「あれだけ大きな口を叩いておいて、この様か。たいした奴だよお前は。」
「……いえ、それほどでも」
場所は再びアリーナのピット。
千冬の前で、一夏はうな垂れていた。その姿に試合前まであった覇気はない。
クラス代表決定戦の結果、一夏はセシリアに負けてしまった。
代表候補生vsIS初心者。
対戦カードとしては当然の結果だが、一夏には納得できていないことがあった。
「なあ、なんで俺負けたんだ?」
「弱いから負けたのだ。それ以外に理由などない」
「試合運びは悪くない。ただ、あの映像を撮影した時期と現時点でのセシリア・オルコットの力量の差を考慮できていなかった。それを予め踏まえていれば他にやりようはあったと思う」
「いや、そうじゃなくてだな」
一夏が疑問を持っているのは試合終盤におきた事。
ついにセシリアのブルー・ティアーズをその間合いに収めた白式が近接格闘ブレードを振り下ろさんとした正にその瞬間に試合終了のアナウンスが鳴り、セシリアの勝利を告げたのだ。
試合の制限時間が切れたわけでも、皆が気付かないうちにセシリアの攻撃が通ったわけでもない。
負けは負けとして認めつつも、一夏が敗因を追究したいと考えるのは当然のことだった。
そしてその疑問には千冬が答える。
「あのタイミングで白式のシールドエネルギーが切れたのは、エネルギーが底を着いた状態で『バリアー無効化攻撃』を発動したことが原因だ」
「『バリアー無効化攻撃』?」
一夏と箒はそろって首を傾げる。
しかしシャルロットの反応は違った。何やら思うところがあったらしい。
「"バリアーの無効化"……それって、まさか!?」
「知っているのか。シャルロット」
「えっ! うーん。でも確証があるわけじゃないし……」
「『バリアー無効化攻撃』と、言うのはですね――」
言い淀むシャルロットに助け舟を出す形で、山田先生が解説を始める。
「文字通り、ISが機体周囲に発生させているシールドバリアーを無効化することによって、機体や操縦者に直接ダメージを与える攻撃のことです。それによって操縦者保護機能である『絶対防御』が発動すれば、通常の攻撃の数倍のシールドエネルギーを削ることができます。白式の武器《雪片弐型》の特殊能力はエネルギー無効化。近接攻撃の威力と掛け合わせれば、一撃必殺の攻撃すら可能なんですよ」
『絶対防御』とは操縦者自身に危害が及びかねなくなった際に大量のシールドエネルギーを消費して操縦者を守る、ISの基礎的な機能の一つ。
絶対防御は基本的ににシールドバリアー以上に強力な障壁を張ることにより操縦者を守る。
しかし保護すべき第一目標は操縦者の『命』であり、その為にどのようなエネルギーの運用方法が適しているかについては、ISのシステムが判断を下すのだ。
故にその判断如何では、絶対防御が発動したにもかかわらず操縦者が怪我をすることもあるという。が、それは稀であるためISの試合では積極的に相手の絶対防御の発動を狙っていくことが多い。
その行為はレギュレーションでも禁止されていないし、寧ろ近年開発されたIS、特に第三世代機にはシールドエネルギーを貫通するだけの威力がある兵装を積極的に搭載しているくらいである。
絶対防御の発動はISバトルにおける逆転の一手であり、昨今の試合における花形なのだ。
「だが、その発動には決して少なくない量のエネルギーを要する。それこそ自機のシールドエネルギーを喰い潰すほどのな」
「それでエネルギー切れ……。じゃあ、最後の攻撃が当たってたら俺が勝っていたのか?」
「当たっていればの話だ。事実、《雪片》の特殊能力は強力だ。私がかつて世界大会で優勝できたのも、その力によるところが大きい」
「やっぱり、織斑先生と同じ能力……。でもそんなことって……」
何かを呟くシャルロット。
「ん? 何か言ったか?」
「あ、ううん。何でもない」
否定しながらも、彼女の思考は続く。
(千冬先生のIS《暮桜》の武器《雪片》の"エネルギー無効化"は単一使用能力だった。単一の能力が二つも存在するなんてこと普通は考えられない。 可能性としては《暮桜》のコアを白式に転用したとか……違う、既存の理論なら操縦者が違えば同じISでも違う能力が発現するはず。まさか姉弟だから? そんな単純な話でもないとは思うけど、一次移行で単一使用能力が使えることがIS本体の仕様だということまで考えるならあり得ない話ではないのかも。偶然で終わらせるよりも可能性はずっと高いハズ。でも、だとしたら――)
そう考えると新しい疑問が生まれる。
一次移行で操縦者に縁のある単一使用能力を発動させるということが、
「まあ、使いこなせないことには欠陥機でしかないがな」
「欠陥機!? 欠陥機って言ったか今!」
思考に沈んでいくシャルロットの意識を、一夏の叫びが引き戻す。
「落ち着け馬鹿者」
出席簿で弟の頭を叩きながら、千冬は言葉を選び直した。
「確かに『欠陥機』と呼ぶのは少し違うな。そもそもISというものは未だ完成に至っていないから欠陥も何もない。お前のISも少しばかり攻撃に性能が寄っているだけだ」
「だけって……」
一夏は自分の右腕に着けられたガントレットを見る。それが白式の待機形態だった。
「おおよそ能力のおかげで拡張領域も埋まっているのだろう。諦めてその得物一振りで勝負してみろ。案外、合っているかもしれないぞ。……なにせ、私の弟だ」
「……にしても、これであいつがクラス代表かぁ」
アリーナからの帰り、寮へ向かう道を歩きながら一夏が呟いた。
あの後、山田先生から電話帳のようなISの使用についてのルールブックを渡され、さらにISを専用機として扱うための手続きを幾つもこなした。
決闘の直後に小難しい書類を何枚も相手にするのは気が滅入る作業だったが、本来ISを受け取る前に終わらせるべきだったことを特例として千冬が後回しにしてくれたのだから一夏に文句は言えなかった。
そのことに時間をかけたたせいで、もう日は大きく傾き夕方になってしまっている。
「負けたお前の責任だ。男なら黙って受け入れろ」
「一夏の目的はクラス代表じゃなかっと思うけど」
「そうは言ってもな、真剣勝負だったんだ。負けるのは悔しいもんだぜ」
むしろ負けて悔しく思えなければそれは勝負ですらない、と一夏は思う。
けれど大見得を切った手前、明日クラスメイトと顔を合わせることを思うと、気持ちが重くなる。幸せが逃げると分かってながら、ため息は止められなかった。
「ったく、格好悪いよなぁ……」
「負けt――」
「そんなことないって! 頑張って闘う一夏は格好良かったよ!」
「誰も一夏の勝利を期待してはいなかったから、皆からの評価が上がったことに間違いはない。それだけいい試合だったと思う」
「そ、そうか?」
あまり慰められた経験のない一夏は、慣れてないのか驚いたような反応をする。
「そうか……。二人とも、ありがと――」
「――まあ! 少しは格好良かったのではないかっ!!」
箒が吼えた。
突然のことに一夏もシャルロットも驚いたまま固まっている。
二人の反応を見て、箒は自分が何を口走ったのかようやく気が付いたらしい。
我に返ると段々と赤くなっていった。
「な、なんだその反応は! 私がこ、こんなことを言うのがそんなに可笑しいか!?」
箒は肩をこわばらせるようにしながら三人の前を歩く。
無論、照れ隠しだ。
「……箒」
「なんだ!」
「ありがとな。お世辞でも、お前に言われるとなんかすっげえ嬉しい」
「っ!? ふ、ふんっ! だが、お前が未熟なことには変わりない。専用機も手に入ったことだし、明日からはISの訓練にも付き合ってやろう」
さらに歩調を強めながら、箒は離れた三人にも聞こえるよう大きな声で提案(?)する。
今の表情を一夏に見られたくないがための行動だったが、耳まで真っ赤になっているせいで後ろからでも箒の心情は丸見えだ。
しかしそれに気付かないのが一夏という男。
「いやぁ、でも箒は専用機を持ってないし、ISの訓練にはシャルロットに手伝ってもらえたらなと……頼めるか?」
「うん。もちろん大歓迎だよ」
「いや! それでは不十分だな! 一夏の白式は近接格闘型。武装は剣一本なのだ。ここは私の出番だろう」
「そ、それもそうか……」
二人からISの訓練を受けている様子を想像して、一夏は今からどっと疲れた気がしてくる。
箒は言わずもがな、シャルロットも中々に厳しい教官だということを一夏はこの一週間で学んでいた。
物腰は優しいし教えることは分かりやすいのだが、どうやら自分のキャパシティ以上の学習能力を引き出されているようなのだ。
「いや。一夏は座学にも注力しないと。入学前に遅れた分を巻き返すはずの時期に、決闘の準備に時間をかけすぎた」
追い打ちをかける発言がもう一つ追加される。
「俺の身体は三つもないんだけどな、伊奈帆」
「さて、それはどうだろう。どこかの研究機関が秘密裏に採取した一夏の体組織からクローンを生成しているかもしれない。だとしたら一夏の肉体は一つじゃないことになる」
一夏は、悪の組織の秘密基地の地下にある真っ暗な研究室の中に、裸の自分が浮かんだ円柱状の水槽がいくつも並んでいる光景を想像した。
「怖っ!」
「だ、大丈夫だよ一夏。クローン人間は国際条約で厳しく規制されてるし、伊奈帆も冗談のつもりだって、ね?」
「じゃあ、冗談」
「…………」
「…………」
「……はぁ。大変なのはこれからってことか」
もしこれでクラス代表の仕事もこなさなければならないとしたら、身が持たなかったかもしれない。
負けたのは悔しいが、そういう意味ではこれで良かったのかも。
夕暮れの道を四人で歩きながら、一夏は少しだけ考えを改めていた。
「あっ! 来た来た!」
「ん? なんだ?」
四人が寮へ近づくと、入り口の辺りをうろついていた二人の女生徒が彼らを見つけ近付いてきた。
「誰だあいつらは?」
「クラスメイトだね」
どうやら四人のうちの誰かを待っていたようだ。それが誰か、ということは三人にとっては容易く想像できる。
そしてその予想は正しかった。
「ナイスタイミングだねぇ織斑くん。こっちだよ」
「早く早く~。みんな待ってるし~」
そう言う二人は一夏の両手を取ると、どこかへ連れていこうと引っ張り出す。行先は寮の中のようだった。
「え? え?」
しかし全く予想していなかった本人は戸惑いの声をあげる。
「なんだ貴様ら! 急に来て男の手を握るなど、はっ破廉恥な!! 目的を言え。返答如何では斬るぞ!」
「え、秘密だけど」
「秘密だと! 秘密にしなければいけないようなことを一夏に――」
「ねぇ、僕たちもついて行っていいのかな?」
「もちろんクラスメイトは大歓迎! 界塚くんも特別歓迎だよ」
「行こう。ここにいても埒が明かない」
「勝手に決めるな界塚! 一夏も黙って連れていかれないできちんと抵抗しろ!」
「四名様ご案内~」
そうして一夏たち御一行が連れて来られたのは、寮の食堂の前。
ただ普段から開け放たれていた食堂のドアは閉まっていて中の様子は見れないようになっている。
案内してきた二人はドアノブに手を掛けながら、何やら向こう側にいる人と意思疎通をしていた。
『……もういいかな?』
『……OK、いつでも大丈夫』
「なあいい加減説明してくれないか?」
焦れた一夏が声をかけるも二人は笑顔で受け流す。
「ふっふ~ん。お待たせしましたぁ」
「それじゃあ、どうぞー!」
二人が扉を、勢いよく開けた。
「織斑くん、クラス代表決定おめでとー!!」
パン、パン。
クラッカーが鳴り、紙吹雪とテープが舞い散る。
食堂では一年一組のクラスメイトが一夏のことを待ち構えていた。
「え!? へ? ちょっと待ってくれ。クラス代表はセシリアに決まったんじゃないのか?」
何かの間違いじゃないかと一夏は周囲に意見を求める。
だが食堂に掲げられた横断幕にも『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と大きな文字で書かれていた。
ちょっとした間違いという風ではない。
「それはわたくしから説明しますわ!」
「セシリア!?」
大勢のクラスメイトを掻き分け一夏の前に進み出たのは、ほかならぬ勝利者であるはずのセシリア・オルコット。
彼女は腰に手を当てながら、堂々とした姿勢で語り始めた。
「確かに試合ではあなたが敗北しました。伝統ある英国文化としての決闘に倣うならば、わたくしがクラス代表を務めるのが道理なのでしょう。ですが元より代表候補生たるわたくしが勝つのは自明の理。力による勝敗によって我を通そうというのは、淑女たる者の行いではありませんでした」
「そこで反省の意も込めまして、此度のクラス代表の座を辞退することにしましたの。幸いにして"一夏さん"にはIS操縦者としての才能の片鱗がありますし、このセシリアが先達者として指導すればクラス代表に相応しい操縦者になれること請け合いですわ!」
(ん?……"一夏さん"?)
一夏の意識に一瞬、セシリアからの呼び名が変わっていることが引っ掛かかる。
だが即座にそれどころではないと気持ちを切り替え、大きな声で訊ねた。
「ちょっと待て! 俺の意見は!?」
「まあ一夏さん。そう遠慮なさらないでくださいまし」
「そうだよ織斑くん。観念しなさい……。あ、コレ飲み物。他の人にも回して」
「お、おう」
飲み物が入った紙コップが全員に行き渡ったことを確認すると、一人の女子生徒が群衆の中から抜け出しその前に立つ。その手にはマイクが握られていた。
『それでは皆様、乾杯のグラスは手に取っていただけましたでしょうか……。ハイ! それではいきますよぉ~。セシリア・オルコットさんの勝利と! 織斑一夏くんの、一年一組クラス代表就任を祝しまして! カンパーイ!』
「かんぱ~い!」
あちこちで掲げられる紙コップ。グラスではないので何の音もしない。
乾杯の音頭のあと、集まった女子たちは何となくグループを作り始める。
その中でもとりわけ大きな集団の中に一夏は取り込まれてしまった。厳密に言うのなら、一夏を目的に彼女たちが集まったため自然と囲い込まれたのである。
「織斑くんの試合、すっごくカッコよかったよ!」
「千冬様の弟は伊達じゃないのね」
「いーなー。私のクラスにも織斑くんちょうだい」
大勢の女子に囲まれた一夏はその対応に追われる。ちなみに最後のは二組の生徒だ。
一夏は慌てて友人に助けを求めた。
「なあ、箒――」
「ふんっ」
幼なじみは女子たちの垣根の隙間から一夏を一瞥する。とても助けを求められる様子ではない。
「伊奈帆――」
別の女子グループに囲まれて見えない。伊奈帆の身長だと普通に女子に埋もれてしまう。
「シャルロット――」
彼女も別の集団に囲まれていた。代表候補生というのはやはりIS操縦者を目指す学生にとっては憧れる存在らしい。
一夏と視線が合うと"ゴメンね"と小さく目配せをする。
頼みの綱は全て撃沈。諦めてた気持ちで一夏が辺りを見回すと、セシリアの姿が見えた。
彼女もまた、シャルロットと同じように複数の女子に捉まっていた。
困ったような、照れたような笑みを浮かべながら会話を弾ませようとしている。顔も心なしか赤い。
(意外だ……)
一夏にとってのセシリアのイメージは高飛車なエリートお嬢様。だが今の彼女は同年代の女子から慕われて困惑する、良い意味での普通の女子だ。
おそらくはそのどちらもセシリアの一面なのだろう。今までの一夏が、その片方しか知らなかっただけで。
「どうですか? 織斑くん。楽しんでいます?」
新たに一夏に話しかけてきたのは、大和撫子のような柔らかな物腰の黒髪の少女。
「あ、はい。ええと……」
「四十院 神楽です。織斑くんは今日の主役なのですから、遠慮なさらないでください。お菓子もたくさんありますよ」
テーブルの上にはお菓子の袋や箱がいくつも空けられている。果たして食べきれるのだろうかと、一夏が思うくらいの量だ。
「お話ばかりしていると、すぐに無くなってしまいます。手作りのを持ってきてくれた娘もいるのですから。さあ、こちらへ」
神楽に案内され、一夏は窓際のテーブル席へと辿り着く。人混みから抜け出した形だ。
テーブルの上にはお菓子だけでなく、飲み物やサンドイッチなどの軽食まであった。軽く夕食も兼ねているのだろう。
「あの、四十院さん」
「はい? なんでしょう」
「俺がクラス代表で本当にいいんですか? 他にもやらなきゃいけないことはたくさんあるし、委員長のような役職を今までやったことがないんですけど……」
「それでしたらご心配に及びません。代表としての委員会出席や雑務は私たちで分担して引き受けますから」
「え!? いいんですか? いや、そもそもどうして……」
「織斑くん。クラス対抗戦の優勝商品が何だかご存知ですか?」
「……単位?」
「学食デザートの半年フリーパスです。クラス全員分の。ですから織斑くんがISに集中できるよう、皆さん喜んで協力してくれるはずです。ちなみにこれ恒例のことなので、先生方も黙認していますから」
「千冬姉も?」
「千冬先生も、です」
そこまで言われては一夏も断れない。
仕事が減るのはうれしい。しかし心労的には余計に負担がかかったような気がした。
気を取り直すように、一夏は少し気になっていたことを質問する。
「このパーティーって、試合結果が分かる前から準備してましたよね」
食事の量や会場の飾りつけを見ると、試合終了から短時間で用意したとは考えられない。
「はい。ちょっとしたサプライズです」
「俺が負けたら……じゃなくて、セシリアが代表候補を辞退しなかったら、準備が無駄になったんじゃないかと思ってさ」
「ああ! そういうことですか」
神楽は口元を隠しながら小さく微笑む。
「その時は、セシリアさんの代表就任と織斑くんの歓迎を兼ねた祝賀会を催します」
「そうですか……」
(それってただ単にパーティーの口実が欲しかっただけじゃないか?)
別に、一夏はこの催し自体を否定するつもりは無い。
親睦を深める機会があるのはいいことだ。大勢に迫られることだって、多少は困るけど、それでも遠巻きに見られているだけよりずっとマシだ。
「
「? はい」
神楽は少しだけ声のトーンを下げる。
「今回のような決着の仕方は、当事者にとっては後腐れのない方法かもしれません。ですが、理屈を伴わない決定要因は時として周囲に遺恨をもたらします。今後は気をつけてください」
「……そうか。そうですね」
会場を見ると、何やらセシリアと箒が言い争いをしている。シャルロットは二人をなだめようとしているが、他の生徒たちはむしろ焚き付ける側に回っていた。
今さらながら良いクラスだと、一夏は思う。
(でも最終的に決闘を決めたのは千冬姉だよな……。千冬姉、頭はいいのに考え方がシンプルというか、根性論寄りだし)
「新聞部でーす。話題の新入生たちにインタビューしに来ましたー!」
パーティーも盛り上がり宴もたけなわという頃に現れたのは、『新聞部』の腕章を付けた眼鏡の女性。リボンの色が他の人と違う。IS学園の制服のリボンは学年ごとに色分けされているので、つまりは上級生だ。
「私は新聞部副部長、二年の
「あ、これはご丁寧にどうも」
名刺を受け取った一夏の感想は『名前の画数が多いな』だった。
「ではズバリ!! 織斑君、クラス代表に決まった感想をどうぞ!」
薫子は出会って早々、一夏にボイスレコーダーを突きつける。
「えーと……まあ、その。頑張ります」
「ふむ。少し味気ないコメントだけど、大衆向けに脚色して使えばなんとか……」
「いやいや捏造はやめてください!」
「ここはもう一人の男子に期待するしかないわねぇ。事前調査だと彼もここにいるはずだけど」
薫子がきょろきょろと食堂内を見回す。するとすぐに、伊奈帆が姿を現した。
「はいはーい。こっちにいますよー」
ただ明らかに気乗りしない様子であった。ケーキを食べながら女子の一人に背中を押されるようにして連行されている。
「韻子、どうして此処に」
「クラスなんて誰も気にしていないわよ。ほら」
「そんじゃ界塚君。界塚君も三組のクラス代表に決まっているわけだけど、意気込みはありますか」
今度は伊奈帆がマークされる。
「…………」
残念! 伊奈帆の口はケーキで塞がっていた!
「ふむふむ。織斑君に業火の様な対抗意識を燃やしていると……。こんなもんでいいかな。よし次はセシリアちゃんだ」
「わたくしですか!?」
「クラス代表を辞退したのは……織斑君に惚れたからということにしよう!」
「んなっ!?」
「ついでにシャルロットちゃんとはライバル関係。やっぱり英仏だしお国柄ネタは外せないわよね」
「いや全然そんなことないですから!」
「なんか、どんどん大変なことに……」
「人は事実を訂正しようとするとき、積極的に情報を開示する。乱暴だけど相手から言葉を引き出すには一つの手だ」
ケーキを飲み込んだ伊奈帆が解説する。
「いや冷静に分析してるけど、お前の記事も捏造されてるからな」
欧州候補生二人組は薫子に詰め寄るように話しかける。そこになぜか箒も混ざっていた。
薫子は三人の勢いに押されることなく話を聞きメモを取る。
「ふんふんなるほどね~。うん、次は記事のための写真を撮りましょう!」
皆でワイのワイのと写真を撮るために整列していく。その中央には自ずと一夏の顔見知りが集まっていった。
「なら主役は今日の試合で戦った一夏さんとわたくしですわね!」
「おい、私とかぶっているぞ! それに一夏とくっつきすぎだ!」
「伊奈帆も真ん中に行かないと、みんな立ち位置に困ってるよ」
「ハーイ。撮るわよー。ハイっチーズ!」
今までサイトの『文章の冒頭一文字下げ』の機能を知りませんでした。
「」付きの台詞が下がらなくて便利。吃驚。