗をかいている。
「……美鈴、アイツは何者だ」
姫咲さんから目を逸らさず、その一挙手一投足わ注視するお嬢様は、若干震えながらも聞いてきます。
「……師匠が辛うじて封印をした、地上最強の妖怪、所謂鬼子母神です」
「あの創造神が倒さずに封印した?それだけでも冗談だと思いたいな」
ゆっくりと歩を進める姫咲さん。ふと立ち止まると、辺りを見回す。
「邪魔なのが多いわね」
そう言って右手に妖力を込め、無造作に振るう。
それだけの動作なのに、まるで嵐のような突風が吹き荒れ、周囲にいた異形の軍勢は跡形もなく吹き飛んでいました。
「うん。これで邪魔は居なくなった。さぁ、
不敵に笑むその顔は、初めて目にした時と同じく、純粋な殺意が込められ、並の妖怪ならば泡を吹いて気を失ってしまいますよ。
「悪い冗談だと思いたかったですけどね」
「あら、私は鬼よ?鬼は嘘を吐かないわ」
そう言って、動き出した姫咲さんを、私は既に見失っていました。
side 咲夜
突如として現れた1人の女性。どう贔屓目に見ても、友好的とは思えない程の殺気を放ちながら、私達の目の前に立つ。
右手を振るうだけで、辺りを一蹴した力を見れば、今までの軍勢などまるで玩具でしか無かったと言わんばかりで。
久しく感じなかった、『死』の恐怖を私は骨身に染み込ませていた。
喉が渇く、身体が震える。今、一言でも喋れば抜き身の刃の様な殺意は私を貫き、簡単に殺されるだろう。
こんな圧倒的な戦力差を感じながらも、相手と話し続ける美鈴。それだけでも、私には真似の出来ない事だ。
その美鈴ですら、冷や汗をかき身体を震わせ、逃げ出さないよう耐えている。
「……あぁ、そう言えば能力が使えないんだったわね」
一言一言に乗せられ、飛んでくる圧力。
「……なら私も、
動き出したのほいつだったのか。私の目には見えなかった。もし仮に、私の能力が使えたとしても、勝てる未来が想像出来ない。この場から逃げることも、ましてや立ち向かうことも出来ない。そんな無力さを感じていた。
一瞬にして吹き飛ぶ美鈴。
いつ攻撃を受けたのか、どうやって吹き飛んだのか、それすらも私には見えなかった。
「……ゴフッ!?」
壁にぶつかり、崩れ落ちる美鈴。
「あら、意外と頑丈な壁ね。突き破るつもりだったんだけど」
「美鈴?!」
漸く自体を理解した私は咄嗟に叫ぶ。能力が使えない現状、彼女が唯一の戦力と言っても過言ではない。先程までの有象無象ならば、お嬢様の力を持ってすれば造作もなく倒し切れる。だが、ここまでの戦力差はあの創造神の弟子である彼女に頼らざるを得ない。それでも勝ち目がないことに変わりはないが。
「……さ、流石に容赦ないですね……」
「あ、生きてた?」
驚いた素振りもなく、まるで乱暴に扱った玩具がまだ壊れていないことに安堵したかのような、そんな表情を見せる。
「やっぱり頑丈ね美鈴。昔からそうだったけど」
口から血を垂れ流す美鈴を見て、嬉しそうに語る鬼。
「……貴女の相手は私がします」
「当たり前じゃない。そこいらのガキ共となんて遊ぶつもりは無いわよ」
そこからは一方的に嬲られる美鈴を、ただ見ているしかなかった。
side 美鈴
目が霞む。
腕が上がらない。
流れ出る血の量が、明らかに生命活動が困難だと語る。
それでも私は立ち続ける。
姫咲さんの相手は私だ。
紅魔館の皆を傷つけさせるわけにはいかない。
正直、自分でも立っていることが不思議でしょうがない。
倒れてしまえば、どれだけ楽か。
それでも、立ち続けるのは、門番としての誇りなのか、それとも……。
力任せに腹を殴られる。
バットで殴られたような衝撃に、何処にこれだけあったのかと思うくらい、血を吐き出す。
「頑張れ!美鈴!!」
微かに聞こえたのは、私を呼ぶ幼い声。
ここ数日。そう、師匠がこの紅魔館を訪れたあの異変以来、地下室から解放され、自由となったあの少女。
あれから、ちょくちょく私のいる門まで顔を見せてくれる。
こんな私でも、あの子の役にたてると思わせてくれる。あの笑顔のためならば、何でも出来ると思わせてくれる。
妹様が、バルコニーから私を心配そうに見守っていた。
その表情は今にも泣きそうで、それでも手摺を握りしめ、ともすれば逃げ出しそうになる身体を押さえつけ、一時も目を逸らさぬようしっかりとした目で私を見つめる。
「美鈴!そんな奴、やっつけろ!!」
純粋な力だけなら、私より遥かに上なのに、まったく無茶を言います。
思わず零れる笑み。
満身創痍な身体に鞭を打つ、そんな言葉な筈なのに、心の底から湧き出る力。
背筋を伸ばせ。
前を見ろ。
呼吸を整え。
口の中の不快な液体を吐き出し、私は精一杯の笑顔で言うんだ。
「任せてください。妹様」
到底敵わないのは分かっている。
倒せるなんて思わない。
でも、やるんだ。
応援してくれている人が1人でもいるなら、私は頑張れる。
「お待たせしました、姫咲さん」
私の覚悟が決まるまで待ってくれていた姫咲さん。
この人は根は優しいんだ。
そう思いたい。
「紅魔館の門番、紅美鈴。ここで死ぬわけにはいきません」
「……いいわ。ここからは本気で相手をしてあげる」
いつの間にか止まっていた震え。
四肢に力を込めて、必死に見栄を張る。
「遊んであげますから、かかって来なさい」
爆風と共に視界から消えた姫咲さん。今の私では、その姿を捉える事なんて不可能。ならば最初から見ようと思わない。
攻撃の当たる一瞬。そこに全ての神経を集中させる。
瞬間、頬に当たる衝撃。それを左足を軸に回転することで往なす。
そのままの勢いで回し蹴りを放つと、初めて攻撃が当たった。
頬は切れ、無傷とは言えないけれど、今までに比べればかすり傷のようなもの。
怯むことなく再び腹部へと加わる圧力に、力いっぱい後ろへと飛ぶことで和らげる。
「……へぇ」
楽しそうに笑う姫咲さんは、見れば口元から血を流していた。きっと先ほどの回し蹴りが当たったのだろう。
「それがいつまで続くのか、見せてみなさい」
「言われずとも!!」
フランちゃんから応援とか、羨ましい限りですな。
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