I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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ここから原作沿いに話が進んでいきます。
ただ設定や展開は自分が書き進めやすいように少しずつ変えていく予定です。


第三話  IS学園入学

 IS学園新年度初日。一年三組の教室は独特な緊迫感に包まれていた。

 新しい学園生活への不安が綯交ぜになった期待感とも異なる。どちらかと言えば、未知への興味と困惑に近い。

 

 新入生である彼女たちは学園設立以来の誰も想定していなかった事態に直面していた。

 

「……」

「…………」

 

 その原因は、教室の真ん中やや左寄りの席に座っている一人の少年だった。

 界塚伊奈帆。ロジャーと彼の上司の目論見の通り、彼はIS学園への入学を果たしていたのだ。

 

 

 誘拐犯から解放されたのち、伊奈帆は何事もなかったかのように帰路につき一時の日常の中へ戻った。

 

 そしてある日、ISと接触する機会(間違いなく彼らの御膳立てであろう)に遭遇した伊奈帆は誰に言われるでもなくそのISに触れ、起動し―― 二人目の男性IS操縦者として、世界に名を轟かせた。

 

 そこから先の日々は一気に非日常へと転落した。政府による保護の名目のもと一切の同意なしに居住区を移され、隠蔽する気もない監視の目に晒され、他人との接触を大幅に制限された。明らかな軟禁状態―― そんな環境の中で日本政府の役人やIS委員会から派遣された調査員、IS企業の営業や技術者を相手に交渉事と契約書を積み重ねる日々が続く。

 そうしてようやく今日、伊奈帆はIS学園への入学へ至ったのだ。

 

 

 緊迫し張りつめた教室の空気。

 だが当の本人は、何をするでもなく静かにホームルームの進行を待って座っていた。今日まで続いた不自由な日々に思いを馳せるでも、全員女子のクラスメートの中に男子自分一人という状況を意識してしまうわけでも、大勢の人々の思惑が絡むであろうこれからの学園生活を憂うでもなく、只静かに、感情をおくびにも出さずにいる。その様子は平穏そのもの。

 

 寧ろ異常なのは他のクラスメイトだった。ただでさえ興奮冷めやらぬIS学園入学初日という状況に加え、クラスには男性のIS操縦者という存在―― 彼女たちの感覚からすれば正に未知との生物との遭遇に他ならない。

 自分の常識の中の異物として睨み付ける者、珍獣として認識する者、伊奈帆のすぐ前の席で背後の存在にビクビクと怯える者などその反応は様々だが、皆一様にこの生き物から意識を逸らすことができずにいる。

 

 そんな少女達の中に一人、他のクラスメイトよりも複雑な思いで彼を見つめる少女がいた。

 界塚伊奈帆の幼なじみ、網文韻子。IS学園への入学を果たしていた彼女は伊奈帆と同じクラスになったのだ。彼とは久々の再会。しかし、その心中は穏やかなものではない。

 

 

(……もうわけ分かんない。ちゃんと説明しなさいよ伊奈帆ぉ)

 当然だ。全寮制の学校に入学したら暫く会えなくなると思っていた幼なじみが、ある日急にテレビで二人目の操縦者として紹介され、実質女子校であるIS学園への入学が決まっていたというのだ。

 彼と会って話したのは、あの日のシミュレート対戦が最後。

 テレビを見てから慌てて連絡を取ろうとしたのにうまく繋がらず、辛うじて受け取ったメッセージは「ごめん。事情があるから後で説明する」というそれだけだった。それから今日まで放置が続いたままだ。

(『後で』って後でIS学園で会った時にってこと? 伊奈帆だし忘れてるってことはなさそうだけど……。あー、もう!)

 

 あー!、と頭を抱え髪を掻く韻子。そんな彼女にもクラスメートはノータッチだ。教室全体がそれどころではないのだから。

 

 

 チャイムが鳴る。

 それと同時に一人の女性が教室前方の扉から現れた。

 パンツスタイルのスーツで全身をきちりと固め教員用名簿を小脇に抱えたコーカソイドの若い大人の女性が、ヒールの音を静かに響かせながら、生徒たちの正面へ歩みを進めていく。

 

「初めまして、皆さん。私がこのクラスで担任を務めます、イザベラ・アルツです」

 

 教卓の後ろから自己紹介の挨拶とともに会釈した彼女―― アルツ先生は短く切りそろえた金髪を掻き上げながら言葉を続ける。

 

「副担任の先生は諸事情により着任が遅れるため、紹介はそのときにします。さて、」

 

 彼女は視線を僅かに動かし、このクラス唯一の男子生徒を一瞥する。

 

「このクラスへ入学した皆さん―― いえ。本学園でISに携わる者、あなたたちを含めた全員が今までにいなかった新しい仲間の参入に驚き戸惑いを禁じえられずにいます。浮足立つ気持ちも理解できます。しかし、それによりカリキュラムを変更する要綱は一切ありません。あなたたたちには例年通り、例年以上の成果と習熟が求められていることを肝に銘じてください。わかりましたね……。返事!」

 

「はいっ!!」

 

 数分前とは打って変わって引き締まった教室の雰囲気に、このクラス担任は満足したようだった。

 

「では、今度は生徒の自己紹介といきましょう。アルファベット……ではなく、五十音順でしたね。出席番号一番から順に進めてください」

 

 

 

「……ちょっといい? 伊奈帆」

 

 クラス全員の自己紹介を終えた後の休み時間。

 殆どの女子が遠巻きに眺め、牽制し譲り合う中で韻子は声をかけた。

 その表情にさっきまでの焦りや困惑はない。すでに彼女の中での感情は一周して冷静な怒りにまで到達していたからだ。

 

「休み時間は短い。手短に済ませられることなら」

 

「そ。なら屋上に行こ。……教室だと人多すぎるから」

 

 最後の一言を小声で付け足した韻子は、伊奈帆と共に屋上へ向かった。

 

 

 IS学園の屋上はよくある高等学校のように封鎖されていなかった。

 緑まで整備され、生徒たちの憩いの場となるようになっている。もっとも新年度初日の昼休みでない休み時間とあって、人影はごく疎ら。開放的な場所だがプライベートな会話には十分だろう。

 

「説明」

 

 それが韻子の要件。簡潔で明瞭な要求だった。

 

「ごめん韻子。あまり多くのことは話せない。今の僕はいくつもの規約に縛られている。そういう立場なんだ」

 

「……なにそれ。こっちはね、聞きたいことは山ほどあんのよ!! なにIS動かしてんのとか、今まで何処に行ってたのとか、これから先のこととかも……! ユキさんとも連絡、つかなくなっちゃうし!」」

 

「僕を含めISを動かせる男性についての研究は全世界規模で行われているけど、そもそもISが女性にしか動かせない理由もわかってないからほぼ全てが膠着状態。今までは政府の保護プログラムに則った生活をしてたから、居住区については日本領土内までとしか明かせない。先のことは分からないけど、ユキ姉なら心配いらない。近々会える予定だよ」

 

 伊奈帆らしくない回りくどい言い方に韻子は気付く。

 言葉を選んでいる。

 

「嘘、吐かないんだね」

 

「虚偽の情報を漏洩させる必要性については、僕の自由裁量に任されていると判断した」

 

「そっか。今のあんたの大体の感じ、なんとなくわかったかな」

 

 気持ちとしては諦めと納得の半々。それでも晴れやかな様子で韻子は笑いかけた。

 

「戻ろっか、教室。もう休み時間も終わるし」

 

「……うん」

 

 韻子は気づかなかったが、伊奈帆の視線の先、彼女たちとは別の男女の二人組がいた。入口を挟み屋上のほぼ対角線上にいたため、向こうも韻子たちの存在に気づかなかったようだ。

 伊奈帆は彼らに見覚えがあった。一人はテレビでもネットでも何度も見た顔。もう一人はロジャーから渡された資料に子細なデータが載っていた。

 

(織斑一夏、篠ノ之箒。あの二人も幼なじみか)

 

 そう考えれば自分たちと酷似している状況。それを奇遇とも思わずに、階段室の陰に隠れる存在を無視しながら伊奈帆は韻子の後をついて歩いた。

 

 

「ちょっと! もう少し詰めなさいよアンタら」

「こっちだってギリギリなのよ。……ああっ! 織斑くんたちも戻ってきちゃった」

「声がでかい、お尻引っ込めて!」

「あんたがデカいんでしょ!」

「誰のケツがデカいってぇ!!」

 

 一夏と伊奈帆たちから見えない位置にある建物の陰。そこは一年一組と三組の女子で大変に賑わっていた。

 幼なじみに連れ出され屋上に向かった彼らを、彼女たちはつけてきていたのだ。

 皆あくまでも興味本位でちょっと覗いたら、退散するくらいの気持ちでいた。メンバーも自制して少数で向かったつもりだった。

 しかし、もう一組の男子がいるクラスでも全く同じ状況になっていたのは想定外だった。少数精鋭のスマートな隠密行動のはずが一転、ベストと思われた監視スポットは定員オーバー、多すぎる人員が混乱を招き撤退もままならなず、二人の会話の内容も把握できぬままエリートたるIS学園生徒にあるまじき醜態を曝している。

 

「……不毛」

「もう、なんでこうなるのー!」

 

 IS学園に入学した二人の男子生徒は、本人の与り知らぬところで確かに学園に動乱をもたらしていた。

 

 

 しかし、とある新聞部員は後にこう語る。

 この出来事はこれからIS学園で巻き起こる大騒動の幕開けに過ぎなかったのだと。

 

 




八月いっぱいで書き溜めてるのはここまでです。
もしかすると更新が途切れることがあるかもしれませんが、エタりそうなときはご報告するつもりです。

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